はじめに
同じ体を別の角度で写すように、分布の関数も見せ方の違い
「分布って、結局どの関数を見れば全部分かるの?」
準1級の問題集を開くと、確率関数、確率密度関数、累積分布関数、生存関数と、よく似た名前の関数が次々に出てきます。さらに同時、周辺、条件つきという言葉まで付くと、もう何が何だか分からなくなりますよね。
例えば、1つの分布を健康診断の結果に例えてみましょう。同じ人の体でも、血液検査の表、レントゲン写真、心電図と、見せ方はいくつもあります。どれも同じ体を別の角度から写したものです。
実は、分布の関数もこれと同じです。名前はたくさんありますが、同じ分布の別の見せ方にすぎません。1つ分かれば、残りは足し算や積分で移り変われます。
そして、見せ方の中には、計算のために作られた特別なものがあります。そこで登場するのが、今回の主役 モーメント母関数 と 確率母関数 です。平均や分散を微分だけで取り出せる、分布の情報の詰まった関数です。
前回の記事では、事象の確率を計算しました。今回の記事では、確率変数の分布を表す関数の整理から始めて、同時・周辺・条件つきの分布、そして2つの母関数の使い方について解説します。
1つの確率変数を表す4つの関数
2分待っても来ない確率は、fの右の面積でSの値
はじめに、確率変数が1つのときの関数を整理します。
2級で学んだように、確率変数には離散型と連続型があります。離散型の分布を表すのが 確率関数 で、連続型の分布を表すのが 確率密度関数 です。
p(x)=P(X=x),P(a≤X≤b)=∫abf(x)dx
p(x) は値 x をとる確率そのものです。一方、f(x) は確率そのものではなく、確率の濃さです。積分して初めて確率になります。だから f(x) は1を超えてもかまいません。どちらも合計すると1で、∑xp(x)=1、∫f(x)dx=1 を満たします。
地図に例えると、確率関数は「町ごとの人数」で、確率密度関数は「人口密度」です。人口密度は、面積を掛けて初めて人数になります。
次に、離散型でも連続型でも使える関数が2つあります。
F(x)=P(X≤x),S(x)=P(X>x)=1−F(x)
F(x) が 累積分布関数 で、x までの確率の累積です。S(x) が 生存関数 で、x を超える確率です。生存関数という名前は、X を寿命と見たときに「時刻 x でまだ生きている確率」にあたることから来ています。
累積分布関数には、次の性質があります。
【累積分布関数の性質】
- 単調に増える(減らない)
- x→−∞ で0、x→∞ で1に近づく
- 右連続である。離散型では階段状になる
- 連続型では、微分すると確率密度関数になる: f(x)=F′(x)
具体的に見てみましょう。バスの待ち時間 X(分)の確率密度関数が f(x)=0.5e−0.5x(x≥0)だとします。これは2級で学んだ指数分布です。積分すると F(x)=1−e−0.5x なので、S(x)=e−0.5x です。
例えば、2分待っても来ない確率は S(2)=e−1≈0.368 です。1分より長く3分以内に来る確率は F(3)−F(1)=e−0.5−e−1.5≈0.383 です。
せっかくなので、離散型の例も見てみましょう。サイコロの目 X では p(x)=1/6 です。累積分布関数は階段で、F(3)=1/2 です。さらに F(3.9) も 1/2 です。整数の間では段の高さが変わらないのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
X≥0 のとき、期待値は E[X]=∫0∞S(x)dx と書けます。指数分布なら ∫0∞e−0.5xdx=2 で、平均が2分と分かります。
以上が、1つの確率変数を表す関数についての解説です。
同時分布と周辺分布:2つの変数を並べて見る
もう片方を足し切ると、余白に周辺分布が現れる
次に、確率変数が2つのときを説明します。
2つの確率変数 X,Y を同時に見るときに使うのが、同時確率関数 と 同時確率密度関数 です。
p(x,y)=P(X=x, Y=y),P((X,Y)∈A)=∬Af(x,y)dxdy
ここから1つの変数だけの分布に戻るには、もう片方を足し切ります。これが 周辺確率関数 と 周辺確率密度関数 です。
