2級-15 推測統計の基礎
確率分布 — 基礎的な分布の特徴
- ベルヌーイ試行
- 二項分布
- ポアソン分布
- 幾何分布
- 一様分布
- 指数分布
- 正規分布
- 2変量正規分布
- 超幾何分布
- 負の二項分布
はじめに
「このガチャ、当たりが出るまでに平均で何回引くことになるの?」
ゲームのガチャを回しているとき、こう考えたことはありませんか? 1回で当たる確率が20%なら、5回引けば必ず当たるような気がします。でも実際には、1回目で当たる人もいれば、15回引いても当たらない人もいますよね。
同じように、「1時間に何人のお客さんが来るか」「次のバスまで何分待つか」「クラスの身長はどう散らばるか」も、毎回ちがう値になります。どれも別々の問題に見えます。
実は、世の中の偶然の多くは、ほんの10種類ほどの「型」で説明できます。
そこで登場するのが、今回の主役である代表的な 確率分布 です。確率分布とは、確率変数がどの値をどれくらいの確率でとるかを表したものです。洋服の既製品のサイズ表のようなもので、場面に合う型を選べば、平均も分散もすぐに分かります。
前回の記事では、確率変数の期待値と分散の計算を学びました。今回の記事では、その計算結果が公式としてまとまった、基礎的な確率分布の特徴と使い分けについて解説します。
成功と失敗を数える分布
はじめに、成功か失敗かを数える分布について解説します。
土台になるのは ベルヌーイ試行 です。これは、結果が「成功」か「失敗」の2通りしかなく、成功の確率 が毎回同じで、各回が独立な試行のことです。コイン投げ、くじ引き、シュートの成否を思い浮かべてください。
このベルヌーイ試行を、何に注目して数えるかで、分布の名前が変わります。
【ベルヌーイ試行から生まれる3つの分布】
- 二項分布: 回数を決めて、成功の回数を数える
- 幾何分布: 初めて成功する回を数える
- 負の二項分布: 回目に成功する回を数える
1つずつ見ていきましょう。
1. 二項分布
3級で学んだ 二項分布 は、 回のベルヌーイ試行で成功した回数 の分布です。
は特定の並び方が起こる確率で、 は成功が 回になる並び方の数です。言葉で言うと、「並び方の数 × 1通りの確率」です。
具体的に見てみましょう。当たる確率が0.2のくじを5回引くとき、ちょうど2回当たる確率は次のようになります。
期待値は 回、分散は です。
2. 幾何分布
幾何分布 は、初めて成功するのが何回目かを表す分布です。回数を決めずに「当たるまで引く」ガチャの分布だと考えてください。
回目に初めて当たるには、 回続けて外れて、最後に当たる必要があります。これが式の意味です。
冒頭のガチャなら です。3回目に初めて当たる確率は で、平均は 回です。分散は で、標準偏差は約4.5回もあります。「平均5回」でも、大きくぶれるのです。
幾何分布には 無記憶性 という性質もあります。10回外れたあとでも、そこから先の分布は最初と同じです。「そろそろ当たるはず」は成り立ちません。ガチャは過去の外れを覚えていないのです。
3. 負の二項分布
負の二項分布 は、幾何分布を「 回目の成功まで」に広げたものです。
最後の 回目は必ず成功なので、残りの 回のうち 回が成功です。例えば、 のガチャで5回目にちょうど2回目の当たりが出る確率は、 です。平均は 回です。要するに、幾何分布を 個つなげたものなので、平均も分散も幾何分布の 倍になります。
試験のポイント:幾何分布と負の二項分布は、「成功までの試行回数」ではなく「成功までの失敗回数」で定義する流儀もあります。失敗回数で数えると平均は 、 になり、分散は同じです。問題文の定義を必ず確かめましょう。
以上が、成功と失敗を数える分布についての解説です。
珍しい出来事と戻さない抽出の分布
次に、形の違う2つの数え方について説明します。
1. ポアソン分布
ポアソン分布 は、一定の時間や範囲の中で、まれな出来事が起こる回数の分布です。1時間の問い合わせ件数、1日の交通事故の件数、1ページの誤字の数などが当てはまります。
(ラムダ)は平均の発生回数で、 は約2.718の定数です。ここがポイントです。ポアソン分布は、期待値と分散がどちらも で等しくなります。
例えば、1時間に平均2件の問い合わせが来る窓口を考えます。 なので、1件も来ない確率は 、ちょうど3件来る確率は です。
