統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-14 統計数理

漸近的性質 — クラーメル・ラオの不等式とデルタ法

  • クラーメル・ラオの不等式
  • フィッシャー情報量(1次元)
  • 最尤推定量の漸近正規性
  • デルタ法

はじめに

「最尤推定量が漸近正規になるって、どうやって証明するの?」

準1級では、最尤推定量の分散はクラーメル・ラオの下限に近づき、分布は正規分布に近づくと学びました。統計ソフトの標準誤差も、この結果の上に立っています。でも、1級の論述では「その結果を導け」と問われます。

陸上の100m走を思い浮かべてください。人間の走る速さには、越えられない壁があるはずです。一方で、練習を積むほど壁に近づく選手がいます。推定量の世界では、壁を示すのが不等式で、壁に近づく選手が最尤推定量です。

実は、この2つの定理を動かしている道具は多くありません。スコアの平均が0であること、コーシー・シュワルツの不等式、テイラー展開、そして極限定理です。すべて、ここまでの記事に登場した道具です。

そこで登場するのが、今回の主役 クラーメル・ラオの不等式 と 最尤推定量の漸近正規性 です。壁の高さを決める フィッシャー情報量 と、推定量の関数に結果を広げる デルタ法 も扱います。

前回の記事では、AICの導出で漸近的な近似を先取りしました。今回の記事では、その土台にある定理を、答案に書ける形で証明します。

フィッシャー情報量:計算の技を増やす

はじめに、すべての定理の中心にあるフィッシャー情報量について解説します。

1個の観測のスコアを u(x;θ)=∂log⁡f(x;θ)/∂θu(x;\theta) = \partial\log f(x;\theta)/\partial\theta とします。尤度の記事で証明したとおり、正則条件のもとで Eθ[u]=0E_\theta[u] = 0 です。フィッシャー情報量 は、スコアの分散です。

I(θ)=Eθ[u2]=−Eθ[∂u∂θ]I(\theta) = E_\theta[u^2] = -E_\theta\left[\frac{\partial u}{\partial\theta}\right]

対数尤度の山の尖り具合という意味は、準1級で学びました。独立な nn 個の観測では、スコアの和の分散なので、全体の情報量は nI(θ)nI(\theta) です。

ここでは、計算の技を増やしましょう。1つずつ見ていきましょう。

1. 2つの式を使い分ける

2階微分の式は、xx が消えるときにとても楽です。一方、2階微分が複雑なら、2乗の式のほうが楽なこともあります。

例えば、位置母数 θ\theta のコーシー分布では、z=x−θz = x - \theta として u=2z/(1+z2)u = 2z/(1 + z^2) です。2乗の式で計算します。

I(θ)=∫−∞∞4z2(1+z2)2⋅1π(1+z2) dz=4π∫−∞∞z2(1+z2)3 dz=4π⋅π8=12I(\theta) = \int_{-\infty}^{\infty} \frac{4z^2}{(1 + z^2)^2} \cdot \frac{1}{\pi(1 + z^2)}\,dz = \frac{4}{\pi}\int_{-\infty}^{\infty} \frac{z^2}{(1 + z^2)^3}\,dz = \frac{4}{\pi} \cdot \frac{\pi}{8} = \frac{1}{2}

位置母数の情報量は、θ\theta によりません。分布を平行移動しても、形は変わらないからです。

2. 母数を変換する

同じデータを、別の母数で表すとどうなるでしょうか? θ=θ(η)\theta = \theta(\eta) と書き直すと、合成関数の微分より、η\eta のスコアは uη=uθ⋅dθ/dηu_\eta = u_\theta \cdot d\theta/d\eta です。2乗して期待値をとれば、次の変換公式が得られます。

Iη(η)=Iθ(θ)(dθdη)2I_\eta(\eta) = I_\theta(\theta)\left(\frac{d\theta}{d\eta}\right)^2

