統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-11 統計数理

各種推定法 — モーメント法と線形推定

  • モーメント法
  • 最小二乗法
  • 線形推定(BLUE)
  • その他の手法

はじめに

「尤度が書けないときは、どうやって推定するの?」

前回の記事で、最尤推定の答案の書き方を学びました。とても強力な方法ですが、前提が1つあります。分布の形を、最後まで決めておかなければならないのです。

例えば、コンビニの売上を説明変数で予測する場面を考えましょう。誤差の平均が0で、ばらつきが一定だとは言えても、誤差の分布の形までは分からないことがよくありますよね。精密な地図がなくても、方角と距離さえ分かれば目的地に向かえるように、少ない仮定でできる推定があるはずです。

実は、推定の方法は、どこまで仮定するかで使い分けられます。平均と分散しか仮定しなくても、「この中では最良である」と証明できる推定量があるのです。

そこで登場するのが、今回の主役 線形推定(BLUE) です。BLUE は最良線形不偏推定量のことで、線形で不偏な推定量の中で分散が最小のものです。あわせて、モーメント法、最小二乗法、そして その他の手法 も扱います。

前回の記事では、最尤法を学びました。今回の記事では、モーメント推定量の漸近分散の求め方、最小二乗法の幾何学的な証明、BLUE の導出、そして最尤法以外の推定法について解説します。

モーメント法:推定量の分布まで求める

はじめに、モーメント法の性質の調べ方について解説します。

モーメント法 は、標本モーメント mk=1n∑iXikm_k = \frac{1}{n}\sum_i X_i^k と母集団のモーメント μk(θ)\mu_k(\theta) を等しいとおいて、母数について解く方法でした。準1級では、推定値を計算するところまで学びました。1級では「作って終わり」ではなく、その推定量がどれくらいよいのかまで述べます。

モーメント法は、目測の職人さんのようなものです。巻き尺で寸法を2、3か所測るだけで、すぐに見積もりを出してくれます。ただ、精密機械の測定(最尤法)と比べて、どのくらい精度が落ちるのかは知っておきたいですよね。

【モーメント推定量の性質を調べる手順】

  1. 解いた形を、標本モーメントの関数として θ~=h(m1,…,mp)\tilde{\theta} = h(m_1, \dots, m_p) と書く
  2. 一致性: 大数の法則で mk→μkm_k \to \mu_k と確率収束し、hh が連続なら θ~→θ\tilde{\theta} \to \theta
  3. 漸近正規性: 中心極限定理とデルタ法で、n(θ~−θ)\sqrt{n}(\tilde{\theta} - \theta) の極限分布を求める

1個のモーメントを使う場合、手順3は次の形です。デルタ法の証明は、漸近的性質の記事で行います。

n (h(Xˉ)−h(μ)) →d N(0, h′(μ)2 σ2)\sqrt{n}\,\big(h(\bar{X}) - h(\mu)\big) \ \xrightarrow{d}\ N\big(0,\ h'(\mu)^2\, \sigma^2\big)

例題:モーメント推定量の漸近分散

密度 f(x;θ)=θxθ−1f(x;\theta) = \theta x^{\theta-1}(0<x<10 < x < 1、θ>0\theta > 0)からの標本について、θ\theta のモーメント推定量 θ~\tilde{\theta} の漸近分散を求めよ。さらに、漸近分散が θ2/n\theta^2/n である最尤推定量に対する相対的な効率を求め、θ=2\theta = 2 の値を答えよ。

【答案】

  1. E[X]=θ/(θ+1)E[X] = \theta/(\theta + 1)、E[X2]=θ/(θ+2)E[X^2] = \theta/(\theta + 2) より、V[X]=θ(θ+1)2(θ+2)V[X] = \dfrac{\theta}{(\theta+1)^2(\theta+2)} である
  2. Xˉ=θ/(θ+1)\bar{X} = \theta/(\theta+1) を解くと、θ~=h(Xˉ)\tilde{\theta} = h(\bar{X})、h(m)=m/(1−m)h(m) = m/(1-m) である
  3. h′(m)=1/(1−m)2h'(m) = 1/(1-m)^2 に 1−μ=1/(θ+1)1 - \mu = 1/(\theta+1) を入れると、h′(μ)=(θ+1)2h'(\mu) = (\theta+1)^2 である
  4. デルタ法より、n(θ~−θ)\sqrt{n}(\tilde{\theta} - \theta) の漸近分散は次のようになる
(θ+1)4×θ(θ+1)2(θ+2)=θ(θ+1)2θ+2(\theta+1)^4 \times \frac{\theta}{(\theta+1)^2(\theta+2)} = \frac{\theta(\theta+1)^2}{\theta+2}
  1. 最尤推定量との比は、θ2θ(θ+1)2/(θ+2)=θ(θ+2)(θ+1)2\dfrac{\theta^2}{\theta(\theta+1)^2/(\theta+2)} = \dfrac{\theta(\theta+2)}{(\theta+1)^2} である。分子は分母より1小さいので、この値は1未満である

