統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-18 統計数理

正規分布に関する検定 — 平均と分散

  • 平均値と分散に関する検定
  • 複数の平均に関する検定

はじめに

「tt 検定の式は覚えた。でも『尤度比検定として導出せよ』と言われたら?」

準1級では、σ\sigma を打ち消す仕組みとして tt 統計量を学びました。分子と分母の σ\sigma が消える、という見事な仕掛けでした。でも、見事すぎて不思議に感じませんか? 誰かがうまい式を思いついた、という印象が残りますよね。

実は、tt 検定も、分散のカイ二乗検定も、分散比の FF 検定も、複数の平均を比べる FF 検定も、思いつきではありません。前回の尤度比検定を正規分布に当てはめて、式を整理すると、必然的に出てきます。

そこで登場するのが、今回の主役 平均値と分散に関する検定 と 複数の平均に関する検定 の導出です。正規分布の検定を、尤度比という1つの原理から組み立て直します。

前回の記事では、尤度比検定の考え方とウィルクスの定理を学びました。今回の記事では、尤度比の計算を最後まで実行し、正確な分布を導き、棄却域の切り方の違いまで解説します。

母平均の検定:尤度比から t を導く

はじめに、最も基本の tt 検定を導きます。

X1,…,XnX_1, \ldots, X_n が N(μ,σ2)N(\mu, \sigma^2) に独立に従い、σ2\sigma^2 は未知とします。H0:μ=μ0H_0: \mu = \mu_0 対 H1:μ≠μ0H_1: \mu \ne \mu_0 を検定しましょう。σ2\sigma^2 は局外パラメータです。

例えるなら、基準の位置に定規を当てたときの「ばらつきの見え方」の比較です。H0H_0 を押しつけると、ばらつきは基準 μ0\mu_0 のまわりで測ることになります。自由なら、データの中心 xˉ\bar{x} のまわりで測れます。もし μ0\mu_0 が真の値から遠ければ、基準から測ったばらつきだけが、余計に膨らんで見えます。尤度比は、この膨らみを測る道具です。

例題:尤度比検定から t 検定を導く

上の設定で、(1) 尤度比 λ\lambda を t=n(xˉ−μ0)/st = \sqrt{n}(\bar{x} - \mu_0)/s で表せ。ただし s2=S/(n−1)s^2 = S/(n - 1)、S=∑i(xi−xˉ)2S = \sum_i (x_i - \bar{x})^2 とする。(2) 尤度比検定が両側 tt 検定と同値であることを示せ。

【解答】

(1) 対数尤度は次の式である。

ℓ(μ,σ2)=−n2log⁡(2πσ2)−12σ2∑i=1n(xi−μ)2\ell(\mu, \sigma^2) = -\frac{n}{2}\log(2\pi\sigma^2) - \frac{1}{2\sigma^2}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \mu)^2

μ\mu を固定して σ2\sigma^2 で最大化すると、σ2=∑i(xi−μ)2/n\sigma^2 = \sum_i (x_i - \mu)^2 / n で、そのときの尤度は (2πσ2)−n/2e−n/2(2\pi\sigma^2)^{-n/2} e^{-n/2} である。したがって、最大尤度の比は、分散の推定値の比だけで決まる。

全体での最尤推定値は μ^=xˉ\hat{\mu} = \bar{x}、σ^2=S/n\hat{\sigma}^2 = S/n である。H0H_0 のもとでは σ~2=∑i(xi−μ0)2/n\tilde{\sigma}^2 = \sum_i (x_i - \mu_0)^2 / n である。平方和の分解 ∑i(xi−μ0)2=S+n(xˉ−μ0)2\sum_i (x_i - \mu_0)^2 = S + n(\bar{x} - \mu_0)^2 を使うと、次の式を得る。

λ=(σ^2σ~2)n/2=(SS+n(xˉ−μ0)2)n/2=(1+t2n−1)−n/2\lambda = \left(\frac{\hat{\sigma}^2}{\tilde{\sigma}^2}\right)^{n/2} = \left(\frac{S}{S + n(\bar{x} - \mu_0)^2}\right)^{n/2} = \left(1 + \frac{t^2}{n - 1}\right)^{-n/2}

(2) λ\lambda は ∣t∣|t| の狭義減少関数なので、「λ<c\lambda < c」は「∣t∣>c′|t| > c'」と同値である。H0H_0 のもとで tt は自由度 n−1n - 1 のt分布に従うので、c′=tα/2(n−1)c' = t_{\alpha/2}(n - 1) とすれば大きさ α\alpha の検定になる。これは両側 tt 検定である。

