はじめに
「この推定量がよいって、どうやって証明するの?」
準1級で、不偏性、一致性、十分性、有効性という4つの基準を学びました。言葉の意味は分かりましたよね。でも、1級の論述で問われるのは「θ^ が一致推定量であることを示せ」「分散が最小の不偏推定量を求めよ」という立証です。
中古車を買う場面を想像してください。店員さんの「いい車ですよ」だけでは決められません。整備記録を見て、試乗をして、よさを自分で確かめますよね。推定量も同じで、基準ごとに決まった検査の手順があります。
実は、4つの基準には、それぞれ証明の道具がそろっています。不偏性には期待値の計算、一致性にはチェビシェフの不等式、十分性には条件つき期待値、有効性にはスコアの計算です。道具さえ分かれば、答案の形はほぼ決まります。
そこで登場するのが、今回の主役 一様最小分散不偏推定量(UMVU) です。これは、不偏推定量の中で、母数がどの値でも分散が最小になる推定量です。
前回の記事では、いろいろな推定量の作り方を学びました。今回の記事では、4つの基準を立証する手順と、UMVU の求め方、推定量の相対効率の計算について解説します。
不偏性:期待値の計算で立証する
はじめに、不偏性の立証について解説します。
不偏性 とは、すべての θ で Eθ[θ^]=θ が成り立つことでした。準1級で学んだ MSE=分散+バイアス2 の分解は、ここでも基本です。1級では、不偏推定量を組み立てる話と、存在しないことを示す話に踏み込みます。1つずつ見ていきましょう。
1. 不偏推定量を組み立てる
体重計の癖を調べて目盛りを補正するように、期待値を計算して補正すれば、不偏推定量が作れます。
具体的に見てみましょう。X∼B(n,p) で p2 を推定します。p^2=(X/n)2 の期待値は p2+p(1−p)/n なので、偏りがあります。そこで、階乗モーメントの E[X(X−1)]=n(n−1)p2 を使います。
E[n(n−1)X(X−1)]=p2
例えば n=10、x=4 なら、不偏推定値は 12/90≈0.133 で、p^2=0.16 より小さい値です。同じように、ポアソン分布の λ2 は Xˉ2−Xˉ/n で不偏に推定できます。E[Xˉ2]=λ2+λ/n だからです。
2. 不偏推定量が存在しないことを示す
不偏推定量は、いつでも存在するわけではありません。例えば、X∼B(n,p)(0<p<1)のとき、1/p の不偏推定量は存在しません。答案の形で示してみましょう。
【証明】
- g(X) が不偏推定量であると仮定する。すべての p で次の式が成り立つ
x=0∑ng(x)(xn)px(1−p)n−x=p1
- 左辺は p の多項式なので、p→0 のとき有限の値 g(0) に収束する
- 右辺は p→0 のとき無限大に発散する。これは矛盾である。よって不偏推定量は存在しない
要するに、「期待値が多項式でしか書けないのに、目標が多項式でない」ということです。
逆に、不偏推定量があっても、役に立つとは限りません。X∼Po(λ) の1個の観測で e−2λ を推定するとしましょう。∑xg(x)λx/x!=e−λ=∑x(−λ)x/x! の係数を比べると、不偏推定量は g(X)=(−1)X だけです。確率の2乗を推定したいのに、値は 1 か −1 にしかなりません。不偏性は絶対の基準ではない、という例です。
以上が、不偏性についての解説です。
一致性:チェビシェフの不等式で立証する
次に、一致性の立証について説明します。
一致性 とは、任意の ε>0 で P(∣θ^n−θ∣≥ε)→0 となることでした。データが増えるにつれて、カメラのピントが真の値に合っていくイメージです。立証の道具は3つあります。
【一致性を立証する道具】
- チェビシェフの不等式: P(∣θ^n−θ∣≥ε)≤MSE/ε2 なので、MSE→0 を示す
- 大数の法則と連続写像定理: 標本モーメントの連続関数なら、そのまま確率収束する
- 分布関数の直接計算: 順序統計量などは、確率を直接求める