答えは、漸近分散が θ(θ+1)2/{n(θ+2)}\theta(\theta+1)^2/\{n(\theta+2)\} で、効率は θ=2\theta = 2 のとき 8/9≈0.8898/9 \approx 0.889 です。職人さんの目測は、精密機械の約9割の精度でした。

せっかくなので、別の例も見てみましょう。NN と pp がともに未知の二項分布 B(N,p)B(N, p) では、E[X]=NpE[X] = Np、V[X]=Np(1−p)V[X] = Np(1-p) です。標本分散を vv とすると、p~=1−v/xˉ\tilde{p} = 1 - v/\bar{x}、N~=xˉ/p~\tilde{N} = \bar{x}/\tilde{p} となります。例えば、xˉ=6\bar{x} = 6、v=2.4v = 2.4 なら、p~=0.6\tilde{p} = 0.6、N~=10\tilde{N} = 10 です。ただし、v>xˉv > \bar{x} のデータが出ると p~<0\tilde{p} < 0 になってしまいます。ありえない値が出ることは、モーメント法の弱点です。

もう1つの弱点は、十分統計量の関数になるとは限らないことです。U(0,θ)U(0, \theta) の 2Xˉ2\bar{X} は、十分統計量 X(n)X_{(n)} の関数ではありません。この点は、次回の記事で改良します。

以上が、モーメント法についての解説です。

最小二乗法:直交性で最小を証明する

次に、最小二乗法が本当に最小を与えることの証明を説明します。

最小二乗法 は、線形模型 y=Xβ+ε\boldsymbol{y} = X\boldsymbol{\beta} + \boldsymbol{\varepsilon} で、∥y−Xβ∥2\|\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta}\|^2 を最小にする方法でした。準1級では、微分して0とおき、正規方程式 X⊤Xβ^=X⊤yX^\top X\hat{\boldsymbol{\beta}} = X^\top\boldsymbol{y} を導きました。答案では、微分を使わずに最小を直接示せます。

川まで最短距離で歩きたいとき、川に垂直に歩きますよね。斜めに歩くと、ピタゴラスの定理の斜辺の分だけ遠くなります。最小二乗法も同じです。

β^\hat{\boldsymbol{\beta}} を正規方程式の解とします。任意の β\boldsymbol{\beta} について、y−Xβ=(y−Xβ^)+X(β^−β)\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta} = (\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}) + X(\hat{\boldsymbol{\beta}} - \boldsymbol{\beta}) と分けて2乗します。交差項は 2(β^−β)⊤X⊤(y−Xβ^)=02(\hat{\boldsymbol{\beta}} - \boldsymbol{\beta})^\top X^\top(\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}) = 0 なので、次の式が成り立ちます。

∥y−Xβ∥2=∥y−Xβ^∥2+∥X(β^−β)∥2 ≥ ∥y−Xβ^∥2\|\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta}\|^2 = \|\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}\|^2 + \|X(\hat{\boldsymbol{\beta}} - \boldsymbol{\beta})\|^2 \ \ge\ \|\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}\|^2

等号は X(β^−β)=0X(\hat{\boldsymbol{\beta}} - \boldsymbol{\beta}) = \boldsymbol{0} のときだけです。XX の列が線形独立なら、これは β=β^\boldsymbol{\beta} = \hat{\boldsymbol{\beta}} を意味するので、最小点はただ1つです。

次に、誤差分散の不偏推定量を証明しましょう。H=X(X⊤X)−1X⊤H = X(X^\top X)^{-1}X^\top を ハット行列 と呼びます。y^=Hy\hat{\boldsymbol{y}} = H\boldsymbol{y} で、HH は XX の列空間への射影です。

【ハット行列の性質】

  • 対称で、H2=HH^2 = H(影の影は同じ影)
  • HX=XHX = X なので、(I−H)X=O(I - H)X = O
  • tr H=tr{(X⊤X)−1X⊤X}=p\text{tr}\,H = \text{tr}\{(X^\top X)^{-1}X^\top X\} = p