ここがポイントです。σ2\sigma^2 を最大化で処理しただけで、σ\sigma の消えた統計量が自然に現れました。局外パラメータは、打ち消すのではなく、最大化で消えていたのです。

漸近分布と正確な分布の差

では、ウィルクスの定理との関係を見ましょう。上の式から、−2log⁡λ-2\log\lambda は次のように書けます。

−2log⁡λ=nlog⁡(1+t2n−1)-2\log\lambda = n\log\left(1 + \frac{t^2}{n - 1}\right)

nn が大きいと log⁡(1+u)≈u\log(1 + u) \approx u なので、これは t2t^2 に近づきます。tt は標準正規分布に近づくので、χ2(1)\chi^2(1) に近づくわけです。

具体的に見てみましょう。n=10n = 10、xˉ=52.4\bar{x} = 52.4、s=3.0s = 3.0、μ0=50\mu_0 = 50 とします。t=2.4÷(3/10)=2.53t = 2.4 \div (3 / \sqrt{10}) = 2.53 で、t0.025(9)=2.262t_{0.025}(9) = 2.262 より棄却です。一方で、−2log⁡λ=10log⁡(1+6.4/9)=5.37-2\log\lambda = 10\log(1 + 6.4/9) = 5.37 です。

ここで、もしカイ二乗近似の3.84を境目に使うと、どうなるでしょうか? 3.84は ∣t∣>2.05|t| > 2.05 に対応します。本当の大きさを tt 分布で計算すると、次のようになります。

nn51030100
実際の大きさ0.0980.0700.0560.052

名目5%のはずが、n=10n = 10 では7%です。正確な分布が分かるなら、近似を使う理由はありません。tt 検定の価値は、「尤度比検定の、小標本でも正確な形」である点にあります。

補足(ここは読み飛ばしてOK): σ\sigma 既知の片側 zz 検定は一様最強力でした。σ\sigma 未知の片側 tt 検定は一様最強力ではありませんが、一様最強力不偏検定であることが知られています。検出力の計算に非心t分布を使う点は、準1級で学んだとおりです。

以上が、母平均の検定の導出についての解説です。

母分散の検定:棄却域の切り方は3通りある

次に、分散の検定について説明します。

H0:σ2=σ02H_0: \sigma^2 = \sigma_0^2 対 H1:σ2≠σ02H_1: \sigma^2 \ne \sigma_0^2 を、μ\mu 未知で検定します。μ\mu が局外パラメータです。分子も分母も μ^=xˉ\hat{\mu} = \bar{x} で最大化されるので、SS だけが残ります。v=σ^2/σ02=S/(nσ02)v = \hat{\sigma}^2 / \sigma_0^2 = S / (n\sigma_0^2) とおいて計算すると、次の式になります。

−2log⁡λ=n (v−1−log⁡v)-2\log\lambda = n\,(v - 1 - \log v)

h(v)=v−1−log⁡vh(v) = v - 1 - \log v は v=1v = 1 で最小値0をとる凸関数です。したがって、尤度比検定は「vv が1から離れすぎたら棄却」、つまり Q=S/σ02Q = S/\sigma_0^2 が小さすぎるか大きすぎるときに棄却します。H0H_0 のもとで、Q∼χ2(n−1)Q \sim \chi^2(n - 1) です。

問題はここからです。受容域 [c1,c2][c_1, c_2] の端をどう選ぶかです。体温計の検品に例えると、「低すぎ」と「高すぎ」の不良の判定に、合わせて5%の枠を、どう配分するかという話です。3つの流儀があります。

【棄却域の3つの切り方】

  1. 等裾: 両側に α/2\alpha/2 ずつ配分する
  2. 尤度比: hh の値が等しい点で切る。条件は c1−nlog⁡c1=c2−nlog⁡c2c_1 - n\log c_1 = c_2 - n\log c_2
  3. 不偏: 検出力関数が σ2=σ02\sigma^2 = \sigma_0^2 で最小になるように切る

3つ目の条件を導きましょう。

例題:不偏な棄却域の条件

Q=S/σ02Q = S/\sigma_0^2 の受容域を [c1,c2][c_1, c_2] とする。ν=n−1\nu = n - 1 として、(1) r=σ2/σ02r = \sigma^2/\sigma_0^2 の関数として検出力関数を書け。(2) 検出力関数が r=1r = 1 で停留するための条件を導け。

