準1級-1 応用統計の手法
事象と確率
- 確率の計算
- 統計的独立
- 条件付き確率
- ベイズの定理
- 包除原理
はじめに
「プレゼント交換で、全員が他の人のプレゼントを受け取れる確率って、どのくらいなの?」
忘年会のプレゼント交換で、自分が持ってきた品が自分に戻ってきて、気まずい思いをしたことはありませんか? 4人ならまだしも、40人なら誰か1人は自分の品を引きそうな気もしますし、逆に人数が多いぶん、自分の品に当たりにくい気もします。
実は、全員が他の人のプレゼントを受け取れる確率は、4人でも40人でもほとんど同じで、約37%です。人数を増やしても、確率はほとんど動きません。
この答えを出すには、「少なくとも1人が自分の品を引く」という確率を計算する必要があります。ところが、2級で学んだ加法定理は事象が2つのときの式でした。事象が3つ、4つ、40個と増えたら、どうすればよいのでしょうか?
そこで登場するのが、今回の主役の1人 包除原理 です。もう1人の主役は、結果から原因をさかのぼる ベイズの定理 です。
前回の記事で、2級の範囲はひと通り終わりました。ここからは準1級です。今回の記事では、確率の計算の土台を固め直し、包除原理、条件付き確率、統計的独立、ベイズの定理について解説します。
確率の計算の土台:3つの約束と余事象
はじめに、確率の計算の土台について解説します。
2級では、起こりうる結果の全体を 標本空間 と呼び、その一部分を 事象 と呼びました。準1級では、確率を次の3つの約束から出発するものとして扱います。これを確率の公理と呼びます。
【確率の3つの約束】
- どの事象 についても
- 全体の確率は
- 互いに排反な事象 について
大きなケーキを思い浮かべてください。ケーキ全体の大きさを1とすると、切り分けたピースの大きさはマイナスになりません。そして、重ならないピースを集めた大きさは、それぞれの大きさの合計です。確率は、このケーキの大きさのように振る舞うものです。
この約束から、計算でよく使う性質が出てきます。
は の 余事象、つまり「 が起こらない」という事象です。「少なくとも1つ」の確率は、直接数えるより余事象から求めるほうが楽なことがよくあります。
具体的に見てみましょう。有名な誕生日の問題です。23人のクラスに、誕生日が同じ2人がいる確率を求めます。1年を365日とし、どの日も同じ確率とします。
「全員の誕生日が異なる」という余事象を考えます。1人目は何日でもよく、2人目は残り364日、3人目は残り363日と続きます。
したがって、誕生日が同じ2人がいる確率は で、23人で半分を超えます。40人なら約0.891です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。当たり3本を含む10本のくじから2本を同時に引くとき、少なくとも1本当たる確率です。全部で 通りあり、2本ともはずれは 通りです。したがって、確率は です。
このように、すべての結果が同じ確率なら、確率の計算は「場合の数の比」に帰着します。これを支えるのが順列と組合せです。
以上が、確率の計算の土台についての解説です。
包除原理:重なりを足し引きする
次に、3つ以上の事象を扱う包除原理について説明します。
包除原理 は、和事象の確率を、重なりの確率の足し引きで求める公式です。2級の加法定理は、この公式の事象が2つの場合にあたります。3つの場合は次のとおりです。
一般に、 個の事象では次の形になります。
言葉で言うと、「1つずつ足す、2つの重なりを引く、3つの重なりを足す」と、符号を交互に変えながら進みます。
部活の名簿をイメージしてください。野球部、書道部、将棋部の名簿をつなげて人数を数えると、掛け持ちの人が二重に数えられます。そこで2部の掛け持ちを引きます。ところが、3部すべてを掛け持ちしている人は、最初に3回足され、次に3回引かれて、いなかったことになってしまいます。そこで、最後に足し戻すのです。
具体的に見てみましょう。1から100までの整数から1つ選ぶとき、2、3、5の少なくとも1つで割り切れる個数を数えます。
【個数の計算】
- 1つずつ足す: 50 + 33 + 20 = 103
- 2つの重なりを引く: 6の倍数16個、10の倍数10個、15の倍数6個で、103 − 32 = 71
- 3つの重なりを足す: 30の倍数3個で、71 + 3 = 74