pX(x)=y∑p(x,y),fX(x)=∫−∞∞f(x,y)dy
クロス表の右端の合計欄を思い出してください。表の余白(margin)に書くので「周辺」と言います。
具体的に見てみましょう。ある部活の試合で、前半の得点 X と後半の得点 Y が次の同時確率関数に従うとします。
| Y=0 | Y=1 | Y=2 | 合計 |
|---|
| X=0 | 0.20 | 0.15 | 0.05 | 0.40 |
| X=1 | 0.10 | 0.30 | 0.20 | 0.60 |
| 合計 | 0.30 | 0.45 | 0.25 | 1.00 |
表の見方はシンプルです。中のマスが同時確率で、右端の列が X の周辺確率関数、下の行が Y の周辺確率関数です。例えば P(Y=1)=0.15+0.30=0.45 です。
連続型でも同じです。0<x<1、0<y<1 で f(x,y)=x+y とします。y を積分で足し切ると、周辺確率密度関数は次のようになります。
fX(x)=∫01(x+y)dy=x+21
∫01(x+1/2)dx=1 となり、確かに確率密度関数です。
注意点が1つあります。周辺分布が2つ分かっても、同時分布は決まりません。表の合計欄だけを見て、中のマスを復元することはできないからです。
以上が、同時分布と周辺分布についての説明です。
条件つき分布と独立
表の1行を切り出し、行の合計で割り直すと条件つき分布
続いて、片方の値が分かったときの分布について解説します。
X=x と分かったもとでの Y の分布が、条件つき確率関数 と 条件つき確率密度関数 です。前回の条件付き確率と同じ発想で、同時を周辺で割ります。
p(y∣x)=pX(x)p(x,y),f(y∣x)=fX(x)f(x,y)
言葉で言うと、「表の1行だけを切り出して、行の合計が1になるように割り直す」ということです。
先ほどの得点の表で計算してみましょう。前半に得点した試合(X=1)の行は 0.10、0.30、0.20 で、合計は0.60です。これを0.60で割ると、次のようになります。
P(Y=0∣X=1)=61,P(Y=1∣X=1)=21,P(Y=2∣X=1)=31
前半に得点できなかった試合では P(Y=2∣X=0)=0.05÷0.40=0.125 です。前半の調子が後半にも続いていますね。
そして、どの x,y でも同時が周辺の積になるとき、X と Y は独立です。
p(x,y)=pX(x)pY(y)またはf(x,y)=fX(x)fY(y)
このとき、条件つき分布は周辺分布と一致します。得点の表では P(X=1,Y=0)=0.10 に対して 0.60×0.30=0.18 なので、独立ではありません。
例題:三角形の上の一様分布
0<y<x<1 の範囲で f(x,y)=2 とします。周辺確率密度関数 fX(x)、fY(y) と、条件つき確率密度関数 f(y∣x) を求め、独立かどうか答えましょう。
【解き方】
- x を固定すると y の範囲は 0<y<x なので、fX(x)=∫0x2dy=2x
- y を固定すると x の範囲は y<x<1 なので、fY(y)=∫y12dx=2(1−y)
- 条件つきは f(y∣x)=2÷2x=1/x(0<y<x)
- fX(x)fY(y)=4x(1−y) は2と等しくないので、独立ではない
答えは、fX(x)=2x、fY(y)=2(1−y)、f(y∣x)=1/x で、独立ではありません。X=x のもとで、Y は (0,x) の一様分布になっています。
試験のポイント:積分の範囲は、f(x,y) が正になる領域の形で決まります。領域が長方形でないなら、それだけで独立ではありません。y のとれる範囲が x によって変わるからです。
以上が、条件つき分布と独立についての解説です。
モーメント母関数:分布を1つの関数に詰める
分布を詰めた関数から、t=0の微分で平均を取り出す
次に、計算のための関数であるモーメント母関数について説明します。
モーメント母関数(積率母関数、moment generating function)は、次の関数です。
MX(t)=E[etX]
t は実数の変数で、0 の近くで期待値が有限なときに定義します。なぜこんな奇妙なものを考えるのでしょうか? etX をテイラー展開すると、理由が見えます。
