準1級-6 応用統計の手法
離散型分布
- 離散一様分布
- ベルヌーイ分布
- 二項分布
- 超幾何分布
- ポアソン分布
- 幾何分布
- 負の二項分布
- 多項分布
はじめに
「分布の公式が多すぎる。これ、全部ばらばらに覚えるの?」
二項分布、ポアソン分布、幾何分布、超幾何分布。2級で学んだ分布に、準1級ではさらに母関数や性質が加わります。公式を別々に暗記しようとすると、試験の直前には頭の中でごちゃ混ぜになってしまいますよね。
例えば、親戚の集まりを思い浮かべてください。初対面の人が何十人もいると名前を覚えきれませんが、家系図を見せてもらうと、「この人はあの人の子どもで、その人のいとこか」と、一気に関係が分かります。
実は、離散型の分布もこれと同じです。多くの分布は、たった1人のご先祖様から枝分かれした親戚です。関係をたどれば、公式の多くは覚えなくても導けます。
そこで登場するのが、今回の主役である分布の家系図です。ご先祖様の ベルヌーイ分布 から、二項分布、幾何分布、負の二項分布と枝が伸び、さらにポアソン分布や多項分布へつながります。
前回の記事では、少数法則や正規近似といった極限の道具を学びました。今回の記事では、その道具と母関数を使って、主な離散型分布の性質と、分布どうしの関係について解説します。
離散一様分布とベルヌーイ分布:いちばん素朴な分布
はじめに、最も素朴な2つの分布について解説します。
離散一様分布 は、 の値を同じ確率でとる分布です。
期待値は、 を で割って求まります。分散は、 から を求めて引きます。
サイコロなら で、期待値3.5、分散 です。10面のサイコロなら、期待値5.5、分散8.25です。
ベルヌーイ分布 は、1回の試行の成否を表す分布です。成功なら1、失敗なら0をとります。
これが家系図のご先祖様です。モーメント母関数は 、確率母関数は です。
地味に見えますが、ベルヌーイ分布には大きな使い道があります。ある事象が起きたら1、起きなければ0とする変数を、指示変数と呼びます。指示変数の期待値は事象の確率そのものです。「全体の個数」を指示変数の和に分ければ、期待値の計算が足し算だけで済みます。出席簿の○を1つずつ足すようなものです。
例えば、準1級の最初の記事で学んだプレゼント交換で、自分の品を受け取る人数の期待値はいくらでしょうか? 人のそれぞれが確率 で自分の品を受け取るので、 人です。独立でなくても、期待値の和は成り立ちます。
以上が、離散一様分布とベルヌーイ分布についての解説です。
二項分布と超幾何分布:回数を決めて数える
次に、回数を決めて成功を数える2つの分布について説明します。
二項分布 は、独立なベルヌーイ分布 個の和の分布です。
和の分布なので、モーメント母関数はベルヌーイ分布の 乗です。期待値 と分散 も、それぞれの和として出ます。また、 が同じなら と の和は で、再生性をもちます。
福引に例えましょう。引いた玉を箱に戻してかき混ぜるなら、毎回の確率は同じなので二項分布です。では、引いた玉を戻さないならどうなるでしょうか?
