統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

準1級-9 応用統計の手法

統計量 — 十分統計量と順序統計量

  • 十分統計量
  • フィッシャー・ネイマンの分解定理
  • 順序統計量

はじめに

「1万件のデータ、全部とっておかないとダメなの?」

例えば、くじを1万回引いて、当たりとはずれを順番に記録したとしましょう。知りたいのは、くじの当たる確率 pp です。このとき、何回目に当たったかという記録まで必要でしょうか? 当たりが2,500回だったと分かれば、それで十分な気がしますよね。

実は、この直感は数学的に正しく言い表せます。「何回当たったか」という1つの数の中に、pp についての情報はすべて入っていて、順番の記録には pp の情報がまったく残っていないのです。

そこで登場するのが、今回の主役 十分統計量 です。十分統計量とは、母数についての情報を失わないデータの要約です。もう1つ、データを小さい順に並べて見る 順序統計量 も扱います。

前回の記事では、t分布や非心分布など、標本から作った量の分布を学びました。今回の記事では、どんな要約なら情報を失わないのかを見分ける方法と、順序統計量の分布について解説します。

十分統計量:情報を失わない要約

はじめに、十分統計量の定義について解説します。

まず言葉を確認しましょう。統計量 とは、標本 X1,…,XnX_1, \dots, X_n の関数で、未知の母数を含まないものです。例えば、Xˉ\bar{X} や S2S^2 や最大値は統計量です。一方で、μ\mu が未知のとき、Xˉ−μ\bar{X} - \mu は統計量ではありません。データだけでは値を計算できないからです。

統計量は、データの要約です。要約すれば、ふつうは情報が減ります。健康診断の検査記録を、結果票の1枚にまとめる場面を想像してください。結果票だけで医師が同じ判断をできるなら、その結果票は「十分な要約」です。

これを式で書いたものが、次の定義です。十分統計量 とは、T=tT = t を与えたときの標本の条件つき分布が、母数 θ\theta を含まない統計量 TT のことです。

P(X1=x1,…,Xn=xn∣T=t) が θ によらないP(X_1 = x_1, \dots, X_n = x_n \mid T = t) \ \text{が} \ \theta \ \text{によらない}

なぜこれで「情報を失わない」と言えるのでしょうか? TT を知ったあとの残りの部分は、θ\theta と無関係な乱数と同じだからです。TT さえあれば、θ\theta を知らなくても、元のデータと同じ分布の偽データを作り直せます。つまり、元のデータが TT に付け足している部分は、θ\theta についての手がかりにはなりません。

具体的に見てみましょう。ベルヌーイ試行を3回行って、当たりの回数を T=X1+X2+X3T = X_1 + X_2 + X_3 とします。T=1T = 1 のとき、ありうる並びは (1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1) の3通りです。どの並びの確率も p(1−p)2p(1-p)^2 で等しいので、条件つき確率は次のようになります。

P((1,0,0)∣T=1)=p(1−p)23p(1−p)2=13P\big((1,0,0) \mid T = 1\big) = \frac{p(1-p)^2}{3p(1-p)^2} = \frac{1}{3}

pp が約分されて消えました。当たりの回数が分かれば、順番は pp に関係なく、どれも同じ確率で起きているのです。一般に T=tT = t なら、並びの確率は 1/(nt)1/\binom{n}{t} です。

せっかくなので、別の例も見てみましょう。独立な X1,X2∼Po(λ)X_1, X_2 \sim \text{Po}(\lambda) で、T=X1+X2T = X_1 + X_2 とします。ポアソン分布の再生性から T∼Po(2λ)T \sim \text{Po}(2\lambda) なので、次の式が成り立ちます。

P(X1=a∣T=t)=e−λλaa!⋅e−λλt−a(t−a)!e−2λ(2λ)tt!=(ta)(12)tP(X_1 = a \mid T = t) = \frac{\dfrac{e^{-\lambda}\lambda^{a}}{a!} \cdot \dfrac{e^{-\lambda}\lambda^{t-a}}{(t-a)!}}{\dfrac{e^{-2\lambda}(2\lambda)^{t}}{t!}} = \binom{t}{a}\left(\frac{1}{2}\right)^{t}

ここでも λ\lambda が消えて、二項分布 B(t,1/2)B(t, 1/2) になりました。例えば、t=4t = 4、a=1a = 1 なら、λ\lambda がいくつでも確率は0.25です。

