はじめに
10回中3回なら30%。その直感の裏には一般の手順がある
「母数の値って、結局どうやって決めるの?」
2級では、母平均は標本平均で、母比率は標本比率で推定しました。どちらも当たり前に思えますよね。では、ガンマ分布の形状母数はどうでしょうか? 標本の何を計算すれば、形状母数の推定値になるのか、すぐには思いつきません。
例えば、ガチャを10回引いて3回当たったとしましょう。当たる確率は30%だろうと、誰もが思います。でも、なぜ30%なのでしょうか? 実は、この「なんとなく」の裏には、どんな分布にも使える一般的な手順が隠れています。
そこで登場するのが、今回の主役 最尤法 です。あわせて、もう2つの基本の作り方である モーメント法 と 最小二乗法 も扱います。
前回の記事では、情報を失わない要約である十分統計量を学びました。今回の記事では、推定量を作る3つの方法と、回帰分析の土台である線形模型について解説します。
モーメント法:標本と母集団のモーメントをそろえる
型紙は決まっていて、寸法だけを標本に合わせる
はじめに、最も素朴な作り方であるモーメント法について解説します。
モーメント法 は、標本のモーメントと母集団のモーメントを等しいとおいて、母数について解く方法です。標本の k k k 次モーメント m k m_k m k と、母集団の k k k 次モーメントを、次のように書きます。
m k = 1 n ∑ i = 1 n X i k , μ k ( θ ) = E [ X k ] m_k = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i^k, \qquad \mu_k(\theta) = E[X^k] m k = n 1 i = 1 ∑ n X i k , μ k ( θ ) = E [ X k ]
母数が p p p 個あるなら、m k = μ k ( θ ) m_k = \mu_k(\theta) m k = μ k ( θ ) (k = 1 , … , p k = 1, \dots, p k = 1 , … , p )という p p p 本の連立方程式を解きます。大数の法則により m k m_k m k は μ k \mu_k μ k に近づくので、理屈も素直です。
洋服の仕立てに例えると、これは「お客さんの肩幅と着丈を測って、型紙の寸法をそろえる」作業です。形の型紙はもう決まっていて、寸法だけを合わせるイメージです。
具体的に見てみましょう。正規分布 N ( μ , σ 2 ) N(\mu, \sigma^2) N ( μ , σ 2 ) では、E [ X ] = μ E[X] = \mu E [ X ] = μ 、E [ X 2 ] = σ 2 + μ 2 E[X^2] = \sigma^2 + \mu^2 E [ X 2 ] = σ 2 + μ 2 です。方程式を解くと、次のようになります。
μ ^ = X ˉ , σ ^ 2 = m 2 − m 1 2 = 1 n ∑ i = 1 n ( X i − X ˉ ) 2 \hat{\mu} = \bar{X}, \qquad \hat{\sigma}^2 = m_2 - m_1^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(X_i - \bar{X})^2 μ ^ = X ˉ , σ ^ 2 = m 2 − m 1 2 = n 1 i = 1 ∑ n ( X i − X ˉ ) 2
分母が n − 1 n-1 n − 1 ではなく n n n である点に注意しましょう。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。形状 α \alpha α 、尺度 β \beta β のガンマ分布では、期待値は α β \alpha\beta α β 、分散は α β 2 \alpha\beta^2 α β 2 です。分散を期待値で割れば β \beta β が出るので、v ^ = m 2 − m 1 2 \hat{v} = m_2 - m_1^2 v ^ = m 2 − m 1 2 として次の式が得られます。
β ^ = v ^ X ˉ , α ^ = X ˉ 2 v ^ \hat{\beta} = \frac{\hat{v}}{\bar{X}}, \qquad \hat{\alpha} = \frac{\bar{X}^2}{\hat{v}} β ^ = X ˉ v ^ , α ^ = v ^ X ˉ 2
例えば、x ˉ = 6 \bar{x} = 6 x ˉ = 6 、v ^ = 12 \hat{v} = 12 v ^ = 12 なら、β ^ = 12 ÷ 6 = 2 \hat{\beta} = 12 \div 6 = 2 β ^ = 12 ÷ 6 = 2 、α ^ = 36 ÷ 12 = 3 \hat{\alpha} = 36 \div 12 = 3 α ^ = 36 ÷ 12 = 3 です。冒頭の疑問だった形状母数も、これで計算できました。