2つ目の例を見ましょう。不偏分散は S2=n−1n(m2−m12) と書けます。2次モーメントが有限なら、大数の法則で m1→μ、m2→μ2+σ2 で、n/(n−1)→1 です。したがって S2→σ2 と確率収束します。分布が正規でなくても、4次モーメントがなくても言えるのが、この方法の強みです。
では、最尤推定量はいつでも一致性をもつのでしょうか? 実は、そうとは限りません。
例題:最尤推定量が一致しない例
Xi1,Xi2(i=1,…,m)はすべて独立で、N(μi,σ2) に従う。母数は μ1,…,μm,σ2 である。(1) σ2 の最尤推定量 σ^2 を求めよ。(2) m→∞ のときの確率収束先を求めよ。(3) 一致推定量を作れ。
【答案】
- ℓ=−mlog(2πσ2)−2σ21∑i∑j(xij−μi)2 である。μi で微分して μ^i=(xi1+xi2)/2 を得る
- ∑j(xij−μ^i)2=(xi1−xi2)2/2 を代入して σ2 で微分すると、σ^2=4m1∑i(Xi1−Xi2)2 である
- Di=Xi1−Xi2 は独立に N(0,2σ2) に従うので、大数の法則より m1∑iDi2→2σ2 と確率収束する
- したがって σ^2→σ2/2 である。一致推定量は、2σ^2 である
答えは収束先 σ2/2 で、一致推定量は 2σ^2 です。これはネイマン・スコットの問題と呼ばれます。
なぜこうなるのでしょうか? データが増えても、母数 μi も同じ速さで増えるからです。1つの μi を決めるデータは、いつまでも2個しかありません。生徒が増えるたびに先生も増えて、1人の先生が見る生徒の数がずっと2人のままの学校のようなものです。
以上が、一致性についての説明です。
十分性:ラオ・ブラックウェルの定理と完備性
続いて、十分性を使って推定量を改良する方法を解説します。
十分性 とは、推定量が十分統計量の関数であることです。準1級では、ラオ・ブラックウェルの定理を計算に使いました。ここでは証明し、最小の分散まで進みます。
【ラオ・ブラックウェルの定理】
W を g(θ) の不偏推定量、T を十分統計量とする。φ(T)=E[W∣T] は g(θ) の不偏推定量で、V[φ(T)]≤V[W] である。
【証明】
- T は十分なので、T を与えたときの標本の分布は θ によらない。よって φ(T) は θ を含まず、統計量である
- 繰り返し期待値の法則より、E[φ(T)]=E[W]=g(θ) である
- 全分散の公式より、V[W]=V[φ(T)]+E[V[W∣T]]≥V[φ(T)] である
手順1が、十分性の使いどころです。十分でない T で条件づけると、θ が残ってしまい、推定量になりません。
ただ、この定理は「改良できる」と言っているだけで、「最小である」とは言っていません。そこで必要なのが 完備性 です。統計量 T が完備であるとは、次が成り立つことです。
すべての θ で Eθ[g(T)]=0⇒すべての θ で Pθ(g(T)=0)=1
言葉で言うと、「T の関数で0を不偏に推定する方法は、0そのものしかない」ということです。これは、T の関数である不偏推定量がただ1つだという意味になります。
【レーマン・シェフェの定理】
T を完備十分統計量とする。φ(T) が g(θ) の不偏推定量なら、φ(T) は UMVU である。
【証明】
- 任意の不偏推定量 W をとり、φ∗(T)=E[W∣T] とおく。ラオ・ブラックウェルの定理より、V[φ∗(T)]≤V[W] である
- φ∗(T)−φ(T) は T の関数で、期待値は0である。完備性より φ∗=φ(確率1)である
- したがって V[φ(T)]≤V[W] である
どの下書きから清書しても、同じ1枚の完成原稿にたどり着く、というイメージです。
完備性の確かめ方を、2つ見てみましょう。
【完備性の確かめ方】
- ポアソン分布の T=∑iXi: ∑tg(t)(nλ)t/t!=0 がすべての λ>0 で成り立つと、べき級数の係数はすべて0で、g(t)=0
