統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-24 統計数理

不完全データ — 欠測・打ち切り・トランケーション

  • 欠測(欠損)
  • 打ち切り
  • トランケーション

はじめに

「試験の途中でまだ動いている電球のデータは、捨ててしまっていいの?」

電球の寿命を調べるために、10個を同時に点灯させたとします。全部が切れるまで待つと、何か月もかかります。そこで4個が切れた時点で試験を止めました。残りの6個は「まだ切れていない」ということしか分かりません。この6個を捨てて4個だけで平均をとると、丈夫な電球を無視したことになるので、寿命を短く見積もってしまいます。

別の場面も考えてみましょう。ある店の会員の来店回数を調べたら、平均は2回でした。ただし、この記録に載るのは1回以上来た人だけです。入会しただけで1回も来ていない人は、記録のどこにも現れません。

実は、この2つの例は、同じ「データが足りない」でも性質がまったく違います。前者はいることが分かっていて値が足りないデータで、後者はいることすら分からないデータです。だから、同じ公式では扱えません。正しい分析の鍵は、「このデータが手に入る確率はいくらか」という尤度を、欠け方に合わせて書くことです。

そこで登場するのが、今回の主役 欠測、打ち切り、トランケーション の3つです。

前回の記事では、順位だけを使う検定を導きました。今回の記事では、3種類の不完全さの区別、欠測の尤度の分解、打ち切りの尤度と正確な信頼区間、トランケーションの条件付き分布、そして尤度の寄与の書き分けについて解説します。

3種類の不完全さを見分ける

はじめに、不完全データの3つの種類について解説します。

上限が150kgの体重計で、健康診断をしていると考えてください。不完全なデータの生まれ方は、次の3通りです。

【体重計で見る3つの不完全さ】

  1. 欠測: 記録用紙が濡れて、数字が読めなくなった人がいる
  2. 打ち切り: 150kgを超える人は「150kg以上」とだけ記録される
  3. トランケーション: 150kgを超える人は会場に入れず、記録に何も残らない

欠測(欠損、missing)は、値があるはずなのに手に入らないことです。準1級で学んだ空欄のことです。

打ち切り(censoring)は、個体は観測されたが、値はある範囲に入ることしか分からないことです。

トランケーション(切断、truncation)は、値がある範囲に入る個体が、標本にまったく現れないことです。

種類個体がいると分かるか値について分かること
欠測分かる何も分からない(他の変数は分かる)
打ち切り分かる値が入る範囲は分かる
トランケーション分からない標本にいる個体は値も分かる

要するに、打ち切りとトランケーションの違いは、「人数が分かるかどうか」です。打ち切りでは「150kg以上の人が3人いた」と言えますが、トランケーションでは何人いたか分かりません。

せっかくなので、別の例も見てみましょう。

【実際の場面での区別】

  • 血液検査で検出限界の0.1未満は「0.1未満」と記録する: 打ち切り(小さい側なので左打ち切り)
  • 研究の終了時に生きていた患者の生存時間: 打ち切り(大きい側なので右打ち切り)
  • 調査の開始前に閉店した店が、名簿に載っていない: トランケーション(左トランケーション)
  • 合格者の入試の点数だけが手元にある: トランケーション

試験のポイント:問題文で「人数が分かるか」を確かめます。人数が分かれば打ち切り、分からなければトランケーションです。

以上が、3種類の不完全さについての解説です。

欠測:観測データの尤度を分解する

次に、欠測があるときの尤度について説明します。

準1級で学んだように、欠測メカニズムがMAR(観測値だけで欠測の確率が決まる)なら、メカニズムを尤度から外せます。これを無視可能と呼びました。ここでは、無視可能なときに最尤推定量を実際に導きます。

2つの変数を考えます。xx は nn 人全員が観測され、yy は最初の rr 人だけが観測されたとします。欠測の確率は xx だけで決まるとします。同時密度を f(x,y)=f(x;ϕ) f(y∣x;ψ)f(x, y) = f(x; \phi)\, f(y \mid x; \psi) と分解すると、観測データの尤度は次のとおりです。

L=∏i=1rf(xi;ϕ) f(yi∣xi;ψ)∏i=r+1n∫f(xi;ϕ) f(y∣xi;ψ) dyL = \prod_{i=1}^{r} f(x_i; \phi)\, f(y_i \mid x_i; \psi) \prod_{i=r+1}^{n} \int f(x_i; \phi)\, f(y \mid x_i; \psi)\, dy

