統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-23 統計数理

ノンパラメトリック法 — 順位検定の理論

  • 符号検定
  • ウィルコクソン順位和検定(マン・ホイットニーU検定)
  • ウィルコクソン符号付き順位和検定
  • 順位相関係数

はじめに

「順位和の分散の mn(N+1)/12mn(N+1)/12 って、分母の12はどこから来たの?」

準1級では、順位を使う検定の手順と公式を学びました。データが正規分布に従わなくても、E(W)E(W) と V(W)V(W) を公式に入れれば検定できます。便利ですが、公式の由来は説明されていませんでした。

例えば、くじ引きを思い浮かべてください。箱に1番から NN 番までの札が入っていて、順番に mm 枚を引くとします。引いた札の番号の合計は、どのくらいばらつくでしょうか? これは、データの中身とは何の関係もない、純粋な数え上げの問題です。

実は、順位の検定の公式は、すべてこの「札を引く問題」に帰着します。H0H_0 のもとでは、順位はただの並べ替えになるからです。だから、もとの分布が何であっても、同じ公式が使えます。

そこで登場するのが、今回の主役 順位の分布 です。これが分かれば、符号検定もウィルコクソン検定も順位相関係数も、同じ1枚の地図の上に並びます。

前回の記事のマクネマー検定は、変わった人の向きを数えるだけの検定でした。今回の記事では、順位の平均と分散の導出、符号検定、ウィルコクソン順位和検定、ウィルコクソン符号付き順位和検定、順位相関係数 の理論について解説します。

順位の分布:すべての土台になる補題

はじめに、すべての検定の土台である順位の分布について解説します。

X1,…,XNX_1, \dots, X_N が同じ連続分布から独立に得られたとします。連続分布なので、同じ値が出る確率は0です。XiX_i の順位を RiR_i とします。このとき、次が成り立ちます。

P(R1=r1,…,RN=rN)=1N!P(R_1 = r_1, \dots, R_N = r_N) = \frac{1}{N!}

証明は1行です。独立で同じ分布なので、XiX_i の番号をどう入れ替えても、同時分布は変わりません。N!N! 通りの順番はどれも同じ確率で、合計が1だからです。

ここがポイントです。右辺に、もとの分布 FF が入っていません。この性質を 分布に依存しない(distribution-free)と言います。ノンパラメトリック法の力の源は、この1行にあります。

RiR_i の周辺分布は 1,…,N1, \dots, N の上の一様分布です。平均と分散は、次のとおりです。

E(Ri)=N+12,V(Ri)=(N+1)(2N+1)6−(N+1)24=N2−112E(R_i) = \frac{N+1}{2}, \qquad V(R_i) = \frac{(N+1)(2N+1)}{6} - \frac{(N+1)^2}{4} = \frac{N^2 - 1}{12}

分母の12の正体は、一様分布の分散でした。

次に、2つの順位の共分散です。直接計算もできますが、次の工夫をすると一瞬です。順位の合計 ∑iRi=N(N+1)/2\sum_i R_i = N(N+1)/2 は定数なので、分散は0です。

0=V(∑iRi)=N V(R1)+N(N−1)Cov⁡(R1,R2)0 = V\left(\sum_i R_i\right) = N\, V(R_1) + N(N-1)\operatorname{Cov}(R_1, R_2)

ここから、Cov⁡(R1,R2)=−(N+1)/12\operatorname{Cov}(R_1, R_2) = -(N+1)/12 が出ます。負になるのは、くじを引いて大きな番号が出ると、残りの札は小さくなるからです。

以上をまとめると、順位の1次結合 T=∑iciRiT = \sum_i c_i R_i の平均と分散の公式が得られます。これを 線形順位統計量 と呼びます。

E(T)=N+12∑ici,V(T)=N+112{N∑ici2−(∑ici)2}E(T) = \frac{N+1}{2}\sum_i c_i, \qquad V(T) = \frac{N+1}{12}\left\{N\sum_i c_i^2 - \left(\sum_i c_i\right)^2\right\}

