はじめに
「n が小さい二項分布で正規近似を使ったら、結論が変わるの?」
例えば、不良率20%とされる工程の製品を15個調べて、7個が不良だったとします。正規近似で z を計算すると、両側のp値は0.01ほどです。一方で、二項分布の確率を直接足すと、0.02から0.04の値が出ます。近似と正確な計算の差が、2倍から4倍もあるのです。
実は、1級で問われるのは、近似の公式ではありません。正確な分布を導く筋道と、近似が成り立つ理由です。局外パラメータがあれば条件付けで消し、カイ二乗の近似はテイラー展開で導き、分布が分からなければ順位に頼る。どれも理屈があります。
そこで登場するのが、今回の主役 二項分布・ポアソン分布など基本的な分布に関する検定、適合度の検定、ノンパラメトリック検定 です。正規分布の外に広がる検定を、3つの視点で整理します。
前回の記事では、正規分布の検定を尤度比から導きました。今回の記事では、正規分布を離れたときの検定の作り方を、導出を中心に解説します。
二項分布・ポアソン分布など基本的な分布に関する検定
はじめに、基本的な分布の正確な検定について解説します。
結論を一言で言うと、十分統計量の正確な分布で判定し、片側なら単調尤度比で最適性が保証される ということです。指数型分布族なら、標本の情報は十分統計量にすべて集まります。例えるなら、クラス全員の答案を見なくても、合計点の記録だけ見れば判定できる、という状況です。
| 分布 | 十分統計量 T | H0 のもとの分布 |
|---|
| ベルヌーイ分布 (p0) | ∑iXi | B(n,p0) |
| ポアソン分布 (λ0) | ∑iXi | Po(nλ0) |
| 指数分布(率 λ0) | 2λ0∑iXi | χ2(2n) |
| 幾何分布 (p0) | ∑iXi | 負の二項分布 |
これらはすべて単調尤度比を持つので、片側検定はカーリン・ルービンの定理により一様最強力です。離散型なら、大きさをちょうど α にするには確率化が要ります。実務では、α 以下で最大の棄却域を使います。
1つずつ見ていきましょう。
1. 二項分布の検定とベータ分布
X∼B(n,p) のp値は確率の足し算です。ただし、n が大きいと項が増えます。そこで便利なのが、ベータ分布との次の関係です。
P(X≥k)=P(Y≤p),Y∼Be(k, n−k+1)
証明は順序統計量で一言です。独立な一様乱数 U1,…,Un のうち p 以下の個数が X です。「p 以下が k 個以上ある」ことと、「小さいほうから k 番目の U(k) が p 以下である」ことは同じです。そして、U(k) は Be(k,n−k+1) に従います。
ポアソン分布の P(X≥x)=P(χ2(2x)≤2λ) と同じ発想です。「回数の分布」と「待ち時間の分布」は、裏表の関係にあります。
2. 両側のp値の定義
離散型の両側検定には、p値の決め方が2通りあります。分布が非対称なので、左右の裾を「同じ極端さ」でそろえられないからです。
【両側のp値の2つの定義】
- 2倍法: 観測された側の裾の確率を2倍する(1を超えたら1とする)
- 確率順法: 観測値の確率 P(X=x) 以下の確率を持つ値について、確率をすべて足す
例題:二項分布の両側検定
X∼B(15,p) で x=7 を観測した。H0:p=0.2 対 H1:p=0.2 のp値を、(1) 2倍法、(2) 確率順法、(3) 連続修正なしの正規近似で求めよ。p=0.2 のとき、P(X=0)=0.0352、P(X=7)=0.0138、P(X≥7)=0.0181 である。
【解答】
(1) x=7 は平均 np=3 より右なので、2×0.0181=0.0361 である。
(2) P(X=x)≤0.0138 を満たす値を探す。右側では x=7 と、x が8以上の値がこれを満たす。左側では最も小さい確率が P(X=0)=0.0352>0.0138 なので、左側に該当する値はない。よってp値は P(X≥7)=0.0181 である。
(3) z=(7−3)÷15×0.2×0.8=2.58 で、両側のp値は0.0098である。
正規近似は、右に裾の長い分布の裾の確率を、小さく見積もっています。np=3 は、近似が使える目安の外です。連続修正を入れて (6.5−3)÷1.55=2.26 とすると、p値は0.024となり、正確な値に近づきます。
3. ポアソン分布の検定