温度計の目盛りを摂氏から華氏に変えるようなものです。測っている熱は同じでも、目盛りの細かさの分だけ、数字は変わります。

具体的に見てみましょう。ベルヌーイ分布で、対数オッズ η=log⁡{p/(1−p)}\eta = \log\{p/(1-p)\} を母数にします。dp/dη=p(1−p)dp/d\eta = p(1-p) なので、Iη=1p(1−p)×{p(1−p)}2=p(1−p)I_\eta = \frac{1}{p(1-p)} \times \{p(1-p)\}^2 = p(1-p) です。p=1/2p = 1/2 で情報量が最大になります。

3. 分散と標準偏差の情報量

2つの技を、X∼N(0,v)X \sim N(0, v)(v=σ2v = \sigma^2)で使ってみましょう。vv の情報量を2階微分の式で求めてから、変換公式で σ\sigma の情報量に直します。

【計算の手順】

  1. log⁡f=−12log⁡(2πv)−x2/(2v)\log f = -\frac{1}{2}\log(2\pi v) - x^2/(2v) より、u=−12v+x22v2u = -\dfrac{1}{2v} + \dfrac{x^2}{2v^2} である
  2. ∂u/∂v=12v2−x2v3\partial u/\partial v = \dfrac{1}{2v^2} - \dfrac{x^2}{v^3} で、E[X2]=vE[X^2] = v より、I(v)=−12v2+1v2=12v2I(v) = -\dfrac{1}{2v^2} + \dfrac{1}{v^2} = \dfrac{1}{2v^2} である
  3. v=σ2v = \sigma^2 より dv/dσ=2σdv/d\sigma = 2\sigma である。よって I(σ)=12σ4×4σ2=2σ2I(\sigma) = \dfrac{1}{2\sigma^4} \times 4\sigma^2 = \dfrac{2}{\sigma^2} である

答えは I(v)=1/(2σ4)I(v) = 1/(2\sigma^4)、I(σ)=2/σ2I(\sigma) = 2/\sigma^2 です。

以上が、フィッシャー情報量についての解説です。

クラーメル・ラオの不等式:証明する

次に、不偏推定量の分散の壁を証明します。

【クラーメル・ラオの不等式】 正則条件のもとで、TT を g(θ)g(\theta) の不偏推定量とする。分散が有限なら、次が成り立つ。

Vθ[T]≥g′(θ)2nI(θ)V_\theta[T] \ge \frac{g'(\theta)^2}{nI(\theta)}

g(θ)=θg(\theta) = \theta なら、下限は 1/{nI(θ)}1/\{nI(\theta)\} です。証明の鍵は、TT とスコアの共分散です。

【証明】

  1. U(θ)U(\theta) を標本全体のスコアとする。Eθ[T]=∫T(x)f(x;θ) dx=g(θ)E_\theta[T] = \int T(\boldsymbol{x}) f(\boldsymbol{x};\theta)\,d\boldsymbol{x} = g(\theta) を θ\theta で微分し、微分と積分を交換する
  2. ∂f/∂θ=Uf\partial f/\partial\theta = U f なので、Eθ[TU]=g′(θ)E_\theta[TU] = g'(\theta) である
  3. Eθ[U]=0E_\theta[U] = 0 なので、Covθ(T,U)=Eθ[TU]=g′(θ)\text{Cov}_\theta(T, U) = E_\theta[TU] = g'(\theta) である
  4. コーシー・シュワルツの不等式より、Covθ(T,U)2≤Vθ[T] Vθ[U]\text{Cov}_\theta(T, U)^2 \le V_\theta[T]\, V_\theta[U] である
  5. Vθ[U]=nI(θ)V_\theta[U] = nI(\theta) を代入して割れば、不等式を得る

