2級-26 推測統計の基礎
実験計画の概念 — 一元配置と分散分析
- 実験
- 処理群と対照群
- 反復
- ブロック化
- 一元配置実験
- 3群以上の平均値の差(分散分析)
- F比
はじめに
「3種類の肥料を比べたい。t検定を3回やればいいんじゃない?」
トマトの収穫量を比べる実験をしたとしましょう。肥料なし、肥料A、肥料Bの3グループがあります。2つずつ組み合わせて、t検定を3回行えば答えが出そうですよね。
実は、この方法には落とし穴があります。検定を繰り返すほど、本当は差がないのに「差がある」と誤って判断する確率が膨らんでいくのです。くじを1回引くより3回引くほうが、当たりやすいのと同じです。
そこで登場するのが、今回の主役 分散分析(ANOVA) です。3つ以上のグループの平均に差があるかを、1回の検定でまとめて調べる方法です。「平均の差」を調べるのに「分散」と呼ぶのが不思議ですが、その理由もこれから分かります。
前回の記事では、回帰分析で複数の変数を扱いました。今回の記事では、実験の組み立てを思い出したうえで、一元配置実験 のデータを分散分析で調べる手順と、F比 の読み方について解説します。
実験の組み立て:比べるための準備
はじめに、分散分析の土台となる実験の組み立てについて解説します。
実験 とは、調べたい要因を研究者が意図的に変えて、結果を測ることです。「実験 — フィッシャーの3原則」の記事で学んだ内容を、ここで短く思い出しましょう。
実験の基本は、公平な比べ方です。料理コンテストで、1人だけ高級な食材を使っていたら、腕の勝負にはなりませんよね。トマトの実験でも、比べたい肥料以外の条件をできるだけそろえます。
【実験の用語】
- 因子: 結果に影響すると考えて、実験で変える要因(例:肥料の種類)
- 水準: 因子の種類や段階(例:肥料なし、肥料A、肥料Bの3水準)
- 処理群と対照群: 処理を受けるグループと、比較の基準になるグループ(例:肥料Aの鉢と、肥料なしの鉢)
- 反復: 同じ処理を複数の対象に行うこと(例:各水準に5鉢ずつ)
- ブロック化: 条件の似た対象をまとめ、その中で処理を比べること(例:同じ日当たりの区画の中で比べる)
なぜ反復が必要なのでしょうか? 1鉢ずつの比較では、差が肥料のせいか、その鉢のたまたまの出来なのかを区別できないからです。反復があって初めて、たまたまのばらつきの大きさが分かります。
もう1つの原則が、無作為化です。どの鉢にどの肥料を与えるかは、くじなどでランダムに決めます。こうして、1つの因子だけを変えて行う実験を 一元配置実験 と呼びます。
試験のポイント:フィッシャーの3原則は、反復、無作為化、局所管理です。ブロック化は局所管理の具体的な方法です。
以上が、実験の組み立てについての解説です。
3群以上の平均値の差:変動を2つに分ける
次に、3群以上の平均値の差を調べる考え方について説明します。
まず、冒頭の落とし穴を数字で確かめましょう。有意水準5%の検定を1回行うとき、誤って棄却しない確率は0.95です。独立に3回行うなら、1回も誤らない確率は なので、少なくとも1回誤る確率は次のようになります。
5%のつもりが、約14%にまで膨らみました。これを 検定の多重性 と呼びます。グループが5つなら組み合わせは10通りで、約40%です。
そこで分散分析では、 を一度に検定します。対立仮説は「少なくとも1組の平均が異なる」です。「全部が異なる」ではない点に注意しましょう。
分散分析のアイデアは、回帰分析の変動の分解と同じです。データ全体のばらつきを、2つに分けます。
- (全変動): すべての値と全体平均の差の2乗の合計
- (群間変動): 各群の平均と全体平均の差の2乗に、群の大きさを掛けて合計したもの
- (群内変動): 各値と、その群の平均の差の2乗の合計
例え話で考えてみましょう。3つのクラスの点数がばらついている理由は2つあります。1つは「クラスごとの実力の違い」で、これが群間変動です。もう1つは「同じクラスの中の個人差」で、これが群内変動です。個人差に比べて、クラスの違いが十分に大きければ、クラスの平均に差があると言えます。
つまり、平均の差を調べるために、ばらつきの比を見ているのです。これが「分散」分析と呼ばれる理由です。
具体的に見てみましょう。トマトの実験の結果が、次の表のようだったとします。値は、1鉢から収穫できた実の個数です。
| 処理 | 鉢1 | 鉢2 | 鉢3 | 鉢4 | 鉢5 | 平均 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 肥料なし | 18 | 19 | 20 | 22 | 21 | 20 |
| 肥料A | 22 | 23 | 25 | 24 | 26 | 24 |
| 肥料B | 20 | 22 | 21 | 23 | 24 | 22 |
全体平均は22です。3つの変動を計算します。
【変動の計算】
- 群間変動:
- 群内変動: 群ごとに偏差の2乗を合計すると、どれも10なので
- 全変動: すべての値で計算すると
確かに 70 = 40 + 30 です。
以上が、変動を2つに分ける考え方についての説明です。
F比と分散分析表:検定の手順
続いて、F比の計算と分散分析表について解説します。
変動をそのまま比べることはできません。群の数やデータの数が違えば、足し合わせる項の数が違うからです。そこで、それぞれを自由度で割って、平均平方 にそろえます。
【自由度】(群の数を 、データの総数を とする)
- 群間:
- 群内:
- 全体:
検定統計量の F比 は、群間の平均平方を群内の平均平方で割った値です。
言葉で言うと、「グループの違いによるばらつきが、たまたまのばらつきの何倍あるか」です。シグナルとノイズの比だと考えてください。 が正しければ、 は1の近くになります。 のもとで は自由度 のF分布に従い、大きいほど に不利なので、棄却域は上側だけに置きます。
ここまでの結果を1枚にまとめたものが、単回帰の記事でも登場した分散分析表です。
例題:トマトの実験の分散分析