後ろの積分は、yy の密度を積分して1になるので、f(xi;ϕ)f(x_i; \phi) だけが残ります。つまり、次のように2つに分かれます。

L=∏i=1nf(xi;ϕ)⏟全員の x×∏i=1rf(yi∣xi;ψ)⏟r 人の回帰L = \underbrace{\prod_{i=1}^{n} f(x_i; \phi)}_{\text{全員の } x} \times \underbrace{\prod_{i=1}^{r} f(y_i \mid x_i; \psi)}_{r \text{ 人の回帰}}

ϕ\phi と ψ\psi が別々の母数なら、それぞれを最大化すればよいことになります。2人の係が別々の帳簿をつけるように、全員分の xx の帳簿と、rr 人分の回帰の帳簿に分かれたのです。

(x,y)(x, y) が2変量正規分布なら、E(y∣x)=α+βxE(y \mid x) = \alpha + \beta x です。μx\mu_x は全員の平均 xˉ\bar{x} で推定し、α,β\alpha, \beta は rr 人の回帰で推定します。μy=α+βμx\mu_y = \alpha + \beta\mu_x なので、最尤推定量の不変性から、次の式が得られます。

μ^y=yˉr+β^(xˉ−xˉr)\hat{\mu}_y = \bar{y}_r + \hat{\beta}(\bar{x} - \bar{x}_r)

xˉr,yˉr\bar{x}_r, \bar{y}_r は rr 人の平均です。言葉で言うと、「観測できた人の平均を、xx の偏りの分だけ回帰で直した値」です。

例題:MARのもとでの平均の最尤推定

100人の中間テストの平均は60点だった。期末テストは中間テストの点によって受験の確率が変わり、受験した40人の中間テストの平均は66点、期末テストの平均は70点だった。受験者での回帰係数は β^=0.8\hat{\beta} = 0.8 である。(x,y)(x, y) を2変量正規分布とする。〔1〕μy\mu_y の最尤推定値を求めよ。〔2〕受験者の平均70点をそのまま使うことの問題点を述べよ。

【解答】

〔1〕μ^y=70+0.8×(60−66)=65.2\hat{\mu}_y = 70 + 0.8 \times (60 - 66) = 65.2 である。

〔2〕受験者は中間テストの点が高い人に偏っている(66点 > 60点)。欠測は xx だけに依存するのでMARであり、yy の平均をそのまま使うと、xx の偏りの分だけ過大になる。

一方で、受験の確率が期末テストの点そのものに依存するMNARなら、この分解は成り立ちません。欠測の確率が yy を含むので、積分の外に出せないからです。メカニズムのモデルを同時に書く必要があり、その妥当性はデータから確かめられません。

以上が、欠測の尤度についての説明です。

打ち切り:「ここまでは大丈夫だった」を尤度に入れる

続いて、打ち切りの理論について解説します。

打ち切りには、値の位置による分類と、打ち切りの決まり方による分類があります。

【打ち切りの種類】

  • 右打ち切り: 値が cc より大きいことだけが分かる
  • 左打ち切り: 値が cc より小さいことだけが分かる
  • 区間打ち切り: 値が (a,b](a, b] に入ることだけが分かる
  • I型打ち切り: 前もって決めた時刻 cc で観察を止める
  • II型打ち切り: 前もって決めた個数 rr の故障が起きたら止める
  • ランダム打ち切り: 個体ごとの打ち切り時刻が確率変数である

右打ち切りの尤度を導きましょう。寿命 TT の密度を ff、生存関数を SS とします。打ち切り時刻 CC は TT と独立で、密度 gg、生存関数 Gˉ\bar{G} をもつとします。観測できるのは、Y=min⁡(T,C)Y = \min(T, C) と、δ=1{T≤C}\delta = 1\{T \le C\} です。

δ=1\delta = 1 の個体は、時刻 yiy_i で故障し、それまで打ち切られていません。δ=0\delta = 0 の個体は、時刻 yiy_i で打ち切られ、それまで故障していません。したがって、次のようになります。

L=∏i{f(yi)Gˉ(yi)}δi{g(yi)S(yi)}1−δi=∏if(yi)δiS(yi)1−δi×∏iGˉ(yi)δig(yi)1−δiL = \prod_i \{f(y_i)\bar{G}(y_i)\}^{\delta_i}\{g(y_i)S(y_i)\}^{1 - \delta_i} = \prod_i f(y_i)^{\delta_i} S(y_i)^{1 - \delta_i} \times \prod_i \bar{G}(y_i)^{\delta_i} g(y_i)^{1 - \delta_i}