一方で、3回のベルヌーイ試行の X1X_1 だけを残した要約は、十分統計量ではありません。X2,X3X_2, X_3 の分布に pp が残るからです。

以上が、十分統計量の定義についての解説です。

フィッシャー・ネイマンの分解定理:式の形で見分ける

次に、十分統計量を見つける便利な道具を説明します。

定義どおりに条件つき分布を計算するのは手間がかかります。しかも、どの統計量を試せばよいのかも分かりません。そこで使うのが、フィッシャー・ネイマンの分解定理 です。

f(x1,…,xn;θ)=g(T(x1,…,xn); θ)⋅h(x1,…,xn)f(x_1, \dots, x_n; \theta) = g\big(T(x_1, \dots, x_n);\, \theta\big) \cdot h(x_1, \dots, x_n)

ff は標本の同時確率関数または同時確率密度関数です。TT が十分統計量であることは、このように2つの因数に分解できることと同じです。

言葉で言うと、θ\theta を含む因数 gg には、データが TT の形でしか入らず、残りの因数 hh は θ\theta を含まない、ということです。荷物の仕分けに例えるなら、θ\theta に関わる荷物を TT という箱に全部詰められたら、箱の外には θ\theta に関係のないものしか残らない、というイメージです。

なぜ成り立つのかも、離散型で確かめておきましょう。T(x)=tT(x) = t のとき、条件つき確率は次のように計算できます。

P(X=x∣T=t)=g(t;θ) h(x)∑y: T(y)=tg(t;θ) h(y)=h(x)∑y: T(y)=th(y)P(X = x \mid T = t) = \frac{g(t;\theta)\, h(x)}{\sum_{y:\, T(y) = t} g(t;\theta)\, h(y)} = \frac{h(x)}{\sum_{y:\, T(y) = t} h(y)}

g(t;θ)g(t;\theta) が分母と分子で約分されて、θ\theta が消えます。逆に、十分統計量なら f=P(T=t)⋅P(X=x∣T=t)f = P(T = t) \cdot P(X = x \mid T = t) と分ければ、分解の形になります。

3つの分布で使ってみます。1つずつ見ていきましょう。

1. ポアソン分布

同時確率関数を書き、λ\lambda を含む部分と含まない部分に分けます。

∏i=1ne−λλxixi!=e−nλλ∑ixi⏟g⋅1∏ixi!⏟h\prod_{i=1}^{n} \frac{e^{-\lambda}\lambda^{x_i}}{x_i!} = \underbrace{e^{-n\lambda}\lambda^{\sum_i x_i}}_{g} \cdot \underbrace{\frac{1}{\prod_i x_i!}}_{h}

データは gg の中に ∑ixi\sum_i x_i の形でしか現れません。したがって、T=∑iXiT = \sum_i X_i が十分統計量です。

2. 正規分布

μ\mu と σ2\sigma^2 がともに未知なら、指数の中を展開します。

∏i=1nf(xi)=(2πσ2)−n/2exp⁡{−∑ixi2−2μ∑ixi+nμ22σ2}\prod_{i=1}^{n} f(x_i) = (2\pi\sigma^2)^{-n/2} \exp\left\{-\frac{\sum_i x_i^2 - 2\mu \sum_i x_i + n\mu^2}{2\sigma^2}\right\}

データは ∑ixi\sum_i x_i と ∑ixi2\sum_i x_i^2 の2つの形でしか入っていません。したがって、組 (∑iXi, ∑iXi2)(\sum_i X_i,\ \sum_i X_i^2) が十分統計量です。これを1対1に変換した (Xˉ,S2)(\bar{X}, S^2) も十分統計量です。正規母集団の問題で xˉ\bar{x} と s2s^2 だけ与えられても解けるのは、このためです。

3. 一様分布

U(0,θ)U(0, \theta) の密度は 1/θ1/\theta で、0≤x≤θ0 \le x \le \theta の外では0です。範囲を式に入れるには、条件が成り立つとき1、成り立たないとき0となる指示関数 1{⋅}\mathbf{1}\{\cdot\} を使います。

∏i=1n1θ1{0≤xi≤θ}=θ−n 1{max⁡ixi≤θ}⏟g⋅1{min⁡ixi≥0}⏟h\prod_{i=1}^{n} \frac{1}{\theta}\mathbf{1}\{0 \le x_i \le \theta\} = \underbrace{\theta^{-n}\, \mathbf{1}\{\max_i x_i \le \theta\}}_{g} \cdot \underbrace{\mathbf{1}\{\min_i x_i \ge 0\}}_{h}

全員が θ\theta 以下という条件は、最大値が θ\theta 以下という条件と同じです。したがって、T=max⁡iXiT = \max_i X_i が十分統計量です。平均ではなく最大値が要約になるのが、一様分布のおもしろいところです。

