はじめに
目盛りの総数は同じで、濃さだけが場所によって変わる
「対数をとったら分布が変わるって、どういうこと? データは同じなのに」
統計の本を読んでいると、「年収は対数をとって分析する」「比率は平方根をとる」といった話がよく出てきます。同じ人の年収なのに、対数をとっただけで、右に裾を引いていた分布が左右対称の山になります。
例えば、ゴムひもに等間隔で目盛りを打ち、一部分だけ強く引っ張ったところを想像してください。目盛りの間隔が広がったところでは、同じ長さの中にある目盛りの数が減ります。縮んだところでは増えます。目盛りの総数は変わらないのに、密度だけが場所によって変わるのです。
実は、確率変数の変換でも、これと同じことが起きています。確率の合計は1のままで、確率の濃さが場所によって変わります。この伸び縮みを計算する方法さえ分かれば、変換後の分布は機械的に求まります。
そこで登場するのが、今回の主役 変数変換 です。変数変換とは、確率変数 X を関数で別の確率変数 Y=g(X) に変えることです。
前回の記事では、分布を要約する特性値を学びました。今回の記事では、変換後の分布の求め方、線形結合の分布、そしてデータの形を整える Box-Cox 変換について解説します。
1変数の変数変換:伸び縮みを補正する
確率の量は保たれ、幅が縮んだ分だけ密度が高くなる
はじめに、確率変数が1つのときの変数変換について解説します。
変換後の分布を求める方法は2つあります。1つずつ見ていきましょう。
1. 累積分布関数から求める
いちばん確実なのは、累積分布関数を経由する方法です。「Y≤y」という事象を「X の事象」に言いかえて、最後に微分します。
例えば、X が (0,1) の一様分布に従うとき、Y=X2 の分布を求めます。0<y<1 で、次のようになります。
FY(y)=P(X2≤y)=P(X≤y)=y,fY(y)=2y1
y が0に近いところほど、確率密度が高くなっています。2乗すると0.1は0.01に、0.5は0.25になり、小さい値が0の近くに押し込められるからです。ゴムひもの縮んだところで、目盛りが密になるのと同じです。
2. 変数変換の公式を使う
g が単調で微分できるなら、毎回この手順を踏まなくても、次の公式が使えます。
fY(y)=fX(x)dydx,x=g−1(y)
記号の意味は、x=g−1(y) が「y に対応する元の x」で、∣dx/dy∣ が伸び縮みの補正です。言葉で言うと、「元の密度を y の式に書きかえて、ゴムひもの伸び率で割り戻す」ということです。
なぜこの形になるのでしょうか? 小さな区間の確率は、変換しても変わりません。つまり fY(y)∣dy∣=fX(x)∣dx∣ です。この式の両辺を ∣dy∣ で割ると、公式が出ます。
具体的に見てみましょう。U が (0,1) の一様分布に従うとき、Y=−log(U)/λ の分布を求めます。
【公式の使い方】
- u について解く: u=e−λy
- 微分する: ∣du/dy∣=λe−λy
- 代入する: fU(u)=1 なので fY(y)=λe−λy(y>0)
一様分布から指数分布が生まれました。一様乱数から指数分布の乱数を作るときに使う変換です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。X∼N(μ,σ2) に対して Y=eX とします。x=logy、∣dx/dy∣=1/y なので、次のようになります。
fY(y)=y2πσ21exp(−2σ2(logy−μ)2)(y>0)
これが対数正規分布で、後の記事で詳しく学びます。
例題:単調でない変換
Z∼N(0,1) のとき、Y=Z2 の確率密度関数を求めましょう。
【解き方】
- g(z)=z2 は単調ではなく、1つの y>0 に z=y と z=−y の2つが対応する
- どちらの枝でも ∣dz/dy∣=1/(2y)
- 2つの枝を足す。ϕ は左右対称なので、fY(y)=2ϕ(y)×2y1
- 整理する: fY(y)=2πy1e−y/2(y>0)
これが自由度1のカイ二乗分布の確率密度関数です。2級で「標準正規分布の2乗の和」として学んだ分布を、式から導いたことになります。
試験のポイント:公式の絶対値を忘れないこと、y のとる範囲を書くこと、単調でなければ枝ごとに足すことの3点を確認します。
以上が、1変数の変数変換についての解説です。
多変数の変数変換:ヤコビアンで面積を補正する
小さなマスの面積の伸び率がヤコビアン
次に、確率変数が2つのときの変数変換について説明します。
(X,Y) を (U,V) に1対1に変換するときも、考え方は同じです。補正の対象が、ゴムひもの長さから、ゴムシートの面積に変わります。この面積の伸び率が ヤコビアン J です。
fU,V(u,v)=fX,Y(x(u,v), y(u,v))∣J∣,J=det(∂x/∂u∂y/∂u∂x/∂v∂y/∂v)
