2級-27 推測統計の基礎
統計ソフトウェアの活用
- 計算出力の活用
- 問題解決への活用
はじめに
「計算はソフトがやってくれるなら、何を勉強すればいいの?」
ここまで検定の式を手で解いてきて、こう感じた人もいるかもしれません。実際の分析では、データを入れてボタンを押すか、コードを1行書けば、一瞬で結果が出ます。電卓で平方根を開く場面は、ほとんどありません。
実は、計算が簡単になるほど、大事になる力があります。それは、出てきた数字を読み取る力です。健康診断の結果票に似ています。検査は機械がしてくれますが、数字の意味が分からなければ、生活を変えることはできませんよね。
統計検定2級でも、ソフトの出力を示して読み取らせる問題がよく出題されます。
そこで登場するのが、今回の主役 計算出力の活用 と 問題解決への活用 です。
前回の記事では、分散分析で3群以上の平均を比べました。今回の記事では、2級の最後として、回帰分析や検定の出力を読み取る方法と、その結果を判断につなげる方法について解説します。
出力を読むときの基本
はじめに、どの出力にも共通する読み方について解説します。
統計ソフトには、表計算ソフト(Excelなど)、R、Pythonなど、いろいろな種類があります。見た目は違いますが、書いてある中身はこれまで学んだものと同じです。英語の項目名に驚く必要はありません。海外のレストランのメニューのようなもので、書いてある料理は知っているものばかりです。
【出力の項目の対応表】
| 項目 | Rなどの表示 | 表計算ソフトの表示 |
|---|---|---|
| 係数(推定値) | Estimate | 係数 |
| 標準誤差 | Std. Error | 標準誤差 |
| t値 | t value | t |
| p値 | Pr(>|t|)、p-value | P-値 |
| 切片 | (Intercept) | 切片 |
| 決定係数 | Multiple R-squared | 重決定 R2 |
| 自由度調整済み決定係数 | Adjusted R-squared | 補正 R2 |
| F検定のp値 | p-value | 有意 F |
| 自由度 | df、Df | 自由度 |
出力を読むときは、次の3つの順番で確かめます。
【出力を読む3つの手順】
- 何を検定しているのかを確かめる: 帰無仮説は何か、データは何件か
- 推定値とその標準誤差を見る: 効果の向きと大きさはどれくらいか
- p値を有意水準と比べる: p値が有意水準より小さければ棄却する
もう1つ、数字の書き方にも慣れておきましょう。ソフトは、とても小さい数を指数で表します。例えば、2.1e-06 や 2.1E-06 は、、つまり0.0000021のことです。p値が「< 2.2e-16」と出たら、「計算できる限界より小さい」という意味で、0になったわけではありません。
また、p値の横に付く「*」は有意水準の目印です。よく使われる表示では、* は5%、** は1%、*** は0.1%で有意という意味です。星の数は効果の大きさではありません。
試験のポイント:p値は「 が正しい確率」ではありません。「 が正しいとしたときに、これ以上極端な結果が出る確率」です。
以上が、出力を読むときの基本についての解説です。
回帰分析の出力を読む
次に、最もよく出題される回帰分析の出力について説明します。
例えば、あるコンビニの店長が、30日分のデータから売上の要因を調べたとしましょう。売上 (万円)を、来店者数 (百人)と最高気温 (度)で説明する重回帰の出力は、次のようになりました。
| Estimate | Std. Error | t value | Pr(>|t|) | |
|---|---|---|---|---|
| (Intercept) | 12.50 | 3.10 | 4.03 | 0.0004 |
| 来店者数 | 4.20 | 0.70 | 6.00 | 2.1e-06 |
| 最高気温 | 0.16 | 0.20 | 0.80 | 0.4307 |
| 項目 | 値 |
|---|---|
| Residual standard error | 3.75(自由度27) |
| Multiple R-squared | 0.620 |
| Adjusted R-squared | 0.592 |
| F-statistic | 22.03(自由度2と27)、p-value: 2.1e-06 |
地図を読むように、上から順に見ていきましょう。