たった5行です。一言で言うと、「母数が動いたときに TT が反応するには、スコアと相関しなければいけない。その相関の強さには限界がある」ということです。

では、等号はいつ成り立つのでしょうか? コーシー・シュワルツの等号条件から、T−g(θ)T - g(\theta) と UU が比例するときです。

U(θ)=a(θ) {T−g(θ)}U(\theta) = a(\theta)\,\{T - g(\theta)\}

これを θ\theta で積分すると、log⁡f=A(θ) T(x)+B(θ)+C(x)\log f = A(\theta)\,T(\boldsymbol{x}) + B(\theta) + C(\boldsymbol{x}) という形になります。つまり、下限に届く推定量をもつのは、指数型分布族の形の分布に限られます。

ここで、前提が崩れる例を2つ見ましょう。

【不等式の前提が崩れる例】

  • 偏りがある場合: E[T]=θ+b(θ)E[T] = \theta + b(\theta) なら、下限は {1+b′(θ)}2/{nI(θ)}\{1 + b'(\theta)\}^2/\{nI(\theta)\} に変わる。例えば N(θ,1)N(\theta, 1) の T=Xˉ/2T = \bar{X}/2 は、b′=−1/2b' = -1/2 で、分散 1/(4n)1/(4n) は 1/n1/n を下回る
  • 台が動く場合: U(0,θ)U(0, \theta) で形式的に E[u2]=1/θ2E[u^2] = 1/\theta^2 とすると、下限は θ2/n\theta^2/n になる。ところが、n+1nX(n)\frac{n+1}{n}X_{(n)} の分散は θ2/{n(n+2)}\theta^2/\{n(n+2)\} で、これを下回る

2つ目は、手順1の微分と積分の交換ができないからです。陸上の壁は、ルールが同じ選手にしか当てはまらないのです。

例題:下限に届くことを示す

X1,…,XnX_1, \dots, X_n は独立に N(0,v)N(0, v) に従う。T=1n∑iXi2T = \frac{1}{n}\sum_i X_i^2 が vv の有効推定量であることを、2通りの方法で示せ。

【答案】

  1. E[Xi2]=vE[X_i^2] = v より TT は不偏である
  2. (分散の比較)∑iXi2/v∼χ2(n)\sum_i X_i^2/v \sim \chi^2(n) より、V[T]=v2×2n/n2=2v2/nV[T] = v^2 \times 2n/n^2 = 2v^2/n である。一方、I(v)=1/(2v2)I(v) = 1/(2v^2) より下限は 2v2/n2v^2/n で、一致する
  3. (等号条件)U(v)=−n2v+∑iXi22v2=n2v2(T−v)U(v) = -\dfrac{n}{2v} + \dfrac{\sum_i X_i^2}{2v^2} = \dfrac{n}{2v^2}(T - v) である。スコアが T−vT - v に比例するので、等号が成り立つ

どちらも答案として十分です。等号条件の方法は、分散の計算が要らないぶん速く書けます。

試験のポイント:下限の分子の g′(θ)2g'(\theta)^2 を忘れないこと。θ\theta そのものではなく θ\theta の関数を推定するときに、よく問われます。

以上が、クラーメル・ラオの不等式についての解説です。

最尤推定量の漸近正規性:証明する

続いて、最尤推定量の漸近正規性 を証明します。

【定理】 正則条件に加えて、θ\theta の近くで ∣∂3log⁡f(x;θ)/∂θ3∣≤M(x)|\partial^3\log f(x;\theta)/\partial\theta^3| \le M(x)(E[M(X)]<∞E[M(X)] < \infty)で、0<I(θ0)<∞0 < I(\theta_0) < \infty とする。尤度方程式の一致解 θ^n\hat{\theta}_n について、真の値を θ0\theta_0 とすると次が成り立つ。

n (θ^n−θ0) →d N(0, 1I(θ0))\sqrt{n}\,(\hat{\theta}_n - \theta_0) \ \xrightarrow{d}\ N\left(0,\ \frac{1}{I(\theta_0)}\right)