ポアソン分布の正体は、二項分布の極限です。試行回数 がとても大きく、成功確率 がとても小さいとき、 とおくと、二項分布はポアソン分布に近づきます。1時間を細かい1秒ごとに分けて、「この1秒に問い合わせが来るか」のくじを3,600回引いているイメージです。
せっかくなので、数字で確かめましょう。不良品率0.01の製品を200個調べると、 です。不良品が0個の確率は、二項分布では約0.134、ポアソン分布では約0.135となり、ほとんど同じです。
さらに、独立な と の和は に従います。午前と午後の件数を足しても、ポアソン分布のままです。
2. 超幾何分布
超幾何分布 は、取り出したものを 戻さない ときの成功の個数の分布です。当たり 本を含む 本のくじから 本を同時に引くとき、当たりの本数 は次の分布に従います。
分母は引き方の総数で、分子は「当たりから 本、外れから残りを選ぶ」引き方の数です。
例えば、10本のうち3本が当たりのくじを4本引くとします。ちょうど1本当たる確率は、 です。期待値は 本で、分散は です。
二項分布との違いは、分散についた だけです。戻す場合の分散は0.84でした。戻さないと、引いた分だけ箱の中身が確実に分かっていくので、ばらつきが小さくなるのです。全部のくじを引けば、結果はばらつきません。逆に が よりずっと大きければ、この係数はほぼ1で、二項分布とほとんど同じになります。
試験のポイント:「戻す」「独立」なら二項分布、「戻さない」「箱の中から同時に」なら超幾何分布です。
以上が、ポアソン分布と超幾何分布についての説明です。
連続型の分布:一様・指数・正規
続いて、連続型の3つの分布を見ていきましょう。連続型では、確率は確率密度関数 のグラフの下の面積で表します。
1. 一様分布
一様分布 は、 から の範囲のどの値も同じ起こりやすさで出る分布です。
例えば、10分おきに来るバスの停留所へ、時刻表を見ずに行くとします。待ち時間は です。平均は5分、分散は で、3分以内に来る確率は です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): サイコロの目のように が同じ確率で出る分布は、離散型の一様分布です。平均は 、分散は で、サイコロなら3.5と約2.92です。
2. 指数分布
指数分布 は、次の出来事が起こるまでの待ち時間の分布です。
指数分布は、ポアソン分布の相棒です。ポアソン分布が「時間を決めて回数を数える」のに対し、指数分布は「次の1回までの時間を測る」のです。同じ現象を、別の角度から見ています。
1時間に平均2件の問い合わせが来る窓口なら、 です。次の問い合わせまでの平均は 時間、つまり30分です。1時間以上来ない確率は で、さきほどのポアソン分布の「1時間に0件」の確率と同じ値です。同じ出来事を言い換えているだけなので、一致するのは当然です。
指数分布も幾何分布と同じく無記憶性を持ちます。幾何分布は、指数分布の離散版だと考えてください。
3. 正規分布
正規分布 は、平均 を中心とする左右対称の釣り鐘型の分布です。身長や測定誤差が代表例です。
式を暗記する必要はありません。押さえたい性質は次の3つです。
【正規分布の性質】
- 標準化: は標準正規分布 に従う
- 範囲の確率: 平均 ± 1σ に約68%、± 2σ に約95%、± 3σ に約99.7% が入る
- 線形性: や、独立な正規分布の和も、やはり正規分布に従う
例えば、身長が に従うなら、182cm以上の確率は より、約0.023です。
以上が、連続型の分布についての解説です。
2変量正規分布:2つの量をまとめて見る
次に、2つの量を同時に扱う分布について解説します。
2変量正規分布 は、身長と体重のように、2つの変数 の組が従う正規分布です。平均 、分散 、相関係数 の5つの値で形が決まります。上から見ると、等高線が楕円の山の形をしています。 が大きいほど、楕円は細長く傾きます。
【2変量正規分布の性質】
- だけ、 だけを見ると、それぞれ正規分布に従う
- なら、 と は独立である
- と分かったときの の分布も、正規分布に従う
2つ目が重要です。一般に、無相関でも独立とは限りません。「無相関なら独立」と言えるのは、正規分布の特別な性質です。
3つ目の条件付き分布は、次の式で表されます。
具体的に見てみましょう。身長の平均が170cmで標準偏差が6cm、体重の平均が62kgで標準偏差が8kg、相関係数が0.6だとします。身長176cmの人の体重の平均は次のようになります。