- U(0,θ) の T=X(n): ∫0θg(t)tn−1dt=0 がすべての θ で成り立つと、θ で微分して g(θ)θn−1=0 となり、g=0(ほとんどいたるところ)
一般に、指数型分布族では、母数の動く範囲が開集合を含むなら、∑it(Xi) は完備十分統計量です。したがって、正規分布の Xˉ と S2 は UMVU です。また、U(0,θ) では nn+1X(n) が UMVU です。
UMVU を求める道は2つです。完備十分統計量の関数で不偏なものを直接見つけるか、簡単な不偏推定量を完備十分統計量で条件づけるかです。
例題:ポアソン分布の e−λ の UMVU
X1,…,Xn は独立に Po(λ) に従う。P(X=0)=e−λ の UMVU を求めよ。n=10、∑ixi=15 のときの値を、最尤推定値と比べよ。
【答案】
- T=∑iXi は分解定理より十分で、上で示したとおり完備である
- W=1{X1=0} とおくと、E[W]=e−λ で不偏である
- T=t を与えたとき、X1 は二項分布 B(t,1/n) に従う。よって E[W∣T=t]=(1−1/n)t である
- レーマン・シェフェの定理より、(1−1/n)T が UMVU である
- 値は 0.915≈0.206 である。最尤推定値は、不変性より e−1.5≈0.223 である
答えは (1−1/n)T で、値は約0.206です。検算として、ポアソン分布の確率母関数から E[(1−1/n)T]=exp{nλ(−1/n)}=e−λ と確かめられます。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
完備十分統計量と、分布が母数によらない統計量は独立です(バスーの定理)。σ2 を固定すると Xˉ は μ の完備十分統計量で、S2 の分布は μ によらないので、2つは独立です。標本分布の記事の定理の、もう1つの証明です。
以上が、十分性についての解説です。
有効性と推定量の相対効率
最後に、有効性の立証と推定量の比較を見ていきましょう。
有効性 とは、不偏推定量の分散が クラーメル・ラオの下限 に一致することです。g(θ) の不偏推定量の分散の下限は g′(θ)2/{nI(θ)} で、準1級で学びました。下限の証明は、2つ先の記事で行います。ここでは、立証の手順を確認します。
【有効性の立証手順】
- 1個の観測のフィッシャー情報量 I(θ) を計算する
- 不偏推定量 T の分散を計算する
- V[T] と下限が等しいことを確かめる
もっと速い判定法もあります。証明の中で分かるのですが、下限の等号は、スコアが T の1次式で書けるときに限り成り立ちます。
U(θ)=a(θ){T−g(θ)}
例えば、ポアソン分布なら U(λ)=(n/λ)(Xˉ−λ) なので、Xˉ は有効です。
ここで、よくある誤解を解いておきましょう。UMVU は、下限に届くとは限りません。さきほどの (1−1/n)T の分散は、確率母関数から e−2λ(eλ/n−1) です。下限は λe−2λ/n なので、ex−1>x より、分散は下限より真に大きいのです。n=10、λ=1.5 なら、比は約0.927です。つまり、「UMVU である」と「有効である」は別の主張です。
2つの推定量の比較には、推定量の相対効率 を使います。不偏推定量 T1,T2 について、T1 に対する T2 の相対効率は次のとおりです。
e(T2,T1)=V[T2]V[T1]
1より小さければ、T2 のほうが悪いということです。車の燃費の比べ方に似ていて、「同じ精度を出すのに必要な標本の大きさの比」と読めます。
例題:指数分布の2つの不偏推定量
平均 θ の指数分布からの大きさ n の標本について、T1=Xˉ、T2=nX(1) とする。(1) ともに不偏であることを示せ。(2) T1 に対する T2 の相対効率を求めよ。(3) T1 が有効であることを示せ。
【答案】
- E[T1]=θ である。また、P(X(1)>x)=e−nx/θ より X(1) は平均 θ/n の指数分布に従うので、E[T2]=θ である