ポアソン分布も同様です。X1,…,X5 が Po(λ) に従うとき、H0:λ=2 対 H1:λ>2 を考えます。合計が17なら、T∼Po(10) より P(T≥17)=0.027 です。区間推定の記事の関係を使えば、P(χ2(34)≤20)=0.027 と計算しても同じです。5%で棄却します。
以上が、基本的な分布の検定についての解説です。
局外パラメータを条件付けで消す
次に、2つのポアソン分布を比べる場面について説明します。
X1∼Po(λ1t1)、X2∼Po(λ2t2) が独立で、t1,t2 は観測期間です。H0:λ1=λ2 を検定します。問題は、共通の値 λ が未知で、局外パラメータとして残ることです。
正規分布では、比をとって局外パラメータを消しました。ここでは別の手を使います。十分統計量で条件付ける のです。
例えるなら、2つのチームの得点を比べるとき、試合全体の総得点はいったん脇に置いて、「総得点のうち、どちらのチームが何点取ったか」という配分だけを見るようなものです。試合の点の入りやすさ(局外パラメータ)は、総得点に吸収されます。
例題:ポアソン分布の条件付き検定
上の設定で、S=X1+X2 とする。(1) S=s のもとでの X1 の条件付き分布を導け。(2) H0 のもとで、この分布が λ によらないことを確かめよ。(3) A工場は2年間で事故12件、B工場は1年間で事故13件だった。H1:λA<λB の検定を、有意水準5%で行え。X∼B(25,2/3) のとき P(X≤12)=0.0415 である。
【解答】
(1) μi=λiti とおく。再生性より S∼Po(μ1+μ2) である。0≤x≤s に対して、次の式を得る。
P(X1=x∣S=s)=s!e−(μ1+μ2)(μ1+μ2)sx!e−μ1μ1x⋅(s−x)!e−μ2μ2s−x=(xs)(μ1+μ2μ1)x(μ1+μ2μ2)s−x
よって、X1∣S=s は B(s,μ1/(μ1+μ2)) に従う。
(2) H0 のもとで成功確率は λt1/(λt1+λt2)=t1/(t1+t2) であり、λ が消える。
(3) s=25、q=2/(2+1)=2/3 である。XA が小さいときに棄却する。条件付きのp値は P(X≤12)=0.0415 で、0.05以下なので H0 を棄却する。
答案で一言足すと、よい点があります。どの s についても条件付きの有意水準が α なら、S の分布で平均しても有意水準は α です。つまり、E[φ∣S]≤α なら E[φ]≤α です。条件付けは、局外パラメータの値によらず第一種の過誤を守ります。
ここがポイントです。同じ発想は2×2の分割表にも使えます。周辺度数で条件付けると超幾何分布が現れます。これがフィッシャーの正確検定で、後の分割表の記事で扱います。
試験のポイント:「局外パラメータを消す」手は3つです。比をとる(t、F)、最大化する(尤度比)、十分統計量で条件付ける(ポアソン、分割表)。問題の分布を見て選びます。
以上が、条件付き検定についての説明です。
適合度の検定:カイ二乗を導く
続いて、分布そのものを検定する方法を解説します。
n 個の観測を k 個のセルに分類し、度数を N1,…,Nk とします。(N1,…,Nk) は確率 (p1,…,pk) の多項分布に従います。H0:pj=pj0 を調べるのが 適合度の検定 です。天気予報の「晴れ60%、雨40%」が、実際の出現の割合と合っているか確かめるようなものです。
期待度数を ej=npj0 とします。統計量は2つあります。
X2=j=1∑kej(Nj−ej)2,G2=2j=1∑kNjlogejNj
X2 はピアソンのカイ二乗統計量です。G2 は尤度比検定の −2logλ です。多項分布の最尤推定値が p^j=Nj/n であることから、すぐに導けます。
1つずつ見ていきましょう。
1. 2つの統計量が同じ分布に近づく理由
dj=Nj−ej とおくと ∑jdj=0 です。Njlog(Nj/ej) を dj/ej についてテイラー展開します。
(ej+dj)log(1+ejdj)=(ej+dj)(ejdj−2ej2dj2+⋯)=dj+2ejdj2+⋯
j について足すと、1次の項は ∑jdj=0 で消えます。2倍すると、G2≈∑jdj2/ej=X2 です。ピアソンの統計量は、尤度比の2次近似だったのです。
2. 自由度が k − 1 になる理由
Zj=(Nj−ej)/ej とおくと、X2=∑jZj2 です。多項分布の分散と共分散は Var(Nj)=npj(1−pj)、Cov(Ni,Nj)=−npipj です。ベクトル u=(p1,…,pk)⊤ を使うと、Z の共分散行列は次の形です。