試験のポイント:範囲が母数で決まる分布では、指示関数を忘れずに書きます。十分統計量が最大値や最小値になるのは、たいていこの形です。

例題:分解定理で十分統計量を見つける

f(x;θ)=θxθ−1f(x;\theta) = \theta x^{\theta - 1}(0<x<10 < x < 1、θ>0\theta > 0)からの標本について、θ\theta の十分統計量を求めましょう。

【解き方】

  1. 同時密度を書く: ∏iθxiθ−1=θn(∏ixi)θ−1\prod_i \theta x_i^{\theta - 1} = \theta^n \left(\prod_i x_i\right)^{\theta - 1}
  2. データは ∏ixi\prod_i x_i の形でしか入っていない。h(x)=1h(x) = 1 とする
  3. したがって T=∏iXiT = \prod_i X_i が十分統計量

答えは T=∏iXiT = \prod_i X_i です。1対1の変換をした ∑ilog⁡Xi\sum_i \log X_i でもかまいません。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 十分統計量は1つではありません。データ全体も、自明な十分統計量です。これ以上小さく要約できない十分統計量を、最小十分統計量と呼びます。また、f(x;θ)=h(x) c(θ)exp⁡{η(θ) t(x)}f(x;\theta) = h(x)\,c(\theta)\exp\{\eta(\theta)\,t(x)\} の形の指数型分布族では、∑it(Xi)\sum_i t(X_i) がいつも十分統計量になります。

以上が、分解定理についての説明です。

順序統計量:並べ替えて見る

最後に、順序統計量を見ていきましょう。

順序統計量 とは、標本を小さい順に並べ替えた X(1)≤X(2)≤⋯≤X(n)X_{(1)} \le X_{(2)} \le \dots \le X_{(n)} のことです。背の順に並び直した列だと思ってください。X(1)X_{(1)} が最小値、X(n)X_{(n)} が最大値で、中央値も範囲 X(n)−X(1)X_{(n)} - X_{(1)} も、ここから計算できます。

独立に同じ分布に従う標本では、順序統計量全体はいつでも十分統計量です。同時密度 ∏if(xi;θ)\prod_i f(x_i;\theta) は掛ける順番を変えても同じなので、並べ替える前の順番には θ\theta の情報がないからです。

では、順序統計量の分布を求めてみましょう。以下、母集団の分布関数を FF、密度を ff とします。

1. 最大値と最小値

最大値が xx 以下であるのは、全員が xx 以下のときです。最小値が xx より大きいのは、全員が xx より大きいときです。独立性から、次の式が得られます。

P(X(n)≤x)=F(x)n,P(X(1)>x)={1−F(x)}nP(X_{(n)} \le x) = F(x)^n, \qquad P(X_{(1)} > x) = \{1 - F(x)\}^n

例えば、寿命が平均1,000時間の指数分布に従う電球を3個同時につけたとします。最初の1個が切れるまでの時間 X(1)X_{(1)} は、次の生存関数をもちます。

P(X(1)>x)=(e−x/1000)3=e−3x/1000P(X_{(1)} > x) = \left(e^{-x/1000}\right)^3 = e^{-3x/1000}

つまり、平均 1000/3≈3331000/3 \approx 333 時間の指数分布です。3個あると、誰かが切れるまでの時間は3分の1になります。100時間以上1個も切れない確率は e−0.3≈0.741e^{-0.3} \approx 0.741 です。

2. k番目の値

kk 番目の値 X(k)X_{(k)} の密度は、次のとおりです。

f(k)(x)=n!(k−1)! (n−k)! F(x)k−1 {1−F(x)}n−k f(x)f_{(k)}(x) = \frac{n!}{(k-1)!\,(n-k)!}\, F(x)^{k-1}\, \{1 - F(x)\}^{n-k}\, f(x)

式は長いですが、読み方はかんたんです。nn 人を「xx より下の k−1k-1 人」「ちょうど xx にいる1人」「xx より上の n−kn-k 人」の3組に分けるだけです。組分けの仕方が多項係数で、それぞれの組の確率が F(x)F(x)、f(x)f(x)、1−F(x)1 - F(x) です。

U(0,1)U(0, 1) の標本では F(x)=xF(x) = x、f(x)=1f(x) = 1 なので、X(k)X_{(k)} はベータ分布に従います。

X(k)∼Beta(k, n−k+1),E[X(k)]=kn+1X_{(k)} \sim \text{Beta}(k,\ n - k + 1), \qquad E[X_{(k)}] = \frac{k}{n+1}

