統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-21 統計数理

回帰分析 — 最小二乗推定の理論

  • 線形単回帰
  • 線形重回帰
  • 最小二乗推定
  • 回帰の分散分析
  • 重相関係数
  • 決定係数
  • 残差
  • 変数変換
  • 平均への回帰(回帰効果)

はじめに

「β^=(X⊤X)−1X⊤y\hat{\beta} = (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}y は覚えた。でも、なぜそれで FF 分布が出てくるの?」

準1級までの回帰分析は、公式を使って係数を求め、出力を読むことが中心でした。ところが1級では、「残差平方和を σ2\sigma^2 で割ると χ2\chi^2 分布に従うことを示せ」のように、公式の裏側を問われます。

例えば、地図アプリの経路案内を思い浮かべてください。案内どおりに歩くことはできても、なぜその道が最短なのかを説明するには、地図全体を見る必要があります。回帰分析の場合、その地図にあたるのが、nn 次元の空間の図形です。

実は、回帰分析の定理はほとんどすべて、ある1つの事実から出てきます。それは、「最小二乗法はデータを平面へ直角に落とす操作である」という事実です。三平方の定理が平方和の分解になり、直角であることが独立性になります。

そこで登場するのが、今回の主役 最小二乗推定 と ハット行列 です。

前回の記事では、平方和を要因ごとに分ける分散分析を学びました。回帰分析も同じ線形モデルの仲間で、道具はそのまま使えます。今回の記事では、最小二乗推定の導出、残差の性質と回帰の分散分析、決定係数と重相関係数、変数変換、そして平均への回帰について解説します。

最小二乗推定を行列で導く

はじめに、最小二乗推定の導出について解説します。

説明変数が1つのモデルを 線形単回帰、pp 個のモデルを 線形重回帰 と呼びます。

yi=β0+β1xi+εi,yi=β0+β1xi1+⋯+βpxip+εiy_i = \beta_0 + \beta_1 x_i + \varepsilon_i, \qquad y_i = \beta_0 + \beta_1 x_{i1} + \cdots + \beta_p x_{ip} + \varepsilon_i

どちらも行列で y=Xβ+εy = X\beta + \varepsilon と書けます。XX は1列目がすべて1の n×(p+1)n \times (p+1) 行列で、列は一次独立とします。誤差には E(ε)=0E(\varepsilon) = 0、V(ε)=σ2IV(\varepsilon) = \sigma^2 I を仮定します。

最小二乗推定 は、Q(b)=∥y−Xb∥2Q(b) = \|y - Xb\|^2 を最小にする bb を β\beta の推定値とする方法です。bb で微分して0とおくと、次の 正規方程式 が得られます。

X⊤Xβ^=X⊤y,β^=(X⊤X)−1X⊤yX^{\top}X\hat{\beta} = X^{\top}y, \qquad \hat{\beta} = (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}y

ただし、微分が0というだけでは、最小であることの証明になりません。答案では、次の分解を示します。任意の bb について、y−Xb=(y−Xβ^)+X(β^−b)y - Xb = (y - X\hat{\beta}) + X(\hat{\beta} - b) です。

∥y−Xb∥2=∥y−Xβ^∥2+∥X(β^−b)∥2+2(β^−b)⊤X⊤(y−Xβ^)\|y - Xb\|^2 = \|y - X\hat{\beta}\|^2 + \|X(\hat{\beta} - b)\|^2 + 2(\hat{\beta} - b)^{\top}X^{\top}(y - X\hat{\beta})

正規方程式から X⊤(y−Xβ^)=0X^{\top}(y - X\hat{\beta}) = 0 なので、最後の項は消えます。第2項は0以上で、XX の列が一次独立なら b=β^b = \hat{\beta} のときだけ0です。したがって、β^\hat{\beta} が唯一の最小解です。

ここで、図形の見方をします。XX の列が張る平面を、部屋の床だと思ってください。データ yy は空中の1点です。真上から光を当てると、床に影が落ちます。この影が当てはめ値 y^=Xβ^\hat{y} = X\hat{\beta} で、影と本体を結ぶ線分が残差です。床の中で本体に最も近いのは、真下の点ですよね。

