はじめに
「順位和の分散の mn(N+1)/12 って、分母の12はどこから来たの?」
準1級では、順位を使う検定の手順と公式を学びました。データが正規分布に従わなくても、E(W) と V(W) を公式に入れれば検定できます。便利ですが、公式の由来は説明されていませんでした。
例えば、くじ引きを思い浮かべてください。箱に1番から N 番までの札が入っていて、順番に m 枚を引くとします。引いた札の番号の合計は、どのくらいばらつくでしょうか? これは、データの中身とは何の関係もない、純粋な数え上げの問題です。
実は、順位の検定の公式は、すべてこの「札を引く問題」に帰着します。H0 のもとでは、順位はただの並べ替えになるからです。だから、もとの分布が何であっても、同じ公式が使えます。
そこで登場するのが、今回の主役 順位の分布 です。これが分かれば、符号検定もウィルコクソン検定も順位相関係数も、同じ1枚の地図の上に並びます。
前回の記事のマクネマー検定は、変わった人の向きを数えるだけの検定でした。今回の記事では、順位の平均と分散の導出、符号検定、ウィルコクソン順位和検定、ウィルコクソン符号付き順位和検定、順位相関係数 の理論について解説します。
順位の分布:すべての土台になる補題
はじめに、すべての検定の土台である順位の分布について解説します。
X1,…,XN が同じ連続分布から独立に得られたとします。連続分布なので、同じ値が出る確率は0です。Xi の順位を Ri とします。このとき、次が成り立ちます。
P(R1=r1,…,RN=rN)=N!1
証明は1行です。独立で同じ分布なので、Xi の番号をどう入れ替えても、同時分布は変わりません。N! 通りの順番はどれも同じ確率で、合計が1だからです。
ここがポイントです。右辺に、もとの分布 F が入っていません。この性質を 分布に依存しない(distribution-free)と言います。ノンパラメトリック法の力の源は、この1行にあります。
Ri の周辺分布は 1,…,N の上の一様分布です。平均と分散は、次のとおりです。
E(Ri)=2N+1,V(Ri)=6(N+1)(2N+1)−4(N+1)2=12N2−1
分母の12の正体は、一様分布の分散でした。
次に、2つの順位の共分散です。直接計算もできますが、次の工夫をすると一瞬です。順位の合計 ∑iRi=N(N+1)/2 は定数なので、分散は0です。
0=V(i∑Ri)=NV(R1)+N(N−1)Cov(R1,R2)
ここから、Cov(R1,R2)=−(N+1)/12 が出ます。負になるのは、くじを引いて大きな番号が出ると、残りの札は小さくなるからです。
以上をまとめると、順位の1次結合 T=∑iciRi の平均と分散の公式が得られます。これを 線形順位統計量 と呼びます。
E(T)=2N+1i∑ci,V(T)=12N+1⎩⎨⎧Ni∑ci2−(i∑ci)2⎭⎬⎫
分散の式は、V(T)=∑ici2V(Ri)+∑i=jcicjCov(Ri,Rj) に代入して、∑i=jcicj=(∑ici)2−∑ici2 を使えば出ます。この後の検定の平均と分散は、ほとんどこの2本の式だけで導けます。
試験のポイント:共分散は「順位の和が定数」から導きます。この補題を答案の冒頭に書いておくと、以降の計算が短くなります。
以上が、順位の分布についての解説です。
符号検定:向きだけを数える
次に、最も単純な符号検定について説明します。
符号検定 は、差の符号だけを使って、分布の中央値を検定する方法です。連続分布の中央値を θ として、H0:θ=θ0 を考えます。H0 のもとで、各データが θ0 を上回る確率は定義から 1/2 です。したがって、θ0 を上回る個数 S の分布は次のとおりです。
S∼B(n,1/2)
もとの分布は、中央値が θ0 であること以外、何の仮定もありません。左右対称でなくてもかまいません。コイン投げの回数を数えるだけなので、仮定がいらないのです。θ0 にちょうど一致するデータは、取り除いて n を減らします。
符号検定は、中央値の信頼区間も作れます。順序統計量を X(1)≤⋯≤X(n) とすると、区間 (X(k),X(n−k+1)) が中央値を含まないのは、k−1 個以下しか θ を下回らないか、k−1 個以下しか θ を上回らないときです。この2つは排反なので、被覆確率は次のように分布に依存しない値になります。
P(X(k)<θ<X(n−k+1))=1−2P(B(n,1/2)≤k−1)
例えば、n=10、k=2 なら、1−2×11/1024=0.979 です。k=3 なら 1−2×56/1024=0.891 です。離散の分布なので、95%ちょうどの区間は作れません。
例題:符号検定の正確なp値