x(u,v) と y(u,v) は、変換を逆に解いた式です。J は偏微分を並べた行列の行列式です。
【多変数の変数変換の手順】
- x,y を u,v で表す
- ヤコビアンを計算する
- 同時確率密度関数に代入して ∣J∣ を掛ける
- (u,v) のとる範囲を確認する
- 1つの変数の分布がほしいなら、もう片方を積分する
例題:指数分布の和と比
X,Y は独立に、f(x)=λe−λx の指数分布に従います。U=X+Y、V=X/(X+Y) の同時分布を求めましょう。
【解き方】
- 逆に解く: x=uv、y=u(1−v)。範囲は u>0、0<v<1
- ヤコビアン: J=v×(−u)−u×(1−v)=−u なので ∣J∣=u
- 代入する: fU,V(u,v)=λ2e−λu×u
- 分ける: fU,V(u,v)=(λ2ue−λu)×1
u だけの式と v だけの式の積になったので、U と V は独立です。V は (0,1) の一様分布に、U は fU(u)=λ2ue−λu の分布に従います。この U の分布は、形状のパラメータが2のガンマ分布です。「2回目のお客さんが来るまでの待ち時間」にあたります。
和だけがほしいときは、畳み込み という公式も使えます。X,Y が独立なら、Z=X+Y の確率密度関数は次の式です。
fZ(z)=∫−∞∞fX(x)fY(z−x)dx
言葉で言うと、「X=x のときに Y が z−x である」という道筋を、すべての x について足し合わせています。
例えば、X,Y が独立に (0,1) の一様分布に従うとき、fZ(z) は 0<z≤1 で z、1<z<2 で 2−z の三角形になります。サイコロ2個の和が7で最も出やすいのと同じ理由で、真ん中が最も濃くなります。
以上が、多変数の変数変換についての説明です。
確率変数の線形結合の分布
独立な正規分布の和は正規分布。足されるのは分散
続いて、最もよく使う変換である線形結合について解説します。
線形結合 とは、aX+bY のように、確率変数に定数を掛けて足し合わせたものです。標本平均も、2群の差も、ポートフォリオの収益も、すべて線形結合です。平均と分散は、分布の形によらず次の式で求まります。
E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y],V[aX+bY]=a2V[X]+b2V[Y]+2abCov[X,Y]
変数がたくさんあるときは、行列で書くとすっきりします。確率ベクトル X の平均ベクトルを μ、分散共分散行列を Σ とすると、次の式が成り立ちます。
E[a⊤X]=a⊤μ,V[a⊤X]=a⊤Σa
具体的に見てみましょう。2級の例で、数学 X は N(60,102)、国語 Y は N(50,152)、相関係数は0.5でした。共分散は 0.5×10×15=75 です。差 X−Y は a=(1,−1)⊤ の線形結合です。
V[X−Y]=(1−1)(1007575225)(1−1)=100+225−2×75=175
正の相関があると、差の分散は小さくなります。2人が同じ向きにぶれるので、差のぶれが打ち消されるのです。
では、分布の形はどうなるのでしょうか? ここで前々回のモーメント母関数が活躍します。X,Y が独立なら、次の式が成り立ちます。
MaX+bY(t)=MX(at)MY(bt)
X∼N(μ1,σ12)、Y∼N(μ2,σ22) を入れると、指数の部分が足されて次の形になります。
exp((aμ1+bμ2)t+2(a2σ12+b2σ22)t2)
これは正規分布のモーメント母関数です。したがって、独立な正規分布の線形結合は、また正規分布に従います。2変量正規分布のように相関があるときも、線形結合は正規分布に従います。とくに、標本平均は Xˉ∼N(μ,σ2/n) です。
このように、同じ種類の分布の和が同じ種類になる性質を 再生性 と呼びます。
【再生性をもつ分布(独立な和)】
- 正規分布: 平均と分散が足される
- 二項分布: 成功確率が同じなら B(m,p) と B(n,p) の和は B(m+n,p)
- ポアソン分布: Po(λ1) と Po(λ2) の和は Po(λ1+λ2)
- ガンマ分布: レートのパラメータが同じなら、形状のパラメータが足される(後の記事で学ぶ)
- カイ二乗分布: 自由度が足される
例題:線形結合の確率を求める
通学の徒歩の時間 X は N(10,12)、電車の時間 Y は N(25,22) で、独立です。合計時間が38分を超える確率を求めましょう。
【解き方】
- T=X+Y は正規分布に従う。平均は 10+25=35
- 分散は 1+4=5。標準偏差は 5 ではなく 5≈2.24
- 標準化する: z=(38−35)÷5≈1.34
- 標準正規分布表から P(Z>1.34)≈0.090
答えは約0.09です。足されるのは分散で、標準偏差ではないことに注意しましょう。
