はじめに
「t 検定の式は覚えた。でも『尤度比検定として導出せよ』と言われたら?」
準1級では、σ を打ち消す仕組みとして t 統計量を学びました。分子と分母の σ が消える、という見事な仕掛けでした。でも、見事すぎて不思議に感じませんか? 誰かがうまい式を思いついた、という印象が残りますよね。
実は、t 検定も、分散のカイ二乗検定も、分散比の F 検定も、複数の平均を比べる F 検定も、思いつきではありません。前回の尤度比検定を正規分布に当てはめて、式を整理すると、必然的に出てきます。
そこで登場するのが、今回の主役 平均値と分散に関する検定 と 複数の平均に関する検定 の導出です。正規分布の検定を、尤度比という1つの原理から組み立て直します。
前回の記事では、尤度比検定の考え方とウィルクスの定理を学びました。今回の記事では、尤度比の計算を最後まで実行し、正確な分布を導き、棄却域の切り方の違いまで解説します。
母平均の検定:尤度比から t を導く
はじめに、最も基本の t 検定を導きます。
X1,…,Xn が N(μ,σ2) に独立に従い、σ2 は未知とします。H0:μ=μ0 対 H1:μ=μ0 を検定しましょう。σ2 は局外パラメータです。
例えるなら、基準の位置に定規を当てたときの「ばらつきの見え方」の比較です。H0 を押しつけると、ばらつきは基準 μ0 のまわりで測ることになります。自由なら、データの中心 xˉ のまわりで測れます。もし μ0 が真の値から遠ければ、基準から測ったばらつきだけが、余計に膨らんで見えます。尤度比は、この膨らみを測る道具です。
例題:尤度比検定から t 検定を導く
上の設定で、(1) 尤度比 λ を t=n(xˉ−μ0)/s で表せ。ただし s2=S/(n−1)、S=∑i(xi−xˉ)2 とする。(2) 尤度比検定が両側 t 検定と同値であることを示せ。
【解答】
(1) 対数尤度は次の式である。
ℓ(μ,σ2)=−2nlog(2πσ2)−2σ21i=1∑n(xi−μ)2
μ を固定して σ2 で最大化すると、σ2=∑i(xi−μ)2/n で、そのときの尤度は (2πσ2)−n/2e−n/2 である。したがって、最大尤度の比は、分散の推定値の比だけで決まる。
全体での最尤推定値は μ^=xˉ、σ^2=S/n である。H0 のもとでは σ~2=∑i(xi−μ0)2/n である。平方和の分解 ∑i(xi−μ0)2=S+n(xˉ−μ0)2 を使うと、次の式を得る。
λ=(σ~2σ^2)n/2=(S+n(xˉ−μ0)2S)n/2=(1+n−1t2)−n/2
(2) λ は ∣t∣ の狭義減少関数なので、「λ<c」は「∣t∣>c′」と同値である。H0 のもとで t は自由度 n−1 のt分布に従うので、c′=tα/2(n−1) とすれば大きさ α の検定になる。これは両側 t 検定である。
ここがポイントです。σ2 を最大化で処理しただけで、σ の消えた統計量が自然に現れました。局外パラメータは、打ち消すのではなく、最大化で消えていたのです。
漸近分布と正確な分布の差
では、ウィルクスの定理との関係を見ましょう。上の式から、−2logλ は次のように書けます。
−2logλ=nlog(1+n−1t2)
n が大きいと log(1+u)≈u なので、これは t2 に近づきます。t は標準正規分布に近づくので、χ2(1) に近づくわけです。
具体的に見てみましょう。n=10、xˉ=52.4、s=3.0、μ0=50 とします。t=2.4÷(3/10)=2.53 で、t0.025(9)=2.262 より棄却です。一方で、−2logλ=10log(1+6.4/9)=5.37 です。
ここで、もしカイ二乗近似の3.84を境目に使うと、どうなるでしょうか? 3.84は ∣t∣>2.05 に対応します。本当の大きさを t 分布で計算すると、次のようになります。
| n | 5 | 10 | 30 | 100 |
|---|
| 実際の大きさ | 0.098 | 0.070 | 0.056 | 0.052 |
名目5%のはずが、n=10 では7%です。正確な分布が分かるなら、近似を使う理由はありません。t 検定の価値は、「尤度比検定の、小標本でも正確な形」である点にあります。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
σ 既知の片側 z 検定は一様最強力でした。σ 未知の片側 t 検定は一様最強力ではありませんが、一様最強力不偏検定であることが知られています。検出力の計算に非心t分布を使う点は、準1級で学んだとおりです。