10人が新しいイスを試し、座り心地の点の差(新 − 旧)を調べると、8人が正、2人が負だった。〔1〕帰無仮説と S の分布を述べよ。〔2〕片側と両側のp値を求め、有意水準5%で判断せよ。
【解答】
〔1〕H0 は差の中央値が0であることで、このとき S∼B(10,1/2) である。
〔2〕片側のp値は P(S≥8)=(45+10+1)/1024=0.0547 である。分布が左右対称なので、両側のp値は 0.109 である。片側でも有意水準5%には届かず、H0 は棄却できない。
では、大きさの情報を捨てると、どれだけ損をするのでしょうか? 平均が θ だけ0からずれた小さなずれを考えます。S/n の平均は約 1/2+θf(0)、分散は約 1/(4n) です。f は θ=0 のときの密度です。一方で、Xˉ の平均は θ、分散は σ2/n です。ずれの検出のしやすさを比べると、次の 漸近相対効率 が得られます。
ARE=(nθ/σ2nf(0)θ)2=4σ2f(0)2
正規分布では f(0)2=1/(2πσ2) なので、2/π≈0.64 です。t 検定の64個分の働きをするのに、符号検定は100個のデータが必要です。
せっかくなので、別の分布も見てみましょう。裾の重いラプラス分布では、f(0)=1/(2b)、σ2=2b2 なので、効率は2です。この場合は、符号検定のほうが半分のデータで済みます。方法の優劣は、分布によって入れ替わるのです。
以上が、符号検定についての説明です。
ウィルコクソン順位和検定:札を m 枚引く
続いて、2群を比べる検定について解説します。
大きさ m の群 X と大きさ n の群 Y をまとめて順位を付けます。N=m+n です。X の順位の和を W として検定するのが、ウィルコクソン順位和検定 でした。H0 は2群の分布が等しいことで、このとき N 個は同じ分布からの標本です。
W は、ci を X の m 個で1、Y の n 個で0とした線形順位統計量です。補題に代入すると、すぐに出ます。
E(W)=2m(N+1),V(W)=12N+1(Nm−m2)=12mn(N+1)
冒頭のくじ引きそのものです。W は箱から m 枚を戻さずに引いた札の合計なので、標本調査の有限修正 (N−m)/(N−1) を m(N2−1)/12 に掛けても同じ結果になります。
次に、マン・ホイットニーU検定 との関係を証明します。U を、Xi>Yj となるペア (i,j) の個数とします。X を小さい順に並べると、k 番目の X(k) の全体の順位は、自分以下の X の k 個と、自分より小さい Y の個数を足したものです。
R(X(k))=k+#{j:Yj<X(k)}
k について足すと、W=m(m+1)/2+U が得られます。2つの検定は同じものです。E(1{X>Y})=P(X>Y) なので、U/(mn) は P(X>Y) の不偏推定量です。
H0 のもとで P(X>Y)=1/2 なので、検定の中身は「片方の群がもう片方に勝つ確率は五分五分か」という問いになります。
では、小標本の正確な分布はどう求めるのでしょうか? U=u となる並べ方の数を cm,n(u) とします。全体で最も大きな値に注目すると、次の漸化式が成り立ちます。
cm,n(u)=cm−1,n(u−n)+cm,n−1(u)
最大の値が X なら、その1つが Y の n 個すべてに勝ちます。最大の値が Y なら、その1つは誰にも負けないだけで、U を増やしません。階段を1段ずつ上がるように、小さな表から大きな表を作れます。
m=2、n=3 の結果は次のとおりで、合計は (25)=10 です。
| u | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
|---|
| c2,3(u) | 1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 |
例題:順位和の正確な検定
接客を変えた3店の売上の伸びは 14, 19, 22、変えていない4店の伸びは 8, 11, 13, 17 だった。〔1〕W と U を求めよ。〔2〕U の帰無分布を使って片側のp値を求めよ。〔3〕連続修正つきの正規近似のp値と比べよ。
【解答】
〔1〕全体の順位は、3店のほうが 4, 6, 7 だから W=17 である。U=17−3×4÷2=11 である。
〔2〕m=3、n=4 の分布は次のとおりで、合計は (37)=35 である。
| u | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
|---|
| 個数 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 4 | 5 | 4 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 |