ここがポイントです。gg と Gˉ\bar{G} が寿命の母数を含まないなら、後ろの積は定数です。この仮定を 無情報な打ち切り と言います。これは、欠測の無視可能性と同じ発想です。逆に、「体調が悪い人ほど途中で来なくなる」ような打ち切りでは、この分解は成り立ちません。

指数分布なら、準1級で見たように、d=∑δid = \sum \delta_i として λ^=d/∑yi\hat{\lambda} = d/\sum y_i です。1級では、情報量がどれだけ減るかまで計算します。対数尤度 ℓ=dlog⁡λ−λ∑yi\ell = d\log\lambda - \lambda\sum y_i を2回微分すると、−ℓ′′=d/λ2-\ell'' = d/\lambda^2 です。時刻 cc のI型打ち切りでは E(d)=n(1−e−λc)E(d) = n(1 - e^{-\lambda c}) なので、次のとおりです。

I(λ)=n(1−e−λc)λ2I(\lambda) = \frac{n(1 - e^{-\lambda c})}{\lambda^2}

完全なデータの n/λ2n/\lambda^2 に比べて、情報は 1−e−λc1 - e^{-\lambda c} 倍に減ります。例えば、cc が平均寿命に等しいとき、λc=1\lambda c = 1 なので63%です。打ち切りは、故障の起きた数の割合だけ情報を残す、と言えます。

1. II型打ち切りの正確な分布

II型打ち切りでは、指数分布のとき正確な信頼区間が作れます。nn 個のうち先に故障した rr 個の時刻を t(1)<⋯<t(r)t_{(1)} < \cdots < t_{(r)} とします。順序統計量の同時密度は、残りの n−rn - r 個が t(r)t_{(r)} より長生きすることも考えると、次の形です。

n!(n−r)!∏i=1rλe−λt(i)⋅e−λ(n−r)t(r)=n!(n−r)!λre−λT\frac{n!}{(n-r)!} \prod_{i=1}^{r} \lambda e^{-\lambda t_{(i)}} \cdot e^{-\lambda(n-r)t_{(r)}} = \frac{n!}{(n-r)!} \lambda^{r} e^{-\lambda T}

T=∑i=1rt(i)+(n−r)t(r)T = \sum_{i=1}^{r} t_{(i)} + (n - r)t_{(r)} を 総試験時間 と呼びます。みんなの稼働時間の合計です。最尤推定量は、λ^=r/T\hat{\lambda} = r/T です。

ここで、t(0)=0t_{(0)} = 0 として、Wi=(n−i+1)(t(i)−t(i−1))W_i = (n - i + 1)(t_{(i)} - t_{(i-1)}) と変換します。∑iWi=T\sum_i W_i = T で、ヤコビアンは定数なので、密度は λre−λ∑wi\lambda^r e^{-\lambda\sum w_i} に比例します。つまり、W1,…,WrW_1, \dots, W_r は独立に指数分布に従います。

ii 番目の故障を待っている間は n−i+1n - i + 1 個が動いていて、指数分布には無記憶性があるので、全員が毎回まっさらな状態から競争し直す、というイメージです。指数分布の和はガンマ分布なので、次が成り立ちます。

2λT∼χ2r22\lambda T \sim \chi^2_{2r}

例題:II型打ち切りの信頼区間

電球10個を同時に点灯し、4個目が切れた時点で試験を止めた。切れた時刻は 12, 20, 31, 45(時間)だった。寿命は指数分布とする。〔1〕総試験時間と平均寿命 θ=1/λ\theta = 1/\lambda の最尤推定値を求めよ。〔2〕θ\theta の95%信頼区間を求めよ。ただし χ0.9752(8)=2.18\chi^2_{0.975}(8) = 2.18、χ0.0252(8)=17.53\chi^2_{0.025}(8) = 17.53 とする。

【解答】

〔1〕T=12+20+31+45+6×45=378T = 12 + 20 + 31 + 45 + 6 \times 45 = 378 である。θ^=T/r=378/4=94.5\hat{\theta} = T/r = 378/4 = 94.5 時間である。

〔2〕2T/θ∼χ822T/\theta \sim \chi^2_8 だから、2.18<756/θ<17.532.18 < 756/\theta < 17.53 を解いて、次を得る。

75617.53=43.1<θ<7562.18=346.8\frac{756}{17.53} = 43.1 < \theta < \frac{756}{2.18} = 346.8