したがって、確率は0.74です。
例題:プレゼント交換
4人がプレゼントをランダムに交換します。全員が他の人のプレゼントを受け取る確率を求めましょう。
【解き方】
- を「 さんが自分のプレゼントを受け取る」とする。求めるのは
- 配り方は全部で 通り。特定の 人が自分の品を受け取る配り方は 通り
- 人の選び方は 通りなので、包除原理の第 項の大きさは
- したがって
答えは です。
同じ計算を 人で行うと、全員が他の人の品を受け取る確率は次のようになります。
冒頭の約37%の正体は、この です。 が増えると、1人あたりの当たりにくさと人数の多さが、ちょうど打ち消し合うのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 包除原理の第1項だけで打ち切ると、 という不等式が得られます。これはボンフェローニの不等式と呼ばれ、後の記事の多重比較で使います。
以上が、包除原理についての説明です。
条件付き確率と統計的独立
続いて、情報が増えたときの確率について解説します。
条件付き確率 は、 が起こったと分かったもとで が起こる確率です。 のとき、次のように定義します。
言葉で言うと、「 が起こった世界だけを切り出して、それを全体と見直す」ということです。1年分のカレンダーから雨の日だけを切り出して、その中で遅刻した日の割合を数えるイメージです。
例えば、サイコロを2個振って、目の和が10以上だったとします。和が10以上の組は (4,6)、(5,5)、(5,6)、(6,4)、(6,5)、(6,6) の6通りです。このうち1個目が6なのは3通りなので、条件付き確率は です。何も情報がなければ だった確率が、情報によって3倍になりました。
定義の分母を払うと、2級で学んだ 乗法定理 になります。事象が増えても、順番に掛けていけば大丈夫です。
例えば、当たり3本を含む10本のくじを3人が順に引いて、全員が当たる確率は です。
次に、統計的独立 です。事象 と が次の式を満たすとき、独立であると言います。
なら、これは と同じ意味です。つまり、独立とは「 の情報を聞いても、 の確率が変わらない」ということです。
例えば、トランプ52枚から1枚引くとき、「ハートである」確率は 、「エースである」確率は です。「ハートのエースである」確率は なので、この2つは独立です。
ここで、よくある混同を整理しましょう。排反と独立は別物です。
【排反と独立の違い】
- 排反: 同時に起こらない。
- 独立: 一方の情報が、他方の確率を変えない。
サイコロの「偶数」と「奇数」は排反です。偶数と聞けば、奇数の確率は0になります。情報が確率を大きく変えているので、独立ではありません。 かつ なら、排反な2事象は決して独立になりません。
さらに、3つ以上の事象では注意が必要です。 が 互いに独立 であるとは、2つずつの積の式に加えて、次の式まで成り立つことを言います。
コインを2枚投げて、 を「1枚目が表」、 を「2枚目が表」、 を「2枚が同じ面」とします。どの確率も で、どの2つの重なりも確率 なので、2つずつは独立です。ところが、 は「2枚とも表」で確率 となり、 ではありません。 と が分かると は確定してしまうからです。
試験のポイント:「2つずつ独立」でも「互いに独立」とは限りません。また、独立かどうかは、積の式が成り立つかを計算して確かめます。
以上が、条件付き確率と統計的独立についての解説です。
ベイズの定理:結果から原因をさかのぼる
最後に、ベイズの定理を見ていきましょう。
ベイズの定理 は、「原因から結果」の確率を使って、「結果から原因」の確率を求める公式です。現場の足跡から犯人をしぼり込む、名探偵の推理のようなものです。
準備として、全確率の公式を確認します。事象 が互いに排反で、合わせると全体になるとき、次の式が成り立ちます。
これは、「 が起こる道筋を、原因ごとに場合分けして足す」という式です。これを条件付き確率の定義に入れると、ベイズの定理が得られます。
は結果を見る前の確率で、事前確率 と呼びます。 は結果を見た後の確率で、事後確率 と呼びます。要するに、ベイズの定理は「データを見て確率を更新する公式」です。
具体的に見てみましょう。ある病気の有病率が1%で、検査は病気の人の95%を陽性とし(感度)、健康な人の90%を陰性とします(特異度)。陽性と出た人が本当に病気である確率はいくらでしょうか?