影を作る操作を行列で書いたものが ハット行列 です。yy に帽子をかぶせるので、この名前があります。

H=X(X⊤X)−1X⊤,y^=HyH = X(X^{\top}X)^{-1}X^{\top}, \qquad \hat{y} = Hy

H⊤=HH^{\top} = H と H2=HH^2 = H は、代入すれば確かめられます。一度影にしたものを、もう一度影にしても変わらない、というのが H2=HH^2 = H の意味です。

具体的に見てみましょう。5人の1日の勉強時間 xx と模試の点の伸び yy が、次のようでした。

xx12345
yy23546

【正規方程式を解く手順】

  1. X⊤XX^{\top}X を作る: 成分は n=5n = 5、∑xi=15\sum x_i = 15、∑xi2=55\sum x_i^2 = 55
  2. X⊤yX^{\top}y を作る: 成分は ∑yi=20\sum y_i = 20、∑xiyi=69\sum x_i y_i = 69
  3. 逆行列を掛ける
β^=(5151555)−1(2069)=(1.1−0.3−0.30.1)(2069)=(1.30.9)\hat{\beta} = \begin{pmatrix} 5 & 15 \\ 15 & 55 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix} 20 \\ 69 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1.1 & -0.3 \\ -0.3 & 0.1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 20 \\ 69 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1.3 \\ 0.9 \end{pmatrix}

回帰直線は y^=1.3+0.9x\hat{y} = 1.3 + 0.9x です。単回帰の公式 β^1=Sxy/Sxx=9/10\hat{\beta}_1 = S_{xy}/S_{xx} = 9/10 とも一致します。

最後に、推定量の性質です。y=Xβ+εy = X\beta + \varepsilon を代入すると、β^=β+(X⊤X)−1X⊤ε\hat{\beta} = \beta + (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}\varepsilon と書けます。ここから、次の2つがすぐに出ます。

E(β^)=β,V(β^)=(X⊤X)−1X⊤(σ2I)X(X⊤X)−1=σ2(X⊤X)−1E(\hat{\beta}) = \beta, \qquad V(\hat{\beta}) = (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}(\sigma^2 I)X(X^{\top}X)^{-1} = \sigma^2 (X^{\top}X)^{-1}

単回帰では、(X⊤X)−1(X^{\top}X)^{-1} の右下の成分が 1/Sxx1/S_{xx} なので、V(β^1)=σ2/SxxV(\hat{\beta}_1) = \sigma^2/S_{xx} です。上の例でも、右下の成分は 0.1=1/100.1 = 1/10 になっています。

試験のポイント:「最小である」ことの証明では、微分だけで終わらせず、平方和の分解で交差項が消えることを示します。

以上が、最小二乗推定の導出についての解説です。

残差と回帰の分散分析

次に、残差の性質と回帰の分散分析について説明します。

残差 は e=y−y^=(I−H)ye = y - \hat{y} = (I - H)y です。実測と当てはめ値の差で、誤差 ε\varepsilon そのものではありません。(I−H)X=0(I - H)X = 0 なので e=(I−H)εe = (I - H)\varepsilon と書けて、誤差のうち床に垂直な成分だけが残差として見えています。

【残差の性質】

  1. X⊤e=0X^{\top}e = 0: 残差は XX のすべての列と直交する
  2. ∑iei=0\sum_i e_i = 0: XX の1列目がすべて1だから(切片があるときだけ)
  3. y^⊤e=0\hat{y}^{\top}e = 0: 当てはめ値とも直交する
  4. V(e)=σ2(I−H)V(e) = \sigma^2 (I - H): 残差の分散は点ごとに違い、等分散ではない

次に、σ2\sigma^2 の不偏推定量を導きます。e⊤e=ε⊤(I−H)εe^{\top}e = \varepsilon^{\top}(I - H)\varepsilon です。一般に E(ε⊤Aε)=σ2tr⁡AE(\varepsilon^{\top}A\varepsilon) = \sigma^2 \operatorname{tr}A で、トレースは積の順番を入れ替えられるので次が成り立ちます。

tr⁡H=tr⁡{(X⊤X)−1X⊤X}=p+1,E(e⊤e)=(n−p−1)σ2\operatorname{tr}H = \operatorname{tr}\{(X^{\top}X)^{-1}X^{\top}X\} = p + 1, \qquad E(e^{\top}e) = (n - p - 1)\sigma^2