以上が、母平均の検定の導出についての解説です。
母分散の検定:棄却域の切り方は3通りある
次に、分散の検定について説明します。
H0:σ2=σ02 対 H1:σ2=σ02 を、μ 未知で検定します。μ が局外パラメータです。分子も分母も μ^=xˉ で最大化されるので、S だけが残ります。v=σ^2/σ02=S/(nσ02) とおいて計算すると、次の式になります。
−2logλ=n(v−1−logv)
h(v)=v−1−logv は v=1 で最小値0をとる凸関数です。したがって、尤度比検定は「v が1から離れすぎたら棄却」、つまり Q=S/σ02 が小さすぎるか大きすぎるときに棄却します。H0 のもとで、Q∼χ2(n−1) です。
問題はここからです。受容域 [c1,c2] の端をどう選ぶかです。体温計の検品に例えると、「低すぎ」と「高すぎ」の不良の判定に、合わせて5%の枠を、どう配分するかという話です。3つの流儀があります。
【棄却域の3つの切り方】
- 等裾: 両側に α/2 ずつ配分する
- 尤度比: h の値が等しい点で切る。条件は c1−nlogc1=c2−nlogc2
- 不偏: 検出力関数が σ2=σ02 で最小になるように切る
3つ目の条件を導きましょう。
例題:不偏な棄却域の条件
Q=S/σ02 の受容域を [c1,c2] とする。ν=n−1 として、(1) r=σ2/σ02 の関数として検出力関数を書け。(2) 検出力関数が r=1 で停留するための条件を導け。
【解答】
(1) S/σ2=Q/r∼χ2(ν) である。χ2(ν) の分布関数を G、密度を g とすると、次の式である。
π(r)=1−{G(rc2)−G(rc1)}
(2) 微分して r=1 を代入すると、π′(1)=c2g(c2)−c1g(c1) である。これが0なので、c1g(c1)=c2g(c2) が条件である。g(c)∝cν/2−1e−c/2 を代入して対数をとると、次の式を得る。
c1−νlogc1=c2−νlogc2
尤度比の条件と見比べてください。n が ν=n−1 に変わっただけです。n=11、α=0.05 で実際に解くと、次のようになります。
| 切り方 | c1 | c2 | 左裾 | 右裾 | π(0.9) | π(1.1) |
|---|
| 等裾 | 3.25 | 20.48 | 0.025 | 0.025 | 0.048 | 0.063 |
| 尤度比 | 3.77 | 24.23 | 0.043 | 0.007 | 0.064 | 0.046 |
| 不偏 | 3.52 | 21.73 | 0.033 | 0.017 | 0.056 | 0.055 |
表の見方を説明します。π(0.9) は、真の分散が基準の0.9倍のときの検出力です。等裾では0.048で、α=0.05 を下回ります。つまり、等裾検定は不偏ではありません。尤度比の切り方は逆に、π(1.1) が0.05を下回ります。不偏の切り方だけが、どちらの側でも0.05を上回ります。
例えば、n=11、σ02=4、S=84 なら Q=21 です。等裾では 21>20.48 で棄却しますが、尤度比と不偏では棄却しません。同じデータで判定が分かれるのです。ただし、試験や実務の既定は等裾です。3つの違いは n が大きいと消えていきます。
試験のポイント:「尤度比検定の棄却域を求めよ」では、等裾と書かずに h(v) の形を示します。数値が指定されて「両側に等しく配分する」とあるときだけ、等裾です。
以上が、母分散の検定についての説明です。
2標本問題:分散比の F とウェルチの自由度
続いて、2つの正規母集団の比較を解説します。
1つずつ見ていきましょう。
1. 分散の比の検定
H0:σ12=σ22 の尤度比を計算します。平均はどちらも標本平均で最大化されます。各群の偏差平方和を S1,S2、n=n1+n2 とします。全体の最尤推定値は Si/ni、H0 のもとでは共通の値 (S1+S2)/n です。比を計算すると、B=S1/(S1+S2) を使って次の形になります。
λ=n1n1/2n2n2/2nn/2Bn1/2(1−B)n2/2
Bn1/2(1−B)n2/2 は B=n1/n で最大になる山の形です。したがって、B が小さすぎるか大きすぎるときに棄却します。