残差平方和は、RSS=y⊤(I−H)y=ε⊤(I−H)ε\text{RSS} = \boldsymbol{y}^\top(I - H)\boldsymbol{y} = \boldsymbol{\varepsilon}^\top(I - H)\boldsymbol{\varepsilon} です。スカラーをトレースとして扱うと、次のように計算できます。

E[RSS]=tr{(I−H) E[εε⊤]}=σ2 tr(I−H)=σ2(n−p)E[\text{RSS}] = \text{tr}\{(I - H)\,E[\boldsymbol{\varepsilon}\boldsymbol{\varepsilon}^\top]\} = \sigma^2\,\text{tr}(I - H) = \sigma^2 (n - p)

したがって、s2=RSS/(n−p)s^2 = \text{RSS}/(n - p) は σ2\sigma^2 の不偏推定量です。正規分布の仮定は使っていません。

例えば、定数だけのモデルなら p=1p = 1 で、RSS=∑i(yi−yˉ)2\text{RSS} = \sum_i (y_i - \bar{y})^2 です。不偏分散の分母が n−1n - 1 である理由は、tr(I−H)=n−1\text{tr}(I - H) = n - 1 だったのです。

例題:制約のある最小二乗法

三角形の内角 θ1,θ2,θ3\theta_1, \theta_2, \theta_3(和は180度)を別々に測り、測定値 y1,y2,y3y_1, y_2, y_3 を得た。測定誤差は互いに無相関で、平均0、分散 σ2\sigma^2 とする。(1) 最小二乗推定量を導け。(2) y=(61,59,63)y = (61, 59, 63) のときの値を求めよ。(3) V[θ^1]V[\hat{\theta}_1] を求めよ。

【答案】

  1. 制約 ∑jθj=180\sum_j \theta_j = 180 のもとで ∑j(yj−θj)2\sum_j (y_j - \theta_j)^2 を最小にする。ラグランジュ乗数 κ\kappa を使い、Q=∑j(yj−θj)2+2κ(∑jθj−180)Q = \sum_j (y_j - \theta_j)^2 + 2\kappa(\sum_j \theta_j - 180) とおく
  2. ∂Q/∂θj=0\partial Q/\partial\theta_j = 0 より θj=yj−κ\theta_j = y_j - \kappa である。制約に代入すると、κ=(∑jyj−180)/3\kappa = (\sum_j y_j - 180)/3 である
  3. 目的関数は狭義の凸関数で制約は線形なので、この停留点が最小点である。θ^j=yj−(∑lyl−180)/3\hat{\theta}_j = y_j - (\sum_l y_l - 180)/3 となる
  4. 値は、∑jyj=183\sum_j y_j = 183 より κ=1\kappa = 1 で、θ^=(60,58,62)\hat{\theta} = (60, 58, 62) である
  5. θ^1=(2y1−y2−y3+180)/3\hat{\theta}_1 = (2y_1 - y_2 - y_3 + 180)/3 なので、V[θ^1]=(4+1+1)σ2/9=2σ2/3V[\hat{\theta}_1] = (4 + 1 + 1)\sigma^2/9 = 2\sigma^2/3 である

答えは (60, 58, 62) で、分散は 2σ2/32\sigma^2/3 です。合計のズレ3度を、3つの角に1度ずつ配る形になりました。「和は180度」という知識を使うだけで、分散は σ2\sigma^2 から3分の2に減ります。

以上が、最小二乗法についての説明です。

線形推定(BLUE):分散最小を導く

続いて、線形推定について解説します。

観測値の線形結合 ∑iaiYi\sum_i a_i Y_i で表される推定量を、線形推定量 と呼びます。線形推定量の中で、不偏で分散が最小のものが 最良線形不偏推定量(BLUE) です。必要な仮定は、平均と分散の構造だけです。1つずつ見ていきましょう。

1. 精度の違う測定をまとめる

同じ量 μ\mu を、精度の違う方法で測ったとします。友達の意見を聞くとき、信頼できる人の話ほど重く聞きますよね。その重みを計算で決めます。

X1,…,XnX_1, \dots, X_n は無相関で、E[Xi]=μE[X_i] = \mu、V[Xi]=σi2V[X_i] = \sigma_i^2(既知)とします。T=∑iaiXiT = \sum_i a_i X_i が不偏であるには、∑iai=1\sum_i a_i = 1 が必要です。分散 ∑iai2σi2\sum_i a_i^2\sigma_i^2 の下限は、コーシー・シュワルツの不等式で出ます。