したがって、s2=e⊤e/(n−p−1)s^2 = e^{\top}e/(n - p - 1) が不偏です。推定に使った係数の個数だけ、分母が減るのです。nn 次元のうち p+1p + 1 次元は床に吸い取られ、垂直な方向に残る自由度が n−p−1n - p - 1 だから、と言っても同じです。

続いて、回帰の分散分析 です。yˉ\bar{y} を並べたベクトルを yˉ1\bar{y}\mathbf{1} とします。切片があるので 1\mathbf{1} は床の上にあり、y^−yˉ1\hat{y} - \bar{y}\mathbf{1} も床の上です。残差は床と直交するので、三平方の定理が使えます。

∑i(yi−yˉ)2⏟ST=∑i(y^i−yˉ)2⏟SR+∑iei2⏟SE\underbrace{\sum_i (y_i - \bar{y})^2}_{S_T} = \underbrace{\sum_i (\hat{y}_i - \bar{y})^2}_{S_R} + \underbrace{\sum_i e_i^2}_{S_E}

全体のばらつき STS_T が、回帰で説明できる部分 SRS_R と、説明できない部分 SES_E に分かれました。これを表にまとめます。

要因平方和自由度平均平方FF
回帰SRS_RppSR/pS_R/pSR/pSE/(n−p−1)\dfrac{S_R/p}{S_E/(n-p-1)}
残差SES_En−p−1n-p-1SE/(n−p−1)S_E/(n-p-1)
全体STS_Tn−1n-1

帰無仮説 H0:β1=⋯=βp=0H_0: \beta_1 = \cdots = \beta_p = 0 のもとで、ε\varepsilon が正規分布なら、FF は自由度 (p,n−p−1)(p, n-p-1) の FF 分布に従います。この証明の筋道を押さえましょう。

【F分布を導く筋道】

  1. H1=11⊤/nH_1 = \mathbf{1}\mathbf{1}^{\top}/n とおくと、H0H_0 のもとで SR=ε⊤(H−H1)εS_R = \varepsilon^{\top}(H - H_1)\varepsilon、SE=ε⊤(I−H)εS_E = \varepsilon^{\top}(I - H)\varepsilon である
  2. 1\mathbf{1} は床の上にあるので HH1=H1HH_1 = H_1 である。ここから H−H1H - H_1 と I−HI - H はどちらも対称で冪等で、(H−H1)(I−H)=0(H - H_1)(I - H) = 0 となる
  3. 対称で冪等な行列 AA は、直交行列で対角化すると、対角成分が1と0だけになる。1の個数は tr⁡A\operatorname{tr}A である
  4. 標準正規ベクトルは直交変換しても標準正規ベクトルなので、ε⊤Aε/σ2\varepsilon^{\top}A\varepsilon/\sigma^2 は tr⁡A\operatorname{tr}A 個の標準正規変数の2乗の和になる
  5. 積が0の2つの行列は、別々の座標を拾う。よって SR/σ2∼χp2S_R/\sigma^2 \sim \chi^2_p と SE/σ2∼χn−p−12S_E/\sigma^2 \sim \chi^2_{n-p-1} は独立である

あとは FF 分布の定義どおりです。前回の分散分析の証明と、まったく同じ骨組みですね。

同じ理由で、β^\hat{\beta} と ee も独立です。Cov⁡(Hy,(I−H)y)=σ2H(I−H)=0\operatorname{Cov}(Hy, (I-H)y) = \sigma^2 H(I-H) = 0 で、正規分布では無相関が独立を意味するからです。cjjc_{jj} を (X⊤X)−1(X^{\top}X)^{-1} の対角成分とすると、個々の係数の検定統計量が tt 分布に従います。

tj=β^j−βjscjj∼tn−p−1t_j = \frac{\hat{\beta}_j - \beta_j}{s\sqrt{c_{jj}}} \sim t_{n-p-1}

例題:単回帰の分散分析

先ほどの5人のデータについて、次に答えよ。〔1〕残差を求め、∑ei=0\sum e_i = 0 と ∑xiei=0\sum x_i e_i = 0 を確かめよ。〔2〕分散分析表を作り、H0:β1=0H_0: \beta_1 = 0 を有意水準5%で検定せよ。ただし F0.05(1,3)=10.13F_{0.05}(1, 3) = 10.13 とする。〔3〕単回帰では t12=Ft_1^2 = F であることを示せ。