これが 超幾何分布 です。当たり 個を含む 個から 個を戻さずに取り出すとき、当たりの個数 は次の分布に従います。
とおくと、期待値と分散は次のようになります。
導出の要点は指示変数です。 番目に引いた玉が当たりなら1とする を使うと、 です。どの も確率は なので、期待値は で、二項分布と同じです。ただし、当たりが1つ出ると残りの当たりが減るので、 どうしには負の相関があります。この分だけ分散が小さくなります。 を 有限修正 と呼びます。
具体的に見てみましょう。、、 なら、 です。
| 超幾何分布 | 二項分布 | |
|---|---|---|
| 期待値 | 2 | 2 |
| 分散 | 1.2 | |
| 0.346 |
を大きくすると有限修正は1に近づき、超幾何分布は二項分布に近づきます。大きな箱から少し引くだけなら、戻しても戻さなくても、ほとんど差がないのです。
試験のポイント:超幾何分布の期待値は二項分布と同じで、分散だけ有限修正の分小さくなります。 なら全部を取り出すので、分散は0です。
以上が、二項分布と超幾何分布についての説明です。
ポアソン分布:まれな出来事の数
続いて、ポアソン分布について解説します。
ポアソン分布 は、前回の少数法則で二項分布から生まれた、まれな出来事の回数の分布です。
モーメント母関数の積から、独立なら と の和は でした。ここでは、逆向きの2つの関係を押さえましょう。
1. 和を知ると二項分布に戻る
、 が独立で、和 が分かったとします。このとき、 の条件つき分布は二項分布です。
言葉で言うと、「全部で 件起きたと分かれば、それぞれが の側で起きた確率は 」ということです。
例えば、2つの窓口に来る客数が と に従い、合計4人が来たと分かったとします。1つ目の窓口に3人が来た確率は、 より です。
2. ふるい分けてもポアソン分布
来店者数が に従い、各客が独立に確率 で商品を買うとします。買う客の数は に従います。例えば、来店者数が で購入確率が0.3なら、買う客の数は です。コーヒーのフィルターのように、ふるい分けても分布の型は変わりません。
以上が、ポアソン分布についての解説です。
幾何分布と負の二項分布:成功を待つ分布
次に、成功を待つ分布について説明します。
ここで1つ、注意があります。幾何分布と負の二項分布には、2つの流儀があります。
【幾何分布の2つの流儀】
- 試行回数で数える: 初めて成功するまでの回数 。2級の記事はこちら
- 失敗回数で数える: 初めて成功するまでの失敗の回数
の関係があるので、期待値が1ずれるだけで、分散は同じです。準1級の問題では失敗回数で定義されることが多いので、この記事では失敗回数で書きます。
幾何分布 は次のとおりです。
回はずれてから当たる確率なので、この式になります。例えば、 のガチャでは、はずれの回数の期待値は4回、分散は20です。試行回数で数えれば期待値は5回で、分散は同じ20です。
幾何分布の最大の特徴は 無記憶性 です。 なので、次の式が成り立ちます。
言葉で言うと、「何回はずれ続けても、この先の見通しは最初と同じ」ということです。「もう50回はずれたから、そろそろ当たるはず」と思いたくなりますが、ガチャに記憶はありません。無記憶性をもつ離散型分布は、幾何分布だけです。
負の二項分布 は、 回目の成功までの失敗の回数の分布です。独立な幾何分布 個の和なので、期待値も分散も 倍になります。
試行回数で数える流儀なら、期待値は を足した で、分散は同じです。係数の理由は次のとおりです。最後の1回は必ず成功なので、それより前の 回のどこに 回の失敗を置くかを選びます。
具体的に見てみましょう。公平なコインで3回目の表が出るまでの裏の回数を とします。、 です。 で、期待値は3、分散は6です。
分散を期待値で割ると で、1より大きくなります。つまり、負の二項分布の分散は平均より大きいです。ポアソン分布は分散と平均が等しいので、カウントデータの分散が平均より大きいとき(過分散)、負の二項分布がよく使われます。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 自体が人によって異なり、ガンマ分布に従うとします。ポアソン分布を について平均すると、負の二項分布になります。「人ごとのばらつき」が過分散の原因の1つです。
試験のポイント:幾何分布と負の二項分布は、問題文の定義(試行回数か失敗回数か)を最初に確認します。