【出力の読み方】
- 回帰式:
- 来店者数の係数: 気温が同じなら、来店者が100人増えると売上は4.2万円増える。p値が小さいので有意
- 最高気温の係数: p値が0.43と大きいので、0でないとは言えない
- 決定係数: 売上の変動の62%をこのモデルで説明できる
- F検定: p値が小さいので、少なくとも1つの係数は0ではない
- 残差の標準誤差: 予測は典型的に3.75万円ほど外れる
- 自由度27: 30 − 2 − 1 = 27 で、データ数と説明変数の数を逆算できる
試験では、出力の一部を隠して、計算させる問題も出ます。これまでの式を思い出せば、次のように求められます。
例題:出力から計算する
上の出力から、次の3つを求めましょう。 です。
- 来店者数の係数の95%信頼区間
- 来店者数が800人、最高気温が20度の日の売上の予測値
- 自由度調整済み決定係数
【解き方】
- 係数 ± 境目 × 標準誤差より、4.20 ± 2.052 × 0.70 = 2.76〜5.64
- に注意して、12.50 + 4.20 × 8 + 0.16 × 20 = 49.3
答えは、信頼区間が2.76〜5.64、予測値が49.3万円、自由度調整済み決定係数が0.592です。信頼区間が0を含まないことは、係数が有意であることと対応しています。単位が百人である点は、よくある引っかけです。
試験のポイント:t値は「係数 ÷ 標準誤差」です。この関係を使えば、隠された3つのうちどれでも求められます。
以上が、回帰分析の出力についての説明です。
検定の出力を読む
続いて、t検定、分散分析、カイ二乗検定の出力について解説します。科目は違っても、成績表の形式はよく似ています。1つずつ見ていきましょう。
1. t検定の出力
店長が、売り場のレイアウトを変える前の20日間と変えた後の20日間で、1日の売上(万円)を比べたとします。出力は次の通りです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 検定 | Welch Two Sample t-test |
| t | −2.41 |
| df | 37.6 |
| p-value | 0.021 |
| 95 percent confidence interval | −8.10 〜 −0.70 |
| mean of x(変更前) | 48.2 |
| mean of y(変更後) | 52.6 |
Welchとあるので、等分散を仮定しない検定です。p値は0.021で、有意水準5%で棄却されます。差は 48.2 − 52.6 = −4.4 で、信頼区間は0を含みません。つまり、変更後のほうが売上は高く、その差は0.7〜8.1万円の範囲と読めます。
自由度が小数になっている点が、ウェルチの検定の目印です。t値の符号は、どちらからどちらを引いたかで変わるだけなので、平均の値とあわせて向きを確かめましょう。
2. 分散分析の出力
次に、4種類の陳列を10日ずつ試した結果です。出力は分散分析表の形をしています。
| Df | Sum Sq | Mean Sq | F value | Pr(>F) | |
|---|---|---|---|---|---|
| 陳列 | 3 | 120 | 40 | 8.0 | 0.0003 |
| Residuals | 36 | 180 | 5 |
前回の記事の表と同じです。Sum Sqは平方和、Mean Sqは平均平方、Residualsは残差です。120 ÷ 3 = 40、180 ÷ 36 = 5、40 ÷ 5 = 8.0 と確かめられます。
自由度からも、実験の形が読み取れます。陳列の自由度が3なので群は4つ、全体の自由度が 3 + 36 = 39 なので、データは40個です。p値は0.0003なので、少なくとも1組の陳列で平均に差があると言えます。
3. カイ二乗検定の出力
最後に、年代と支払い方法の関連を調べた独立性の検定です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 検定 | Pearson's Chi-squared test |
| X-squared | 6.52 |
| df | 2 |
| p-value | 0.038 |
X-squaredが のことです。自由度が2なので、2×3の表だと分かります。p値は0.038なので、有意水準5%では関連があると言えますが、1%では言えません。有意水準はデータを見る前に決めておくものなので、どちらで判断するかは最初に定めます。
