準1級-22 応用統計の手法
回帰診断法
- 外れ値
- 残差プロット
- 正規Q-Qプロット
- leverage(てこ比)
- Cookの距離
はじめに
「決定係数が0.9もあるなら、その回帰式は信じていいんじゃないの?」
こう思ったことはありませんか? 実は、決定係数だけでは回帰式の良し悪しは分かりません。統計学者のアンスコムは1973年に、平均も相関係数も回帰直線もほぼ同じなのに、散布図がまったく違う4組のデータを作って見せました。1組は素直な直線で、1組は曲線で、残りの2組は、たった1つの点が結果を大きく左右していました。
例えば、健康診断を思い浮かべてください。身長と体重が標準でも、血液検査をしなければ分からない病気があります。回帰分析も同じで、当てはまりの数字が良くても、中身を調べなければ安心できません。
そこで登場するのが、今回の主役 回帰診断法 です。回帰診断法とは、当てはめたモデルの仮定が成り立っているか、結果を左右する点がないかを、残差を使って点検する方法の総称です。
前回の記事では、重回帰分析で変数を選び、正則化まで学びました。今回の記事では、当てはめたあとの点検として、残差プロット、正規Q-Qプロット、leverage(てこ比)、Cookの距離の4つの道具と、外れ値の見つけ方について解説します。
残差プロット:残差に模様が残っていないかを見る
はじめに、最も基本の道具である残差プロットについて解説します。
2級で学んだように、残差プロット は横軸に予測値、縦軸に残差をとった散布図です。モデルが正しければ、残差は0のまわりに模様なく散らばります。
ここで、準1級で押さえたい理由があります。なぜ横軸は、実測値 ではなく予測値 なのでしょうか? 説明変数を並べた行列を とします。予測値は次の形で書けます。
は ハット行列 と呼ばれます。実測値に帽子(ハット)をかぶせて予測値にする行列、という意味です。残差は と書けます。 には という性質があるので、次の2つが成り立ちます。
要するに、残差は予測値とは無相関ですが、実測値とは相関します。そのため、横軸に をとると、モデルが正しくても右上がりの模様が出てしまいます。予測値を使えば、模様が出たときは本当に問題があるサインになります。また、重回帰では説明変数が何個あっても、予測値なら1枚で済みます。
模様の読み方は、次の3つです。
【残差プロットの読み方】
- 曲がっている: 線形性の崩れ。2乗の項を足す、変数を変換する
- ラッパのように右へ広がる: 等分散性の崩れ。対数変換や加重最小二乗法を使う
- 測定の順に波打つ: 独立性の崩れ。時系列モデルを考える
例えば、店の面積で売上を説明する回帰を考えます。小さい店の残差は数万円の幅ですが、大きい店では数十万円の幅になることはよくあります。これが2つ目のラッパ型です。売上の対数をとると、幅がそろうことが多いです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。気温でアイスの売上を説明したとき、残差が「中央で負、両端で正」のお椀形になったとします。これは1つ目のパターンで、直線では足りず、2乗の項が必要だというサインです。
試験のポイント:残差プロットは「模様がないこと」が合格の条件です。曲がりは線形性、ラッパ型は等分散性の問題と読みます。
以上が、残差プロットについての解説です。
正規Q-Qプロット:残差の分布の形を見る
次に、残差が正規分布に従うかを確かめる道具について説明します。
回帰係数の 検定や信頼区間は、誤差の正規性を前提にしていました。この点検に使うのが 正規Q-Qプロット です。データの分位点と、標準正規分布の分位点を比べる図で、Q は分位点(quantile)の頭文字です。
背の順に例えてみましょう。2つのクラスを背の順に並べて、同じ順位の人どうしを組にします。身長の分布の形が同じなら、組を点で打つと直線に乗ります。Q-Qプロットは、この相手を「理想の正規分布クラス」にしたものです。
【正規Q-Qプロットの作り方】
- 残差を小さい順に並べる:
- 番目に確率 を割り当てる
- その確率に対応する標準正規分布の分位点 を求める
- 点 を打つ
具体的に見てみましょう。5個の残差を小さい順に並べた場合、確率は0.1, 0.3, 0.5, 0.7, 0.9 です。
| 順位 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 確率 | 0.1 | 0.3 | 0.5 | 0.7 | 0.9 |