切れた4個の平均は27時間で、推定値の94.5時間とは大きく違います。わずか4回の故障では区間も広くなります。

2. 指数分布以外の場合

分布を決めないときも、同じ尤度の発想が使えます。故障の時刻 t1<t2<⋯t_1 < t_2 < \cdots で、時刻 tjt_j の直前に njn_j 個が動いていて、そのうち djd_j 個が故障したとします。ハザードを hjh_j とすると、尤度は ∏jhjdj(1−hj)nj−dj\prod_j h_j^{d_j}(1 - h_j)^{n_j - d_j} です。各因子は二項分布の形なので、h^j=dj/nj\hat{h}_j = d_j/n_j です。これを S^(t)=∏tj≤t(1−h^j)\hat{S}(t) = \prod_{t_j \le t}(1 - \hat{h}_j) に入れたものが、準1級のカプラン・マイヤー推定量でした。つまり、ノンパラメトリックな最尤推定量です。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 打ち切りを欠測の一種と考えて、EMアルゴリズムで解くこともできます。指数分布なら、打ち切りの値を E(T∣T>c)=c+1/λE(T \mid T > c) = c + 1/\lambda で埋めて平均をとる操作をくり返します。収束先は 1/λ=∑yi/d1/\lambda = \sum y_i/d で、直接の最尤推定値と一致します。

試験のポイント:総試験時間には、打ち切られた個体の時間を入れます。2λT∼χ2r22\lambda T \sim \chi^2_{2r} の自由度は個数 nn ではなく、故障数 rr の2倍です。

以上が、打ち切りについての解説です。

トランケーション:見えない人の分だけ割り直す

さらに、トランケーションの理論について説明します。

値が集合 AA に入るときだけ標本に現れるなら、手元のデータの分布は、条件付き分布です。

fA(t)=f(t)P(T∈A),t∈Af_A(t) = \frac{f(t)}{P(T \in A)}, \qquad t \in A

分子は元の密度と同じで、見えない部分の確率で割って全体を1にそろえています。ピザの一部が切り取られたとき、残りを全体と考え直すようなものです。

1. 左トランケーションと遅延エントリー

老人ホームの入居者の寿命を調べると、入居前に亡くなった人は、記録に現れません。これは、入居した年齢 viv_i での左トランケーションで、遅延エントリー とも呼ばれます。個体ごとの尤度の寄与は、f(ti)/S(vi)f(t_i)/S(v_i) です。

指数分布なら、この寄与は λe−λ(ti−vi)\lambda e^{-\lambda(t_i - v_i)} で、λ^=n/∑(ti−vi)\hat{\lambda} = n/\sum(t_i - v_i) となります。無記憶性のおかげで、入ってからの時間だけを見ればよいのです。例えば、(v,t)(v, t) が (2, 5), (0, 4), (3, 9), (1, 2), (4, 6) なら、∑(ti−vi)=16\sum(t_i - v_i) = 16 で、平均の推定値は3.2です。tt をそのまま平均すると5.2となり、長生きした人が選ばれた分だけ、長く見えてしまいます。

2. 切断正規分布

入試の合格者のように、点数が cc 以上の人だけが標本に残る場合を考えます。X∼N(μ,σ2)X \sim N(\mu, \sigma^2)、α=(c−μ)/σ\alpha = (c - \mu)/\sigma として、ϕ′(z)=−zϕ(z)\phi'(z) = -z\phi(z) を使って積分すると、次の公式が得られます。

E(X∣X>c)=μ+σλ(α),λ(α)=ϕ(α)1−Φ(α)E(X \mid X > c) = \mu + \sigma\lambda(\alpha), \qquad \lambda(\alpha) = \frac{\phi(\alpha)}{1 - \Phi(\alpha)}

λ(α)\lambda(\alpha) は 逆ミルズ比 と呼ばれます。分散は σ2{1+αλ(α)−λ(α)2}\sigma^2\{1 + \alpha\lambda(\alpha) - \lambda(\alpha)^2\} です。

具体的に見てみましょう。受験者の点数が N(60,102)N(60, 10^2) で、合格点が70点なら、α=1\alpha = 1、λ(1)=0.242/0.159=1.525\lambda(1) = 0.242/0.159 = 1.525 です。合格者の平均は75.3点、標準偏差は4.5点になります。合格者だけを見ると、平均は高く、ばらつきは半分以下に見えるのです。