以上が、検定の出力についての解説です。
問題解決への活用
最後に、出力を問題解決につなげる方法を見ていきましょう。
4級で学んだPPDACサイクルを思い出してください。問題(Problem)、計画(Plan)、データ(Data)、分析(Analysis)、結論(Conclusion)の順に進むのでした。ソフトが助けてくれるのは、主に分析の部分です。問題を立てることと、結論を出すことは、人間の仕事です。
分析結果は、料理で言えば素材にすぎません。何を作るかは、シェフが決めます。結論を出す前に、次の点を確かめましょう。
【結論を出す前の確認】
- データは問いに合っているか: 偏った標本ではないか、はずれ値や入力ミスはないか
- 前提は成り立っているか: 残差プロットに模様はないか、等分散や独立性を仮定してよいか
- 差の大きさに意味はあるか: 統計的に有意でも、実務で意味のある大きさか
- 因果と言えるか: 観察データなら、関連があるとしか言えない
例題:有意な差の判断
ある教材の効果を調べました。各群10,000人で、標準偏差はどちらも10点です。新教材のほうが平均点は0.3点高く、p値は0.034でした。教材を全校で入れ替えるべきでしょうか?
【考え方】
- p値が0.05より小さいので、統計的には有意
- しかし、差は0.3点しかない。これは標準偏差の0.03倍である
- 標本が大きいと標準誤差が小さくなり、わずかな差でも有意になる
- 入れ替えの費用に見合う効果かは、差の大きさから判断する
答えは「有意という理由だけでは入れ替えを決められない」です。有意かどうかは「差があるか」の答えで、「差が大事か」の答えではありません。
逆の場合もあります。標本が小さいと、大事な差があっても有意にならないことがあります。有意でないことは「差がない」ことの証明ではないので、信頼区間の幅も見て、データを追加するかを考えます。
せっかくなので、店長の話でも考えてみましょう。来店者数の係数が有意でも、「来店者を増やせば売上が増える」とは言い切れません。セールの日に来店者も売上も増えただけかもしれないからです。そこで、次は別の店舗で実験してみる、という新しい計画につながります。こうしてPPDACが回っていくのです。
試験のポイント:有意か有意でないかだけでなく、効果の大きさ、信頼区間、前提の確認をあわせて判断します。
以上が、問題解決への活用についての説明です。
細かい項目名を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「ソフトは計算を代わってくれるが、読み取りと判断は人間の仕事である」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は統計ソフトの出力を読み取り、問題解決につなげる方法を紹介しました。どんなに長い出力でも、中身はこれまで学んだ推定値、標準誤差、検定統計量、p値の組み合わせです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 出力は「何を検定しているか → 推定値と標準誤差 → p値」の順に読む。
- t値は係数を標準誤差で割った値。隠された値は、この関係で求められる。
- 自由度から、データの数や群の数を逆算できる。
- 有意であることと、差が実務で大事であることは別の話。
- 因果の判断や結論は、データの取り方まで含めて人間が考える。
キーワードのおさらい
- 計算出力の活用: ソフトの出力から推定値、標準誤差、p値などを読み取り、必要な値を求めること
- 問題解決への活用: 分析の結果を、前提や効果の大きさとあわせて判断し、次の行動につなげること
これで、2級の記事はすべて終わりです。ここまでお疲れさまでした。データの記述から始まり、確率分布、推定、検定、回帰、分散分析まで、推測統計の基礎がひと通りそろいました。順に読んで練習問題を解いてきたなら、2級の合格ラインはもう見えています。
さて、次はいよいよ準1級です。準1級では、2級で「こういうものだ」と受け入れてきた分布や検定の式を、確率の理論から導けるようになります。さらに、最尤法やロジスティック回帰、主成分分析、ベイズ法など、実社会の課題に合わせて手法を選ぶ力を身につけていきます。
その第一歩は、すべての土台となる「事象と確率」の見直しです。
それでは、準1級の記事へ進んでいきましょう。