| 分位点 |
分布が正規なら、点は直線に乗ります。このとき、直線の切片は平均、傾きは標準偏差の見当を与えます。形が違うときは、ズレ方で読み取ります。
【正規Q-Qプロットのズレ方】
- 直線に乗る: 正規分布に近い
- 右端が上へ、左端が下へ反る(S字): 裾が厚い。極端な値が正規分布より多い
- 両端とも直線より上に反る(下に凸): 右に裾が長い
- 両端とも直線より下に反る(上に凸): 左に裾が長い
- 1点だけ大きく離れる: 外れ値の候補
例えば、所得を回帰した残差の Q-Q プロットが下に凸になっていれば、右に裾が長いと分かります。このときも、対数をとる変換が候補になります。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 確率の割り当て方には流儀があり、 などを使うソフトウェアもあります。 が大きければ、見た目はほとんど変わりません。
以上が、正規Q-Qプロットについての説明です。
leverage(てこ比)と外れ値:点の立ち位置を測る
続いて、1つの点の影響を測る道具について解説します。
外れ値 は、回帰の文脈では、当てはめた線から縦方向に大きく外れた点のことです。一方で、横方向の位置が極端な点もあります。この2つは別の問題なので、分けて測ります。
シーソーを想像してください。支点の近くに座った人が少し動いても、板はほとんど傾きません。しかし、端に座った人が動くと、板は大きく傾きます。回帰直線は の平均のあたりを支点とするシーソーで、端にある点ほど直線を強く動かします。
この端にいる度合いを表すのが leverage(てこ比) です。ハット行列の対角成分 がてこ比で、 の中で、自分の が自分の予測値に効く重みにあたります。切片つきの単回帰では、次の式になります。
はデータの個数、 は の平均です。言葉で言うと、「 が平均から離れているほど、てこ比は大きい」という式です。てこ比は だけで決まり、 の値には関係しません。
てこ比には、次の性質があります。説明変数の数を とします(切片を入れて係数は 個)。
【てこ比の性質】
- 範囲: 切片つきのモデルでは
- 合計: なので、平均は
- 目安: の点は、てこ比が大きいと判断する
- 残差の分散:
4つ目がここでのポイントです。てこ比の大きい点は線を自分へ引き寄せるので、残差が小さくなります。つまり、生の残差の大きさを比べるだけでは、危ない点を見逃します。そこで、それぞれの標準偏差で割ります。
これが 標準化残差(内部スチューデント化残差)です。 は残差平方和を で割った値です。 が2を超えると注意、3を超えると外れ値の疑いが強いと見ます。
例題:てこ比と標準化残差を求める
5個のデータ = (1, 2), (2, 3), (3, 5), (4, 6), (10, 8) に回帰直線を当てはめると、、 でした。5番目の点のてこ比と標準化残差を求めましょう。
【解き方】
- 、
- てこ比:
- 目安と比べる: より大きい
- 残差: なので、
- 標準化残差:
答えはてこ比0.92、標準化残差約 です。生の残差 は5点の中で絶対値が最も小さいのに、標準化すると絶対値が最大になります。
実は、この点を除いて残り4点で直線を引くと、 となり、 の予測値は14.5です。実測の8より6.5も上です。この差は、次の公式からもすぐに出ます。
は、 番目の点を除いて推定した式による予測値です。 で、たしかに一致します。全部のデータで引いた線は、この点に引き寄せられていたのです。
試験のポイント:てこ比は だけで決まり、合計は係数の個数 になります。「 の値でてこ比が変わる」という選択肢は誤りです。
以上が、てこ比と外れ値についての解説です。
Cookの距離:その1点が結果をどれだけ動かすか
最後に、影響の大きさを1つの数にまとめる道具を見ていきましょう。
ここまでで、縦のズレは標準化残差、横の位置はてこ比と、物差しが2本そろいました。でも、知りたいのは「その点があるかないかで、回帰式がどれだけ変わるか」です。
クラスの合唱に例えてみましょう。1人ずつ抜けてもらって歌い、そのたびに全体の音がどれだけ変わるかを確かめます。抜けても変わらないなら、その人の影響は小さいです。抜けると音が別物になるなら、全体がその人に依存しています。