- V[T1]=θ2/n、V[T2]=n2×θ2/n2=θ2 なので、e(T2,T1)=1/n である
- logf=−logθ−x/θ より、U(θ)=(n/θ2)(Xˉ−θ) である。スコアが Xˉ の1次式なので、Xˉ は有効である
答えは 1/n です。T2 は分散が n によらないので、一致性ももちません。最小値だけを使うのは、データ1個分の働きしかしないのです。
次に、標本が大きいときの比較です。この場面では、漸近分散の比である 漸近相対効率 を使います。標本中央値の漸近分散を導きましょう。母集団の中央値を m、その点の密度を f(m)>0 とします。
【標本中央値の漸近分布の導出】
- {標本中央値≤m+t/n} は、ほぼ「m+t/n 以下の個数が n/2 以上」という事象である
- その個数は B(n,qn) に従い、qn≈1/2+f(m)t/n である
- 二項分布の正規近似より、確率は Φ(2f(m)t) に近づく
つまり、n(標本中央値−m) は N(0,1/{4f(m)2}) に分布収束します。これを平均と比べましょう。
| 分布 | 平均の分散 | 中央値の漸近分散 | 平均に対する中央値の相対効率 |
|---|
| 正規分布 N(μ,σ2) | σ2/n | πσ2/(2n) | 2/π≈0.64 |
| ラプラス分布(尺度1) | 2/n | 1/n | 2 |
正規分布では平均が勝ち、ラプラス分布では中央値が2倍有利です。どの推定量がよいかは、分布しだいなのです。
試験のポイント:相対効率は、分子と分母の取り違えが最も多い失点です。「どちらに対するどちらの効率か」を答案に明記しましょう。
以上が、有効性と推定量の相対効率についての解説です。
細かい定理の名前を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「不偏推定量を十分統計量で条件づけると改良でき、完備なら最良になる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、推定量のよさを立証する手順を紹介しました。「いい車ですよ」という言葉を信じるのではなく、整備記録を確かめるのが1級の答案です。基準ごとに道具が決まっているので、問題文の「示せ」を見たら、まず道具を選びましょう。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 不偏性は期待値の計算で立証する。不偏推定量が存在しないことや、役に立たないこともある。
- 一致性は MSE→0、または大数の法則と連続写像定理で立証する。母数が増え続けると最尤推定量でも一致しない。
- ラオ・ブラックウェルの定理で改良し、完備性があればレーマン・シェフェの定理で UMVU が得られる。
- 有効性の判定は、スコアが T の1次式になるかを見る。UMVU が下限に届くとは限らない。
- 推定量の相対効率は分散の比。中央値と平均の優劣は分布で決まる。
キーワードのおさらい
- 不偏性: すべての母数の値で、推定量の期待値が真の値に一致する性質
- 一致性: 標本が大きくなると、推定量が真の値に確率収束する性質
- 十分性: 推定量が十分統計量の関数である性質
- 完備性: T の関数で期待値がいつも0になるものが、0だけである性質
- 一様最小分散不偏推定量(UMVU): 母数がどの値でも分散が最小の不偏推定量
- 有効性: 不偏推定量の分散がクラーメル・ラオの下限に一致する性質
- 推定量の相対効率: 2つの不偏推定量の分散の比
- 漸近相対効率: 2つの推定量の漸近分散の比
さて、ここまでは1つのモデルの中で、母数をどう推定するかを考えました。では、そもそもモデルが複数あるとき、どれを選べばよいのでしょうか?
次回は、カルバック・ライブラー情報量からAICを導き、クロスバリデーションと比べる話を紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。