Σ=I−uu⊤
∣u∣2=∑jpj=1 なので、Σ は u に直交する k−1 次元の空間への正射影です。多次元の中心極限定理より、Z は、標準正規ベクトルをこの空間に射影したものに分布収束します。その長さの2乗は χ2(k−1) に従います。
言葉で言うと、合計が n に固定されているので、k 個の度数のうち自由に動けるのは k−1 個です。席替えで最後の1人は座る席が決まっている、というイメージです。u の方向の成分は、制約 ∑jNj=n によって消えるのです。
k=2 で確かめましょう。N1=X、N2=n−X なら、次のようになります。
X2=np(X−np)2+n(1−p)(X−np)2=np(1−p)(X−np)2=z2
3. 母数を推定するとき
pj=pj(θ) で、θ が q 次元の未知の母数なら、セルの度数から最尤推定した θ^ を代入して ej=npj(θ^) とします。このとき、自由度は k−1−q です。推定が Z の動ける方向をさらに q 次元減らすからです。尤度比検定の言葉で言うと、全体の次元 k−1 から H0 の次元 q を引いた値です。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
セルに分ける前の個々のデータから最尤推定すると、極限の分布は χ2(k−1−q) からずれ、χ2(k−1−q) と χ2(k−1) の間になることが知られています。自由度の公式は、セルの度数による推定が前提です。
例題:遺伝型の適合度
ある遺伝子の3つの型 AA、Aa、aa の度数が、200人で 70、80、50 だった。ハーディ・ワインベルクの仮説 pAA=θ2、pAa=2θ(1−θ)、paa=(1−θ)2 を検定する。(1) θ の最尤推定量を導け。(2) X2 の値と自由度を求め、有意水準5%で検定せよ。χ0.052(1)=3.84 とする。
【解答】
(1) 度数を a,b,c とすると、対数尤度は定数を除いて次の式である。
ℓ(θ)=(2a+b)logθ+(b+2c)log(1−θ)
ℓ′(θ)=0 を解いて、θ^=(2a+b)/(2n) である。これはAの遺伝子の割合である。
(2) θ^=220÷400=0.55 である。期待度数は 200×0.3025=60.5、200×0.495=99、200×0.2025=40.5 である。
X2=60.59.52+99192+40.59.52=7.37
自由度は 3−1−1=1 である。7.37>3.84 なので、H0 を棄却する。
同じデータで G2 を計算すると7.40で、X2 とほぼ同じ値です。
以上が、適合度の検定についての解説です。
ノンパラメトリック検定:分布によらない仕組み
最後に、分布の形を仮定しない検定を見ていきましょう。
ノンパラメトリック検定 の核心は、H0 のもとで統計量の分布が、母集団の分布 F によらないことです。これを分布によらない(distribution-free)性質と呼びます。証明の型は3つあります。
【分布によらない3つの仕組み】
- 符号にする: 中央値より上か下かだけを見る。分布は二項分布に帰着する
- 順位にする: 値を順位に置き換える。分布は順列の一様分布に帰着する
- 分布関数を通す: 確率積分変換で一様分布に帰着する
運動会の順位に例えると分かりやすいです。タイムの測り方がどんな単位でも、測定器が歪んでいても、「何番目か」は変わりません。分布の形という厄介者が、順位にすると消えるのです。
1つずつ見ていきましょう。
1. 符号検定
連続型の分布で H0:中央値 =m0 とします。Xi>m0 となる個数 B は、F の形によらず B(n,1/2) に従います。例えば、10人中8人で測定値が基準を上回れば、片側のp値は P(B≥8)=0.0547 です。これが 符号検定 です。
2. 順位和の検定
X1,…,Xm と Y1,…,Yn が独立で、H0:2つの分布は同じ連続型の分布 F であるとします。N=m+n 個の値は同じ分布からの独立な標本なので、交換可能です。よって、X たちが占める順位の組は、(mN) 通りのどれも等確率です。F は式に現れません。
X の順位の和を W とします。W は、{1,…,N} から m 個を非復元抽出した和です。有限母集団の平均は (N+1)/2、分散は (N2−1)/12 です。非復元抽出の公式より、次の結果を得ます。
E[W]=2m(N+1),Var(W)=m⋅12N2−1⋅N−1N−m=12mn(N+1)
