2級-3 推測統計の基礎
中心傾向の指標
- 平均値
- 中央値
- 最頻値(モード)
はじめに
「平均が分かれば、それでいいんじゃないの?」
3級までで、平均値、中央値、最頻値の求め方は学びました。だから、ここで改めて学ぶことはなさそうに見えます。
でも、前回のラーメン店の待ち時間を思い出してください。20人の平均値は20.4分でしたが、中央値は18分でした。同じデータなのに、値が違います。これは、たまたまなのでしょうか?
実は、この2つの値のズレには、はっきりした理由があります。そして、ズレの向きを見れば、ヒストグラムがなくても分布の形を言い当てられるのです。
そこで登場するのが、今回の主役 中心傾向の指標 です。分布の中心がどのあたりにあるかを表す指標のことで、3級で学んだ代表値と同じものです。平均値、中央値、最頻値の3人が、ここでも主役を務めます。
前回の記事では、分布の形を言葉で表す方法を学びました。今回の記事では、3つの指標を式と度数分布表から求める方法、分布の形との関係、そして使い分けの根拠について解説します。
平均値を式で扱う
はじめに、平均値を式で扱う方法について解説します。
3級で学んだように、平均値は値の合計を個数で割ったものです。 個のデータ の平均値は、記号 (エックスバー)で書きます。
記号の意味は、 が「全部足す」、 が「データの個数」です。言葉で言うと、「全部足して個数で割る」です。
平均値のイメージは、シーソーの支点です。長い板の上に、データの値の位置へ同じ重さのおもりを置いたとします。このとき、板がちょうど水平に釣り合う支点の位置が平均値です。
なぜそう言えるのでしょうか? 各データと平均値の差を 偏差 と呼びます。偏差には、次の性質があります。
言葉で言うと、「平均値より大きい側のズレの合計と、小さい側のズレの合計は、ちょうど打ち消し合う」ということです。例えば、データが 2, 4, 9 なら平均値は5で、偏差は −3, −1, 4 です。足すと0になります。これがシーソーの釣り合いです。
支点から遠いおもりほど、シーソーを大きく傾けます。だから、1つの値が飛び抜けると、釣り合いの位置である平均値は、そちらへ大きく動きます。
1. 度数分布表から平均値を求める
データが度数分布表でしか手に入らないこともあります。公的統計の表は、ほとんどがこの形です。その場合は、各階級の値をすべて 階級値(階級の真ん中の値)とみなして計算します。
記号の意味は、 が 番目の階級の階級値、 がその度数、 が階級の数です。言葉で言うと、「階級値 × 度数を全部足して、全体の個数で割る」です。
例題:度数分布表から平均値を求める
前回の待ち時間の度数分布表から、平均値を求めましょう。
| 階級(分) | 階級値 | 度数 | 階級値 × 度数 |
|---|---|---|---|
| 0以上10未満 | 5 | 4 | 20 |
| 10以上20未満 | 15 | 8 | 120 |
| 20以上30未満 | 25 | 4 | 100 |
| 30以上40未満 | 35 | 2 | 70 |
| 40以上50未満 | 45 | 1 | 45 |
| 50以上60未満 | 55 | 1 | 55 |
【解き方】
- 階級値 × 度数を合計する: 20 + 120 + 100 + 70 + 45 + 55 = 410
- 全体の個数で割る: 410 ÷ 20 = 20.5
答えは20.5分です。元のデータから計算した20.4分と、ほとんど同じ値になりました。階級値で置き換えているので、度数分布表からの平均値は近似値です。
2. グループをあわせた平均値
2つのグループをあわせた平均値は、平均値どうしの平均ではありません。人数の重みをつけた 加重平均 になります。
例えば、A組30人の平均点が62点、B組20人の平均点が72点だったとします。合計点に戻すのがコツです。A組の合計は 30 × 62 = 1,860 点、B組の合計は 20 × 72 = 1,440 点なので、全体の平均点は 3,300 ÷ 50 = 66 点です。単純に (62 + 72) ÷ 2 = 67 点とするのは誤りです。人数の多いA組のほうへ、平均値が引き寄せられるからです。
試験のポイント:度数分布表の平均値は「階級値 × 度数」の合計を総数で割ります。グループの平均は合計に戻してから割ります。