1=(∑iai)2=(∑iaiσi⋅1σi)2≤(∑iai2σi2)(∑i1σi2)1 = \left(\sum_i a_i\right)^2 = \left(\sum_i a_i\sigma_i \cdot \frac{1}{\sigma_i}\right)^2 \le \left(\sum_i a_i^2\sigma_i^2\right)\left(\sum_i \frac{1}{\sigma_i^2}\right)

したがって V[T]≥1/∑i(1/σi2)V[T] \ge 1/\sum_i (1/\sigma_i^2) で、等号は aiσia_i\sigma_i が 1/σi1/\sigma_i に比例するときに成り立ちます。

ai=1/σi2∑j1/σj2,V[T]=1∑j1/σj2a_i = \frac{1/\sigma_i^2}{\sum_j 1/\sigma_j^2}, \qquad V[T] = \frac{1}{\sum_j 1/\sigma_j^2}

重みは分散の逆数に比例します。例えば、分散1の体重計と分散4の体重計で測って、50.0kgと52.5kgだったとします。重みは0.8と0.2で、BLUE の値は 0.8×50+0.2×52.5=50.50.8 \times 50 + 0.2 \times 52.5 = 50.5kg、分散は0.8です。単純な平均の分散は (1+4)/4=1.25(1 + 4)/4 = 1.25 で、BLUE の約1.56倍です。

2. ガウス・マルコフの定理を線形結合で証明する

線形模型 y=Xβ+ε\boldsymbol{y} = X\boldsymbol{\beta} + \boldsymbol{\varepsilon}、E[ε]=0E[\boldsymbol{\varepsilon}] = \boldsymbol{0}、V[ε]=σ2IV[\boldsymbol{\varepsilon}] = \sigma^2 I で、c⊤β\boldsymbol{c}^\top\boldsymbol{\beta} を推定します。準1級では行列 DD を使って証明しました。ここでは、さきほどの直交分解を使います。

【証明】

  1. a⊤y\boldsymbol{a}^\top\boldsymbol{y} が不偏であるとは、すべての β\boldsymbol{\beta} で a⊤Xβ=c⊤β\boldsymbol{a}^\top X\boldsymbol{\beta} = \boldsymbol{c}^\top\boldsymbol{\beta} となること、すなわち X⊤a=cX^\top\boldsymbol{a} = \boldsymbol{c} である
  2. a0=X(X⊤X)−1c\boldsymbol{a}_0 = X(X^\top X)^{-1}\boldsymbol{c} とおくと、X⊤a0=cX^\top\boldsymbol{a}_0 = \boldsymbol{c} で、a0⊤y=c⊤β^\boldsymbol{a}_0^\top\boldsymbol{y} = \boldsymbol{c}^\top\hat{\boldsymbol{\beta}} である
  3. d=a−a0\boldsymbol{d} = \boldsymbol{a} - \boldsymbol{a}_0 は X⊤d=0X^\top\boldsymbol{d} = \boldsymbol{0} を満たす。a0\boldsymbol{a}_0 は XX の列の線形結合なので、a0⊤d=0\boldsymbol{a}_0^\top\boldsymbol{d} = 0 である
  4. したがって V[a⊤y]=σ2∥a∥2=σ2(∥a0∥2+∥d∥2)≥σ2∥a0∥2=V[c⊤β^]V[\boldsymbol{a}^\top\boldsymbol{y}] = \sigma^2\|\boldsymbol{a}\|^2 = \sigma^2(\|\boldsymbol{a}_0\|^2 + \|\boldsymbol{d}\|^2) \ge \sigma^2\|\boldsymbol{a}_0\|^2 = V[\boldsymbol{c}^\top\hat{\boldsymbol{\beta}}] である

ここでもピタゴラスの定理が活躍しました。余分な成分 d\boldsymbol{d} は、分散を増やすだけで何も得をしません。

3. 分散が等しくないとき

誤差の分散共分散行列が σ2V\sigma^2 V(VV は既知の正定値行列)のときはどうでしょうか? V=PP⊤V = PP^\top と分解して、モデル全体に P−1P^{-1} を掛けます。すると誤差の分散が σ2I\sigma^2 I になるので、ガウス・マルコフの定理が使えます。結果は次の 一般化最小二乗法 です。