MX(t)=E[1+tX+2!t2X2+⋯]=1+E[X]t+2!E[X2]t2+⋯
E[X] や E[X2] が、t のべきの係数として順に並んでいます。圧縮ファイルのように、分布の情報が1つの関数に詰まっているのです。取り出すには、微分して t=0 を入れます。
MX′(0)=E[X],MX′′(0)=E[X2],V[X]=MX′′(0)−MX′(0)2
具体的に見てみましょう。ポアソン分布 Po(λ) のモーメント母関数を求めます。
M(t)=x=0∑∞etxx!e−λλx=e−λx=0∑∞x!(λet)x=exp(λ(et−1))
微分すると M′(t)=λetM(t) なので、M′(0)=λ です。もう1回微分すると M′′(0)=λ+λ2 で、分散は λ+λ2−λ2=λ です。2級で覚えた「期待値と分散が等しい」が、微分だけで出てきました。
モーメント母関数の強みは、次の2つです。
【モーメント母関数の2つの強み】
- 一意性: モーメント母関数が一致すれば、分布も一致する
- 独立な和: X,Y が独立なら MX+Y(t)=MX(t)MY(t)
2つ目は、et(X+Y)=etXetY と、独立なら積の期待値が期待値の積になることから出ます。この2つを組み合わせると、和の分布が分かります。
例えば、独立な X∼Po(2)、Y∼Po(3) の和は、次のようになります。
MX+Y(t)=exp(2(et−1))exp(3(et−1))=exp(5(et−1))
これは Po(5) のモーメント母関数です。一意性より、X+Y∼Po(5) と分かります。和の分布を直接足し上げなくても、関数の積を見るだけで答えが出るのです。
例題:指数分布の平均と分散
f(x)=λe−λx(x≥0)のモーメント母関数を求め、期待値と分散を計算しましょう。
【解き方】
- t<λ のとき M(t)=∫0∞λe−(λ−t)xdx=λ−tλ
- 微分する: M′(t)=(λ−t)2λ、M′′(t)=(λ−t)32λ
- t=0 を入れる: M′(0)=λ1、M′′(0)=λ22
- 分散は λ22−λ21=λ21
答えは、期待値 1/λ、分散 1/λ2 です。
主な分布のモーメント母関数は、次のとおりです。
| 分布 | モーメント母関数 |
|---|
| 二項分布 B(n,p) | (1−p+pet)n |
| ポアソン分布 Po(λ) | exp(λ(et−1)) |
| 正規分布 N(μ,σ2) | exp(μt+σ2t2/2) |
| 指数分布 | λ/(λ−t)(t<λ) |
補足(ここは読み飛ばしてOK):
モーメント母関数は、どの分布にもあるわけではありません。例えば、後の記事で学ぶコーシー分布には存在しません。そのときは、eitX の期待値である特性関数を使います。特性関数はどの分布にも存在します。
試験のポイント:与えられた M(t) を表と見比べて分布を当てる問題が定番です。正規分布なら、t の係数が平均で、t2 の係数の2倍が分散です。
以上が、モーメント母関数についての説明です。
確率母関数:0以上の整数を数える分布の道具
確率の整理棚。7の棚に和が7の確率がしまってある
最後に、確率母関数を見ていきましょう。
確率母関数 は、0,1,2,… の値をとる確率変数のための関数です。
GX(s)=E[sX]=k=0∑∞p(k)sk
これは、確率 p(0),p(1),p(2),… を s のべきの係数に並べた多項式です。いわば確率の整理棚で、sk の棚に P(X=k) がしまってあります。
棚から情報を取り出す方法は、次のとおりです。
【確率母関数から取り出せるもの】
- 確率: P(X=k) は sk の係数。G(k)(0)/k! でも求まる
- 合計: G(1)=1
- 期待値: G′(1)=E[X]
- 階乗モーメント: G′′(1)=E[X(X−1)]
分散は V[X]=G′′(1)+G′(1)−G′(1)2 で求まります。s=et を入れると MX(t)=GX(et) となるので、2つの母関数は親戚です。独立な和が積になる性質も同じです。
具体的に見てみましょう。サイコロ1個の確率母関数は (s+s2+⋯+s6)/6 です。サイコロ2個の和の確率母関数は、これを2乗したものです。