以上が、幾何分布と負の二項分布についての説明です。
多項分布と分布どうしの関係
最後に、多項分布と、ここまでの家系図の全体を見ていきましょう。
二項分布の結果は2通りでした。多項分布 は、これを 通りに広げたものです。確率 (合計1)の試行を独立に 回行うとき、各結果の回数 は次の分布に従います。
血液型やアンケートの選択肢を数えるときが、この分布です。 だけを見ると「 か、それ以外か」の2通りなので、周辺分布は です。期待値は 、分散は となります。
共分散は次のとおりです。
導出は簡単です。 は に従うので、 に代入して解くと出ます。負になるのは、合計が に固定されているからです。席が決まった椅子取りゲームと同じで、誰かが増えれば誰かが減ります。
例題:信号の色を数える
通学路の信号が、青0.5、黄0.2、赤0.3の確率で見えるとします。独立に5回見たとき、次を求めましょう。(1) 青3回、黄1回、赤1回の確率。(2) 青の回数の分散。(3) 青と黄の回数の共分散。
【解き方】
- 青の回数の周辺分布は なので、分散は
答えは、(1) 0.15、(2) 1.25、(3) です。
さて、ここまでの関係を家系図にまとめましょう。
| 元の分布 | 操作 | 生まれる分布 |
|---|---|---|
| ベルヌーイ分布 | 個の和 | 二項分布 |
| ベルヌーイ分布 | 初めての成功まで待つ | 幾何分布 |
| 幾何分布 | 個の和 | 負の二項分布 |
| 超幾何分布 | 二項分布 | |
| 二項分布 | 、 を一定 | ポアソン分布 |
| 二項分布 | 結果を 通りに広げる | 多項分布 |
| ポアソン分布の組 | 和を固定して条件をつける | 二項分布 |
| 分布 | 期待値 | 分散 | 分散と平均の関係 |
|---|---|---|---|
| 二項分布 | 分散 < 平均 | ||
| ポアソン分布 | 分散 = 平均 | ||
| 負の二項分布 | 分散 > 平均 |
2つ目の表は、カウントデータに当てはめる分布を選ぶ手がかりにもなります。データの分散と平均を比べるだけで、候補が絞れるのです。
以上が、多項分布と分布どうしの関係についての説明です。
細かい公式を全部暗記できなくても問題ありません。ここでは、「ベルヌーイ分布から始まる家系図」と「何を固定して、何を数えているか」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は主な離散型分布の性質と、分布どうしの関係について紹介しました。どの分布も、ベルヌーイ試行のどこに注目して数えるかが違うだけです。公式を丸暗記するより、「和」「極限」「条件」でたどる家系図を頭に入れておくほうが、ずっと強い武器になります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- ベルヌーイ分布が家系図のご先祖様。和をとると二項分布になる。
- 超幾何分布は戻さない福引。期待値は二項分布と同じで、分散が有限修正の分だけ小さい。
- ポアソン分布の和は再び同じ型で、和を固定すると二項分布に戻る。
- 幾何分布はガチャの待ち回数で、無記憶性をもつ。和をとると負の二項分布になる。定義の流儀に注意する。
- 多項分布は二項分布の拡張で、回数どうしの共分散は負になる。
キーワードのおさらい
- 離散一様分布: を同じ確率でとる分布
- ベルヌーイ分布: 1回の試行の成否を0と1で表す分布
- 二項分布: 独立なベルヌーイ試行 回の成功回数の分布
- 超幾何分布: 戻さない抽出での当たりの個数の分布
- ポアソン分布: まれな出来事の回数の分布。期待値と分散が等しい
- 幾何分布: 初めての成功までの回数の分布。無記憶性をもつ
- 負の二項分布: 回目の成功までの回数の分布
- 多項分布: 結果が 通りの試行を 回行ったときの、各結果の回数の分布
さて、今回は「数える」分布の家系図を作りました。「測る」分布、つまり連続型の分布にも、同じように家系図があります。待ち時間を足すと何が生まれ、比をとると何が生まれるのでしょうか? 中には、平均が存在しない不思議な分布もいます。
次回は、主な「連続型分布」の性質と、分布どうしの関係について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。