P(U≥11)=2/35=0.057 である。
〔3〕E(W)=12、V(W)=8 より、z=(17−0.5−12)/8=1.59 で、p値は0.056である。
小標本でも、正規近似はかなりよいことが分かります。
順位にして効率はどれだけ落ちるでしょうか? 符号検定と同じ考え方で計算すると、t 検定に対する漸近相対効率は 12σ2(∫f2)2 です。正規分布なら ∫f2=1/(2σπ) を代入して、3/π≈0.955 となります。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
どんな分布でも、この効率は0.864を下回らないことが知られています。一方で、裾の重い分布では1を大きく超えます。これが「迷ったら順位検定」と言われる理由です。
試験のポイント:W と U の関係は順序統計量で証明します。U/(mn) が P(X>Y) の不偏推定量であることも、問われやすい性質です。
以上が、ウィルコクソン順位和検定についての解説です。
ウィルコクソン符号付き順位和検定:コインを順位の分だけ賭ける
さらに、対応のあるデータの検定について説明します。
ウィルコクソン符号付き順位和検定 では、差 D1,…,Dn の絶対値に順位を付け、正の差の順位の和 W+ を使います。H0 は、差の分布が0を中心に左右対称であることです。符号検定との違いは、この対称性の仮定が必要な点です。
なぜ対称性が必要なのでしょうか? 分布が0について対称なら、Di の符号と絶対値 ∣Di∣ は独立です。例えば、∣Di∣=3 と分かっても、+3 と −3 の確率は等しいままです。したがって、絶対値の順位を決めたあとでも、符号は公平なコイン投げのままです。
絶対値の順位が k の差が正なら1、負なら0をとる変数を Ik とします。I1,…,In は独立に確率 1/2 で1をとります。
W+=k=1∑nkIk
k 円を賭けたコイン投げを n 回行う、というイメージです。独立なので、平均も分散もそのまま足せます。
E(W+)=k∑2k=4n(n+1),V(W+)=k∑4k2=24n(n+1)(2n+1)
正確な分布も、この表現から得られます。W+ の確率母関数は、独立な和なので積になります。
E(tW+)=k=1∏n21+tk
例えば、n=3 なら (1+t)(1+t2)(1+t3)=1+t+t2+2t3+t4+t5+t6 です。tw の係数を8で割ると P(W+=w) なので、W+=3 の確率は 2/8 です。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
W+ は、i≤j のすべての組について (Di+Dj)/2>0 となる個数にも等しくなります。この2個の平均をウォルシュ平均と呼び、その中央値が対称の中心のホッジス・レーマン推定量です。
例題:符号付き順位の正確な検定
7人の睡眠時間(分)の、習慣を始めた後と前の差が 6, 3, −1, 8, 4, −2, 7 だった。〔1〕W+ を求めよ。〔2〕片側の正確なp値を求めよ。〔3〕符号検定の片側のp値と比べよ。
【解答】
〔1〕絶対値の順位は、順に 5, 3, 1, 7, 4, 2, 6 である。負の差の順位は1と2だから、W−=3 で、全体の和は28なので W+=25 である。
〔2〕P(W+≥25)=P(W−≤3) である。{1,…,7} の部分集合で和が3以下のものは、空集合、{1}、{2}、{3}、{1,2} の5個である。27=128 通りのうち5通りなので、p値は 5/128=0.039 である。
〔3〕正の差は7人中5人なので、P(S≥5)=(21+7+1)/128=0.227 である。
同じデータで、結論が大きく変わりました。負の差が2つとも小さいことが、順位の情報として効いたのです。
試験のポイント:W+ の分布は、{1,…,n} の部分集合の和の個数を数えて求めます。答案では、絶対値の順位と符号が独立であることを、対称性から一言述べます。
以上が、ウィルコクソン符号付き順位和検定についての説明です。
順位相関係数:並べ替えの乱れを測る
最後に、順位相関係数を見ていきましょう。
順位相関係数 は、2つの順位の一致の度合いを −1 から 1 の値で表す指標です。ここでも、H0(無関連)のもとでの分布を導くことが、1級の目標です。代表は次の2つです。1つずつ見ていきましょう。
1. スピアマンの順位相関係数
スピアマンの順位相関係数 rs は、順位 Ri,Si のピアソンの相関係数です。順位の平均は (n+1)/2、偏差の平方和は n(n2−1)/12 で、どちらの順位でも同じです。di=Ri−Si とすると、∑di2 は次のように展開できます。