【解答】

〔1〕当てはめ値は 2.2, 3.1, 4.0, 4.9, 5.8 だから、残差は −0.2,−0.1,1.0,−0.9,0.2-0.2, -0.1, 1.0, -0.9, 0.2 である。和は0で、∑xiei=−0.2−0.2+3.0−3.6+1.0=0\sum x_i e_i = -0.2 - 0.2 + 3.0 - 3.6 + 1.0 = 0 である。

〔2〕ST=10S_T = 10、SE=0.04+0.01+1+0.81+0.04=1.9S_E = 0.04 + 0.01 + 1 + 0.81 + 0.04 = 1.9、SR=10−1.9=8.1S_R = 10 - 1.9 = 8.1 である。

要因平方和自由度平均平方FF
回帰8.118.112.79
残差1.930.633
全体10.04

F=12.79>10.13F = 12.79 > 10.13 なので、H0H_0 を棄却する。勉強時間の効果はあると判断する。

〔3〕y^i−yˉ=β^1(xi−xˉ)\hat{y}_i - \bar{y} = \hat{\beta}_1(x_i - \bar{x}) より SR=β^12SxxS_R = \hat{\beta}_1^2 S_{xx} である。β1=0\beta_1 = 0 のとき t1=β^1/(s/Sxx)t_1 = \hat{\beta}_1/(s/\sqrt{S_{xx}}) だから、次を得る。

t12=β^12Sxxs2=SRSE/(n−2)=Ft_1^2 = \frac{\hat{\beta}_1^2 S_{xx}}{s^2} = \frac{S_R}{S_E/(n-2)} = F

試験のポイント:SRS_R と SES_E の独立性は「対称で冪等な行列の積が0」から示します。自由度は行列のトレースとして求めます。

以上が、残差と回帰の分散分析についての説明です。

決定係数と重相関係数

続いて、当てはまりの指標について解説します。

決定係数 は、全体のばらつきのうち回帰で説明できた割合です。

R2=SRST=1−SESTR^2 = \frac{S_R}{S_T} = 1 - \frac{S_E}{S_T}

先ほどの例では 8.1÷10=0.818.1 \div 10 = 0.81 です。

重相関係数 は、実測値 yy と当てはめ値 y^\hat{y} の相関係数です。これは決定係数の正の平方根に一致します。証明しましょう。切片があれば ∑ei=0\sum e_i = 0 なので、y^\hat{y} の平均も yˉ\bar{y} です。yi−yˉ=(y^i−yˉ)+eiy_i - \bar{y} = (\hat{y}_i - \bar{y}) + e_i と分けると、y^\hat{y} と ee の直交から次が成り立ちます。

∑i(yi−yˉ)(y^i−yˉ)=∑i(y^i−yˉ)2=SR\sum_i (y_i - \bar{y})(\hat{y}_i - \bar{y}) = \sum_i (\hat{y}_i - \bar{y})^2 = S_R

したがって、相関係数は SR/STSR=SR/STS_R/\sqrt{S_T S_R} = \sqrt{S_R/S_T} となります。ここがポイントです。「決定係数は相関の2乗」という言い方は、単回帰だけの話ではありません。重回帰でも、yy と y^\hat{y} の相関の2乗として成り立ちます。単回帰では y^\hat{y} が xx の1次式なので、R2=rxy2R^2 = r_{xy}^2 となるわけです。

綱引きの例えで言えば、pp 人の選手が力を合わせて最も強く引いたときの力が、重相関係数です。実際、y^\hat{y} は、説明変数のあらゆる1次結合のうちで、yy との相関が最も高いものになっています。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 中心化した床の上の任意のベクトル vv について、中心化した yy と vv の内積は、中心化した y^\hat{y} と vv の内積に等しくなります。コーシー・シュワルツの不等式から、相関が最大になるのは vv が y^\hat{y} の方向のときです。

分散分析の FF は、分子分母を STS_T で割ると、R2R^2 だけで書けます。

F=R2/p(1−R2)/(n−p−1)F = \frac{R^2/p}{(1 - R^2)/(n - p - 1)}

一方で、説明変数を増やすと、R2R^2 は決して下がりません。床が広がると、yy に近い点を探せる範囲が広がるので、SES_E は増えないからです。意味のない変数を入れても R2R^2 は上がるので、変数の数を比べるときは自由度調整済み決定係数やAICを使います。