B は F=S2/(n2−1)S1/(n1−1) の増加関数なので、「F の両側で棄却」と同じです。H0 のもとで F は F(n1−1,n2−1) に従います。これが分散比の F 検定の出どころです。
2. ウェルチの自由度の導出
次は、平均の差です。分散が等しいなら、次の節の k=2 の場合として2標本 t 検定が導けます。問題は分散が違うときです。準1級で学んだとおり、σ12/σ22 が局外パラメータとして残り、統計量の分布が定まりません。ベーレンス・フィッシャー問題と呼ばれる難問です。
例えるなら、精度の違う2台の体重計の結果を混ぜて、誤差を見積もるようなものです。精度の悪い1台の誤差が全体を支配するので、データの実質の量は、見かけより少なくなります。
ウェルチの検定は、分母を近似的にカイ二乗分布に合わせることで、これを解決します。
V=n1S12+n2S22
ここでの Si2 は不偏分散です。νV/E[V] が χ2(ν) に近いと考えて、ν を分散が一致するように決めます。これをサタスウェイトの近似と呼びます。
χ2(ν) の分散は 2ν なので、ν2Var(V)/E[V]2=2ν より、ν=2E[V]2/Var(V) です。Var(Si2)=2σi4/(ni−1) を代入し、ai=σi2/ni と書くと、次の式を得ます。
ν=n1−1a12+n2−1a22(a1+a2)2
実際には ai に si2/ni を代入します。a1 が a2 より十分に大きければ、ν は n1−1 に近づきます。精度の悪い群のデータの量で、自由度が決まるわけです。
例題:等分散の仮定で結論が変わる
n1=6、xˉ1=30、s12=25、n2=15、xˉ2=25、s22=4 である。平均の差の検定を、(1) 等分散を仮定した t 検定と、(2) ウェルチの検定で行え。有意水準は両側5%で、t0.025(19)=2.093、t0.025(5.65)=2.484 とする。
【解答】
(1) プールした分散は (5×25+14×4)÷19=9.53 である。t=5÷9.53(1/6+1/15)=3.35 で、3.35>2.093 より棄却する。
(2) a1=25÷6=4.167、a2=4÷15=0.267 である。t=5÷4.433=2.37 である。自由度は ν=4.4332÷(4.1672/5+0.2672/14)=5.65 である。2.37<2.484 より棄却しない。
結論が逆になりました。標本の小さい群の分散が大きいとき、等分散の検定は誤差を小さく見積もります。見かけの自由度19に対し、実質の自由度は5.65しかないのです。
以上が、2標本問題についての解説です。
複数の平均に関する検定:F はこうして生まれる
最後に、k 個の平均を同時に比べる検定を見ていきましょう。
k 個の群があり、i 群の j 番目の値を Xij∼N(μi,σ2) とします。ni は群の大きさ、n=∑ini です。H0:μ1=⋯=μk の尤度比を求めます。
μ の場合と同じ計算で、最大尤度の比は分散の推定値の比で決まります。全体では σ^2=SW/n、H0 のもとでは σ~2=ST/n です。SW は群内平方和、ST は全平方和で、群間平方和 SB と ST=SB+SW の関係があります。
λ2/n=STSW=(1+n−kk−1F)−1,F=SW/(n−k)SB/(k−1)
λ は F の減少関数なので、F が大きいときに棄却します。k=2 なら SB=n1+n2n1n2(xˉ1−xˉ2)2 なので、F は等分散の2標本 t 統計量の2乗です。
では、なぜ F は F(k−1,n−k) に従うのでしょうか? 証明の鍵は、座標軸の取り替えです。部屋の中の物の位置は、座標軸を回しても変わりません。同じように、データのベクトルを都合のよい座標で見直します。
データを n 次元のベクトル X とします。X の平均ベクトルを μ とします。Rn の正規直交基底 q1,…,qn を、次のように選びます。
【基底の選び方】
- q1: すべての成分が等しいベクトル(全体の平均の方向)
- q1,…,qk: 合わせて「群ごとに一定のベクトル」の空間を張る
- qk+1,…,qn: 残りの直交補空間を張る
Zj=qj⊤X とおくと、正規直交変換なので Z1,…,Zn は互いに独立で、分散はどれも σ2 です。群平均のベクトルは X の q1,…,qk の空間への射影で、全体平均のベクトルは q1 への射影です。したがって、ピタゴラスの定理より、次の式が成り立ちます。
SB=j=2∑kZj2,SW=j=k+1∑nZj2