分散の式は、V(T)=∑ici2V(Ri)+∑i≠jcicjCov⁡(Ri,Rj)V(T) = \sum_i c_i^2 V(R_i) + \sum_{i \ne j} c_i c_j \operatorname{Cov}(R_i, R_j) に代入して、∑i≠jcicj=(∑ici)2−∑ici2\sum_{i \ne j} c_i c_j = (\sum_i c_i)^2 - \sum_i c_i^2 を使えば出ます。この後の検定の平均と分散は、ほとんどこの2本の式だけで導けます。

試験のポイント:共分散は「順位の和が定数」から導きます。この補題を答案の冒頭に書いておくと、以降の計算が短くなります。

以上が、順位の分布についての解説です。

符号検定:向きだけを数える

次に、最も単純な符号検定について説明します。

符号検定 は、差の符号だけを使って、分布の中央値を検定する方法です。連続分布の中央値を θ\theta として、H0:θ=θ0H_0: \theta = \theta_0 を考えます。H0H_0 のもとで、各データが θ0\theta_0 を上回る確率は定義から 1/21/2 です。したがって、θ0\theta_0 を上回る個数 SS の分布は次のとおりです。

S∼B(n,1/2)S \sim B(n, 1/2)

もとの分布は、中央値が θ0\theta_0 であること以外、何の仮定もありません。左右対称でなくてもかまいません。コイン投げの回数を数えるだけなので、仮定がいらないのです。θ0\theta_0 にちょうど一致するデータは、取り除いて nn を減らします。

符号検定は、中央値の信頼区間も作れます。順序統計量を X(1)≤⋯≤X(n)X_{(1)} \le \cdots \le X_{(n)} とすると、区間 (X(k),X(n−k+1))(X_{(k)}, X_{(n-k+1)}) が中央値を含まないのは、k−1k-1 個以下しか θ\theta を下回らないか、k−1k-1 個以下しか θ\theta を上回らないときです。この2つは排反なので、被覆確率は次のように分布に依存しない値になります。

P(X(k)<θ<X(n−k+1))=1−2P(B(n,1/2)≤k−1)P(X_{(k)} < \theta < X_{(n-k+1)}) = 1 - 2P(B(n, 1/2) \le k - 1)

例えば、n=10n = 10、k=2k = 2 なら、1−2×11/1024=0.9791 - 2 \times 11/1024 = 0.979 です。k=3k = 3 なら 1−2×56/1024=0.8911 - 2 \times 56/1024 = 0.891 です。離散の分布なので、95%ちょうどの区間は作れません。

例題:符号検定の正確なp値

10人が新しいイスを試し、座り心地の点の差(新 − 旧)を調べると、8人が正、2人が負だった。〔1〕帰無仮説と SS の分布を述べよ。〔2〕片側と両側のp値を求め、有意水準5%で判断せよ。

【解答】

〔1〕H0H_0 は差の中央値が0であることで、このとき S∼B(10,1/2)S \sim B(10, 1/2) である。

〔2〕片側のp値は P(S≥8)=(45+10+1)/1024=0.0547P(S \ge 8) = (45 + 10 + 1)/1024 = 0.0547 である。分布が左右対称なので、両側のp値は 0.1090.109 である。片側でも有意水準5%には届かず、H0H_0 は棄却できない。

では、大きさの情報を捨てると、どれだけ損をするのでしょうか? 平均が θ\theta だけ0からずれた小さなずれを考えます。S/nS/n の平均は約 1/2+θf(0)1/2 + \theta f(0)、分散は約 1/(4n)1/(4n) です。ff は θ=0\theta = 0 のときの密度です。一方で、Xˉ\bar{X} の平均は θ\theta、分散は σ2/n\sigma^2/n です。ずれの検出のしやすさを比べると、次の 漸近相対効率 が得られます。

ARE=(2n f(0) θn θ/σ)2=4σ2f(0)2\text{ARE} = \left(\frac{2\sqrt{n}\, f(0)\, \theta}{\sqrt{n}\, \theta/\sigma}\right)^2 = 4\sigma^2 f(0)^2

正規分布では f(0)2=1/(2πσ2)f(0)^2 = 1/(2\pi\sigma^2) なので、2/π≈0.642/\pi \approx 0.64 です。tt 検定の64個分の働きをするのに、符号検定は100個のデータが必要です。

せっかくなので、別の分布も見てみましょう。裾の重いラプラス分布では、f(0)=1/(2b)f(0) = 1/(2b)、σ2=2b2\sigma^2 = 2b^2 なので、効率は2です。この場合は、符号検定のほうが半分のデータで済みます。方法の優劣は、分布によって入れ替わるのです。