例題:相関係数から決定係数を求める

n=30n = 30 の標本で、相関係数が ry1=0.8r_{y1} = 0.8、ry2=0.6r_{y2} = 0.6、r12=0.5r_{12} = 0.5 だった。yy を x1,x2x_1, x_2 に回帰する。〔1〕標準化した変数の回帰係数 b1,b2b_1, b_2 を求めよ。〔2〕決定係数と重相関係数を求めよ。〔3〕H0:β1=β2=0H_0: \beta_1 = \beta_2 = 0 を検定せよ。ただし F0.05(2,27)=3.35F_{0.05}(2, 27) = 3.35 とする。

【解答】

〔1〕すべての変数を平均0、分散1に標準化すると、正規方程式は相関行列で書ける。

(10.50.51)(b1b2)=(0.80.6)\begin{pmatrix} 1 & 0.5 \\ 0.5 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} b_1 \\ b_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0.8 \\ 0.6 \end{pmatrix}

解くと、b1=(0.8−0.3)/0.75=2/3b_1 = (0.8 - 0.3)/0.75 = 2/3、b2=(0.6−0.4)/0.75=4/15b_2 = (0.6 - 0.4)/0.75 = 4/15 である。

〔2〕標準化した変数では ST=y⊤yS_T = y^{\top}y、SR=y^⊤y=b1x1⊤y+b2x2⊤yS_R = \hat{y}^{\top}y = b_1 x_1^{\top}y + b_2 x_2^{\top}y で、xj⊤y/y⊤y=ryjx_j^{\top}y / y^{\top}y = r_{yj} である。よって R2=b1ry1+b2ry2=0.533+0.160=0.693R^2 = b_1 r_{y1} + b_2 r_{y2} = 0.533 + 0.160 = 0.693 である。重相関係数は R=0.693=0.833R = \sqrt{0.693} = 0.833 である。

〔3〕F=(0.693/2)/(0.307/27)=30.5>3.35F = (0.693/2)/(0.307/27) = 30.5 > 3.35 なので、H0H_0 を棄却する。

ry12+ry22=1.00r_{y1}^2 + r_{y2}^2 = 1.00 にはなりません。x1x_1 と x2x_2 に相関があるので、説明の重なりの分だけ差し引かれるのです。

以上が、決定係数と重相関係数についての解説です。

変数変換で線形に持ち込む

さらに、曲線の関係を扱う変数変換について説明します。

「線形」モデルの線形とは、xx についてではなく、母数 β\beta について1次 という意味です。ですから、xx や yy を前もって変換しても、最小二乗推定の理論はそのまま使えます。曲がった針金をアイロンでまっすぐに伸ばしてから、定規を当てるようなものです。

【変数変換で線形にできる例】

  • べき乗型 y=axbuy = ax^{b}u: 両辺の対数をとると log⁡y=log⁡a+blog⁡x+log⁡u\log y = \log a + b\log x + \log u
  • 指数型 y=aebxuy = ae^{bx}u: 対数をとると log⁡y=log⁡a+bx+log⁡u\log y = \log a + bx + \log u
  • 多項式 y=β0+β1x+β2x2+εy = \beta_0 + \beta_1 x + \beta_2 x^2 + \varepsilon: xx と x2x^2 を別の説明変数として重回帰

具体的に見てみましょう。店の広さ xx と売上 yy が、(1, 3)、(2, 5.2)、(4, 8.8)、(8, 15.5) だったとします。両対数をとって回帰すると、傾きは約0.787、切片は約1.098で、y^=3.00 x0.787\hat{y} = 3.00\, x^{0.787} となります。傾きは弾力性と呼ばれ、「xx が1%増えると yy が約0.79%増える」と読めます。

ただし、変換には注意点が3つあります。

【変数変換の注意点】

  1. 誤差の入り方が変わる: y=axbuy = ax^{b}u は掛け算の誤差で、y=axb+εy = ax^{b} + \varepsilon は対数で線形にならない
  2. 逆変換すると偏る: log⁡y∼N(m,s2)\log y \sim N(m, s^2) なら eme^{m} は yy の中央値で、平均は em+s2/2e^{m + s^2/2}
  3. 決定係数を比べられない: yy と log⁡y\log y では STS_T が別物である

