準1級-31 応用統計の手法
その他の多変量解析手法
- 多次元尺度法
- 正準相関分析
- 対応分析
- 数量化法
はじめに
「駅と駅の所要時間の表しかないのに、路線の地図は作れるの?」
電車の所要時間の表を眺めていると、数字はたくさん並んでいるのに、町の位置関係はさっぱり見えてきません。でも、表の数字をうまく使えば、地図を描き直すことができそうですよね。
統計の世界にも、似たことがよくあります。手元にあるのは、商品どうしの似ている度合いの表だけ。あるいは、年代と好きな味のクロス表だけ。主成分分析や因子分析のように、きれいな量的データの行列がそろっているとは限りません。
実は、多変量解析には、こうした「形の違うデータ」のための道具がそろっています。どれも発想は同じで、データを低い次元の地図に写して、関係を目で見えるようにするのです。
そこで登場するのが、今回の主役たち 多次元尺度法、正準相関分析、対応分析、数量化法 です。
前回の記事では、潜在因子で相関を説明する因子分析を学びました。今回の記事では、距離の表、2組の変数群、クロス表、質的なデータという4つの場面に合わせて、それぞれの手法について解説します。
多次元尺度法:距離の表から地図を作る
はじめに、距離の表から地図を作る多次元尺度法について解説します。
多次元尺度法(MDS: multidimensional scaling) は、個体どうしの距離の表から、その距離をできるだけ再現する点の配置を求める方法です。入力は距離だけで、変数の値はいりません。クラスター分析で学んだ距離行列を、グループではなく地図に直す方法だと考えてください。
代表的な 古典的多次元尺度法 の導出を見てみましょう。点の座標 が分かっているとして、重心を原点に置きます。距離の2乗は、次のように内積で書けます。
これを逆に解くと、距離の2乗の行列 から、内積の行列 が求まります。
をかける操作を 二重中心化 と言います。行の平均と列の平均を引いて、全体の平均を足す操作です。成分で書くと、 です。
あとは主成分分析と同じです。 を固有値分解して、大きいほうから 個の固有値 と固有ベクトル を使います。第 軸の座標は です。
例題:4地点の地図を復元する
4つの駅 A, B, C, D の距離が、次の表のとおりです。古典的多次元尺度法で何次元の地図になるかを調べましょう。
| A | B | C | D | |
|---|---|---|---|---|
| A | 0 | 3 | 5 | 4 |
| B | 3 | 0 | 4 | 5 |
| C | 5 | 4 | 0 | 3 |
| D | 4 | 5 | 3 | 0 |
【解き方】
- 距離の2乗の平均を求める: どの行も (0 + 9 + 25 + 16) ÷ 4 = 12.5 で、全体の平均も12.5
- の成分を計算する: 、
- 同じようにして 、
- 固有値を求める: 16、9、0、0
答えは2次元です。固有値が0でない軸は2本で、残りは0なので、4地点は平面の上に完全に再現できます。実際、A, B, C, D は縦3、横4の長方形の4隅です。固有値の和は25で、第1軸だけなら 16 ÷ 25 = 64% を説明します。
ここで大切な性質があります。距離は回転や裏返しをしても変わらないので、地図の向きは決まりません。東西南北は分析者が解釈で読み取ります。
では、 に負の固有値が出たらどうでしょうか? これは、距離の表がユークリッド空間の距離として完全には表せないしるしです。アンケートで作った「似ていなさ」の表では、よく起こります。そのときは、大きい正の固有値だけを使います。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。5種類のお菓子を「どれとどれが似ているか」で順位づけしてもらったとします。この数字は順序にしか意味がありません。そこで、距離の順序だけを保つように配置を探す 非計量多次元尺度法 を使います。配置の悪さは ストレス という量で測り、小さいほどよい配置です。
試験のポイント:古典的多次元尺度法は「距離 → 二重中心化 → 固有値分解」の順です。ユークリッド距離の表から始めると、主成分分析の主成分スコアと同じ配置になります。
以上が、多次元尺度法についての解説です。
正準相関分析:2つの変数群のいちばん強いつながり
次に、2組の変数群の関係を調べる正準相関分析について説明します。
例えば、「文系の科目(国語・英語)」と「理系の科目(数学・理科)」の関係を知りたいとします。組み合わせごとに相関を見ると4つの数が出て、全体像が見えません。回帰分析なら目的変数は1つですが、ここでは両側に複数の変数があります。
正準相関分析(canonical correlation analysis) は、2つの変数群それぞれから合成変数を1つずつ作り、その相関が最大になる重みを探す方法です。2つのチームが代表者を1人ずつ出して、息の合い方を競うイメージです。代表者の作り方を工夫して、最も息の合う組を見つけます。