これを式にしたのが Cookの距離 です。 番目の点を除いて推定したときの予測値の変化を、全点で足し合わせて測ります。
回も推定をやり直す必要はありません。1点を除いたときの係数の変化は と書けるからです。これを代入すると、次の形に整理できます。
言葉で言うと、「Cookの距離 = 縦のズレの2乗 × 横の位置の効き目」です。どちらか片方が0に近ければ、Cookの距離は小さくなります。両方が大きいときだけ、影響が大きくなります。目安は、 が0.5を超えると注意、1を超えると影響が大きいと判断します。 を使う流儀もあります。
さきほどの例題の5番目の点なら、次のとおりです。
目安の1をはるかに超えています。残差だけを見ると目立たなかった点が、回帰式を決めていたのです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。 の9点の回帰直線は でした。ここに10個目の点を1つ加えます。加え方を3通り比べてみます。
| 加えた点 | てこ比 | 標準化残差 | Cookの距離 | 傾きの変化 |
|---|---|---|---|---|
| A:(5, 14) | 0.10 | 2.57 | 0.37 | 0.83 のまま |
| B:(20, 19) | 0.79 | 0.01 | 0.82 でほぼ同じ | |
| C:(20, 8) | 0.79 | 11.0 | 0.26 へ急落 |
【3つの点の読み方】
- A: 縦に外れているが は真ん中。外れ値だが、傾きは動かさない
- B: 端にいるが線の上に乗っている。てこ比は大きいが、影響は小さい
- C: 端にいて線からも外れている。てこ比も残差も大きく、回帰式を支配する
つまり、本当に問題なのはCの型で、これを 影響力の大きい点 と呼びます。
では、見つけたらどうするのでしょうか? 機械的に消してはいけません。
【見つけたあとの手順】
- 記録ミスや測定の失敗がないかを確かめる
- その点を除いた分析と含めた分析を、両方行って比べる
- 別の集団の点なら、説明変数を足すなどモデルを見直す
- 正しい値なら残し、結論がその点に依存することを報告する
試験のポイント: は、標準化残差とてこ比から計算できます。ソフトウェアの出力から計算させる形で問われます。
以上が、Cookの距離についての解説です。
細かい導出を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「縦のズレは標準化残差、横の位置はてこ比、2つを掛け合わせた影響がCookの距離」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、当てはめた回帰式を点検する回帰診断法について紹介しました。決定係数は通信簿の総合点のようなもので、健康状態の中身までは教えてくれません。形は残差プロットと正規Q-Qプロットで、1つ1つの点の影響はてこ比とCookの距離で調べるのが、回帰の健康診断です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 残差プロットは予測値に対して描く。残差と予測値は無相関なので、模様が出れば問題のサイン。
- 正規Q-Qプロットは背の順の組合せ。直線に乗れば正規分布に近く、S字なら裾が厚い。
- てこ比 はシーソーの端にいる度合いで、 だけで決まる。合計は 。
- てこ比の大きい点は線を引き寄せるので、生の残差ではなく標準化残差で比べる。
- Cookの距離は、1点を抜いたときの予測値の変化で、縦のズレと横の位置の両方が大きいと大きくなる。
キーワードのおさらい
- 外れ値: 当てはめた線から縦方向に大きく外れた点
- 残差プロット: 予測値に対して残差を打った図。模様がないことを確かめる
- 正規Q-Qプロット: データの分位点と標準正規分布の分位点を比べる図
- leverage(てこ比): ハット行列の対角成分。 の位置が極端な度合い
- Cookの距離: 1点を除いたときの回帰式の変化を測る量
さて、ここまでの回帰は、応答が身長や売上のような連続の量でした。では、合格か不合格か、事故の件数は何件か、という応答ではどうなるでしょうか? 直線をそのまま当てはめると、確率が1を超えてしまいます。
次回は、二値やカウントの応答を扱う「ロジスティック回帰」と「一般化線形モデル」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。