証明は2段階です。まず、山頂が真の値に近づくこと(一致性)、次に、その近づき方が正規分布になることです。

1. 一致性の考え方

大数の法則より、次の式が成り立ちます。

1n{ℓ(θ)−ℓ(θ0)} → Eθ0[log⁡f(X;θ)f(X;θ0)]=−D(fθ0 ∥ fθ)\frac{1}{n}\{\ell(\theta) - \ell(\theta_0)\} \ \to\ E_{\theta_0}\left[\log\frac{f(X;\theta)}{f(X;\theta_0)}\right] = -D(f_{\theta_0} \,\|\, f_\theta)

右辺は、前回証明したKL情報量の非負性から、θ≠θ0\theta \ne \theta_0 で負です(母数が違えば分布が違うと仮定します)。つまり nn が大きいと、θ0\theta_0 の尤度が、離れた θ\theta の尤度を上回ります。したがって、尤度の山頂は θ0\theta_0 の近くに来ます。

2. 漸近正規性の証明

ここからは答案の形で書きましょう。

【証明】

  1. U(θ^n)=0U(\hat{\theta}_n) = 0 を θ0\theta_0 のまわりでテイラー展開する。θ~n\tilde{\theta}_n は θ0\theta_0 と θ^n\hat{\theta}_n の間の点である
0=U(θ0)+(θ^n−θ0) U′(θ0)+12(θ^n−θ0)2 U′′(θ~n)0 = U(\theta_0) + (\hat{\theta}_n - \theta_0)\,U'(\theta_0) + \frac{1}{2}(\hat{\theta}_n - \theta_0)^2\, U''(\tilde{\theta}_n)
  1. 整理すると、次の形になる
n (θ^n−θ0)=U(θ0)/n−U′(θ0)/n−12(θ^n−θ0) U′′(θ~n)/n\sqrt{n}\,(\hat{\theta}_n - \theta_0) = \frac{U(\theta_0)/\sqrt{n}}{-U'(\theta_0)/n - \frac{1}{2}(\hat{\theta}_n - \theta_0)\, U''(\tilde{\theta}_n)/n}
  1. 分子: U(θ0)U(\theta_0) は平均0、分散 I(θ0)I(\theta_0) の独立な変数の和なので、中心極限定理より N(0,I(θ0))N(0, I(\theta_0)) に分布収束する
  2. 分母の第1項: 大数の法則より、I(θ0)I(\theta_0) に確率収束する
  3. 分母の第2項: ∣U′′(θ~n)/n∣≤1n∑iM(Xi)|U''(\tilde{\theta}_n)/n| \le \frac{1}{n}\sum_i M(X_i) は有界にとどまり、θ^n−θ0→0\hat{\theta}_n - \theta_0 \to 0 なので、0に確率収束する
  4. スルツキーの補題より、全体は N(0,I(θ0))/I(θ0)=N(0,1/I(θ0))N(0, I(\theta_0))/I(\theta_0) = N(0, 1/I(\theta_0)) に分布収束する

準1級では手順5を省略しました。答案では、3階微分の評価があるからこそ、2次の項を無視できると書きます。

式の形にも意味があります。θ^n−θ0≈U(θ0)/{nI(θ0)}\hat{\theta}_n - \theta_0 \approx U(\theta_0)/\{nI(\theta_0)\} で、誤差は「坂の傾き ÷ 谷の急さ」です。ボールを坂に置いたとき、傾きが大きいほど遠くまで転がり、谷が急なほど早く止まるようなものです。

漸近分散 1/{nI(θ0)}1/\{nI(\theta_0)\} は、クラーメル・ラオの下限そのものです。このように、下限に漸近的に届く性質を 漸近有効 と呼びます。実際に使うときは、未知の I(θ0)I(\theta_0) を I(θ^n)I(\hat{\theta}_n) か、観測情報量 −U′(θ^n)/n-U'(\hat{\theta}_n)/n で置き換えます。

