準1級-20 応用統計の手法
確率過程の基礎
- ランダムウォーク
- ポアソン過程
- ブラウン運動
はじめに
「さっきから全然お客さんが来ない。そろそろ来るはず」
コンビニのレジに立っていると、こう思いたくなります。でも、お客さんが互いに無関係に来ているなら、10分間だれも来なかったことは、次の1分に何の影響も与えません。「そろそろ」はないのです。
実は、時間とともに偶然に動く現象には、いくつかの基本の型があります。酔っぱらいの千鳥足、お店に客が来る時刻、水に浮いた花粉の動き、株価の揺れ。見た目はバラバラですが、それぞれ少数の型に当てはめて計算できます。
そこで登場するのが、今回の主役 確率過程 です。時間につれて変わる確率変数の集まりのことで、代表選手は ランダムウォーク、ポアソン過程、ブラウン運動 の3人です。
前回の記事では、今の状態だけで次の状態が決まるマルコフ連鎖を学びました。今回の3人も、すべてマルコフ性を持っています。今回の記事では、これらの定義と、確率の計算方法について解説します。
確率過程の見取り図
はじめに、確率過程の見取り図について解説します。
確率過程 とは、時刻 ごとに確率変数 が定められた集まり のことです。1つの確率変数が「1回のサイコロ」なら、確率過程は「サイコロを振り続けた記録の全体」です。実際に得られた1本の記録を 見本路 と呼びます。
3人の代表選手は、時間と状態が連続か離散かで整理できます。
| 確率過程 | 時間 | 状態 | イメージ |
|---|---|---|---|
| ランダムウォーク | 離散 | 離散 | 1歩ずつ進む千鳥足 |
| ポアソン過程 | 連続 | 離散 | いつ来るか分からない客の数 |
| ブラウン運動 | 連続 | 連続 | 水に浮いた花粉の揺れ |
3人に共通するのが、次の2つの性質です。
【増分の性質】
- 独立増分: 重ならない時間の変化量 どうしが独立である
- 定常増分: 変化量の分布が、時間の長さ だけで決まる
要するに、今週の変化は先週の変化と無関係で、同じ長さの期間なら、変化の出方は同じということです。この2つのおかげで、計算が和の分布の問題に帰着します。
以上が、確率過程の見取り図についての解説です。
ランダムウォーク:千鳥足の数学
次に、ランダムウォークについて説明します。
数直線の原点に、酔っぱらいが立っています。1歩ごとに、確率 で右へ1、確率 で左へ1動きます。 歩後の位置を とします。
これが ランダムウォーク です。 のとき、対称ランダムウォーク と呼びます。
各歩の平均は 、分散は です。歩は独立なので、 歩後は次のようになります。
分布も分かります。右へ進んだ回数を とすると で、 は二項分布 に従います。
具体的に見てみましょう。 で6歩進んだとき、位置が2になる確率を求めます。 となるのは、右に4回、左に2回進むときです。
100歩なら、平均は20、分散は96です。
原点に戻るか:再帰性
酔っぱらいは、いつか家に帰れるのでしょうか? 前回の記事で学んだ再帰性の問題です。
原点へ戻れるのは偶数歩のときだけです。対称ランダムウォークでは、次の式が成り立ちます。
例えば、100歩後に原点にいる確率は、 として0.0796です。近似の式でも0.0798と、よく合います。
再帰的かどうかは、この確率の和が無限大になるかで判定しました。 の和は発散するので、対称ランダムウォークは再帰的 です。必ず原点に戻ります。ただし、戻るまでの平均時間は無限大で、零再帰的です。
一方、 なら、確率は のように急速に小さくなり、和は有限です。流れのある川を歩くようなもので、一時的になります。
次元を上げると、結果が変わります。これは ポリアの定理 と呼ばれます。
【対称ランダムウォークの再帰性】
- 1次元、2次元: 再帰的
- 3次元以上: 一時的(3次元で戻る確率は約0.34)
「酔っぱらいは家に帰れるが、酔った鳥は帰れない」と言われることもあります。
破産の問題
前回の記事で触れた賭けを、一般の形にしましょう。所持金 で始め、1回ごとに確率 で1増え、 で1減ります。0になるか になると終わります。 に届く確率を とします。