同じ場面を、打ち切りと比べましょう。70点未満の人が全員「70点」と記録された場合、人数は全員分あるので、平均は 0.841×70+0.159×75.25=70.80.841 \times 70 + 0.159 \times 75.25 = 70.8 点です。同じ体重計でも、人数が分かるかどうかで、答えがこれだけ変わります。

例題:零切断ポアソン分布

ある店の会員のうち、1回以上来店した人だけが記録に現れる。来店回数はポアソン分布に従うと仮定する。記録された120人の平均来店回数は2.0回だった。〔1〕記録される来店回数の確率関数を書け。〔2〕λ\lambda の尤度方程式を導け。〔3〕λ^\hat{\lambda} を、λ=2\lambda = 2 から始めるニュートン法で求め、記録に現れない会員の人数を推定せよ。

【解答】

〔1〕P(X=k∣X≥1)=e−λλkk! (1−e−λ)P(X = k \mid X \ge 1) = \dfrac{e^{-\lambda}\lambda^{k}}{k!\,(1 - e^{-\lambda})}、k=1,2,…k = 1, 2, \dots である。

〔2〕対数尤度は ℓ=∑xilog⁡λ−nλ−nlog⁡(1−e−λ)+定数\ell = \sum x_i \log\lambda - n\lambda - n\log(1 - e^{-\lambda}) + \text{定数} である。微分すると、次を得る。

ℓ′(λ)=∑xiλ−n−ne−λ1−e−λ=nxˉλ−n1−e−λ=0\ell'(\lambda) = \frac{\sum x_i}{\lambda} - n - \frac{ne^{-\lambda}}{1 - e^{-\lambda}} = \frac{n\bar{x}}{\lambda} - \frac{n}{1 - e^{-\lambda}} = 0

よって、尤度方程式は xˉ=λ/(1−e−λ)\bar{x} = \lambda/(1 - e^{-\lambda}) である。

〔3〕h(λ)=λ/(1−e−λ)−2h(\lambda) = \lambda/(1 - e^{-\lambda}) - 2 の根を求める。λ=2\lambda = 2 から始めると、1.606、1.594 と収束し、λ^=1.594\hat{\lambda} = 1.594 である。P^(X=0)=e−1.594=0.203\hat{P}(X = 0) = e^{-1.594} = 0.203 だから、全会員の推定値は 120/(1−0.203)=150.6120/(1 - 0.203) = 150.6 人で、記録に現れない会員は約31人である。

尤度方程式の右辺は E(X∣X≥1)E(X \mid X \ge 1) です。「標本平均 = 切断された分布の平均」という形になっています。そのまま λ^=2.0\hat{\lambda} = 2.0 とするのは、見えない0回の人を無視した誤りです。

試験のポイント:トランケーションの尤度は、分母の P(T∈A)P(T \in A) が母数を含むことが本質です。分母を忘れると、尤度方程式が変わります。

以上が、トランケーションについての説明です。

尤度の寄与を書き分ける

最後に、どの場面でも使える尤度の組み立て方を見ていきましょう。

ここまでの結論は単純です。個体ごとに「手に入った情報の確率」を書いて掛けるだけです。料理の材料を、1人ずつレシートに書き出すようなものです。

観測の種類分かっていること尤度の寄与
完全な観測T=tT = tf(t)f(t)
右打ち切りT>cT > cS(c)S(c)
左打ち切りT≤cT \le c1−S(c)1 - S(c)
区間打ち切りa<T≤ba < T \le bS(a)−S(b)S(a) - S(b)
左トランケーションT=tT = t(ただし T>vT > v)f(t)/S(v)f(t)/S(v)
左トランケーションと右打ち切りT>cT > c(ただし T>vT > v)S(c)/S(v)S(c)/S(v)
右トランケーションT=tT = t(ただし T≤vT \le v)f(t)/{1−S(v)}f(t)/\{1 - S(v)\}
欠測(MAR)観測された部分のみ欠測部分を積分した密度

例題:いろいろな不完全データの尤度

寿命が指数分布に従う5個の個体について、次の情報を得た。① 時刻3で故障、② 時刻5でまだ動いている、③ 時刻1にはすでに故障していた、④ 時刻2から4の間に故障した、⑤ 時刻2より長く動いたものだけが調査の対象になる条件で、時刻6で故障。〔1〕尤度を書け。〔2〕対数尤度の微分を0とおく式を導け。〔3〕λ^\hat{\lambda} の値は約0.26である。平均寿命の推定値を述べよ。