1万人で考えると分かりやすいです。病気の人は100人で、そのうち95人が陽性です。健康な人は9,900人で、その10%の990人が誤って陽性になります。
約8.8%です。95%の精度の検査で陽性でも、本当に病気である確率は1割に届きません。もともと健康な人の数が圧倒的に多いので、誤った陽性が本物の陽性を上回るのです。
ここがポイントです。事後確率は、検査の精度だけでは決まりません。事前確率も同じだけ効きます。
更新は何度でも繰り返せます。同じ性能の別の検査を受け、病気の有無を固定すると2つの結果が独立だとします。2回目も陽性なら、0.088を新しい事前確率として同じ計算をします。
2回の陽性で、約48%まで上がりました。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。受信メールの30%が迷惑メールで、「当選」という語は迷惑メールの60%、通常のメールの5%に含まれるとします。「当選」を含むメールが迷惑メールである確率は です。迷惑メールのふるい分けは、この計算を多くの語について繰り返すものです。
例題:不良品はどの工場から来たか
ある製品を3つの工場が作っています。生産量の割合はA工場50%、B工場30%、C工場20%で、不良品の割合はそれぞれ1%、2%、5%です。不良品が1個見つかったとき、それがC工場の製品である確率を求めましょう。
【解き方】
- 全確率の公式で不良品の確率を求める:
- C工場の道筋の確率は
- ベイズの定理より
答えは約0.476です。生産量は20%でも、不良品の中では半分近くを占めます。
試験のポイント:ベイズの定理の問題は、 と の取り違えを問います。原因ごとの道筋の確率を書き出し、結果に合う道筋の中の割合をとると、間違えません。
以上が、ベイズの定理についての説明です。
細かい計算が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「重なりは足し引きで直す」「情報が増えたら全体を見直す」という2点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は確率の計算の土台と、包除原理、条件付き確率、統計的独立、ベイズの定理について紹介しました。どれも新しい魔法ではなく、「重なりをどう直すか」「情報でどう全体を見直すか」を、ていねいに式にしたものです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 確率は3つの約束から出発する。「少なくとも1つ」は余事象から求めると楽なことが多い。
- 包除原理は、部活の名簿の掛け持ち直し。足す、引く、足すを交互に繰り返す。
- 条件付き確率は、条件の世界だけを切り出して全体と見直したもの。
- 独立は「情報を聞いても確率が変わらない」こと。排反とは別物で、3つ以上なら全部の積の式を確かめる。
- ベイズの定理は結果から原因をさかのぼる公式で、事後確率は事前確率にも左右される。
キーワードのおさらい
- 確率の計算: 公理、余事象、場合の数を使って確率を求めること
- 包除原理: 和事象の確率を、重なりの確率の足し引きで求める公式
- 条件付き確率: が起こったもとで が起こる確率
- 統計的独立: が成り立つこと
- ベイズの定理: 事前確率と結果の確率から、事後確率を求める公式
さて、今回は「事象」という1つ1つの出来事を相手にしてきました。でも統計で扱うのは、身長や来店者数のように数値をとる確率変数です。2つの確率変数が絡み合うとき、その関係はどう書けばよいのでしょうか? そして、分布の情報を丸ごと1つの関数に詰め込むことはできるのでしょうか?
次回は、同時分布・周辺分布・条件つき分布と、「母関数」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。