【解答】

(1) S/σ2=Q/r∼χ2(ν)S/\sigma^2 = Q/r \sim \chi^2(\nu) である。χ2(ν)\chi^2(\nu) の分布関数を GG、密度を gg とすると、次の式である。

π(r)=1−{G ⁣(c2r)−G ⁣(c1r)}\pi(r) = 1 - \left\{G\!\left(\frac{c_2}{r}\right) - G\!\left(\frac{c_1}{r}\right)\right\}

(2) 微分して r=1r = 1 を代入すると、π′(1)=c2g(c2)−c1g(c1)\pi'(1) = c_2 g(c_2) - c_1 g(c_1) である。これが0なので、c1g(c1)=c2g(c2)c_1 g(c_1) = c_2 g(c_2) が条件である。g(c)∝cν/2−1e−c/2g(c) \propto c^{\nu/2 - 1} e^{-c/2} を代入して対数をとると、次の式を得る。

c1−νlog⁡c1=c2−νlog⁡c2c_1 - \nu\log c_1 = c_2 - \nu\log c_2

尤度比の条件と見比べてください。nn が ν=n−1\nu = n - 1 に変わっただけです。n=11n = 11、α=0.05\alpha = 0.05 で実際に解くと、次のようになります。

切り方c1c_1c2c_2左裾右裾π(0.9)\pi(0.9)π(1.1)\pi(1.1)
等裾3.2520.480.0250.0250.0480.063
尤度比3.7724.230.0430.0070.0640.046
不偏3.5221.730.0330.0170.0560.055

表の見方を説明します。π(0.9)\pi(0.9) は、真の分散が基準の0.9倍のときの検出力です。等裾では0.048で、α=0.05\alpha = 0.05 を下回ります。つまり、等裾検定は不偏ではありません。尤度比の切り方は逆に、π(1.1)\pi(1.1) が0.05を下回ります。不偏の切り方だけが、どちらの側でも0.05を上回ります。

例えば、n=11n = 11、σ02=4\sigma_0^2 = 4、S=84S = 84 なら Q=21Q = 21 です。等裾では 21>20.4821 > 20.48 で棄却しますが、尤度比と不偏では棄却しません。同じデータで判定が分かれるのです。ただし、試験や実務の既定は等裾です。3つの違いは nn が大きいと消えていきます。

試験のポイント:「尤度比検定の棄却域を求めよ」では、等裾と書かずに h(v)h(v) の形を示します。数値が指定されて「両側に等しく配分する」とあるときだけ、等裾です。

以上が、母分散の検定についての説明です。

2標本問題:分散比の F とウェルチの自由度

続いて、2つの正規母集団の比較を解説します。

1つずつ見ていきましょう。

1. 分散の比の検定

H0:σ12=σ22H_0: \sigma_1^2 = \sigma_2^2 の尤度比を計算します。平均はどちらも標本平均で最大化されます。各群の偏差平方和を S1,S2S_1, S_2、n=n1+n2n = n_1 + n_2 とします。全体の最尤推定値は Si/niS_i / n_i、H0H_0 のもとでは共通の値 (S1+S2)/n(S_1 + S_2)/n です。比を計算すると、B=S1/(S1+S2)B = S_1/(S_1 + S_2) を使って次の形になります。

λ=nn/2n1n1/2 n2n2/2  Bn1/2(1−B)n2/2\lambda = \frac{n^{n/2}}{n_1^{n_1/2}\, n_2^{n_2/2}}\; B^{n_1/2}(1 - B)^{n_2/2}

Bn1/2(1−B)n2/2B^{n_1/2}(1 - B)^{n_2/2} は B=n1/nB = n_1/n で最大になる山の形です。したがって、BB が小さすぎるか大きすぎるときに棄却します。

BB は F=S1/(n1−1)S2/(n2−1)F = \dfrac{S_1/(n_1 - 1)}{S_2/(n_2 - 1)} の増加関数なので、「FF の両側で棄却」と同じです。H0H_0 のもとで FF は F(n1−1,n2−1)F(n_1 - 1, n_2 - 1) に従います。これが分散比の FF 検定の出どころです。

