2級-25 推測統計の基礎
回帰分析 — 重回帰モデル
- 回帰直線の傾きの推定と検定
- 重回帰モデル
- 偏回帰係数
- 回帰係数の検定
- 多重共線性
- ダミー変数を用いた回帰
- 自由度調整(修正)済み決定係数
はじめに
「駅から1分遠くなると、家賃はいくら下がるの?」
部屋探しをしていると、こんな疑問がわきますよね。駅徒歩と家賃のデータを集めて、回帰直線を引けば答えが出そうです。ところが、駅から遠い部屋は広いことが多いので、話はそう単純ではありません。
実は、変数を1つだけ見ると、他の要因の影響が混ざってしまいます。例えば、駅徒歩だけで回帰すると、1分あたり0.02万円しか下がらないのに、広さをそろえて比べると0.12万円も下がる、ということが起こります。「遠いぶん広い」という効果が、駅徒歩の効果を隠していたのです。
そこで登場するのが、今回の主役 重回帰モデル です。複数の説明変数を同時に使い、それぞれの効果を切り分ける方法です。
前回の記事では、カイ二乗統計量で質的変数の関連を調べました。これで、検定の道具がそろいました。単回帰の記事では「傾きの検定は後の記事で学ぶ」と予告しましたよね。今回の記事では、回帰直線の傾きの検定から始めて、重回帰モデルの読み方までを解説します。
回帰直線の傾きの推定と検定
はじめに、回帰直線の傾きの推定と検定について解説します。
単回帰の記事では、データから直線 を求めました。でも、求めた傾き は、たまたま集まった標本から計算した値です。別の6日間を調べれば、別の傾きになります。味見のたびに味の感想が少し変わるのと同じです。
そこで、データの背後に次の 回帰モデル を考えます。
、 は母集団の切片と傾き、 は誤差です。誤差は、互いに独立に平均0、分散 の正規分布に従うと仮定します。 は の推定値という位置づけです。
なら、 は の説明に役立ちません。そこで、 を検定します。検定統計量は、これまでと同じ「物差し何本分か」の形です。
は残差変動、 は の偏差の2乗の合計です。 のもとで、 は自由度 の t分布に従います。自由度が なのは、 と の2つを推定したからです。
傾きの95%信頼区間も、同じ部品から作れます。
例題:気温と売上の傾きの検定
単回帰の記事の例題では、6日間のデータから 、、 が得られました。傾きを有意水準5%で検定し、95%信頼区間を求めましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 残差の標準誤差を求める:
- 傾きの標準誤差を求める:
- 検定統計量を計算する:
- 7.94 > 2.776 なので、 を棄却する
- 信頼区間を求める: 3 ± 2.776 × 0.378 より、1.95〜4.05
答えは「有意水準5%で傾きは0ではなく、気温1度あたりの売上の増加は1.95〜4.05本の範囲と推定される」です。
この の2乗は、分散分析表のF比の63と一致します。単回帰では、傾きの t検定とF検定は同じ結論になります。
以上が、回帰直線の傾きの推定と検定についての解説です。
重回帰モデルと偏回帰係数
次に、重回帰モデルと偏回帰係数について説明します。
重回帰モデル は、説明変数が2つ以上ある回帰モデルです。説明変数が 個あるとき、次のように書きます。
係数は単回帰と同じく最小二乗法で、残差の2乗の合計が最も小さくなるように決めます。手で解くことはまずなく、ソフトに任せます。試験でも、問われるのは計算ではなく出力の読み方です。
ここで大切なのが、偏回帰係数 の意味です。偏回帰係数とは、他の説明変数を一定にしたまま、その変数だけを1増やしたときの の変化量です。
例えば、徒競走でシューズの効果を調べるなら、走る人も天気も同じにして、シューズだけを替えて比べますよね。偏回帰係数は、それをデータの上で行っているようなものです。「散布図と相関」の記事で学んだ偏相関係数と、似た発想です。
具体的に見てみましょう。ある街の30部屋のデータから、家賃 (万円)を、広さ (m²)、駅徒歩 (分)、築年数 (年)で説明すると、次の式が得られたとします。