以上が、平均値を式で扱う方法についての解説です。
中央値と最頻値を求める
次に、中央値と最頻値の求め方について説明します。
中央値 は、データを小さい順に並べたときの真ん中の値です。位置は次のように決まります。
【中央値の位置】
- が奇数のとき: 番目の値
- が偶数のとき: 番目と 番目の値の平均
待ち時間のデータは20個なので、10番目と11番目を見ます。どちらも18分なので、中央値は18分です。
最頻値(モード) は、最も多く現れる値です。待ち時間では、12分と18分がそれぞれ2人で、最頻値が2つになります。連続型のデータでは同じ値がほとんど重ならないので、そのままではあまり意味を持ちません。
そこで、度数分布表では次のように読みます。
【度数分布表での読み方】
- 最頻値: 度数が最も大きい階級の階級値
- 中央値: 累積相対度数が初めて0.5以上になる階級の中にある
待ち時間の度数分布表なら、度数が最大の階級は10以上20未満の8人なので、最頻値は階級値の15分です。また、累積相対度数は10以上20未満で初めて0.5を超えるので、中央値はこの階級に入ります。
3人の指標の違いを、ヒストグラムの上で比べてみましょう。平均値はシーソーの支点、中央値は面積を左右半分ずつに分ける位置、最頻値は山の頂上です。見ているものがそれぞれ違うので、値も違ってきます。
外れ値に対する強さも確かめましょう。待ち時間の最大値58分が、記録ミスで158分になったとします。平均値は20.4分から25.4分へ5分も動きますが、中央値は18分のままです。中央値は順番しか見ていないからです。このように、一部の極端な値に左右されにくい性質を 頑健性 と呼びます。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 上下から一定の割合のデータを取り除いて平均をとる方法を、トリム平均(刈り込み平均)と言います。採点競技で、最高点と最低点を除いて平均をとるのがこの考え方です。
以上が、中央値と最頻値の求め方についての説明です。
分布の形と3つの指標の関係
続いて、分布の形と3つの指標の関係について解説します。
結論から言うと、3つの指標の並び順は、分布の形を映します。
| 分布の形 | 3つの指標の関係 |
|---|---|
| 左右対称の単峰 | 平均値 ≒ 中央値 ≒ 最頻値 |
| 右に裾が長い | 最頻値 < 中央値 < 平均値 |
| 左に裾が長い | 平均値 < 中央値 < 最頻値 |
なぜでしょうか? 綱引きで考えてみましょう。山の頂上にいる最頻値は、裾の影響を受けません。中央値は、順番を見るので少しだけ裾の側へ動きます。平均値は、遠くの値ほど強く効くので、尾の伸びた側へ最も大きく引っ張られます。つまり、裾の長い側へ向かって 最頻値 → 中央値 → 平均値 の順に並ぶのです。
具体的に見てみましょう。待ち時間のデータは右に裾が長い分布でした。度数分布表から読んだ最頻値は15分、中央値は18分、平均値は20.4分です。たしかに 最頻値 < 中央値 < 平均値 と並んでいます。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。易しいテストの点数は、高得点に山があり、左に裾が長くなります。低い点の人が少数いて平均値を下へ引っ張るので、平均値は中央値より小さくなります。
この関係を逆に使うと、ヒストグラムを見なくても分布の形を推測できます。公的統計で世帯の貯蓄額を見ると、平均値が中央値をかなり上回っています。これは、右に裾が長い分布であることを示しています。
でも、これには弱点があります。この並び順は単峰の分布でよく成り立つ傾向で、どんな分布でも必ず成り立つ定理ではありません。特に多峰の分布では、3つの指標だけで形を語るのは危険です。
例えば、ラーメン店の来店が12時と19時に集中しているとします。来店時刻の平均値は、およそ15時半になるかもしれません。でも、15時半は最もお客さんが少ない時間帯です。平均値は「中心」を指しているのに、そこには誰もいないのです。
例題:指標から分布の形を読み取る
ある町の世帯の年間所得を調べたところ、平均値が560万円、中央値が430万円でした。この分布の説明として、最も適切なものはどれでしょうか?