ここがポイントです。SB と SW は別々の Zj でできているので、独立です。μ は群ごとに一定なので、j>k で E[Zj]=0 です。よって、SW/σ2∼χ2(n−k) です。H0 のもとでは μ が q1 の方向にあるので、2≤j≤k でも E[Zj]=0 です。よって、SB/σ2∼χ2(k−1) です。比をとると、F∼F(k−1,n−k) です。
H1 のもとでは、SB/σ2 が非心カイ二乗分布に従います。非心度は μ の射影の長さの2乗を σ2 で割った値で、次の式です。μˉ=∑iniμi/n です。
δ2=σ21i=1∑kni(μi−μˉ)2
検出力は、非心F分布 F(k−1,n−k;δ2) で計算します。例えば、k=3、各群5個、μ=(10,12,14)、σ=2 なら、δ2=5×8÷4=10 です。F0.05(2,12)=3.89 を超える確率を計算すると、検出力は約0.70です。
例題:大きさの違う3群の比較
3つの群のデータが次のとおりである。F 統計量と尤度比 λ2/n を求め、有意水準5%で検定せよ。F0.05(2,9)=4.26 とする。
| 群 | データ | 平均 |
|---|
| A | 8, 10, 12, 10 | 10 |
| B | 13, 15, 14 | 14 |
| C | 9, 11, 10, 8, 12 | 10 |
【解答】
全体の平均は (40+42+50)÷12=11 である。SB=4×1+3×9+5×1=36 である。SW=8+2+10=20 である。
F=(36÷2)÷(20÷9)=8.1 である。8.1>4.26 なので、H0 を棄却する。
尤度比は λ2/n=20÷56=0.357 である。公式で確かめると、1÷(1+2×8.1÷9)=0.357 で一致する。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
この検定は等分散が前提です。k 群の分散が等しいという仮説の尤度比検定を修正したものが、バートレット検定です。分散の検定なので、正規性からのずれに弱い点に注意します。
試験のポイント:SB と SW の独立性は、「直交する部分空間への射影である」と述べれば答案になります。自由度は部分空間の次元です。
以上が、複数の平均に関する検定についての解説です。
細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「最大尤度の比は分散の推定値の比になる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は正規分布の主な検定を、尤度比という1つの原理から導きました。どの検定も、局外パラメータを最大化で処理すると、分散の推定値の比に行き着きます。そして、その比が t や F の単調な関数になるので、正確な分布が使えます。思いつきに見えた式は、すべて1本の道の上にあったのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 尤度比は λ=(1+t2/(n−1))−n/2 で、t 検定と同値。カイ二乗近似は小標本では甘くなる。
- 分散の検定の統計量は n(v−1−logv)。等裾、尤度比、不偏の3つで切り方が違う。
- 分散比の検定は、B の山の形から F の両側検定になる。
- ウェルチの自由度は、分散を合わせるサタスウェイトの近似から導ける。
- k 群の尤度比は SW/ST で決まる。SB と SW の独立性は、直交する部分空間への射影から出る。
キーワードのおさらい
- 平均値と分散に関する検定: t 検定、カイ二乗検定、F 検定。すべて尤度比検定から導ける
- 複数の平均に関する検定: k 群の平均が等しいかを、F 統計量で調べる検定
- 局外パラメータ: 興味はないが、モデルに含まれる母数
- サタスウェイトの近似: 分散の一致でカイ二乗分布に当てはめて、自由度を決める方法
- 非心度: 検出力の計算に使う、平均のずれの大きさを表す量
さて、ここまでは正規分布の世界でした。でも、データはいつも正規分布に従うとは限りません。回数のデータ、分類のデータ、分布の形が分からないデータはどう検定するのでしょうか?
次回は、二項分布・ポアソン分布の検定から適合度検定、ノンパラメトリック検定までを導く「種々の検定法」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。