以上が、符号検定についての説明です。

ウィルコクソン順位和検定:札を m 枚引く

続いて、2群を比べる検定について解説します。

大きさ mm の群 XX と大きさ nn の群 YY をまとめて順位を付けます。N=m+nN = m + n です。XX の順位の和を WW として検定するのが、ウィルコクソン順位和検定 でした。H0H_0 は2群の分布が等しいことで、このとき NN 個は同じ分布からの標本です。

WW は、cic_i を XX の mm 個で1、YY の nn 個で0とした線形順位統計量です。補題に代入すると、すぐに出ます。

E(W)=m(N+1)2,V(W)=N+112(Nm−m2)=mn(N+1)12E(W) = \frac{m(N+1)}{2}, \qquad V(W) = \frac{N+1}{12}(Nm - m^2) = \frac{mn(N+1)}{12}

冒頭のくじ引きそのものです。WW は箱から mm 枚を戻さずに引いた札の合計なので、標本調査の有限修正 (N−m)/(N−1)(N-m)/(N-1) を m(N2−1)/12m(N^2-1)/12 に掛けても同じ結果になります。

次に、マン・ホイットニーU検定 との関係を証明します。UU を、Xi>YjX_i > Y_j となるペア (i,j)(i, j) の個数とします。XX を小さい順に並べると、kk 番目の X(k)X_{(k)} の全体の順位は、自分以下の XX の kk 個と、自分より小さい YY の個数を足したものです。

R(X(k))=k+#{j:Yj<X(k)}R(X_{(k)}) = k + \#\{j : Y_j < X_{(k)}\}

kk について足すと、W=m(m+1)/2+UW = m(m+1)/2 + U が得られます。2つの検定は同じものです。E(1{X>Y})=P(X>Y)E(1\{X > Y\}) = P(X > Y) なので、U/(mn)U/(mn) は P(X>Y)P(X > Y) の不偏推定量です。

H0H_0 のもとで P(X>Y)=1/2P(X > Y) = 1/2 なので、検定の中身は「片方の群がもう片方に勝つ確率は五分五分か」という問いになります。

では、小標本の正確な分布はどう求めるのでしょうか? U=uU = u となる並べ方の数を cm,n(u)c_{m,n}(u) とします。全体で最も大きな値に注目すると、次の漸化式が成り立ちます。

cm,n(u)=cm−1,n(u−n)+cm,n−1(u)c_{m,n}(u) = c_{m-1,n}(u - n) + c_{m,n-1}(u)

最大の値が XX なら、その1つが YY の nn 個すべてに勝ちます。最大の値が YY なら、その1つは誰にも負けないだけで、UU を増やしません。階段を1段ずつ上がるように、小さな表から大きな表を作れます。

m=2m = 2、n=3n = 3 の結果は次のとおりで、合計は (52)=10\binom{5}{2} = 10 です。

uu0123456
c2,3(u)c_{2,3}(u)1122211

例題:順位和の正確な検定

接客を変えた3店の売上の伸びは 14, 19, 22、変えていない4店の伸びは 8, 11, 13, 17 だった。〔1〕WW と UU を求めよ。〔2〕UU の帰無分布を使って片側のp値を求めよ。〔3〕連続修正つきの正規近似のp値と比べよ。

【解答】

〔1〕全体の順位は、3店のほうが 4, 6, 7 だから W=17W = 17 である。U=17−3×4÷2=11U = 17 - 3 \times 4 \div 2 = 11 である。

〔2〕m=3m = 3、n=4n = 4 の分布は次のとおりで、合計は (73)=35\binom{7}{3} = 35 である。

uu0123456789101112
個数1123445443211

P(U≥11)=2/35=0.057P(U \ge 11) = 2/35 = 0.057 である。

〔3〕E(W)=12E(W) = 12、V(W)=8V(W) = 8 より、z=(17−0.5−12)/8=1.59z = (17 - 0.5 - 12)/\sqrt{8} = 1.59 で、p値は0.056である。