β^G=(X⊤V−1X)−1X⊤V−1y,V[β^G]=σ2(X⊤V−1X)−1\hat{\boldsymbol{\beta}}_G = (X^\top V^{-1} X)^{-1} X^\top V^{-1}\boldsymbol{y}, \qquad V[\hat{\boldsymbol{\beta}}_G] = \sigma^2 (X^\top V^{-1} X)^{-1}

具体的に見てみましょう。原点を通る回帰 yi=βxi+εiy_i = \beta x_i + \varepsilon_i で、V[εi]=σ2xiV[\varepsilon_i] = \sigma^2 x_i(xi>0x_i > 0)とします。V=diag(xi)V = \text{diag}(x_i) を入れると、β^G=∑iyi/∑ixi\hat{\beta}_G = \sum_i y_i/\sum_i x_i です。合計の比という、とても素朴な推定量が BLUE だったのです。

x=1,2,3x = 1, 2, 3 なら、分散は σ2/6≈0.167σ2\sigma^2/6 \approx 0.167\sigma^2 です。通常の最小二乗推定量 ∑ixiyi/∑ixi2\sum_i x_i y_i/\sum_i x_i^2 の分散は σ2∑ixi3/(∑ixi2)2=36σ2/196≈0.184σ2\sigma^2\sum_i x_i^3/(\sum_i x_i^2)^2 = 36\sigma^2/196 \approx 0.184\sigma^2 で、確かに負けています。なお、1つ目の精度の違う測定は、X=1X = \boldsymbol{1} の場合にあたります。

試験のポイント:BLUE の「最良」は、線形かつ不偏な推定量の中での話です。誤差の分布を仮定せず、平均と分散の構造だけで証明できる点が強みです。

以上が、線形推定についての解説です。

その他の手法:道具箱の残りを開ける

最後に、その他の手法を見ていきましょう。

ここまでの方法が使えない場面でも、推定は必要です。工具箱に金づちしかないと、ネジは回せませんよね。代表的な道具を4つ紹介します。

【その他の手法】

  1. 分位点法: 母集団と標本の分位点をそろえる
  2. 最小カイ二乗法: 度数のズレを最小にする
  3. M推定: 外れ値の影響を抑えた方程式を解く
  4. ベイズ推定: 事前の知識とデータを合わせる

1つずつ見ていきましょう。

1. 分位点法

モーメントの代わりに、分位点をそろえる方法です。モーメントが存在しない分布でも使えます。

例えば、コーシー分布(位置 θ\theta、尺度 γ\gamma)は期待値が存在しないので、モーメント法は使えません。しかし、中央値は θ\theta で、四分位数は θ±γ\theta \pm \gamma です。標本の第1四分位数が2、中央値が5、第3四分位数が8なら、θ~=5\tilde{\theta} = 5、γ~=(8−2)/2=3\tilde{\gamma} = (8 - 2)/2 = 3 です。

2. 最小カイ二乗法

度数データで、観測度数 OjO_j と期待度数 Ej(θ)E_j(\theta) のズレを最小にする方法です。

χ2(θ)=∑j{Oj−Ej(θ)}2Ej(θ)\chi^2(\theta) = \sum_{j} \frac{\{O_j - E_j(\theta)\}^2}{E_j(\theta)}

前回の遺伝子型の例(度数 30, 50, 20)で最小点を数値で求めると約0.55で、最尤推定値とほぼ同じ値になります。一般に、最小カイ二乗推定量は最尤推定量と漸近的に同等です。

3. M推定

∑iψ(xi−θ)=0\sum_i \psi(x_i - \theta) = 0 の解を推定値とする方法です。最尤法を一般化したもので、ψ\psi の選び方で性格が変わります。

【ψ\psi の選び方】

  • ψ(u)=u\psi(u) = u: 標本平均
  • ψ(u)=sign(u)\psi(u) = \text{sign}(u): 標本中央値
  • ψ(u)=max⁡{−k,min⁡(u,k)}\psi(u) = \max\{-k, \min(u, k)\}: ハンバーの推定量

ハンバーの推定量は、1人の発言力に上限 kk を設ける議長のようなものです。例えば、データ 1, 2, 3, 4, 20 に k=3k = 3 を使いましょう。20だけが上限に当たると考えて、(1−θ)+(2−θ)+(3−θ)+(4−θ)+3=0(1 - \theta) + (2 - \theta) + (3 - \theta) + (4 - \theta) + 3 = 0 を解くと、θ=3.25\theta = 3.25 です。このとき、他の4個の差はすべて3以内で、20との差は3を超えるので、仮定と合っています。平均の6と中央値の3の間で、外れ値に振り回されない値になりました。