2. ウェルチの自由度の導出

次は、平均の差です。分散が等しいなら、次の節の k=2k = 2 の場合として2標本 tt 検定が導けます。問題は分散が違うときです。準1級で学んだとおり、σ12/σ22\sigma_1^2/\sigma_2^2 が局外パラメータとして残り、統計量の分布が定まりません。ベーレンス・フィッシャー問題と呼ばれる難問です。

例えるなら、精度の違う2台の体重計の結果を混ぜて、誤差を見積もるようなものです。精度の悪い1台の誤差が全体を支配するので、データの実質の量は、見かけより少なくなります。

ウェルチの検定は、分母を近似的にカイ二乗分布に合わせることで、これを解決します。

V=S12n1+S22n2V = \frac{S_1^2}{n_1} + \frac{S_2^2}{n_2}

ここでの Si2S_i^2 は不偏分散です。νV/E[V]\nu V / E[V] が χ2(ν)\chi^2(\nu) に近いと考えて、ν\nu を分散が一致するように決めます。これをサタスウェイトの近似と呼びます。

χ2(ν)\chi^2(\nu) の分散は 2ν2\nu なので、ν2 Var(V)/E[V]2=2ν\nu^2\, \mathrm{Var}(V) / E[V]^2 = 2\nu より、ν=2E[V]2/Var(V)\nu = 2E[V]^2 / \mathrm{Var}(V) です。Var(Si2)=2σi4/(ni−1)\mathrm{Var}(S_i^2) = 2\sigma_i^4/(n_i - 1) を代入し、ai=σi2/nia_i = \sigma_i^2 / n_i と書くと、次の式を得ます。

ν=(a1+a2)2a12n1−1+a22n2−1\nu = \frac{(a_1 + a_2)^2}{\dfrac{a_1^2}{n_1 - 1} + \dfrac{a_2^2}{n_2 - 1}}

実際には aia_i に si2/nis_i^2 / n_i を代入します。a1a_1 が a2a_2 より十分に大きければ、ν\nu は n1−1n_1 - 1 に近づきます。精度の悪い群のデータの量で、自由度が決まるわけです。

例題:等分散の仮定で結論が変わる

n1=6n_1 = 6、xˉ1=30\bar{x}_1 = 30、s12=25s_1^2 = 25、n2=15n_2 = 15、xˉ2=25\bar{x}_2 = 25、s22=4s_2^2 = 4 である。平均の差の検定を、(1) 等分散を仮定した tt 検定と、(2) ウェルチの検定で行え。有意水準は両側5%で、t0.025(19)=2.093t_{0.025}(19) = 2.093、t0.025(5.65)=2.484t_{0.025}(5.65) = 2.484 とする。

【解答】

(1) プールした分散は (5×25+14×4)÷19=9.53(5 \times 25 + 14 \times 4) \div 19 = 9.53 である。t=5÷9.53(1/6+1/15)=3.35t = 5 \div \sqrt{9.53(1/6 + 1/15)} = 3.35 で、3.35>2.0933.35 > 2.093 より棄却する。

(2) a1=25÷6=4.167a_1 = 25 \div 6 = 4.167、a2=4÷15=0.267a_2 = 4 \div 15 = 0.267 である。t=5÷4.433=2.37t = 5 \div \sqrt{4.433} = 2.37 である。自由度は ν=4.4332÷(4.1672/5+0.2672/14)=5.65\nu = 4.433^2 \div (4.167^2/5 + 0.267^2/14) = 5.65 である。2.37<2.4842.37 < 2.484 より棄却しない。

結論が逆になりました。標本の小さい群の分散が大きいとき、等分散の検定は誤差を小さく見積もります。見かけの自由度19に対し、実質の自由度は5.65しかないのです。

以上が、2標本問題についての解説です。

複数の平均に関する検定:F はこうして生まれる

最後に、kk 個の平均を同時に比べる検定を見ていきましょう。

kk 個の群があり、ii 群の jj 番目の値を Xij∼N(μi,σ2)X_{ij} \sim N(\mu_i, \sigma^2) とします。nin_i は群の大きさ、n=∑inin = \sum_i n_i です。H0:μ1=⋯=μkH_0: \mu_1 = \cdots = \mu_k の尤度比を求めます。

μ\mu の場合と同じ計算で、最大尤度の比は分散の推定値の比で決まります。全体では σ^2=SW/n\hat{\sigma}^2 = S_W / n、H0H_0 のもとでは σ~2=ST/n\tilde{\sigma}^2 = S_T / n です。SWS_W は群内平方和、STS_T は全平方和で、群間平方和 SBS_B と ST=SB+SWS_T = S_B + S_W の関係があります。