トマトのデータで、3つの処理の平均に差があるかを、有意水準5%で検定しましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、 は「少なくとも1組の平均が異なる」
- 自由度を求める: 群間は 3 − 1 = 2、群内は 15 − 3 = 12
- 平均平方を求める: 群間は 40 ÷ 2 = 20、群内は 30 ÷ 12 = 2.5
- F比を計算する:
- 8.0 > 3.89 なので、 を棄却する
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F比 |
|---|---|---|---|---|
| 処理(群間) | 40 | 2 | 20 | 8.0 |
| 残差(群内) | 30 | 12 | 2.5 | |
| 全体 | 70 | 14 |
答えは「有意水準5%で、少なくとも1組の平均に差がある」です。p値は約0.006です。
ここで、3つ注意しておきましょう。
【分散分析の注意点】
- 前提: 各群は正規分布に従い、分散が等しく、データは互いに独立であることを仮定する
- 結論の範囲: 棄却しても、どの組に差があるかまでは分からない
- 2群のとき: 群が2つなら、F比は等分散を仮定した t検定の の2乗に等しい
どの組に差があるかを知るには、多重比較 という方法を使います。検定を繰り返すぶんの誤りが膨らまないように、基準を厳しく調整して比べます。
試験のポイント:分散分析表は、空欄を埋める形でよく問われます。平方和は足し算、自由度も足し算、平均平方は割り算、という関係を覚えておきましょう。
以上が、F比と分散分析表についての解説です。
ブロック化:ノイズを取り除く
最後に、ブロック化の効果を見ていきましょう。
先ほどのF比の分母は、たまたまのばらつきでした。ここが小さいほど、処理の差は見つけやすくなります。騒がしい教室より静かな教室のほうが、小さな声でも聞き取れるのと同じです。
実は、ばらつきの中には、原因が分かっていて取り除けるものがあります。例えば、畑の日当たりです。もし、表の鉢1〜鉢5が日当たりの違う5つの区画を表していて、各区画に3つの処理を1鉢ずつ割り当てていたとしましょう。これがブロック化です。区画という ブロック の中で処理を比べるので、日当たりの違いが処理の比較に混ざりません。
このとき、区画の違いによる変動 を、ノイズから取り出せます。
先ほどの表で計算してみましょう。区画ごとの合計は60, 64, 66, 69, 71で、区画ごとの平均と全体平均から となります。
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F比 |
|---|---|---|---|---|
| 処理 | 40 | 2 | 20 | 30.0 |
| ブロック(区画) | 24.67 | 4 | 6.17 | 9.25 |
| 残差 | 5.33 | 8 | 0.667 | |
| 全体 | 70 | 14 |
ブロック化しないときの残差の平方和は30でしたが、そこから24.67が区画のぶんとして取り除かれ、残りは5.33です。平均平方は2.5から約0.667に小さくなり、処理のF比は8.0から30.0に上がりました。 を大きく超えています。
同じデータでも、実験の組み立て方しだいで、差の見つけやすさが大きく変わるのです。つまり、ブロック化は「ノイズを減らす」工夫です。ただし、残差の自由度は12から8に減るので、ブロックは本当に条件の違いがあるときに作ります。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。3つの教え方を比べるなら、学力の近い生徒を3人ずつの組にして、組の中で教え方を割り当てます。組がブロックです。元の学力の差を取り除けるので、教え方の差が見やすくなります。
補足(ここは読み飛ばしてOK): ブロックのように2つ目の要因を加えて分析する方法を、二元配置の分散分析と呼びます。詳しくは準1級で学びます。
以上が、ブロック化についての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「全体のばらつきを分けて、群の違いがノイズの何倍かをF比で見る」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は実験の組み立てと、3群以上の平均値の差を調べる分散分析を紹介しました。分散分析は、ばらつきを「説明できるもの」と「たまたまのもの」に分ける方法です。回帰分析の変動の分解と、根っこは同じです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- t検定を繰り返すと、誤って棄却する確率が膨らむ(検定の多重性)。
- 分散分析は、全変動を群間変動と群内変動に分ける。
- F比は「群の違いによるばらつき」が「たまたまのばらつき」の何倍かを表す。
- 棄却しても分かるのは「少なくとも1組に差がある」ことまで。
- ブロック化はノイズを取り除き、処理の差を見つけやすくする。
キーワードのおさらい
- 実験: 要因を意図的に変えて結果を測ること
- 処理群と対照群: 処理を受けるグループと、比較の基準になるグループ
- 反復: 同じ処理を複数の対象に行うこと
- ブロック化: 条件の似た対象をまとめ、その中で処理を比べること
- 一元配置実験: 1つの因子だけを変えて行う実験
- 分散分析: 変動を分解して、3群以上の平均の差を調べる方法
- F比: 群間の平均平方を群内の平均平方で割った値
さて、ここまでで2級の手法はすべて出そろいました。でも、実際の分析では、計算はソフトウェアが行います。人間の仕事は、出てきた数字を読み取って、判断につなげることです。
次回は、2級の最後の記事として「統計ソフトウェアの活用」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。