モーメント法は手軽ですが、弱点もあります。U ( 0 , θ ) U(0, \theta) U ( 0 , θ ) を考えましょう。E [ X ] = θ / 2 E[X] = \theta/2 E [ X ] = θ /2 なので、θ ^ = 2 X ˉ \hat{\theta} = 2\bar{X} θ ^ = 2 X ˉ です。データが 1, 2, 2, 3, 9 だったら、x ˉ = 3.4 \bar{x} = 3.4 x ˉ = 3.4 で θ ^ = 6.8 \hat{\theta} = 6.8 θ ^ = 6.8 となります。でも、データに9があるので、θ \theta θ は少なくとも9のはずです。推定値が、ありえない値になってしまいました。
以上が、モーメント法についての解説です。
最尤法:データが最も起きやすい母数を選ぶ
証拠を最もよく説明する p を、推定値に選ぶ
次に、推定量の主役である最尤法について説明します。
最尤法 (maximum likelihood method)は、手元のデータが起きる確率を最も大きくする母数を、推定値に選ぶ方法です。尤は「もっともらしい」という意味です。
探偵に例えると、分かりやすいです。現場に残った証拠を見て、「この人が犯人なら、この証拠が残る確率は高いか」を容疑者ごとに比べます。そして、証拠を最もよく説明する人を第一の容疑者にするのです。ここで証拠がデータ、容疑者が θ \theta θ の候補です。
式で書きましょう。データ x 1 , … , x n x_1, \dots, x_n x 1 , … , x n を固定して、同時確率(密度)を θ \theta θ の関数と見たものを 尤度関数 と呼びます。その対数が 対数尤度 です。
L ( θ ) = ∏ i = 1 n f ( x i ; θ ) , ℓ ( θ ) = log L ( θ ) = ∑ i = 1 n log f ( x i ; θ ) L(\theta) = \prod_{i=1}^{n} f(x_i;\theta), \qquad \ell(\theta) = \log L(\theta) = \sum_{i=1}^{n} \log f(x_i;\theta) L ( θ ) = i = 1 ∏ n f ( x i ; θ ) , ℓ ( θ ) = log L ( θ ) = i = 1 ∑ n log f ( x i ; θ )
L ( θ ) L(\theta) L ( θ ) を最大にする θ ^ \hat{\theta} θ ^ が、最尤推定量 です。対数は単調増加なので、最大になる場所は L L L でも ℓ \ell ℓ でも同じです。積が和に変わるので、ふつうは ℓ \ell ℓ を使います。
【最尤推定量の求め方】
尤度関数を書き、対数をとる
θ \theta θ で微分して0とおく(これを尤度方程式と呼ぶ)
解いて、最大であることを確かめる
冒頭のガチャを解いてみましょう。10回中3回当たる並びの確率は L ( p ) = p 3 ( 1 − p ) 7 L(p) = p^3(1-p)^7 L ( p ) = p 3 ( 1 − p ) 7 です。候補の値を入れて比べます。
p p p 0.2 0.3 0.5 L ( p ) L(p) L ( p ) 0.00168 0.00222 0.00098
0.3が最も大きいですね。微分でも確かめましょう。ℓ ( p ) = 3 log p + 7 log ( 1 − p ) \ell(p) = 3\log p + 7\log(1-p) ℓ ( p ) = 3 log p + 7 log ( 1 − p ) なので、次の式を解きます。
ℓ ′ ( p ) = 3 p − 7 1 − p = 0 ⇒ p ^ = 0.3 \ell'(p) = \frac{3}{p} - \frac{7}{1-p} = 0 \quad \Rightarrow \quad \hat{p} = 0.3 ℓ ′ ( p ) = p 3 − 1 − p 7 = 0 ⇒ p ^ = 0.3
「なんとなく30%」の正体は、最尤推定値だったのです。
次に、母数が2つある例です。N ( μ , σ 2 ) N(\mu, \sigma^2) N ( μ , σ 2 ) の対数尤度は次の形です。
ℓ ( μ , σ 2 ) = − n 2 log ( 2 π σ 2 ) − 1 2 σ 2 ∑ i = 1 n ( x i − μ ) 2 \ell(\mu, \sigma^2) = -\frac{n}{2}\log(2\pi\sigma^2) - \frac{1}{2\sigma^2}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \mu)^2 ℓ ( μ , σ 2 ) = − 2 n log ( 2 π σ 2 ) − 2 σ 2 1 i = 1 ∑ n ( x i − μ ) 2
μ \mu μ と σ 2 \sigma^2 σ 2 でそれぞれ偏微分して0とおくと、μ ^ = x ˉ \hat{\mu} = \bar{x} μ ^ = x ˉ 、σ ^ 2 = 1 n ∑ i ( x i − x ˉ ) 2 \hat{\sigma}^2 = \frac{1}{n}\sum_i (x_i - \bar{x})^2 σ ^ 2 = n 1 ∑ i ( x i − x ˉ ) 2 が得られます。ここでも分母は n n n です。