最初の一歩で場合分けすると、、、 です。これを解くと次の式が出ます。
、 で計算してみます。
| 勝つ確率 | 0.50 | 0.48 | 0.45 |
|---|---|---|---|
| 20に届く確率 | 0.50 | 0.31 | 0.12 |
1回の勝負の勝率がわずか0.02下がるだけで、最終的に勝てる確率は0.5から0.31まで落ちます。少しの差が、長い勝負で積み重なるのです。
鏡像原理
最後に、途中の最大値を求める道具を紹介します。対称ランダムウォークが、 に一度でも届く道を考えます。最初に に届いた時点から先を、 を軸に折り返します。すると、「最後に より下にいる道」と「 より上にいる道」が1対1に対応します。これが 鏡像原理(反射原理)です。
例えば、4歩で2に届く確率は、、 より、 です。
試験のポイント:ランダムウォークは「右へ進む回数が二項分布」と言い換えると計算できます。分散は で、 ではありません。
以上が、ランダムウォークについての説明です。
ポアソン過程:いつ来るか分からない客
続いて、ポアソン過程について解説します。
時刻 までに起きた出来事の回数を とします。次の性質を満たすとき、ポアソン過程 と呼びます。 は 強度、つまり単位時間あたりの平均回数です。
【ポアソン過程の定義】
- である
- 独立増分を持つ
- は、平均 のポアソン分布に従う
なぜポアソン分布なのでしょうか? 1時間を 個の短い区間に切って考えます。各区間で客が来る確率は です。区間どうしは独立なので、客の数は二項分布 に従います。 を大きくすると、これは少数法則によってポアソン分布に近づきます。
到着の間隔は指数分布
次の客が来るまでの時間 の分布を求めましょう。「時間 より長く待つ」は「 までに0人」と同じです。
これは指数分布です。到着の間隔は互いに独立で、平均 の指数分布に従います。 番目の客が来るまでの時間は、その 個の和なので、ガンマ分布に従います。平均は です。
指数分布には、無記憶性 があります。
冒頭の話に戻りましょう。10分間だれも来なかった後でも、次の客までの時間の分布は最初と同じです。ポアソン過程には「そろそろ」がありません。過去の待ち時間を忘れる、マルコフ性の連続版です。
例題:お店の来客
ある店には、1時間に平均3人の客が来ます。来客はポアソン過程に従うとします。次の確率を求めましょう。
- 2時間でちょうど4人来る確率
- 20分間だれも来ない確率
- 3人目の客が1時間以内に来る確率
【解き方】
- は平均6のポアソン分布に従う:
- 20分は3分の1時間なので、:
- 「3人目が1時間以内に来る」は「1時間で3人以上来る」と同じ:
答えは順に、0.134、0.368、0.577です。3 のように、待ち時間の問題を回数の問題に言い換えるのが、よく使う手です。
分解、重ね合わせ、条件つきの一様性
ポアソン過程には、便利な性質が3つあります。
【3つの性質】
- 重ね合わせ: 強度 と の独立なポアソン過程を足すと、強度 のポアソン過程になる
- 分解: 各到着を確率 で振り分けると、強度 と の独立なポアソン過程になる
- 条件つきの一様性: のもとで、 個の到着時刻は の一様分布からの 個の順序統計量と同じ
例えば、1時間に3人の客のうち4割が商品を買うなら、買う客は強度1.2のポアソン過程です。買わない客の到着とは独立になるのは、少し意外な性質です。
3つ目からは、次の式が出ます。 のとき、 のもとで は二項分布に従います。
例えば、1時間に6人来たと分かったとき、最初の20分に2人来ていた確率は、 です。強度 は式に出てきません。
試験のポイント:回数はポアソン分布、間隔は指数分布、 番目までの時間はガンマ分布です。「 番目が 以内」と「 までに 回以上」の言い換えを使います。
以上が、ポアソン過程についての解説です。
ブラウン運動:連続に揺れる過程
最後に、ブラウン運動を見ていきましょう。
水に浮いた花粉は、水の分子に四方からぶつかられて、小刻みに揺れ続けます。1回1回の衝突は小さくても、合計するとランダムな動きになります。これをモデルにしたのが ブラウン運動 です。ウィーナー過程とも呼びます。