【係数の読み方】
- 広さの係数0.15: 駅徒歩と築年数が同じなら、1m²広いと家賃は0.15万円高い
- 駅徒歩の係数−0.12: 広さと築年数が同じなら、1分遠いと家賃は0.12万円安い
- 築年数の係数−0.04: 広さと駅徒歩が同じなら、1年古いと家賃は0.04万円安い
予測も簡単です。30m²、徒歩10分、築15年の部屋なら、5.20 + 4.50 − 1.20 − 0.60 = 7.90 で、予測の家賃は7.9万円です。
冒頭の話に戻りましょう。駅徒歩だけの単回帰の傾き−0.02と、重回帰の−0.12が違っていたのは、単回帰の傾きに「遠いと広い」の効果が混ざっていたからです。このように、同じ変数でも、モデルに入れる変数が変わると係数は変わります。
もう1つ注意があります。係数の大きさだけで、どの変数の影響が強いかは比べられません。広さの単位をm²から坪に変えるだけで、係数の数字は変わってしまうからです。
試験のポイント:偏回帰係数を説明するときは、「他の変数を一定にしたとき」という言葉が必ず付きます。
以上が、重回帰モデルと偏回帰係数についての説明です。
回帰係数の検定と自由度調整済み決定係数
続いて、回帰係数の検定と、モデルのよさの測り方について解説します。
1. 回帰係数の検定
重回帰でも、回帰係数の検定 の形は同じです。 について、次の を計算します。
のもとで、 は自由度 の t分布に従います。推定した係数は、切片を含めて 個あるので、その分だけ自由度が減るのです。
例題:家賃のモデルの係数の検定
先ほどの家賃のモデルの出力は、次のようでした。各係数を有意水準5%で検定しましょう。自由度は 30 − 3 − 1 = 26 で、 です。
| 変数 | 係数 | 標準誤差 | t値 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 切片 | 5.20 | 0.80 | 6.50 | 0.000 |
| 広さ | 0.15 | 0.02 | 7.50 | 0.000 |
| 駅徒歩 | −0.12 | 0.03 | −4.00 | 0.000 |
| 築年数 | −0.04 | 0.03 | −1.33 | 0.194 |
【解き方】
- t値は係数を標準誤差で割った値: 例えば、広さは 0.15 ÷ 0.02 = 7.50
- 絶対値が2.056を超えるものを探す: 広さと駅徒歩
- 築年数は1.33で境目より小さい
答えは「広さと駅徒歩の係数は0ではないと言えるが、築年数は0でないとは言えない」です。p値が0.05より小さいかで判断しても、同じ結論になります。
なお、全部の係数がまとめて0かを調べるのが、分散分析表のF検定です。決定係数を とすると、F比は次の式で求まります。
このモデルの が0.80なら、 です。 を超えるので、少なくとも1つの係数は0ではないと判断します。
2. 自由度調整済み決定係数
決定係数 には弱点があります。説明変数を増やすと、役に立たない変数でも、 は下がらないのです。部屋の番号の下1けたのように家賃と無関係な変数を入れても、 は少し上がります。テストの範囲を広げれば、まぐれ当たりも増えるようなものです。
そこで、変数の数の分だけ罰を与えるのが、自由度調整済み決定係数 です。自由度修正済み決定係数とも呼びます。
は全変動です。言葉で言うと、変動を自由度で割ってから比べた決定係数です。
家賃のモデルでは、 です。ここに4つ目の変数を加えて、 が0.805に上がったとします。すると、 となり、かえって下がります。つまり、この変数を足す価値はなかったと読めます。
試験のポイント:説明変数の数が違うモデルを比べるときは、 ではなく自由度調整済み決定係数を見ます。
以上が、回帰係数の検定と自由度調整済み決定係数についての解説です。
多重共線性とダミー変数を用いた回帰
最後に、重回帰で気をつける点と、便利な道具を見ていきましょう。
1. 多重共線性
多重共線性 は、説明変数どうしの相関が強いために、係数の推定が不安定になる現象です。マルチコとも呼ばれます。