分散は で、標準偏差は6.4kgです。身長を知ると、体重の予想の標準偏差が8kgから6.4kgへ縮みました。相手の情報が、予想の精度を上げるのです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。数学が 、国語が で、相関係数が0.5の2変量正規分布に従うとします。合計点も正規分布に従い、平均は110点です。分散は、前回の和の分散の公式から となります。
以上が、2変量正規分布についての解説です。
分布の選び方
最後に、ここまでの分布を場面から選ぶ方法を見ていきましょう。
| 分布 | 場面 | 期待値 | 分散 |
|---|---|---|---|
| 二項分布 | 回中の成功回数 | ||
| 幾何分布 | 初めて成功する回 | ||
| 負の二項分布 | 回目に成功する回 | ||
| ポアソン分布 | 一定時間の発生回数 | ||
| 超幾何分布 | 戻さない抽出の当たり数 | 二項分布の分散 × | |
| 一様分布 | 範囲の中で同じ起こりやすさ | ||
| 指数分布 | 次の発生までの待ち時間 | ||
| 正規分布 | 左右対称の山型 |
レストランのメニュー表のように、まず「何を数えているのか」で分布を注文します。
【分布を選ぶ3つの質問】
- 回数を数えるのか、時間や長さを測るのか(離散型か連続型か)
- 試行の回数は決まっているか(二項分布か、幾何分布・負の二項分布か)
- 取り出したものは戻すのか(二項分布か、超幾何分布か)
例題:分布を選んで計算する
あるコールセンターには、1分間に平均0.5件の電話が来ます。電話の件数はポアソン分布に従うとします。(1) 4分間の件数の期待値と分散はいくらでしょうか? (2) 次の電話までの平均の待ち時間はいくらでしょうか? (3) 2分間に1件も来ない確率はいくらでしょうか?
【解き方】
- 4分間の平均件数は なので、期待値も分散も2
- 待ち時間は の指数分布なので、平均は 分
- 2分間の平均件数は1なので、
答えは、(1) 期待値2件・分散2、(2) 2分、(3) 約0.368です。
以上が、分布の選び方についての説明です。
細かい式を全部暗記できなくても問題ありません。ここでは、「何を数えている場面か」から分布の名前を言えること、そして期待値と分散を表から引けることを押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は基礎的な確率分布の特徴と使い分けについて紹介しました。ガチャ、窓口、バス停、身長。見た目はばらばらでも、「何を数えているか」で整理すると、どれも決まった型に収まります。型が分かれば、平均も分散も公式から一発で求められます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- ベルヌーイ試行を数える分布が3つある。回数を決めるなら二項分布、当たるまで引くなら幾何分布、 回当たるまで引くなら負の二項分布。
- ポアソン分布はまれな出来事の回数で、期待値と分散が等しい。指数分布はその待ち時間で、ペアで覚える。
- 戻さない抽出は超幾何分布で、分散が二項分布より小さくなる。
- 正規分布は標準化で扱い、2変量正規分布では無相関なら独立と言える。
キーワードのおさらい
- ベルヌーイ試行: 結果が2通りで、確率が一定の独立な試行
- 二項分布: 回中の成功回数の分布
- 幾何分布: 初めて成功するまでの回数の分布
- 負の二項分布: 回目の成功までの回数の分布
- ポアソン分布: 一定時間に起こるまれな出来事の回数の分布
- 超幾何分布: 戻さない抽出での当たりの個数の分布
- 一様分布: 範囲の中でどの値も同じ起こりやすさの分布
- 指数分布: 次の出来事までの待ち時間の分布
- 正規分布: 平均を中心とする左右対称の釣り鐘型の分布
- 2変量正規分布: 2つの変数の組が従う正規分布
さて、ここまでは「1回の観測」が従う分布を見てきました。でも統計の本番は、データをたくさん集めて平均をとるところから始まります。サイコロを1万回振った平均は、どんな値に、どんな形で集まるのでしょうか?
次回は、推測統計を支える2つの定理「大数の法則」と「中心極限定理」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。