微分が使えない例もあります。U ( 0 , θ ) U(0, \theta) U ( 0 , θ ) の尤度は、θ ≥ max i x i \theta \ge \max_i x_i θ ≥ max i x i のとき θ − n \theta^{-n} θ − n 、それ以外では0です。θ − n \theta^{-n} θ − n は θ \theta θ が小さいほど大きいので、許される範囲の左端を選びます。つまり、θ ^ = max i X i \hat{\theta} = \max_i X_i θ ^ = max i X i です。さきほどのデータなら θ ^ = 9 \hat{\theta} = 9 θ ^ = 9 で、モーメント法の6.8のような矛盾は起きません。前回の分解定理から分かるように、最尤推定量が1つに定まるなら、それは十分統計量の関数になります。
最尤法には、もう1つ便利な性質があります。θ ^ \hat{\theta} θ ^ が θ \theta θ の最尤推定量なら、g ( θ ) g(\theta) g ( θ ) の最尤推定量は g ( θ ^ ) g(\hat{\theta}) g ( θ ^ ) です。これを 不変性 と呼びます。
例題:最尤推定とモーメント推定を比べる
f ( x ; θ ) = θ x θ − 1 f(x;\theta) = \theta x^{\theta - 1} f ( x ; θ ) = θ x θ − 1 (0 < x < 1 0 < x < 1 0 < x < 1 )からの大きさ4の標本で、∑ i log x i = − 2 \sum_i \log x_i = -2 ∑ i log x i = − 2 、x ˉ = 0.65 \bar{x} = 0.65 x ˉ = 0.65 でした。θ \theta θ の最尤推定値と、モーメント法の推定値を求めましょう。
【解き方】
対数尤度: ℓ ( θ ) = n log θ + ( θ − 1 ) ∑ i log x i \ell(\theta) = n\log\theta + (\theta - 1)\sum_i \log x_i ℓ ( θ ) = n log θ + ( θ − 1 ) ∑ i log x i
微分して0とおく: n / θ + ∑ i log x i = 0 n/\theta + \sum_i \log x_i = 0 n / θ + ∑ i log x i = 0 なので、θ ^ = − n / ∑ i log x i = 4 ÷ 2 = 2 \hat{\theta} = -n/\sum_i \log x_i = 4 \div 2 = 2 θ ^ = − n / ∑ i log x i = 4 ÷ 2 = 2
モーメント法: E [ X ] = ∫ 0 1 θ x θ d x = θ / ( θ + 1 ) E[X] = \int_0^1 \theta x^{\theta}\,dx = \theta/(\theta + 1) E [ X ] = ∫ 0 1 θ x θ d x = θ / ( θ + 1 ) なので、x ˉ = θ / ( θ + 1 ) \bar{x} = \theta/(\theta+1) x ˉ = θ / ( θ + 1 ) を解いて θ ~ = x ˉ / ( 1 − x ˉ ) \tilde{\theta} = \bar{x}/(1 - \bar{x}) θ ~ = x ˉ / ( 1 − x ˉ )
代入する: θ ~ = 0.65 ÷ 0.35 ≈ 1.86 \tilde{\theta} = 0.65 \div 0.35 \approx 1.86 θ ~ = 0.65 ÷ 0.35 ≈ 1.86
答えは最尤推定値2、モーメント推定値約1.86です。同じデータでも、方法が違えば値も変わります。
例題:不変性を使う
電球の寿命が指数分布に従うとします。5個の寿命が 120, 80, 200, 60, 40 時間のとき、200時間より長くもつ確率の最尤推定値を求めましょう。
【解き方】
平均 θ \theta θ の指数分布の最尤推定量は θ ^ = x ˉ \hat{\theta} = \bar{x} θ ^ = x ˉ なので、θ ^ = 500 ÷ 5 = 100 \hat{\theta} = 500 \div 5 = 100 θ ^ = 500 ÷ 5 = 100
求めたいのは g ( θ ) = P ( X > 200 ) = e − 200 / θ g(\theta) = P(X > 200) = e^{-200/\theta} g ( θ ) = P ( X > 200 ) = e − 200/ θ
不変性より、g ( θ ^ ) = e − 2 ≈ 0.135 g(\hat{\theta}) = e^{-2} \approx 0.135 g ( θ ^ ) = e − 2 ≈ 0.135
答えは約0.135です。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
ガンマ分布の形状母数のように、尤度方程式が式変形では解けないこともあります。その場合は、θ new = θ − ℓ ′ ( θ ) / ℓ ′ ′ ( θ ) \theta_{\text{new}} = \theta - \ell'(\theta)/\ell''(\theta) θ new = θ − ℓ ′ ( θ ) / ℓ ′′ ( θ ) を繰り返すニュートン法などの数値計算で求めます。