2人の歌手がいつも同時に歌うと、どちらの声が大きいのか聞き分けられませんよね。例えば、家賃のモデルに「m²で測った広さ」と「畳数で測った広さ」を両方入れると、ほぼ同じ変数が2つ並びます。どちらの手柄なのかを切り分けられなくなるのです。
【多重共線性の症状】
- 回帰係数の標準誤差が大きくなり、t値が小さくなる
- は高いのに、個々の係数が有意にならない
- 係数の符号が、常識と逆になる
- データが少し変わるだけで、係数が大きく変わる
対策は、相関の強い変数の一方をモデルから外すことや、それらを1つの変数にまとめることです。まずは相関行列で、説明変数どうしの相関を確かめましょう。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 目安によく使うのがVIFです。ある説明変数を他の説明変数で回帰したときの決定係数を として、 で求めます。 なら10で、10を超えると要注意とされます。
2. ダミー変数を用いた回帰
「オートロックの有無」のような質的変数は、そのままでは式に入れられません。そこで、ありなら1、なしなら0とおいた ダミー変数 を作ります。スイッチのオン・オフを数字にするイメージです。
例えば、次の式が得られたとします。 はオートロックありで1、なしで0です。
なしの部屋は 、ありの部屋は です。傾きが同じで、切片だけが1.5違う2本の平行な直線になります。つまり、1.5は「広さが同じなら、オートロックつきは1.5万円高い」という意味です。
3種類以上のカテゴリは、「種類の数 − 1」個のダミー変数で表します。例えば、東・西・南の3地区なら、東を基準にして「西なら1」「南なら1」の2個です。東は両方0で表せるので、3個作るとかえって係数が決まらなくなります。
試験のポイント:ダミー変数の係数は、基準のカテゴリとの差です。カテゴリが 個ならダミー変数は 個です。
以上が、多重共線性とダミー変数についての説明です。
細かい式が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「偏回帰係数は他の変数を一定にしたときの効果である」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は回帰直線の傾きの検定から、重回帰モデルまでを紹介しました。重回帰は、データの上で「他の条件をそろえて比べる」ための道具です。ただし、変数の選び方で係数は変わるので、出力の数字をそのまま信じず、意味を考えて読むことが大切です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 傾きの検定は 。単回帰の自由度は で、 はF比に等しい。
- 偏回帰係数は、他の説明変数を一定にしたときの効果。
- 重回帰の係数の検定の自由度は 。
- 変数の数が違うモデルは、自由度調整済み決定係数で比べる。
- 説明変数どうしの相関が強いと、多重共線性で係数が不安定になる。
- 質的変数は、ダミー変数で式に入れられる。
キーワードのおさらい
- 重回帰モデル: 説明変数が2つ以上ある回帰モデル
- 偏回帰係数: 他の説明変数を一定にしたとき、その変数が1増えたときの の変化量
- 回帰係数の検定: 係数が0かどうかを、係数を標準誤差で割った で調べる検定
- 自由度調整済み(修正済み)決定係数: 説明変数の数を考慮して調整した決定係数
- 多重共線性: 説明変数どうしの強い相関で、係数の推定が不安定になる現象
- ダミー変数: 質的変数を0と1で表した変数
さて、回帰では量的な説明変数を中心に扱いました。では、「3種類の肥料で収穫量は変わるか」のように、3つ以上のグループの平均を比べたいときは、どうすればよいでしょうか? t検定を何度も繰り返すと、実は困ったことが起こります。
次回は、実験の組み立てと「一元配置と分散分析」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。