具体的に見てみましょう。位置母数のコーシー分布では、I=1/2I = 1/2 でした。最尤推定量は陽に書けませんが、漸近分散は 2/n2/n です。一方、標本中央値の漸近分散は、f(θ)=1/πf(\theta) = 1/\pi より π2/(4n)≈2.47/n\pi^2/(4n) \approx 2.47/n です。中央値に対する最尤推定量の分散の比は 8/π2≈0.818/\pi^2 \approx 0.81 で、標本平均が使えない分布でも、最尤法はしっかり最良です。

例題:漸近分布を2通りで確かめる

密度 f(x;θ)=θxθ−1f(x;\theta) = \theta x^{\theta-1}(0<x<10 < x < 1)の最尤推定量 θ^=−n/∑ilog⁡Xi\hat{\theta} = -n/\sum_i \log X_i について、n(θ^−θ)\sqrt{n}(\hat{\theta} - \theta) の極限分布を、(1) フィッシャー情報量から、(2) 中心極限定理とデルタ法から求めよ。

【答案】

  1. log⁡f=log⁡θ+(θ−1)log⁡x\log f = \log\theta + (\theta - 1)\log x より、∂2log⁡f/∂θ2=−1/θ2\partial^2\log f/\partial\theta^2 = -1/\theta^2 である。よって I(θ)=1/θ2I(\theta) = 1/\theta^2 で、極限分布は N(0,θ2)N(0, \theta^2) である
  2. Yi=−log⁡XiY_i = -\log X_i は、平均 1/θ1/\theta、分散 1/θ21/\theta^2 の指数分布に従う。中心極限定理より、n(Yˉ−1/θ)→N(0,1/θ2)\sqrt{n}(\bar{Y} - 1/\theta) \to N(0, 1/\theta^2) である
  3. θ^=h(Yˉ)\hat{\theta} = h(\bar{Y})、h(m)=1/mh(m) = 1/m で、h′(1/θ)=−θ2h'(1/\theta) = -\theta^2 である。デルタ法より、極限の分散は θ4×1/θ2=θ2\theta^4 \times 1/\theta^2 = \theta^2 である

答えはともに N(0,θ2)N(0, \theta^2) です。2つの計算が一致すれば、答案の検算にもなります。

以上が、最尤推定量の漸近正規性についての解説です。

デルタ法:証明と応用

最後に、ここまで何度も使ってきた デルタ法 を証明しましょう。

推定量そのものではなく、その関数の分布を知りたい場面はよくあります。オッズ、対数、生存確率などです。曲がった道でも、拡大すればほぼ直線に見えますよね。デルタ法は、関数を接線で近似する方法です。

【デルタ法】 n(Tn−θ)→dN(0,σ2)\sqrt{n}(T_n - \theta) \xrightarrow{d} N(0, \sigma^2) で、gg は θ\theta の近くで連続微分可能、g′(θ)≠0g'(\theta) \ne 0 とする。このとき、次が成り立つ。

n (g(Tn)−g(θ)) →d N(0, g′(θ)2σ2)\sqrt{n}\,\big(g(T_n) - g(\theta)\big) \ \xrightarrow{d}\ N\big(0,\ g'(\theta)^2\sigma^2\big)

【証明】

  1. 平均値の定理より、g(Tn)−g(θ)=g′(θ~n)(Tn−θ)g(T_n) - g(\theta) = g'(\tilde{\theta}_n)(T_n - \theta) である。θ~n\tilde{\theta}_n は TnT_n と θ\theta の間の点である
  2. Tn−θ={n(Tn−θ)}/n→0T_n - \theta = \{\sqrt{n}(T_n - \theta)\}/\sqrt{n} \to 0 と確率収束するので、θ~n→θ\tilde{\theta}_n \to \theta である
  3. g′g' は連続なので、g′(θ~n)→g′(θ)g'(\tilde{\theta}_n) \to g'(\theta) と確率収束する
  4. スルツキーの補題より、n(g(Tn)−g(θ))=g′(θ~n)⋅n(Tn−θ)→g′(θ)⋅N(0,σ2)\sqrt{n}(g(T_n) - g(\theta)) = g'(\tilde{\theta}_n) \cdot \sqrt{n}(T_n - \theta) \to g'(\theta) \cdot N(0, \sigma^2) である