小標本でも、正規近似はかなりよいことが分かります。

順位にして効率はどれだけ落ちるでしょうか? 符号検定と同じ考え方で計算すると、tt 検定に対する漸近相対効率は 12σ2(∫f2)212\sigma^2(\int f^2)^2 です。正規分布なら ∫f2=1/(2σπ)\int f^2 = 1/(2\sigma\sqrt{\pi}) を代入して、3/π≈0.9553/\pi \approx 0.955 となります。

補足(ここは読み飛ばしてOK): どんな分布でも、この効率は0.864を下回らないことが知られています。一方で、裾の重い分布では1を大きく超えます。これが「迷ったら順位検定」と言われる理由です。

試験のポイント:WW と UU の関係は順序統計量で証明します。U/(mn)U/(mn) が P(X>Y)P(X > Y) の不偏推定量であることも、問われやすい性質です。

以上が、ウィルコクソン順位和検定についての解説です。

ウィルコクソン符号付き順位和検定:コインを順位の分だけ賭ける

さらに、対応のあるデータの検定について説明します。

ウィルコクソン符号付き順位和検定 では、差 D1,…,DnD_1, \dots, D_n の絶対値に順位を付け、正の差の順位の和 W+W^{+} を使います。H0H_0 は、差の分布が0を中心に左右対称であることです。符号検定との違いは、この対称性の仮定が必要な点です。

なぜ対称性が必要なのでしょうか? 分布が0について対称なら、DiD_i の符号と絶対値 ∣Di∣|D_i| は独立です。例えば、∣Di∣=3|D_i| = 3 と分かっても、+3+3 と −3-3 の確率は等しいままです。したがって、絶対値の順位を決めたあとでも、符号は公平なコイン投げのままです。

絶対値の順位が kk の差が正なら1、負なら0をとる変数を IkI_k とします。I1,…,InI_1, \dots, I_n は独立に確率 1/21/2 で1をとります。

W+=∑k=1nkIkW^{+} = \sum_{k=1}^{n} k I_k

kk 円を賭けたコイン投げを nn 回行う、というイメージです。独立なので、平均も分散もそのまま足せます。

E(W+)=∑kk2=n(n+1)4,V(W+)=∑kk24=n(n+1)(2n+1)24E(W^{+}) = \sum_k \frac{k}{2} = \frac{n(n+1)}{4}, \qquad V(W^{+}) = \sum_k \frac{k^2}{4} = \frac{n(n+1)(2n+1)}{24}

正確な分布も、この表現から得られます。W+W^{+} の確率母関数は、独立な和なので積になります。

E(tW+)=∏k=1n1+tk2E(t^{W^{+}}) = \prod_{k=1}^{n} \frac{1 + t^k}{2}

例えば、n=3n = 3 なら (1+t)(1+t2)(1+t3)=1+t+t2+2t3+t4+t5+t6(1 + t)(1 + t^2)(1 + t^3) = 1 + t + t^2 + 2t^3 + t^4 + t^5 + t^6 です。twt^w の係数を8で割ると P(W+=w)P(W^{+} = w) なので、W+=3W^{+} = 3 の確率は 2/82/8 です。

補足(ここは読み飛ばしてOK): W+W^{+} は、i≤ji \le j のすべての組について (Di+Dj)/2>0(D_i + D_j)/2 > 0 となる個数にも等しくなります。この2個の平均をウォルシュ平均と呼び、その中央値が対称の中心のホッジス・レーマン推定量です。

例題:符号付き順位の正確な検定

7人の睡眠時間(分)の、習慣を始めた後と前の差が 6, 3, −1, 8, 4, −2, 7 だった。〔1〕W+W^{+} を求めよ。〔2〕片側の正確なp値を求めよ。〔3〕符号検定の片側のp値と比べよ。

【解答】

〔1〕絶対値の順位は、順に 5, 3, 1, 7, 4, 2, 6 である。負の差の順位は1と2だから、W−=3W^{-} = 3 で、全体の和は28なので W+=25W^{+} = 25 である。

〔2〕P(W+≥25)=P(W−≤3)P(W^{+} \ge 25) = P(W^{-} \le 3) である。{1,…,7}\{1, \dots, 7\} の部分集合で和が3以下のものは、空集合、{1}\{1\}、{2}\{2\}、{3}\{3\}、{1,2}\{1, 2\} の5個である。27=1282^7 = 128 通りのうち5通りなので、p値は 5/128=0.0395/128 = 0.039 である。