- 左右対称の分布である
- 右に裾が長い分布である
- 左に裾が長い分布である
【考え方】
- 平均値と中央値を比べる: 平均値のほうが130万円大きい
- 平均値は裾の側へ引っ張られるので、裾は大きい値の側に伸びている
答えは2です。大きい値を持つ少数の世帯が、平均値を押し上げています。
試験のポイント:平均値 > 中央値 なら右に裾が長い、平均値 < 中央値 なら左に裾が長い、と判断します。
以上が、分布の形と3つの指標の関係についての解説です。
指標の性質と使い分け
最後に、指標の性質と使い分けの根拠を見ていきましょう。
1. データを変換したときの動き
全員の点数に5点を足したり、単位をセンチメートルからメートルに変えたりしたとき、指標はどう動くのでしょうか? データを と変換すると、平均値は次のようになります。
言葉で言うと、「データと同じ計算を、平均値にそのまま行えばよい」ということです。この性質は、中央値と最頻値でも同じです。
例えば、平均60点、中央値62点のテストで、全員の点数を1.2倍して5点足したとします。平均値は 1.2 × 60 + 5 = 77 点、中央値は 1.2 × 62 + 5 = 79.4 点になります。全員のデータを計算し直す必要はありません。
別の例として、気温を摂氏から華氏に直す式は、華氏 = 1.8 × 摂氏 + 32 です。平均気温が20℃なら、華氏では 1.8 × 20 + 32 = 68 度です。
2. 「ズレ」の測り方で答えが変わる
平均値と中央値は、どちらが正しいのでしょうか? 実は、どちらも「データ全体に最も近い1つの数」です。ただし、近さの測り方が違います。
全員の値を1つの数 で言い当てるゲームを考えましょう。ハズレの大きさを測る物差しは、2通りあります。
【2つの物差し】
- 差の二乗の合計 を最小にする は、平均値
- 差の絶対値の合計 を最小にする は、中央値
データ 1, 2, 3, 10 で確かめてみましょう。平均値は4、中央値は2.5です。
| の値 | 差の二乗の合計 | 差の絶対値の合計 |
|---|---|---|
| 4(平均値) | 50 | 12 |
| 2.5(中央値) | 59 | 10 |
たしかに、二乗の物差しでは平均値が、絶対値の物差しでは中央値が勝っています。二乗の物差しは大きなハズレを重く罰するので、飛び抜けた10に近づこうとします。これが、平均値が外れ値に引っ張られる本当の理由です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 平均値については、 という式が成り立ちます。右辺の第2項は のときに0になるので、そこで全体が最小になります。
3. 指標の選び方
ここまでの内容をまとめると、次のようになります。
【指標の選び方】
- 左右対称に近い分布: 平均値。全データの情報を使い、後の計算でも扱いやすい
- 裾の長い分布、外れ値がある分布: 中央値。全体の真ん中の感覚に近い
- 質的変数、一番多いものを知りたいとき: 最頻値
- 多峰の分布: グループに分けてから、指標を求める
なお、順序のある質的変数(満足度の5段階など)では、中央値も使えます。また、成長率のような比の平均には、別の平均である幾何平均を使います。これは時系列データの記事で学びます。
以上が、指標の性質と使い分けについての説明です。
細かい証明を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「平均値は裾の側へ引っ張られる。その動きを見れば、分布の形が分かる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は分布の中心を表す中心傾向の指標について紹介しました。平均値と中央値のズレは計算の誤差ではなく、分布の形が映ったものです。3つの指標の並びを読めば、グラフがなくても分布の姿が見えてきます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 平均値はシーソーの支点。偏差の合計は必ず0になる。
- 度数分布表の平均値は階級値 × 度数で求める近似値。グループの平均は加重平均で求める。
- 右に裾が長いと 最頻値 < 中央値 < 平均値、左に裾が長いと逆の順に並ぶことが多い。
- データを と変換すると、指標も同じように変換される。
- 平均値は二乗の差、中央値は絶対値の差を最小にする。
キーワードのおさらい
- 平均値: すべての値の合計を個数で割った値
- 中央値: 小さい順に並べたときの真ん中の値
- 最頻値(モード): 最も多く現れる値。度数分布表では度数が最大の階級の階級値
- 偏差: 各データと平均値の差
- 階級値: 階級の真ん中の値
- 加重平均: 個数などの重みをつけて求めた平均
- 頑健性: 極端な値に左右されにくい性質
さて、中心が分かっても、分布の説明はまだ半分です。平均が同じ70点でも、全員が70点のクラスと、0点と100点が入り混じったクラスは別物ですよね。
次回は、分散からジニ係数までの「散らばりなどの指標」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。