例題:生存確率の標準誤差

部品の寿命が率 λ\lambda の指数分布に従う。n=50n = 50、xˉ=2\bar{x} = 2 のとき、P(X>3)P(X > 3) の最尤推定値とその標準誤差を求めよ。

【答案】

  1. λ^=1/xˉ=0.5\hat{\lambda} = 1/\bar{x} = 0.5 で、I(λ)=1/λ2I(\lambda) = 1/\lambda^2 より n(λ^−λ)→N(0,λ2)\sqrt{n}(\hat{\lambda} - \lambda) \to N(0, \lambda^2) である
  2. g(λ)=e−3λg(\lambda) = e^{-3\lambda} とおくと、不変性より最尤推定値は g(0.5)=e−1.5≈0.223g(0.5) = e^{-1.5} \approx 0.223 である
  3. g′(λ)=−3e−3λg'(\lambda) = -3e^{-3\lambda} より、漸近分散は 9e−6λλ2/n9e^{-6\lambda}\lambda^2/n である
  4. 標準誤差は 3e−3λ^λ^/n=3×0.223×0.5/50≈0.0473e^{-3\hat{\lambda}}\hat{\lambda}/\sqrt{n} = 3 \times 0.223 \times 0.5/\sqrt{50} \approx 0.047 である

答えは推定値約0.223、標準誤差約0.047です。

デルタ法の応用をもう1つ見ましょう。漸近分散が θ\theta に依存すると、区間推定で不便です。そこで、g′(θ)=1/σ(θ)g'(\theta) = 1/\sigma(\theta) を満たす gg を選ぶと、漸近分散は定数になります。これを 分散安定化変換 と呼びます。

例えば、二項比率では σ2(p)=p(1−p)\sigma^2(p) = p(1-p) です。g(p)=arcsin⁡pg(p) = \arcsin\sqrt{p} なら、g′(p)=1/{2p(1−p)}g'(p) = 1/\{2\sqrt{p(1-p)}\} なので、n(g(p^)−g(p))→N(0,1/4)\sqrt{n}(g(\hat{p}) - g(p)) \to N(0, 1/4) です。n=100n = 100、p^=0.36\hat{p} = 0.36 なら、g(p^)=arcsin⁡0.6≈0.644g(\hat{p}) = \arcsin 0.6 \approx 0.644 で、標準誤差は 0.050.05 です。0.644±0.0980.644 \pm 0.098 を元に戻すと、pp の95%信頼区間は約 [0.269, 0.456] となります。

ただし、g′(θ)=0g'(\theta) = 0 だと、極限は0に潰れてしまいます。接線が水平なので、1次の近似では何も見えないのです。そのときは、テイラー展開を2次まで進めます。

n (g(Tn)−g(θ)) →d σ2 g′′(θ)2 χ2(1)n\,\big(g(T_n) - g(\theta)\big) \ \xrightarrow{d}\ \frac{\sigma^2\, g''(\theta)}{2}\,\chi^2(1)

例えば、g(p)=p(1−p)g(p) = p(1-p) の p=1/2p = 1/2 では、g′(1/2)=0g'(1/2) = 0 です。σ2=1/4\sigma^2 = 1/4、g′′=−2g'' = -2 なので、n{p^(1−p^)−1/4}n\{\hat{p}(1-\hat{p}) - 1/4\} は −14χ2(1)-\frac{1}{4}\chi^2(1) に分布収束します。収束の速さも 1/n1/\sqrt{n} から 1/n1/n に変わりました。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 多変量のときは n(g(Tn)−g(θ))→N(0,∇g⊤Σ ∇g)\sqrt{n}(g(\boldsymbol{T}_n) - g(\boldsymbol{\theta})) \to N(0, \nabla g^\top\Sigma\,\nabla g) です。例えば、正規標本の変動係数 S/XˉS/\bar{X} の漸近分散は、c=σ/μc = \sigma/\mu として (c4+c2/2)/n(c^4 + c^2/2)/n です。