〔3〕正の差は7人中5人なので、P(S≥5)=(21+7+1)/128=0.227P(S \ge 5) = (21 + 7 + 1)/128 = 0.227 である。

同じデータで、結論が大きく変わりました。負の差が2つとも小さいことが、順位の情報として効いたのです。

試験のポイント:W+W^{+} の分布は、{1,…,n}\{1, \dots, n\} の部分集合の和の個数を数えて求めます。答案では、絶対値の順位と符号が独立であることを、対称性から一言述べます。

以上が、ウィルコクソン符号付き順位和検定についての説明です。

順位相関係数:並べ替えの乱れを測る

最後に、順位相関係数を見ていきましょう。

順位相関係数 は、2つの順位の一致の度合いを −1-1 から 11 の値で表す指標です。ここでも、H0H_0(無関連)のもとでの分布を導くことが、1級の目標です。代表は次の2つです。1つずつ見ていきましょう。

1. スピアマンの順位相関係数

スピアマンの順位相関係数 rsr_s は、順位 Ri,SiR_i, S_i のピアソンの相関係数です。順位の平均は (n+1)/2(n+1)/2、偏差の平方和は n(n2−1)/12n(n^2-1)/12 で、どちらの順位でも同じです。di=Ri−Sid_i = R_i - S_i とすると、∑di2\sum d_i^2 は次のように展開できます。

∑idi2=n(n2−1)6−2∑i(Ri−n+12)(Si−n+12)\sum_i d_i^2 = \frac{n(n^2 - 1)}{6} - 2\sum_i \left(R_i - \frac{n+1}{2}\right)\left(S_i - \frac{n+1}{2}\right)

これを整理すると、おなじみの公式が導けます。

rs=1−6∑idi2n(n2−1)r_s = 1 - \frac{6\sum_i d_i^2}{n(n^2 - 1)}

H0H_0 のもとで、Ri=iR_i = i と並べ直しても一般性を失いません。SiS_i はランダムな並べ替えです。ci=i−(n+1)/2c_i = i - (n+1)/2 とすれば、分子は線形順位統計量です。∑ci=0\sum c_i = 0、∑ci2=n(n2−1)/12\sum c_i^2 = n(n^2-1)/12 を補題に入れると、E(rs)=0E(r_s) = 0 で、分散は次のとおりです。

V(rs)=1{n(n2−1)/12}2⋅n+112⋅n⋅n(n2−1)12=1n−1V(r_s) = \frac{1}{\{n(n^2-1)/12\}^2} \cdot \frac{n+1}{12} \cdot n \cdot \frac{n(n^2-1)}{12} = \frac{1}{n - 1}

こんなに複雑な統計量の分散が、きれいな形になりました。nn が大きいときは、z=rsn−1z = r_s\sqrt{n-1} を標準正規分布と比べます。

2. ケンドールの順位相関係数

ケンドールの順位相関係数 τ\tau は、(n2)\binom{n}{2} 組のペアのうち、順番が一致する組の数 CC と、逆転する組の数 DD の差で定義します。

τ=C−Dn(n−1)/2=1−4Dn(n−1)\tau = \frac{C - D}{n(n-1)/2} = 1 - \frac{4D}{n(n-1)}

DD は、並べ替えの 転倒数 です。人の列に例えましょう。背の低い人から順に、1人ずつ列に割り込ませると、ランダムな並べ替えが1つできます。kk 番目の人は、それまでの k−1k-1 人の間の kk か所に、等しい確率で入ります。その人より後ろに回った JkJ_k 人とは、背の順が逆転します。JkJ_k は 0,…,k−10, \dots, k-1 の一様分布で、J1,…,JnJ_1, \dots, J_n は独立です。そして、D=∑kJkD = \sum_k J_k です。

V(Jk)=(k2−1)/12V(J_k) = (k^2 - 1)/12 を足し合わせて、次が得られます。

V(D)=∑k=1nk2−112=n(n−1)(2n+5)72,V(τ)=2(2n+5)9n(n−1)V(D) = \sum_{k=1}^{n} \frac{k^2 - 1}{12} = \frac{n(n-1)(2n+5)}{72}, \qquad V(\tau) = \frac{2(2n+5)}{9n(n-1)}