λ2/n=SWST=(1+k−1n−k F)−1,F=SB/(k−1)SW/(n−k)\lambda^{2/n} = \frac{S_W}{S_T} = \left(1 + \frac{k - 1}{n - k}\,F\right)^{-1}, \qquad F = \frac{S_B/(k - 1)}{S_W/(n - k)}

λ\lambda は FF の減少関数なので、FF が大きいときに棄却します。k=2k = 2 なら SB=n1n2n1+n2(xˉ1−xˉ2)2S_B = \frac{n_1 n_2}{n_1 + n_2}(\bar{x}_1 - \bar{x}_2)^2 なので、FF は等分散の2標本 tt 統計量の2乗です。

では、なぜ FF は F(k−1,n−k)F(k - 1, n - k) に従うのでしょうか? 証明の鍵は、座標軸の取り替えです。部屋の中の物の位置は、座標軸を回しても変わりません。同じように、データのベクトルを都合のよい座標で見直します。

データを nn 次元のベクトル XX とします。XX の平均ベクトルを μ\mu とします。Rn\mathbb{R}^n の正規直交基底 q1,…,qnq_1, \ldots, q_n を、次のように選びます。

【基底の選び方】

  • q1q_1: すべての成分が等しいベクトル(全体の平均の方向)
  • q1,…,qkq_1, \ldots, q_k: 合わせて「群ごとに一定のベクトル」の空間を張る
  • qk+1,…,qnq_{k+1}, \ldots, q_n: 残りの直交補空間を張る

Zj=qj⊤XZ_j = q_j^\top X とおくと、正規直交変換なので Z1,…,ZnZ_1, \ldots, Z_n は互いに独立で、分散はどれも σ2\sigma^2 です。群平均のベクトルは XX の q1,…,qkq_1, \ldots, q_k の空間への射影で、全体平均のベクトルは q1q_1 への射影です。したがって、ピタゴラスの定理より、次の式が成り立ちます。

SB=∑j=2kZj2,SW=∑j=k+1nZj2S_B = \sum_{j=2}^{k} Z_j^2, \qquad S_W = \sum_{j=k+1}^{n} Z_j^2

ここがポイントです。SBS_B と SWS_W は別々の ZjZ_j でできているので、独立です。μ\mu は群ごとに一定なので、j>kj > k で E[Zj]=0E[Z_j] = 0 です。よって、SW/σ2∼χ2(n−k)S_W/\sigma^2 \sim \chi^2(n - k) です。H0H_0 のもとでは μ\mu が q1q_1 の方向にあるので、2≤j≤k2 \le j \le k でも E[Zj]=0E[Z_j] = 0 です。よって、SB/σ2∼χ2(k−1)S_B/\sigma^2 \sim \chi^2(k - 1) です。比をとると、F∼F(k−1,n−k)F \sim F(k - 1, n - k) です。

H1H_1 のもとでは、SB/σ2S_B/\sigma^2 が非心カイ二乗分布に従います。非心度は μ\mu の射影の長さの2乗を σ2\sigma^2 で割った値で、次の式です。μˉ=∑iniμi/n\bar{\mu} = \sum_i n_i\mu_i / n です。

δ2=1σ2∑i=1kni(μi−μˉ)2\delta^2 = \frac{1}{\sigma^2}\sum_{i=1}^{k} n_i(\mu_i - \bar{\mu})^2

検出力は、非心F分布 F(k−1,n−k;δ2)F(k - 1, n - k; \delta^2) で計算します。例えば、k=3k = 3、各群5個、μ=(10,12,14)\mu = (10, 12, 14)、σ=2\sigma = 2 なら、δ2=5×8÷4=10\delta^2 = 5 \times 8 \div 4 = 10 です。F0.05(2,12)=3.89F_{0.05}(2, 12) = 3.89 を超える確率を計算すると、検出力は約0.70です。

例題:大きさの違う3群の比較

3つの群のデータが次のとおりである。FF 統計量と尤度比 λ2/n\lambda^{2/n} を求め、有意水準5%で検定せよ。F0.05(2,9)=4.26F_{0.05}(2, 9) = 4.26 とする。