具体的に見てみましょう。m=3、n=4 なら、組は35通りで、E[W]=12、Var(W)=8 です。最小の W=6 は1通り(順位1、2、3)、W=7 も1通り(1、2、4)なので、P(W≤7)=2/35=0.057 です。分布は整数の組み合わせの数え上げだけで決まります。
順位検定の詳しい性質は、後のノンパラメトリック法の記事で扱います。
3. コルモゴロフ・スミルノフ検定
適合度の検定は、連続型のデータでもセルに分ければ使えます。しかし、分け方で結果が変わります。連続型のまま調べるのが、次の統計量です。
Dn=xsupFn(x)−F0(x)
Fn は経験分布関数、F0 は H0 の分布関数です。F0 が連続なら、Dn の分布は F0 によりません。証明です。Ui=F0(Xi) は確率積分変換により U(0,1) に従います。u=F0(x) と置き換えると、Fn(x) は Ui の経験分布関数 Gn(u) に等しいので、次の式になります。
Dn=0≤u≤1supGn(u)−u
右辺に F0 は残っていません。これで分布の表は1つで済みます。
例題:一様分布への適合
次の10個の値が U(0,1) に従うかを、コルモゴロフ・スミルノフ検定で調べよ。有意水準5%の棄却の境目は0.409とする。
0.08, 0.17, 0.21, 0.28, 0.33, 0.45, 0.52, 0.56, 0.60, 0.64
【解答】
Fn は階段関数なので、sup は各点の跳びの前後で達成される。i 番目の値 x(i) について、i/10−x(i) と x(i)−(i−1)/10 の最大を調べればよい。最大は i=10 のときの 1−0.64=0.36 である。よって D10=0.36 である。0.36<0.409 なので、H0 を棄却しない。
値は全部0.64以下で、右側がすっぽり空いています。それでも10個では棄却されません。nDn の極限分布の5%点は約1.36なので、境目はおよそ 1.36/n です。n が小さいと、この検定はかなり鈍いのです。
試験のポイント:検定統計量の分布が F によらないことを示すには、「符号」「順位」「確率積分変換」のどれに帰着するかを書きます。計算より、この1文が答案の中心です。
以上が、ノンパラメトリック検定についての解説です。
細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「正確な分布、条件付け、順位という3つの逃げ道がある」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は正規分布の外の検定を、導出の視点で整理しました。分布が分かるなら十分統計量の正確な分布を使い、局外パラメータがあるなら条件付けで消します。多項分布ではテイラー展開でカイ二乗を導き、分布の形が分からないなら順位に置き換えます。場面は違っても、「H0 のもとの分布を確定させる」という目的は同じです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 指数型分布族の片側検定は、十分統計量の正確な分布で作れて、一様最強力になる。
- 離散型の両側のp値には、2倍法と確率順法がある。np が小さいと、正規近似は大きくずれる。
- ポアソン分布の比較は、合計で条件付けると二項分布に帰着する。
- ピアソンの X2 は尤度比 G2 の2次近似。自由度は k−1−q で、射影の次元から導ける。
- 分布によらない検定は、符号、順位、確率積分変換のどれかに帰着する。
キーワードのおさらい
- 二項分布・ポアソン分布など基本的な分布に関する検定: 十分統計量の正確な分布による検定
- 条件付き検定: 十分統計量で条件付けて、局外パラメータを消す検定
- 適合度の検定: 度数が想定した確率に合うかを調べる検定
- ノンパラメトリック検定: 分布の形を仮定しない検定
- 符号検定: 基準より上の個数を二項分布で調べる検定
- コルモゴロフ・スミルノフ検定: 経験分布関数と想定の分布関数の最大の差で調べる検定
さて、検定の基本の道具はすべてそろいました。前回の k 群の F 検定に戻りましょう。因子が2つになったら、どう分解すればよいでしょうか? 差があると分かったら、どの群とどの群の差かを、どう判定すればよいでしょうか?
次回は、交互作用、共分散分析、多重比較までを導く「分散分析」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。