変数群 ( 個)と ( 個)の合成変数を、、 とします。
を第1 正準相関係数、 を 正準変量 と言います。 の条件のもとで、ラグランジュの未定乗数法を使うと、次の固有値問題になります。
は各群の分散共分散行列、 は群の間の共分散行列です。固有値が正準相関係数の2乗です。2番目以降は、前の正準変量と無相関という条件で順に求めます。したがって、正準相関係数は最大で 個です。
特別な場合が、 です。このとき、 の側は1変数なので、 の合成変数と の相関を最大にする問題になります。これは、重回帰分析の重相関係数 そのものです。例えば 、、 なら、次のようになります。
したがって で、個々の相関より大きいです。合成すると相関が上がるのです。
例題:2変数ずつの正準相関
、 はどれも標準化されていて、 と の相関、 と の相関はともに0.5です。群の間の相関は 、 です。この対称な構造では、正準変量は和と差になります。第1、第2の正準相関係数を求めましょう。
【解き方】
- 和どうしの共分散:
- 和の分散: 。 も同じ
- 第1正準相関係数:
- 差どうしの共分散:
- 差の分散: 。 も同じ
- 第2正準相関係数:
答えは 、 です。第1の組は「2変数の総合」どうしのつながり、第2の組は「2変数の差」どうしのつながりと読めます。第1正準相関係数は、どの個別の相関0.5よりも大きいことに注目しましょう。1つの変数も合成変数の1つなので、最大値はこれを下回りません。
以上が、正準相関分析についての説明です。
対応分析:クロス表を地図にする
続いて、クロス表を地図にする対応分析について解説します。
2級で、クロス表の独立性をカイ二乗検定で調べました。検定は「関連があるか」を教えてくれますが、「どの行とどの列が近いか」は教えてくれません。天気予報で「雨が降る」とだけ言われて、どの地域かが分からないようなものです。
対応分析(correspondence analysis) は、クロス表の行と列を同じ平面の上に点として置き、関連を地図で見せる方法です。コレスポンデンス分析とも呼びます。
具体的に見てみましょう。3つの年代の100人ずつに、好きなラーメンの味を聞いたとします。
| 醤油 | 味噌 | 豚骨 | 計 | |
|---|---|---|---|---|
| 10代 | 30 | 20 | 50 | 100 |
| 20代 | 40 | 30 | 30 | 100 |
| 30代 | 50 | 30 | 20 | 100 |
| 計 | 120 | 80 | 100 | 300 |
総度数を として、 を確率の表と見ます。 を行の周辺確率、 を列の周辺確率とします。独立ならセルの確率は なので、そこからのズレを次のように標準化します。
この を2乗して全部足し、 倍すると、カイ二乗統計量になります。つまり、ズレの行列 の大きさが、関連の強さそのものです。これを 総慣性 と呼びます。
慣性は、物理の言葉を借りた名前です。行プロファイル(行ごとの比率)が平均からどれだけ散らばっているかを、重みつきで測った量だと考えてください。
を特異値分解すると、総慣性を大きい順に軸へ配分できます。これは、主成分分析の「分散を軸へ配分する」操作のクロス表版です。軸の数は、 個です。
例題:総慣性と軸の読み取り
ラーメンの表について、 と総慣性を求めましょう。
【解き方】
- 期待度数を求める: 各行で 40, 26.67, 33.33
- カイ二乗統計量: 21.5(自由度4、)
- 総慣性: 21.5 ÷ 300 ≈ 0.0717
- 軸の数: min(3 − 1, 3 − 1) = 2
答えは総慣性 約0.0717、軸は2本です。特異値分解をすると、第1軸の慣性は0.0702で、全体の97.9%を占めます。第1軸の座標は次のとおりです。
| 行 | 座標 | 列 | 座標 |
|---|---|---|---|
| 10代 | −0.35 | 醤油 | 0.20 |
| 20代 | 0.07 | 味噌 | 0.17 |
| 30代 | 0.29 | 豚骨 | −0.37 |
読み方は簡単です。第1軸の左に10代と豚骨が、右に30代と醤油が来ました。つまり、この軸は「若い人の豚骨派」と「年上の人の醤油派」を分ける軸です。符号の向きには意味がなく、全部を反転させても同じ地図です。
ただし、1つ注意があります。行の点どうし、列の点どうしの距離には意味がありますが、行の点と列の点の距離は、そのまま比べられません。同じ向きにあるかどうかを見るのが基本です。
以上が、対応分析についての解説です。
数量化法:質的なデータに数字を与える
最後に、日本で生まれた数量化法を見ていきましょう。
アンケートの「はい・いいえ」や、「駅前・郊外」のようなカテゴリは、そのままでは計算に使えません。数量化法 は、カテゴリに適切な数値を割り当てて、回帰や判別などの分析をできるようにする方法です。林知己夫が体系化したので、林の数量化理論とも呼ばれます。