試験のポイント:「X が Y を上回る確率」は、X−Y の分布に直すと解けます。差の分散は引き算ではなく足し算(共分散の項は −2Cov)です。
以上が、確率変数の線形結合の分布についての解説です。
Box-Cox変換:データの形を整える
つまみのλを下げるほど、飛び抜けた100が押し縮められる
最後に、データの形を整える変換を見ていきましょう。
ここまでは分布から分布を導きました。実際の分析では逆に、「右に裾を引いたデータを、正規分布に近づけたい」という場面があります。そのときに使う変換の家族が Box-Cox変換 です。正の値 y に対して、次のように定義します。
y(λ)=⎩⎨⎧λyλ−1logy(λ=0)(λ=0)
λ は変換の強さを決めるつまみです。音量のつまみのように、回すと変換の効き具合が連続的に変わります。
【λ の値と変換の例】
- λ=1: 平行移動のみで、形は変わらない
- λ=1/2: 平方根に近い変換
- λ=0: 対数変換
- λ=−1: 逆数に近い変換
λ が小さいほど、大きな値を強く押し縮めます。
具体的に見てみましょう。データ1、4、9、16、100に λ=1/2 を当てはめると、(y−1)/0.5 で0、2、4、6、18となります。元は100だけ飛び抜けていましたが、差がずっと縮まりました。λ=0 なら0、1.39、2.20、2.77、4.61で、さらに縮まります。
なぜ 1 を引いて λ で割るのでしょうか? それは、λ→0 の極限が logy になり、変換がなめらかにつながるからです。例えば y=4 で λ=0.01 なら、(40.01−1)/0.01≈1.396 で、log4≈1.386 に近い値です。
λ の決め方は、変換後のデータが正規分布に従うと仮定した最尤法が標準的です。尤度を求めるときは、今回学んだ伸び縮みの補正 ∣dy(λ)/dy∣=yλ−1 を掛けます。対数尤度に (λ−1)∑logyi という項が入るのは、このためです。
ℓ(λ)=−2nlogσ^2(λ)+(λ−1)i=1∑nlogyi
定数の項は省いています。σ^2(λ) は変換後のデータの分散の最尤推定量です。この ℓ(λ) が最大になる λ を選びます。対数正規分布に従うデータなら、λ は0の近くになります。
Box-Cox変換の目的は、形を整えることだけではありません。回帰分析では、誤差の分散を一定に近づけるためにも使います。ただし、y が0以下の値をとるときは、そのままでは使えません。また、変換後の結果は元の単位で読めなくなるので、解釈には注意が必要です。
試験のポイント:λ=0 が対数変換に対応すること、y>0 が前提であることがよく問われます。
以上が、Box-Cox変換についての説明です。
細かい計算が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「変換で確率の合計は変わらず、濃さだけが伸び縮みの分だけ変わる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
長さも面積も伸びの分を補正し、線形結合は正規のまま
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は変数変換について紹介しました。公式はいくつもありますが、やっていることは1つです。確率の量を保ったまま、物差しの伸び縮みの分だけ密度を補正しています。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 変数変換の基本は、累積分布関数を経由する方法と、∣dx/dy∣ を掛ける公式。単調でなければ枝ごとに足す。
- 多変数では、ゴムシートの面積の伸び率であるヤコビアンを掛ける。
- 線形結合の平均と分散は、分布の形によらず式で求まる。分散には共分散の項が入る。
- 正規分布の線形結合は正規分布。再生性はモーメント母関数の積で確かめられる。
- Box-Cox変換はつまみ λ で強さを変える変換の家族で、λ=0 が対数変換。
キーワードのおさらい
- 変数変換: 確率変数を関数で別の確率変数に変えること。密度は伸び縮みの分だけ補正する
- ヤコビアン: 多変数の変換で、面積や体積の伸び率を表す行列式
- 確率変数の線形結合の分布: 定数を掛けて足した変数の分布。正規分布なら再び正規分布になる
- 再生性: 同じ種類の分布の和が、同じ種類の分布に従う性質
- Box-Cox変換: (yλ−1)/λ で定義され、λ=0 で対数となる変換の族
さて、ここまでの計算は、n が決まったときの正確な分布でした。でも、変換が複雑になると、正確な分布はもう求められません。そんなとき統計学は、「n が大きいとどうなるか」という極限の世界に助けを求めます。
次回は、確率収束から中心極限定理、デルタ法までの「極限定理と漸近理論」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。