試験のポイント:範囲が母数で決まる分布では、尤度方程式は使えません。尤度の形を直接見て、最大の場所を探します。
以上が、最尤法についての説明です。
最小二乗法:ズレの2乗を最小にする
ばねのエネルギーが最小になる位置に、直線が落ち着く
続いて、最小二乗法について解説します。
2級の回帰分析で学んだように、最小二乗法 は、観測値とモデルの予測値のズレの2乗和を最小にする方法です。
S ( θ ) = ∑ i = 1 n { y i − g ( x i ; θ ) } 2 S(\theta) = \sum_{i=1}^{n} \{y_i - g(x_i;\theta)\}^2 S ( θ ) = i = 1 ∑ n { y i − g ( x i ; θ ) } 2
例えば、各データ点と直線をばねでつないだ場面を想像してください。ばねのエネルギーは伸びの2乗に比例するので、手を離すと、直線はエネルギーの合計が最小になる位置に落ち着きます。それが最小二乗法の答えです。
最も単純な g = a g = a g = a (定数)の場合は、S ( a ) = ∑ i ( y i − a ) 2 S(a) = \sum_i (y_i - a)^2 S ( a ) = ∑ i ( y i − a ) 2 を a a a で微分すると a ^ = y ˉ \hat{a} = \bar{y} a ^ = y ˉ が出ます。標本平均も最小二乗推定量なのです。
g = a + b x g = a + bx g = a + b x の場合は、a a a と b b b で偏微分して0とおきます。
∑ i ( y i − a − b x i ) = 0 , ∑ i x i ( y i − a − b x i ) = 0 \sum_{i}(y_i - a - bx_i) = 0, \qquad \sum_{i} x_i (y_i - a - bx_i) = 0 i ∑ ( y i − a − b x i ) = 0 , i ∑ x i ( y i − a − b x i ) = 0
この2本を 正規方程式 と呼びます。解くと、2級で使った b ^ = S x y / S x x \hat{b} = S_{xy}/S_{xx} b ^ = S x y / S xx 、a ^ = y ˉ − b ^ x ˉ \hat{a} = \bar{y} - \hat{b}\bar{x} a ^ = y ˉ − b ^ x ˉ になります。
ここがポイントです。最小二乗法は、誤差の分布を何も仮定していません。最尤法は分布を決めないと使えませんが、最小二乗法はズレの大きさだけで計算できます。
では、2つの方法は関係がないのでしょうか? 実は、誤差が N ( 0 , σ 2 ) N(0, \sigma^2) N ( 0 , σ 2 ) に従うと仮定すると、対数尤度は次の形になります。
ℓ = − n 2 log ( 2 π σ 2 ) − S ( θ ) 2 σ 2 \ell = -\frac{n}{2}\log(2\pi\sigma^2) - \frac{S(\theta)}{2\sigma^2} ℓ = − 2 n log ( 2 π σ 2 ) − 2 σ 2 S ( θ )
ℓ \ell ℓ を最大にすることは、S ( θ ) S(\theta) S ( θ ) を最小にすることと同じです。つまり、誤差が正規分布なら、最小二乗推定量は最尤推定量に一致します。
以上が、最小二乗法についての解説です。
線形模型:行列で一度に解く
予測値は y の影。残差は平面と直交する
最後に、線形模型を見ていきましょう。
線形模型 (線形モデル)は、応答 y y y を説明変数の線形結合と誤差の和で表すモデルです。n n n 個の観測をまとめて、行列で次のように書きます。
y = X β + ε , E [ ε ] = 0 , V [ ε ] = σ 2 I \boldsymbol{y} = X\boldsymbol{\beta} + \boldsymbol{\varepsilon}, \qquad E[\boldsymbol{\varepsilon}] = \boldsymbol{0}, \quad V[\boldsymbol{\varepsilon}] = \sigma^2 I y = X β + ε , E [ ε ] = 0 , V [ ε ] = σ 2 I
y \boldsymbol{y} y は n n n 次元の応答、X X X は n × p n \times p n × p の 計画行列 、β \boldsymbol{\beta} β は p p p 次元の未知の係数です。「線形」とは、係数 β \boldsymbol{\beta} β について1次式という意味です。したがって、y = β 0 + β 1 x + β 2 x 2 y = \beta_0 + \beta_1 x + \beta_2 x^2 y = β 0 + β 1 x + β 2 x 2 のような2次式も線形模型です。単回帰、重回帰、分散分析は、X X X の作り方が違うだけで、どれもこの1つの式に入ります。万能の型紙のようなものです。