【解答】

〔1〕それぞれの寄与を掛けて、次を得る。

L(λ)=λe−3λ⋅e−5λ⋅(1−e−λ)⋅(e−2λ−e−4λ)⋅λe−4λL(\lambda) = \lambda e^{-3\lambda} \cdot e^{-5\lambda} \cdot (1 - e^{-\lambda}) \cdot (e^{-2\lambda} - e^{-4\lambda}) \cdot \lambda e^{-4\lambda}

〔2〕e−2λ−e−4λ=e−2λ(1−e−2λ)e^{-2\lambda} - e^{-4\lambda} = e^{-2\lambda}(1 - e^{-2\lambda}) だから、ℓ=2log⁡λ−14λ+log⁡(1−e−λ)+log⁡(1−e−2λ)\ell = 2\log\lambda - 14\lambda + \log(1 - e^{-\lambda}) + \log(1 - e^{-2\lambda}) である。微分して、次を得る。

2λ−14+e−λ1−e−λ+2e−2λ1−e−2λ=0\frac{2}{\lambda} - 14 + \frac{e^{-\lambda}}{1 - e^{-\lambda}} + \frac{2e^{-2\lambda}}{1 - e^{-2\lambda}} = 0

〔3〕1/0.26≈3.851/0.26 \approx 3.85 である。

逆に、尤度を正しく書かないと、結果は決まった向きに偏ります。平均10の指数分布を時刻8で打ち切るシミュレーションで確かめましょう。

【扱いを間違えたときの偏り】

  • 打ち切りの個体を捨てる: 約3.5。長生きの個体を捨てるので短くなる
  • 打ち切りの時刻を故障の時刻として平均する: 約5.5。やはり短くなる
  • 正しい最尤推定(故障数で割る): 約10.0
  • 左トランケーションを無視する: 入り口の時刻を (0,10)(0, 10) の一様分布としたとき約14.2。長生きが選ばれるので長くなる

細かい公式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「個体ごとに、手に入った情報の確率を書いて掛ける」という点だけ押さえておきましょう。

以上が、尤度の寄与の書き分けについての解説です。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は不完全なデータの分析を、尤度から紹介しました。データが欠けたときに必要なのは、特別な公式ではありません。何が分かっていて、何が分からないのかを言葉にして、その確率を式にするだけです。欠け方を無視した計算は、決まった向きに偏ります。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 人数が分かれば打ち切り、人数すら分からなければトランケーションである。
  • MARの欠測では、尤度が全員の分と観測できた人の分に分かれ、回帰で平均を補正できる。
  • 無情報な打ち切りでは、尤度は ∏fδS1−δ\prod f^{\delta}S^{1-\delta} になる。
  • II型打ち切りの指数分布では、総試験時間について 2λT∼χ2r22\lambda T \sim \chi^2_{2r} が成り立つ。
  • トランケーションの尤度は、見えない分の確率で割った条件付き分布である。

キーワードのおさらい

  • 欠測(欠損): 値があるはずなのに手に入らないこと
  • 打ち切り: 個体は観測されたが、値が入る範囲しか分からないこと
  • トランケーション: ある範囲の値の個体が標本に現れないこと。切断とも言う

さて、今回のニュートン法やEMアルゴリズムは、尤度を数値で解く方法でした。しかし、尤度の式が書けても解けない問題や、統計量の分布が導けない問題もあります。そんなときは、コンピュータでくじを何度も引いて、分布そのものを作ってしまう手があります。

次回は、シミュレーションについて紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 水質検査で、検出限界の0.5未満のサンプルは「0.5未満」と記録され、サンプルの総数は分かっている。この不完全さとして最も適切なものはどれか。
問2. 8台の機器を同時に動かし、3台目の故障で試験を止めた。故障時刻は 10, 25, 40 だった。寿命を指数分布とするときの平均寿命の最尤推定値に最も近いものはどれか。
問3. 時刻 vv より長く生きた人だけが調査に入り、時刻 cc(c>vc > v)でまだ生きていて観察が終わった。この人の尤度の寄与として正しいものはどれか。
問4. 寿命が率 λ\lambda の指数分布に従い、時刻 cc のI型打ち切りを行う。λc=2\lambda c = 2 のとき、完全なデータに対するフィッシャー情報量の比に最も近いものはどれか。
問5. 来店回数が平均 λ=2\lambda = 2 のポアソン分布に従い、1回以上の人だけが記録に現れる。記録される来店回数の平均に最も近いものはどれか。