【ブラウン運動の定義】
- である
- 独立増分を持つ
- なら、 は に従う
- 見本路は連続である
ランダムウォークから作ると、イメージがつかめます。 分割した時間の1コマごとに、 の歩幅で対称に動くとします。時刻 までの歩数は で、位置の分散は です。 を大きくすると、中心極限定理によって、位置は に近づきます。つまり、ブラウン運動はランダムウォークの歩幅と時間を、同時に細かくした極限です。
ここがポイントです。歩幅は ではなく で縮めます。 で縮めると、分散が0になって動きが消えてしまいます。このため、見本路は連続ですが、ギザギザで、どの点でも微分できません。
共分散と計算の型
のとき、 と分けて計算します。後ろの増分は と独立なので、次の式が出ます。
ブラウン運動の計算は、「独立な増分に分ける」がすべてです。
例題:ブラウン運動の確率
標準ブラウン運動 について、次の値を求めましょう。
- のときの
【解き方】
- なので、
- と独立な部分に分ける。分散は
- で、増分は に従う。
答えは順に、0.159、6、0.240です。
最大値と反射原理
ランダムウォークの鏡像原理は、ブラウン運動でも使えます。連続なので、 を飛び越えることがなく、式がさらに簡単になります。 に対して、次の式が成り立ちます。
例えば、 までに2に届く確率は、 です。時刻4に2を超えている確率の、ちょうど2倍です。一度2に届いたら、そこから先は上下半々だからです。
ドリフトと幾何ブラウン運動
時間に比例する流れを加えたものが、ドリフトつきブラウン運動 です。 は、 に従います。
ただし、株価のように負にならない量には、そのまま使えません。そこで、対数がドリフトつきブラウン運動に従うと考えます。これが 幾何ブラウン運動 です。
は対数正規分布に従い、平均は です。例えば、、、 なら、平均は の 倍です。揺れがあるだけで、平均は 倍より大きくなります。
試験のポイント: を押さえます。計算するときは、必ず重ならない増分に分けて独立性を使います。
以上が、ブラウン運動についての説明です。
細かい定理が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「独立な増分に分ければ、分布の和の計算に帰着する」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は時間とともに偶然に動く、3つの基本の確率過程を紹介しました。千鳥足はコイン投げの和、客の数はポアソン分布、花粉の揺れは正規分布に、それぞれ還元できます。どれも、増分が独立だから計算できるのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- ランダムウォークは千鳥足。右へ進む回数が二項分布に従い、。
- 対称ランダムウォークは1, 2次元で再帰的、3次元以上で一時的。
- ポアソン過程は回数がポアソン分布、間隔が指数分布。「そろそろ来る」はない(無記憶性)。
- ブラウン運動はランダムウォークの極限。 で、共分散は 。
- 途中の最大値は、鏡像原理(反射原理)で折り返して求める。
キーワードのおさらい
- 確率過程: 時刻ごとに定められた確率変数の集まり
- ランダムウォーク: 独立な歩幅を足し合わせた確率過程
- ポアソン過程: 一定の強度で独立に起きる出来事の回数を表す確率過程
- 無記憶性: 待った時間が、この先の待ち時間の分布に影響しないという性質
- ブラウン運動: 増分が独立で正規分布に従う、見本路が連続な確率過程
- 鏡像原理: 道を折り返して、途中の最大値の確率を求める方法
さて、ここまでで確率モデルの基礎がそろいました。ここからは、データを説明する統計モデルの実践に入ります。2級で学んだ重回帰は、ソフトの出力を読むところまででした。では、その中では何が起きていて、変数はどう選べばよいのでしょうか?
次回は、行列の形から変数選択、正則化までを扱う「重回帰分析」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。