ここでも、一様分布の分散の12が顔を出しました。

例題:2人の審査員の順位

5つの作品に、審査員Aが 1, 2, 3, 4, 5 位、審査員Bが 2, 1, 4, 3, 5 位を付けた。〔1〕rsr_s と τ\tau を求めよ。〔2〕H0H_0 のもとでの分散を、それぞれ求めよ。〔3〕5!=1205! = 120 通りの並べ替えのうち、rs≥0.8r_s \ge 0.8 は8通りである。片側のp値を述べよ。

【解答】

〔1〕∑di2=1+1+1+1+0=4\sum d_i^2 = 1 + 1 + 1 + 1 + 0 = 4 だから、rs=1−24/120=0.8r_s = 1 - 24/120 = 0.8 である。順番が逆転する組は、Aの1位と2位の作品、Aの3位と4位の作品の2組なので、D=2D = 2 で、τ=1−8/20=0.6\tau = 1 - 8/20 = 0.6 である。

〔2〕V(rs)=1/4V(r_s) = 1/4、V(τ)=2×15/(9×20)=1/6V(\tau) = 2 \times 15/(9 \times 20) = 1/6 である。

〔3〕p値は 8/120=0.0678/120 = 0.067 である。

試験のポイント:V(rs)=1/(n−1)V(r_s) = 1/(n-1) と V(τ)V(\tau) は、公式だけでなく導出の筋道まで書けるようにします。前者は線形順位統計量、後者は転倒数の独立な和です。

以上が、順位相関係数についての解説です。

細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「H0H_0 のもとで順位はただの並べ替えになり、数え上げの問題に変わる」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回はノンパラメトリック法の公式を、順位の分布から導きました。H0H_0 のもとで順位は等確率の並べ替えになるので、もとの分布は計算から消えます。残るのは、札を引く問題、コインを投げる問題、列に割り込む問題という、数え上げの問題でした。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 順位ベクトルは H0H_0 のもとで N!N! 通りが等確率で、分布に依存しない。
  • 順位の分散 (N2−1)/12(N^2-1)/12 と共分散 −(N+1)/12-(N+1)/12 から、線形順位統計量の公式が出る。
  • 符号検定は中央値だけを仮定し、S∼B(n,1/2)S \sim B(n, 1/2) で正確に計算できる。
  • W=U+m(m+1)/2W = U + m(m+1)/2 であり、U/(mn)U/(mn) は P(X>Y)P(X > Y) の不偏推定量である。
  • 符号付き順位和は ∑kIk\sum k I_k で、対称性から符号と順位が独立になる。
  • V(rs)=1/(n−1)V(r_s) = 1/(n-1) は補題から、V(τ)V(\tau) は転倒数の分解から導ける。

キーワードのおさらい

  • 符号検定: 差の符号の個数が B(n,1/2)B(n, 1/2) に従うことを使う検定
  • ウィルコクソン順位和検定(マン・ホイットニーU検定): 2群の順位の和、または勝ち数 UU を使う検定
  • ウィルコクソン符号付き順位和検定: 差の絶対値の順位に符号を付けて足す検定
  • 順位相関係数: 順位の一致の度合い。スピアマンの rsr_s とケンドールの τ\tau

さて、ここまでの検定は、データがすべて手に入っていることが前提でした。しかし、実際のデータには、空欄があります。途中で観察が終わった人もいます。そもそも記録に現れない人もいるかもしれません。

次回は、不完全データの分析について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 13人の前後の差のうち1人はちょうど0で、残る12人のうち10人が正、2人が負だった。符号検定の片側のp値に最も近いものはどれか。
問2. 大きさ5の群と大きさ7の群の順位和検定で、大きさ5の群の順位和 WW の H0H_0 のもとでの分散に最も近いものはどれか。
問3. n=5n = 5 のウィルコクソン符号付き順位和検定で、H0H_0 のもとで P(W+≥14)P(W^{+} \ge 14) の値として正しいものはどれか。
問4. n=26n = 26 の組で、スピアマンの順位相関係数が rs=0.5r_s = 0.5 だった。V(rs)=1/(n−1)V(r_s) = 1/(n-1) を使った正規近似の統計量 zz の値として正しいものはどれか。
問5. 前後の差の分布が左右対称とは言えないが、差の中央値が0かどうかを検定したい。最も適切なものはどれか。