G(s)=36(s+s2+⋯+s6)2=36s2+2s3+3s4+⋯+6s7+⋯+s12
s7 の係数は 6/36 なので、和が7になる確率は 1/6 です。場合の数の数え上げが、多項式の展開に置きかわりました。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。ベルヌーイ試行1回の確率母関数は 1−p+ps です。独立に n 回の和なら (1−p+ps)n で、これが二項分布の確率母関数です。ポアソン分布なら G(s)=exp(λ(s−1)) です。
例題:確率母関数から平均と分散を求める
確率母関数が G(s)=(1+2s+s2)/4 である確率変数 X について、P(X=1)、期待値、分散を求めましょう。
【解き方】
- s の係数を読む: P(X=1)=2/4=1/2
- 微分する: G′(s)=(2+2s)/4 なので E[X]=G′(1)=1
- もう1回微分する: G′′(s)=2/4 なので G′′(1)=1/2
- 分散は 1/2+1−12=1/2
答えは、P(X=1)=1/2、期待値1、分散 1/2 です。実は G(s)={(1+s)/2}2 なので、X は二項分布 B(2,1/2) に従っています。
試験のポイント:モーメント母関数は t=0、確率母関数は s=1 で微分します。また、G′′(1) は E[X2] ではなく E[X(X−1)] です。
以上が、確率母関数についての説明です。
細かい計算が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「分布の関数は同じものの別の見せ方」「母関数は微分で平均と分散を取り出し、和を積に変える道具」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
見せ方を変え、足して割り、母関数に詰める
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は分布を表すさまざまな関数と、2つの母関数について紹介しました。名前の多さに圧倒されますが、確率を「そのまま書く」「累積する」「残りを見る」「足し切る」「割り直す」「べきの係数に詰める」という、見せ方の違いにすぎません。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 確率関数は確率そのもの、確率密度関数は確率の濃さ。累積分布関数と生存関数は、合わせると1になる。
- 同時分布を足し切ると周辺分布になる。表の合計欄のイメージ。
- 同時を周辺で割ると条件つき分布になる。表の1行を切り出して割り直すイメージ。
- モーメント母関数は分布の圧縮ファイル。t=0 で微分すればモーメントが取り出せ、独立な和は積になる。
- 確率母関数は確率の整理棚。sk の係数が確率で、s=1 で微分する。
キーワードのおさらい
- 確率関数: 離散型で、値 x をとる確率を表す関数 p(x)
- 確率密度関数: 連続型で、積分すると確率になる関数 f(x)
- 累積分布関数: F(x)=P(X≤x)
- 生存関数: S(x)=P(X>x)=1−F(x)
- 同時確率関数: 離散型で、2つの変数の値の組の確率を表す関数
- 同時確率密度関数: 連続型で、積分すると組の確率になる関数
- 周辺確率関数: 同時確率関数をもう片方について足し切ったもの
- 周辺確率密度関数: 同時確率密度関数をもう片方について積分したもの
- 条件つき確率関数: 同時確率関数を周辺確率関数で割ったもの
- 条件つき確率密度関数: 同時確率密度関数を周辺確率密度関数で割ったもの
- モーメント母関数(積率母関数): M(t)=E[etX]。微分するとモーメントが得られる
- 確率母関数: G(s)=E[sX]。sk の係数が P(X=k)
さて、母関数から取り出せるのは平均と分散だけではありません。3次、4次のモーメントからは、分布のゆがみやとがり具合が分かります。分布を数個の数字で要約するには、どんな量を見ればよいのでしょうか?
次回は、歪度・尖度・相関係数・条件つき期待値といった「分布の特性値」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。