期待値が k/nk/n ではなく k/(n+1)k/(n+1) である点が大切です。nn 個の点は、区間を平均して n+1n+1 等分すると考えられます。例えば、n=5n = 5 の中央値 X(3)X_{(3)} は Beta(3,3)\text{Beta}(3, 3) に従い、密度は 30x2(1−x)230x^2(1-x)^2、期待値は 1/21/2、分散は 1/281/28 です。

また、並べ替えた全体の同時密度は、x1<x2<⋯<xnx_1 < x_2 < \dots < x_n の範囲で n!∏if(xi)n! \prod_i f(x_i) です。もとの標本には n!n! 通りの順番があり、それらが1つに集まるからです。ここからは、U(0,1)U(0, 1) の範囲の期待値が E[X(n)]−E[X(1)]=(n−1)/(n+1)E[X_{(n)}] - E[X_{(1)}] = (n-1)/(n+1) となることも分かります。

例題:番号の上限を見積もる

ラーメン店の整理券の番号が、0から θ\theta の間で一様に分布しているとみなします。5枚を無作為に見ると、番号は 12, 34, 51, 66, 80 でした。最大値にもとづく θ\theta の見積もりを、期待値がちょうど θ\theta になるように作りましょう。

【解き方】

  1. Xi/θX_i/\theta は U(0,1)U(0, 1) に従うので、E[X(5)/θ]=5/6E[X_{(5)}/\theta] = 5/6
  2. したがって E[X(5)]=56θE[X_{(5)}] = \frac{5}{6}\theta となり、最大値は平均して θ\theta より小さい
  3. 補正する: 65X(5)\frac{6}{5}X_{(5)} の期待値は θ\theta
  4. 代入する: 65×80=96\frac{6}{5} \times 80 = 96

答えは96です。最大値は十分統計量なので、θ\theta の情報はこの1つに集まっています。この推定量がどれほどよいかは、点推定の性質の記事で確かめます。

試験のポイント:最大値は F(x)nF(x)^n、最小値は 1−{1−F(x)}n1 - \{1 - F(x)\}^n と、分布関数から攻めるのが基本です。密度はそれを微分して求めます。

以上が、順序統計量についての解説です。

細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「分解できれば十分統計量」「並べ替えた値の分布は分布関数から攻める」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は、データの情報を失わない要約である十分統計量と、並べ替えて見る順序統計量について紹介しました。データをたくさん持っていることと、母数の情報をたくさん持っていることは、別の話です。分解定理は、情報のありかを式の形から教えてくれます。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 統計量はデータだけで計算できる量。未知の母数を含まない。
  • 十分統計量は、条件つき分布から母数が消える要約で、健康診断の結果票のようなもの。
  • 分解定理により、θ\theta を含む因数にデータが TT の形でしか入らなければ、TT は十分統計量になる。
  • 正規分布では (Xˉ,S2)(\bar{X}, S^2)、ポアソン分布では合計、一様分布 U(0,θ)U(0, \theta) では最大値が十分統計量になる。
  • 順序統計量の分布は分布関数から導ける。U(0,1)U(0, 1) の X(k)X_{(k)} は Beta(k,n−k+1)\text{Beta}(k, n-k+1) に従う。

キーワードのおさらい

  • 統計量: 標本の関数で、未知の母数を含まないもの
  • 十分統計量: 与えたときの標本の条件つき分布が母数によらない統計量
  • フィッシャー・ネイマンの分解定理: 同時確率(密度)が g(T;θ) h(x)g(T;\theta)\,h(x) と分解できることが、TT が十分である条件だという定理
  • 順序統計量: 標本を小さい順に並べ替えた X(1),…,X(n)X_{(1)}, \dots, X_{(n)}

さて、要約の仕方が分かったところで、次の疑問が出てきます。その要約から、母数の値を具体的にどう決めればよいのでしょうか?

次回は、推定量の作り方である「最尤法」「モーメント法」「最小二乗法」について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 正規母集団の μ\mu と σ2\sigma^2 がともに未知のとき、統計量であるものはどれか。
問2. 密度 f(x;θ)=e−(x−θ)f(x;\theta) = e^{-(x-\theta)}(x≥θx \ge \theta)からの大きさ nn の標本について、θ\theta の十分統計量として正しいものはどれか。
問3. 正規分布 N(μ,σ2)N(\mu, \sigma^2) で μ\mu と σ2\sigma^2 がともに未知のとき、大きさ nn の標本の十分統計量として正しいものはどれか。
問4. U(0,1)U(0, 1) からの大きさ4の標本の最大値が0.5以下である確率として、正しいものはどれか。
問5. U(0,2)U(0, 2) からの大きさ4の標本の、小さいほうから2番目の値 X(2)X_{(2)} の期待値として、正しいものはどれか。