2番目を数値で見ると、s=0.2s = 0.2 なら e0.02≈1.02e^{0.02} \approx 1.02 で、eme^{m} は平均より約2%小さくなります。

試験のポイント:回帰の仮定(等分散、正規性)が求められるのは、変換後の誤差です。元の尺度での予測には逆変換の偏りが入ることも、答案に一言添えます。

以上が、変数変換についての説明です。

平均への回帰:回帰の語源

最後に、平均への回帰を見ていきましょう。

平均への回帰(回帰効果、regression to the mean)とは、1回目に平均から離れた値をとった個体が、2回目には平均の近くの値をとりやすい現象です。19世紀のゴルトンが、背の高い親の子は親ほどには高くならないことを見つけ、これが「回帰」という言葉の語源になりました。

理論を導きましょう。(X,Y)(X, Y) が2変量正規分布に従い、平均 μX,μY\mu_X, \mu_Y、標準偏差 σX,σY\sigma_X, \sigma_Y、相関係数 ρ\rho をもつとします。β=ρσY/σX\beta = \rho\sigma_Y/\sigma_X とおくと、Cov⁡(X,Y−βX)=0\operatorname{Cov}(X, Y - \beta X) = 0 です。正規分布では無相関が独立なので、Y−βXY - \beta X は XX と独立です。Y=βX+(Y−βX)Y = \beta X + (Y - \beta X) の条件付き期待値をとると、次が得られます。

E(Y∣X=x)=μY+ρσYσX(x−μX),V(Y∣X=x)=σY2(1−ρ2)E(Y \mid X = x) = \mu_Y + \rho\frac{\sigma_Y}{\sigma_X}(x - \mu_X), \qquad V(Y \mid X = x) = \sigma_Y^2 (1 - \rho^2)

標準化すると、E(ZY∣ZX=z)=ρzE(Z_Y \mid Z_X = z) = \rho z です。∣ρ∣<1|\rho| < 1 なので、標準偏差の単位で見て、2回目の予想はいつも1回目より平均に近づきます。

なぜでしょうか? 成績を「実力 + 運」で考えると分かります。X=T+e1X = T + e_1、Y=T+e2Y = T + e_2 として、実力 TT と運 e1,e2e_1, e_2 は独立とします。Cov⁡(X,Y)=V(T)\operatorname{Cov}(X, Y) = V(T) なので、相関係数は次のようになります。

ρ=V(T)V(T)+V(e)\rho = \frac{V(T)}{V(T) + V(e)}

つまり、ρ\rho は「ばらつきのうち実力が占める割合」です。1回目の高得点者には、実力に加えて運のよかった人が多く含まれます。運は2回目に持ち越されないので、平均に近づくのです。ガチャの大当たりの翌日に、同じ運を期待できないのと同じです。

例題:2回のテストの回帰効果

全員が2回のテストを受ける。どちらの点も平均60点、標準偏差10点で、2変量正規分布に従い、相関係数は0.7とする。〔1〕1回目が80点だった人の2回目の点の条件付き期待値と条件付き標準偏差を求めよ。〔2〕その人の2回目が80点を超える確率を求めよ。〔3〕2回目の点の分散が1回目より小さくならない理由を説明せよ。

【解答】

〔1〕E(Y∣X=80)=60+0.7×20=74E(Y \mid X = 80) = 60 + 0.7 \times 20 = 74 である。条件付き標準偏差は 101−0.49=7.1410\sqrt{1 - 0.49} = 7.14 である。

〔2〕P(Y>80∣X=80)=P(Z>6/7.14)=P(Z>0.84)=0.20P(Y > 80 \mid X = 80) = P(Z > 6/7.14) = P(Z > 0.84) = 0.20 である。

〔3〕全分散の公式より、次のようになる。

V(Y)=V{E(Y∣X)}+E{V(Y∣X)}=ρ2σ2+(1−ρ2)σ2=σ2V(Y) = V\{E(Y \mid X)\} + E\{V(Y \mid X)\} = \rho^2\sigma^2 + (1 - \rho^2)\sigma^2 = \sigma^2

条件付き期待値のばらつきは ρ2σ2\rho^2\sigma^2 に縮むが、そのまわりに (1−ρ2)σ2(1 - \rho^2)\sigma^2 のばらつきが加わるので、全体の分散は変わらない。