ズレの2乗和は S ( β ) = ( y − X β ) ⊤ ( y − X β ) S(\boldsymbol{\beta}) = (\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta})^\top(\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta}) S ( β ) = ( y − X β ) ⊤ ( y − X β ) です。β \boldsymbol{\beta} β で微分して0とおくと、X ⊤ ( y − X β ) = 0 X^\top(\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{\beta}) = \boldsymbol{0} X ⊤ ( y − X β ) = 0 となり、行列の形の正規方程式が得られます。X ⊤ X X^\top X X ⊤ X が逆行列をもつとき、解は次のとおりです。
X ⊤ X β ^ = X ⊤ y , β ^ = ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y X^\top X \hat{\boldsymbol{\beta}} = X^\top \boldsymbol{y}, \qquad \hat{\boldsymbol{\beta}} = (X^\top X)^{-1} X^\top \boldsymbol{y} X ⊤ X β ^ = X ⊤ y , β ^ = ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y
記号の意味を確認しましょう。X ⊤ X^\top X ⊤ は X X X の転置です。X ⊤ ( y − X β ^ ) = 0 X^\top(\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}) = \boldsymbol{0} X ⊤ ( y − X β ^ ) = 0 は、残差が X X X のすべての列と直交することを表しています。つまり、X β ^ X\hat{\boldsymbol{\beta}} X β ^ は、y \boldsymbol{y} y を X X X の列が張る平面へ落とした影です。真上から光を当てたとき、棒の先の影が棒の先に最も近い平面上の点になるのと同じです。
推定量の性質は、次の3つです。
【線形模型の推定量の性質】
不偏: E [ β ^ ] = β E[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = \boldsymbol{\beta} E [ β ^ ] = β
分散共分散行列: V [ β ^ ] = σ 2 ( X ⊤ X ) − 1 V[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = \sigma^2 (X^\top X)^{-1} V [ β ^ ] = σ 2 ( X ⊤ X ) − 1
誤差分散の不偏推定量: s 2 = RSS / ( n − p ) s^2 = \text{RSS}/(n - p) s 2 = RSS / ( n − p ) (RSS \text{RSS} RSS は残差平方和)
なお、誤差が正規分布のとき、σ 2 \sigma^2 σ 2 の最尤推定量は RSS / n \text{RSS}/n RSS / n です。分母が違う点は、正規分布の σ ^ 2 \hat{\sigma}^2 σ ^ 2 と同じ話です。
例題:行列で回帰係数を求める
4組のデータ ( x , y ) (x, y) ( x , y ) が (1, 2), (2, 3), (3, 5), (4, 6) のとき、y = β 0 + β 1 x + ε y = \beta_0 + \beta_1 x + \varepsilon y = β 0 + β 1 x + ε の β ^ \hat{\boldsymbol{\beta}} β ^ と s 2 s^2 s 2 を求めましょう。
【解き方】
X X X は1列目がすべて1、2列目が x x x 。X ⊤ X X^\top X X ⊤ X と X ⊤ y X^\top \boldsymbol{y} X ⊤ y を計算する
X ⊤ X = ( 4 10 10 30 ) , X ⊤ y = ( 16 47 ) X^\top X = \begin{pmatrix} 4 & 10 \\ 10 & 30 \end{pmatrix}, \qquad X^\top \boldsymbol{y} = \begin{pmatrix} 16 \\ 47 \end{pmatrix} X ⊤ X = ( 4 10 10 30 ) , X ⊤ y = ( 16 47 )
行列式は 4 × 30 − 10 × 10 = 20 4 \times 30 - 10 \times 10 = 20 4 × 30 − 10 × 10 = 20 なので、逆行列を掛ける