群データ平均
A8, 10, 12, 1010
B13, 15, 1414
C9, 11, 10, 8, 1210

【解答】

全体の平均は (40+42+50)÷12=11(40 + 42 + 50) \div 12 = 11 である。SB=4×1+3×9+5×1=36S_B = 4 \times 1 + 3 \times 9 + 5 \times 1 = 36 である。SW=8+2+10=20S_W = 8 + 2 + 10 = 20 である。

F=(36÷2)÷(20÷9)=8.1F = (36 \div 2) \div (20 \div 9) = 8.1 である。8.1>4.268.1 > 4.26 なので、H0H_0 を棄却する。

尤度比は λ2/n=20÷56=0.357\lambda^{2/n} = 20 \div 56 = 0.357 である。公式で確かめると、1÷(1+2×8.1÷9)=0.3571 \div (1 + 2 \times 8.1 \div 9) = 0.357 で一致する。

補足(ここは読み飛ばしてOK): この検定は等分散が前提です。kk 群の分散が等しいという仮説の尤度比検定を修正したものが、バートレット検定です。分散の検定なので、正規性からのずれに弱い点に注意します。

試験のポイント:SBS_B と SWS_W の独立性は、「直交する部分空間への射影である」と述べれば答案になります。自由度は部分空間の次元です。

以上が、複数の平均に関する検定についての解説です。

細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「最大尤度の比は分散の推定値の比になる」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は正規分布の主な検定を、尤度比という1つの原理から導きました。どの検定も、局外パラメータを最大化で処理すると、分散の推定値の比に行き着きます。そして、その比が tt や FF の単調な関数になるので、正確な分布が使えます。思いつきに見えた式は、すべて1本の道の上にあったのです。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 尤度比は λ=(1+t2/(n−1))−n/2\lambda = (1 + t^2/(n - 1))^{-n/2} で、tt 検定と同値。カイ二乗近似は小標本では甘くなる。
  • 分散の検定の統計量は n(v−1−log⁡v)n(v - 1 - \log v)。等裾、尤度比、不偏の3つで切り方が違う。
  • 分散比の検定は、BB の山の形から FF の両側検定になる。
  • ウェルチの自由度は、分散を合わせるサタスウェイトの近似から導ける。
  • kk 群の尤度比は SW/STS_W / S_T で決まる。SBS_B と SWS_W の独立性は、直交する部分空間への射影から出る。

キーワードのおさらい

  • 平均値と分散に関する検定: tt 検定、カイ二乗検定、FF 検定。すべて尤度比検定から導ける
  • 複数の平均に関する検定: kk 群の平均が等しいかを、FF 統計量で調べる検定
  • 局外パラメータ: 興味はないが、モデルに含まれる母数
  • サタスウェイトの近似: 分散の一致でカイ二乗分布に当てはめて、自由度を決める方法
  • 非心度: 検出力の計算に使う、平均のずれの大きさを表す量

さて、ここまでは正規分布の世界でした。でも、データはいつも正規分布に従うとは限りません。回数のデータ、分類のデータ、分布の形が分からないデータはどう検定するのでしょうか?

次回は、二項分布・ポアソン分布の検定から適合度検定、ノンパラメトリック検定までを導く「種々の検定法」について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. σ2\sigma^2 未知の正規分布で H0:μ=μ0H_0: \mu = \mu_0 を検定する。n=11n = 11 で t=2t = 2 のとき、尤度比検定の統計量 −2log⁡λ-2\log\lambda の値に最も近いものはどれか。log⁡1.4=0.3365\log 1.4 = 0.3365 とする。
問2. μ\mu 未知の正規分布で H0:σ2=σ02H_0: \sigma^2 = \sigma_0^2 を検定する。n=20n = 20、S/σ02=30S/\sigma_0^2 = 30 のとき、尤度比検定の統計量 −2log⁡λ-2\log\lambda の値に最も近いものはどれか。log⁡1.5=0.4055\log 1.5 = 0.4055 とする。
問3. 不偏分散が s12=20s_1^2 = 20(n1=5n_1 = 5)、s22=5s_2^2 = 5(n2=10n_2 = 10)である。ウェルチの近似の自由度に最も近いものはどれか。
問4. 4群、全体で n=24n = 24 の比較で、SW/ST=0.6S_W / S_T = 0.6 だった。FF 統計量の値に最も近いものはどれか。
問5. kk 群の比較で、群間平方和 SBS_B と群内平方和 SWS_W が独立である理由として、最も適切なものはどれか。