答えで大切なのは〔3〕です。回帰効果は、集団全体が平均へ縮んでいく現象ではありません。2回目に飛び抜けた点をとる人は、別の顔ぶれで現れます。

せっかくなので、向きを逆にした例も見てみましょう。2回目が80点だった人の1回目の予想も、同じ式で74点です。時間を巻き戻しても平均に近づくことから、これは時間の流れの効果ではなく、相関が1未満であることの効果だと分かります。

ここから、実務で最も大事な注意が出てきます。血圧が特に高い人だけを集めて健康法を試すと、何もしなくても次回の血圧は下がりやすくなります。成績の悪かった生徒を叱ると次は伸びるので、叱るのが効いたと勘違いするのも同じです。効果を確かめるには、同じ条件の対照群と比べる必要があります。

試験のポイント:回帰効果は ∣ρ∣<1|\rho| < 1 の統計的な性質で、因果関係ではありません。前後の差だけで効果を判断する分析を批判する問題で問われます。

以上が、平均への回帰についての解説です。

細かい部分を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「HH が影を作り、直交が三平方と独立性を生む」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は最小二乗推定の理論を、ハット行列を軸に紹介しました。公式が多く見えますが、最小二乗法は床に影を落とす操作で、残差はその垂線です。平方和の分解も、FF 分布も、R2R^2 の性質も、「直角である」というただ1つの事実の言い換えでした。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 最小二乗推定は正規方程式から求まり、平方和の分解で最小性を証明する。
  • ハット行列は影を作る対称で冪等な行列で、そのトレースが自由度を決める。
  • 三平方の定理が ST=SR+SES_T = S_R + S_E になり、行列の積が0であることが FF 分布の独立性になる。
  • 重相関係数は yy と y^\hat{y} の相関係数で、その2乗が決定係数である。
  • 平均への回帰は ∣ρ∣<1|\rho| < 1 から生じ、因果関係と取り違えてはいけない。

キーワードのおさらい

  • 線形単回帰: 説明変数が1つの線形モデル
  • 線形重回帰: 説明変数が複数の線形モデル。y=Xβ+εy = X\beta + \varepsilon と書く
  • 最小二乗推定: 残差平方和を最小にする推定。β^=(X⊤X)−1X⊤y\hat{\beta} = (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}y
  • 回帰の分散分析: STS_T を SRS_R と SES_E に分け、FF 検定を行うこと
  • 重相関係数: yy と y^\hat{y} の相関係数
  • 決定係数: 全体の平方和のうち回帰で説明できた割合。R2=SR/STR^2 = S_R/S_T
  • 残差: 実測値と当てはめ値の差。e=(I−H)ye = (I - H)y
  • 変数変換: 対数などで関係を母数について線形にすること
  • 平均への回帰(回帰効果): 平均から離れた値の次の値が、平均に近づきやすい現象

さて、ここまでは量的な変数を扱ってきました。では、「合格・不合格」と「教材A・教材B」のように、人数を数えるだけのデータでは、どのような導出が待っているのでしょうか? しかも度数が小さいと、カイ二乗分布の近似も怪しくなります。

次回は、分割表の解析について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. n=20n = 20、説明変数3個(切片あり)の重回帰で、ST=400S_T = 400、SE=100S_E = 100 だった。回帰の分散分析の FF の値として正しいものはどれか。
問2. n=25n = 25、説明変数4個(切片あり)の線形重回帰で、誤差の分散を σ2\sigma^2 とする。残差平方和の期待値として正しいものはどれか。
問3. 相関係数が ry1=0.6r_{y1} = 0.6、ry2=0.5r_{y2} = 0.5、r12=0.4r_{12} = 0.4 のとき、yy を x1,x2x_1, x_2 に回帰した決定係数に最も近いものはどれか。
問4. 2回のテストの点が、どちらも平均50点、標準偏差12点の2変量正規分布に従い、相関係数は0.5である。1回目が74点の人の2回目の点の条件付き期待値として正しいものはどれか。
問5. 両対数の回帰で log⁡y=1.2+1.5log⁡x\log y = 1.2 + 1.5\log x と推定された。xx を2倍にしたときの yy の変化の説明として、最も適切なものはどれか。