試験のポイント:デルタ法の答案では、g′(θ)≠0g'(\theta) \ne 0 の確認と、未知の母数に推定値を代入する手順を明記します。

以上が、デルタ法についての解説です。

細かい条件を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「下限はスコアとの相関の限界から出て、最尤推定量はスコアを情報量で割った形でその下限に届く」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は、フィッシャー情報量の計算、クラーメル・ラオの不等式の証明、最尤推定量の漸近正規性の証明、デルタ法の証明を紹介しました。壁の高さを情報量が決め、標本が大きくなると最尤推定量がその壁に届きます。推定の理論は、ここで1つにつながりました。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • フィッシャー情報量はスコアの分散で、nn 個なら nn 倍。母数を変換すると (dθ/dη)2(d\theta/d\eta)^2 が掛かる。
  • クラーメル・ラオの不等式は、TT とスコアの共分散にコーシー・シュワルツの不等式を使って示す。
  • 等号はスコアが T−g(θ)T - g(\theta) に比例するときで、指数型分布族の形の分布に限られる。
  • 最尤推定量の漸近正規性は、テイラー展開、中心極限定理、大数の法則、スルツキーの補題で示す。
  • デルタ法は関数を接線で近似する方法で、g′(θ)=0g'(\theta) = 0 のときは2次まで進める。

キーワードのおさらい

  • フィッシャー情報量: スコアの分散。データが母数についてもつ情報の量
  • クラーメル・ラオの不等式: 不偏推定量の分散の下限 g′(θ)2/{nI(θ)}g'(\theta)^2/\{nI(\theta)\} を与える不等式
  • 最尤推定量の漸近正規性: n(θ^−θ)\sqrt{n}(\hat{\theta} - \theta) が N(0,1/I(θ))N(0, 1/I(\theta)) に分布収束する性質
  • 漸近有効: 漸近分散がクラーメル・ラオの下限に一致する性質
  • デルタ法: 推定量の関数の漸近分布を、接線の傾きで求める方法
  • 分散安定化変換: 漸近分散が母数によらなくなる変換

さて、これで推定量の分布を導く道具がそろいました。この分布を使えば、「母数はこの範囲にある」と言うことができます。ところで、その範囲に真の値が入る確率は、本当に95%なのでしょうか?

次回は、信頼区間の構成と性質について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. ベルヌーイ分布で、p=0.2p = 0.2 のとき、対数オッズ η=log⁡{p/(1−p)}\eta = \log\{p/(1-p)\} についてのフィッシャー情報量として正しいものはどれか。
問2. X1,…,X40X_1, \dots, X_{40} は独立に平均 λ\lambda のポアソン分布に従う。λ=2\lambda = 2 のとき、λ2\lambda^2 の不偏推定量の分散に対するクラーメル・ラオの下限として正しいものはどれか。
問3. 率 λ\lambda の指数分布からの n=100n = 100 の標本で xˉ=5\bar{x} = 5 だった。最尤推定量 λ^\hat{\lambda} の標準誤差の推定値として、正しいものはどれか。
問4. 平均 θ\theta の指数分布からの大きさ25の標本について、log⁡Xˉ\log\bar{X} の漸近分散として正しいものはどれか。
問5. ベルヌーイ分布の真の値が p=1/2p = 1/2 のとき、n{1/4−p^(1−p^)}n\{1/4 - \hat{p}(1-\hat{p})\} の極限分布として正しいものはどれか。