漸近分散は E[ψ2]/(E[ψ′])2E[\psi^2]/(E[\psi'])^2 を nn で割った値です。ψ(u)=−ddulog⁡f(u)\psi(u) = -\frac{d}{du}\log f(u) とすると、位置母数の最尤推定量に一致します。

4. ベイズ推定

母数に事前分布を置き、事後分布の平均などを推定値とする方法です。例えば、pp の事前分布を Beta(a,b)\text{Beta}(a, b) とすると、nn 回中 xx 回の成功を見たあとの事後平均は (a+x)/(a+b+n)(a + x)/(a + b + n) です。a=b=1a = b = 1、n=10n = 10、x=3x = 3 なら 4/12=1/34/12 = 1/3 で、最尤推定値の0.3より、事前の平均0.5に少し引き寄せられます。詳しくはベイズ法の記事で扱います。

ここまでの方法を整理しましょう。

方法必要な仮定強み弱み
最尤法分布の形漸近的に最良分布を間違えると弱い
モーメント法モーメントの式手軽効率が落ちる。ありえない値も出る
最小二乗法・BLUE平均と分散の構造分布の仮定が不要線形不偏の中でのみ最良
分位点法分位点の式モーメントが不要効率が落ちる
M推定ψ\psi の選択外れ値に強い計算が要る

以上が、その他の手法についての解説です。

細かい手法を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「仮定が少ないほど使える場面は広く、仮定が多いほど精度は高い」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は、最尤法以外の推定法について紹介しました。目測の職人さんのモーメント法、垂線を下ろす最小二乗法、分散の逆数で重みをつける BLUE と、それぞれ必要な仮定が違います。問題文がどこまで仮定しているかを読むことが、方法を選ぶ第一歩です。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • モーメント推定量の性質は、大数の法則とデルタ法で調べる。最尤推定量より効率が落ちることが多い。
  • 最小二乗法の最小性は直交分解で示せる。tr(I−H)=n−p\text{tr}(I - H) = n - p が s2s^2 の分母の理由である。
  • 精度の違う測定の BLUE は、分散の逆数に比例する重みの平均である。
  • ガウス・マルコフの定理も、余分な成分が直交することから示せる。分散が等しくなければ一般化最小二乗法を使う。
  • 分位点法、最小カイ二乗法、M推定、ベイズ推定は、最尤法が使いにくい場面の道具である。

キーワードのおさらい

  • モーメント法: 標本モーメントと母集団のモーメントを等しいとおいて母数を解く方法
  • 最小二乗法: 残差の2乗和を最小にする方法
  • 線形推定(BLUE): 観測値の線形結合による推定。その中で不偏かつ分散最小のものが最良線形不偏推定量
  • ハット行列: y\boldsymbol{y} を予測値へ写す射影行列 X(X⊤X)−1X⊤X(X^\top X)^{-1}X^\top
  • 一般化最小二乗法: 誤差の共分散行列の逆行列で重みをつける最小二乗法
  • その他の手法: 分位点法、最小カイ二乗法、M推定、ベイズ推定など
  • M推定: ∑iψ(xi−θ)=0\sum_i \psi(x_i - \theta) = 0 の解を推定値とする方法

さて、推定量の作り方がそろいました。では、できあがった推定量が「よい」ことは、どうやって証明すればよいのでしょうか?

次回は、不偏性、一致性、十分性、有効性を数学的に立証する方法について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 二項分布 B(N,p)B(N, p) で NN と pp がともに未知である。標本平均が9、標本分散が3.6のとき、モーメント法の推定値の組として正しいものはどれか。
問2. 無相関で期待値 μ\mu、分散がそれぞれ3と6の2つの観測値から μ\mu を推定する。BLUE の分散として正しいものはどれか。
問3. 線形模型で n=12n = 12、計画行列の列数が p=3p = 3、残差平方和が54のとき、σ2\sigma^2 の不偏推定値として正しいものはどれか。
問4. 原点を通る回帰 yi=βxi+εiy_i = \beta x_i + \varepsilon_i で、V[εi]=σ2xiV[\varepsilon_i] = \sigma^2 x_i である。データ (x,y)(x, y) が (2, 5), (3, 7), (5, 13) のとき、β\beta の BLUE の値として正しいものはどれか。
問5. データ 0, 1, 2, 3, 10 に、k=4k = 4 のハンバーの推定量を使う。推定値として正しいものはどれか。