数値の割り当て方を決めるのは、分析者ではありません。目的に最もかなうように、データから決めます。テストの配点を先生が決めるのではなく、「最もよく成績を説明できる配点」を計算で求めるようなものです。
数量化法には、次の4つの型があります。
| 型 | 外的基準(目的変数) | データ | 対応する手法 |
|---|---|---|---|
| 数量化Ⅰ類 | 量的 | 質的な説明変数 | 重回帰分析 |
| 数量化Ⅱ類 | 質的(群) | 質的な説明変数 | 判別分析 |
| 数量化Ⅲ類 | なし | カテゴリの反応の表 | 主成分分析に近い。対応分析と同等 |
| 数量化Ⅳ類 | なし | 個体どうしの親近性 | 多次元尺度法 |
ⅠとⅡは、目的変数がある型です。ⅢとⅣは、目的変数がなく、構造を見るための型です。
1. 数量化Ⅰ類
数量化Ⅰ類は、ダミー変数を使った重回帰分析です。各カテゴリに与えられた回帰係数を カテゴリスコア と呼びます。
例題:数量化Ⅰ類のカテゴリスコア
ラーメン店4店の1日の来客数を調べました。立地と味が来客数にどう影響するかを、数量化Ⅰ類で分析しましょう。
| 立地 | 味 | 来客数 |
|---|---|---|
| 駅前 | 醤油 | 82 |
| 駅前 | 豚骨 | 98 |
| 郊外 | 醤油 | 48 |
| 郊外 | 豚骨 | 72 |
【解き方】
- モデルを立てる: 来客数 = 定数 + 立地のスコア + 味のスコア。郊外と醤油のスコアを0とする
- この表はバランスがとれているので、平均の差で求まる: 駅前の平均90、郊外の平均60で、差は30
- 同じようにして、醤油の平均65、豚骨の平均85で、差は20
- 全体の平均は75なので、定数は 75 − 15 − 10 = 50
- 予測値を計算する: 駅前・豚骨は 50 + 30 + 20 = 100
答えは、定数50、駅前のスコア30、豚骨のスコア20です。各項目のカテゴリスコアの範囲(最大 − 最小)を レンジ と呼び、大きいほど影響が大きいと読みます。立地のレンジ30が味のレンジ20より大きいので、この4店では立地のほうが効いています。
2. 数量化Ⅲ類
数量化Ⅲ類は、個体が選んだカテゴリの表(0と1の表)に対して、「同じものを選ぶ個体は近く、同じ人に選ばれるカテゴリは近く」なるように、個体とカテゴリの両方に数値を与える方法です。
ここがポイントです。これは、さきほどの対応分析と数学的に同じ問題を解いています。対応分析がフランスで、数量化Ⅲ類が日本で、それぞれ独立に育ったのです。同じ山に、東と西から登ったようなものです。
例えば、10人に「好きなスポーツ」を複数回答で聞き、数量化Ⅲ類で分析すると、「屋内派」と「屋外派」のような軸が現れ、人とスポーツを同じ軸の上に並べられます。
試験のポイント:目的変数が量的ならⅠ類、質的ならⅡ類、目的変数がなければⅢ類かⅣ類です。Ⅲ類は対応分析と同等であることも押さえましょう。
以上が、数量化法についての解説です。
細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「距離の表なら多次元尺度法、2組の変数なら正準相関分析、クロス表なら対応分析、質的な変数なら数量化法」という使い分けだけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、形の違うデータを地図や合成変数に直す4つの手法について紹介しました。入力は距離の表、2組の変数群、クロス表、質的データとばらばらですが、中身はどれも固有値分解か特異値分解です。主成分分析で学んだ「情報の多い軸から順に取り出す」という発想が、形を変えて何度も登場しているのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 多次元尺度法は距離の表から地図を作る。古典的な方法は二重中心化と固有値分解で、順序だけなら非計量の方法を使う。
- 正準相関分析は2チームの代表者どうしの最大の相関を探す。個数は で、 なら重相関係数になる。
- 対応分析はクロス表の行と列を同じ地図に置く。総慣性は で、軸の数は 。
- 数量化法はカテゴリに数値を与える。Ⅰ類は回帰、Ⅱ類は判別、Ⅲ類は対応分析、Ⅳ類は多次元尺度法にあたる。
キーワードのおさらい
- 多次元尺度法: 距離の表から、距離を再現する点の配置を求める方法
- 正準相関分析: 2つの変数群の合成変数の相関が最大になる重みを求める方法
- 対応分析: クロス表の行と列を低次元の地図に表す方法
- 数量化法: カテゴリに数値を与えて多変量解析を行う方法の総称
さて、ここまでは、データの順番を入れ替えても結果が変わらない手法でした。でも、毎月の売上や毎日の気温は違います。今日の値は昨日の値に引きずられます。
次回は、自己相関とARIMAモデルを中心に「時系列解析」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。