β ^ = 1 20 ( 30 − 10 − 10 4 ) ( 16 47 ) = ( 0.5 1.4 ) \hat{\boldsymbol{\beta}} = \frac{1}{20}\begin{pmatrix} 30 & -10 \\ -10 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 16 \\ 47 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0.5 \\ 1.4 \end{pmatrix} β ^ = 20 1 ( 30 − 10 − 10 4 ) ( 16 47 ) = ( 0.5 1.4 )
予測値は 1.9, 3.3, 4.7, 6.1 で、残差は 0.1, −0.3, 0.3, −0.1
RSS = 0.01 + 0.09 + 0.09 + 0.01 = 0.2 \text{RSS} = 0.01 + 0.09 + 0.09 + 0.01 = 0.2 RSS = 0.01 + 0.09 + 0.09 + 0.01 = 0.2 なので、s 2 = 0.2 ÷ ( 4 − 2 ) = 0.1 s^2 = 0.2 \div (4 - 2) = 0.1 s 2 = 0.2 ÷ ( 4 − 2 ) = 0.1
答えは β ^ 0 = 0.5 \hat{\beta}_0 = 0.5 β ^ 0 = 0.5 、β ^ 1 = 1.4 \hat{\beta}_1 = 1.4 β ^ 1 = 1.4 、s 2 = 0.1 s^2 = 0.1 s 2 = 0.1 です。傾きの分散の推定値は、0.1 × 4 ÷ 20 = 0.02 0.1 \times 4 \div 20 = 0.02 0.1 × 4 ÷ 20 = 0.02 となります。
ここまでの3つの方法を比べてみましょう。
方法 考え方 必要な仮定 特徴 モーメント法 モーメントをそろえる モーメントの式 計算が手軽。ありえない値が出ることも 最尤法 データが最も起きやすい母数 分布の形 汎用で性質がよい。数値計算が要ることも 最小二乗法 ズレの2乗和を最小に 回帰式の形 分布の仮定が不要。正規誤差なら最尤法に一致
試験のポイント:β ^ = ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y \hat{\boldsymbol{\beta}} = (X^\top X)^{-1}X^\top\boldsymbol{y} β ^ = ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y と V [ β ^ ] = σ 2 ( X ⊤ X ) − 1 V[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = \sigma^2(X^\top X)^{-1} V [ β ^ ] = σ 2 ( X ⊤ X ) − 1 は、2次の逆行列を手で計算できるようにしておきましょう。
以上が、線形模型についての解説です。
今回のまとめ
寸法をそろえる、証拠で選ぶ、ズレを減らす。主役は最尤法
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、推定量を作る3つの方法と、線形模型について紹介しました。寸法をそろえるモーメント法、証拠から犯人を探す最尤法、ばねのエネルギーを最小にする最小二乗法と、発想はそれぞれ違います。その中で最尤法は、どんな分布でも同じ手順で使える、最も汎用な方法です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
モーメント法は標本と母集団のモーメントを等しいとおく。手軽だが、ありえない値が出ることもある。
最尤法は尤度を最大にする。対数をとって微分するのが基本で、範囲が母数で決まる分布では直接考える。
最尤推定量には不変性があり、g ( θ ) g(\theta) g ( θ ) の推定量は g ( θ ^ ) g(\hat{\theta}) g ( θ ^ ) でよい。
最小二乗法は分布の仮定なしに使え、誤差が正規分布なら最尤法と一致する。
線形模型の解は ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y (X^\top X)^{-1}X^\top\boldsymbol{y} ( X ⊤ X ) − 1 X ⊤ y で、残差は X X X の列と直交する。
キーワードのおさらい
モーメント法: 標本モーメントと母集団モーメントを等しいとおいて母数を解く方法
最尤法: 尤度関数を最大にする値を推定値とする方法
最小二乗法: 観測値と予測値のズレの2乗和を最小にする方法
線形模型: 応答を、係数について1次式の部分と誤差の和で表すモデル
さて、同じデータでも、方法によって推定値が変わることが分かりました。では、どの推定量が「よい」推定量なのでしょうか? 分散の分母は n n n と n − 1 n-1 n − 1 のどちらがよいのでしょうか?
次回は、不偏性や有効性など、推定量のよさを測る基準である「点推定の性質」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。