i∑di2=6n(n2−1)−2i∑(Ri−2n+1)(Si−2n+1)
これを整理すると、おなじみの公式が導けます。
rs=1−n(n2−1)6∑idi2
H0 のもとで、Ri=i と並べ直しても一般性を失いません。Si はランダムな並べ替えです。ci=i−(n+1)/2 とすれば、分子は線形順位統計量です。∑ci=0、∑ci2=n(n2−1)/12 を補題に入れると、E(rs)=0 で、分散は次のとおりです。
V(rs)={n(n2−1)/12}21⋅12n+1⋅n⋅12n(n2−1)=n−11
こんなに複雑な統計量の分散が、きれいな形になりました。n が大きいときは、z=rsn−1 を標準正規分布と比べます。
2. ケンドールの順位相関係数
ケンドールの順位相関係数 τ は、(2n) 組のペアのうち、順番が一致する組の数 C と、逆転する組の数 D の差で定義します。
τ=n(n−1)/2C−D=1−n(n−1)4D
D は、並べ替えの 転倒数 です。人の列に例えましょう。背の低い人から順に、1人ずつ列に割り込ませると、ランダムな並べ替えが1つできます。k 番目の人は、それまでの k−1 人の間の k か所に、等しい確率で入ります。その人より後ろに回った Jk 人とは、背の順が逆転します。Jk は 0,…,k−1 の一様分布で、J1,…,Jn は独立です。そして、D=∑kJk です。
V(Jk)=(k2−1)/12 を足し合わせて、次が得られます。
V(D)=k=1∑n12k2−1=72n(n−1)(2n+5),V(τ)=9n(n−1)2(2n+5)
ここでも、一様分布の分散の12が顔を出しました。
例題:2人の審査員の順位
5つの作品に、審査員Aが 1, 2, 3, 4, 5 位、審査員Bが 2, 1, 4, 3, 5 位を付けた。〔1〕rs と τ を求めよ。〔2〕H0 のもとでの分散を、それぞれ求めよ。〔3〕5!=120 通りの並べ替えのうち、rs≥0.8 は8通りである。片側のp値を述べよ。
【解答】
〔1〕∑di2=1+1+1+1+0=4 だから、rs=1−24/120=0.8 である。順番が逆転する組は、Aの1位と2位の作品、Aの3位と4位の作品の2組なので、D=2 で、τ=1−8/20=0.6 である。
〔2〕V(rs)=1/4、V(τ)=2×15/(9×20)=1/6 である。
〔3〕p値は 8/120=0.067 である。
試験のポイント:V(rs)=1/(n−1) と V(τ) は、公式だけでなく導出の筋道まで書けるようにします。前者は線形順位統計量、後者は転倒数の独立な和です。
以上が、順位相関係数についての解説です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「H0 のもとで順位はただの並べ替えになり、数え上げの問題に変わる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回はノンパラメトリック法の公式を、順位の分布から導きました。H0 のもとで順位は等確率の並べ替えになるので、もとの分布は計算から消えます。残るのは、札を引く問題、コインを投げる問題、列に割り込む問題という、数え上げの問題でした。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 順位ベクトルは H0 のもとで N! 通りが等確率で、分布に依存しない。
- 順位の分散 (N2−1)/12 と共分散 −(N+1)/12 から、線形順位統計量の公式が出る。
- 符号検定は中央値だけを仮定し、S∼B(n,1/2) で正確に計算できる。
- W=U+m(m+1)/2 であり、U/(mn) は P(X>Y) の不偏推定量である。
- 符号付き順位和は ∑kIk で、対称性から符号と順位が独立になる。
- V(rs)=1/(n−1) は補題から、V(τ) は転倒数の分解から導ける。
キーワードのおさらい
- 符号検定: 差の符号の個数が B(n,1/2) に従うことを使う検定
- ウィルコクソン順位和検定(マン・ホイットニーU検定): 2群の順位の和、または勝ち数 U を使う検定
- ウィルコクソン符号付き順位和検定: 差の絶対値の順位に符号を付けて足す検定
- 順位相関係数: 順位の一致の度合い。スピアマンの rs とケンドールの τ
さて、ここまでの検定は、データがすべて手に入っていることが前提でした。しかし、実際のデータには、空欄があります。途中で観察が終わった人もいます。そもそも記録に現れない人もいるかもしれません。
次回は、不完全データの分析について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。