2級-14 推測統計の基礎
確率変数 — 期待値と分散
- 離散型確率変数
- 連続型確率変数
- 確率変数の期待値・分散・標準偏差
- 確率変数の和と差(同時分布
- 和の期待値・分散)
- 2変数の共分散・相関
はじめに
「このくじ、1回100円らしいけど、引いて得なの?」
お祭りのくじ引きで、こう悩んだことはありませんか? 大当たりなら500円、小当たりなら100円、外れれば0円。確率が分かっていても、それだけでは得か損かは分かりません。賞金と確率を合わせて、「平均していくら戻ってくるか」を考える必要があります。
前回の記事では、確率のルールを学びました。そこでは「当たる」「陽性になる」のように、結果を言葉で扱いました。今回は、結果に数を割り当てます。3級で学んだ確率変数の平均・分散を、2級では2つの変数の組み合わせにまで広げます。
実は、結果を数にすると、計算の世界が一気に広がります。平均も、散らばりも、相関も、これまでデータで学んだことがそのまま確率の世界に持ち込めるのです。
そこで登場するのが、今回の主役 確率変数 です。今回の記事では、離散型と連続型の確率変数、期待値・分散・標準偏差、同時分布と共分散・相関、そして確率変数の和と差について解説します。
確率変数:結果を数にする
はじめに、確率変数とは何かについて解説します。
確率変数(random variable) とは、試行の結果によって値が決まり、その値の出方が確率で定まる変数のことです。例えば、サイコロの目 は、振る前は1から6のどれか分かりません。でも、それぞれの値の確率は決まっています。
例えるなら、確率変数は中身の見えない福袋です。開けるまで中身の金額は分かりませんが、どんな金額がどの割合で入っているかは、表に書いてあります。
確率変数は大文字の 、実際にとる値は小文字の で書きます。確率変数は、値のとり方で2種類に分かれます。1つずつ見ていきましょう。
1. 離散型確率変数
離散型確率変数 は、サイコロの目やガチャの回数のように、とびとびの値をとる確率変数です。それぞれの値の確率を、次の 確率関数 で表します。
例えば、冒頭のくじの賞金 が次のようだとします。
| 賞金 (円) | 0 | 100 | 500 |
|---|---|---|---|
| 確率 | 0.5 | 0.3 | 0.2 |
確率を全部足すと1になります。この値と確率の組み合わせ全体を、確率分布 と言います。
2. 連続型確率変数
連続型確率変数 は、身長や待ち時間のように、連続した値をとる確率変数です。ここで注意が必要です。待ち時間がちょうど3.000…分になる確率は0です。そこで、連続型では「ある範囲に入る確率」を考えます。
連続型の分布は 確率密度関数 で表します。確率は、曲線の下の面積です。
離散型が積み木の山だとすると、連続型はなめらかな砂の山です。ある範囲の砂の量が、その範囲の確率です。砂の総量は1で、1点の上に砂の量はありません。
例えば、10分おきに来るバスの待ち時間 が、0分から10分のどの値も同じように出るとします。 の平らな分布です。2分から5分待つ確率は、長方形の面積なので、(5 − 2) × 1/10 = 0.3 です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。()のとき、 が0.5以下になる確率は次のとおりです。
このように「 以下になる確率」を表す関数 を、累積分布関数 と呼びます。
以上が、確率変数についての解説です。
確率変数の期待値・分散・標準偏差
次に、確率分布の中心と散らばりを表す指標について説明します。
期待値(expected value) は、確率変数の平均です。何度もくり返したときに平均していくらになるかを表し、 または と書きます。
左が離散型、右が連続型です。言葉で言うと、「値 × 確率」を全部足します。分布を板の上に置いたときに、シーソーがつり合う支点の位置が期待値です。
分散(variance) は、期待値からのズレの2乗の期待値です。 または と書きます。標準偏差 は、その平方根です。
2つ目の「2乗の期待値から、期待値の2乗を引く」という式が、計算では便利です。
例題:くじの期待値と標準偏差
冒頭のくじの賞金 の、期待値・分散・標準偏差を求めましょう。
【解き方】
- 期待値:
- 2乗の期待値:
- 分散:
- 標準偏差:
答えは、期待値130円、分散36,100、標準偏差190円です。1回100円なら、平均して30円得をするくじです。ただし、標準偏差が190円もあるので、1回ごとの結果は大きく揺れます。
連続型でも、手順は同じです。()で計算してみましょう。
【連続型の計算】
- 期待値:
- 2乗の期待値:
- 分散:
さらに、確率変数を に変換したときの公式も大切です。
足した定数 は全体を平行移動するだけなので、散らばりは変わりません。また、 倍すると散らばりの幅が 倍になるので、分散は2乗の 倍になります。標準偏差は 倍です。
例えば、くじの賞金を2倍して10円足すと、期待値は 2 × 130 + 10 = 270 円、標準偏差は 2 × 190 = 380 円です。また、 と変換すると、期待値0、分散1になります。これがデータで学んだ標準化の確率変数版です。
試験のポイント: です。定数 は消え、 は2乗になります。
以上が、確率変数の期待値・分散・標準偏差についての説明です。
同時分布と2変数の共分散・相関
続いて、2つの確率変数をまとめて扱う方法について解説します。
身長と体重のように、2つの確率変数を同時に考えたい場面はよくあります。 かつ となる確率の全体を 同時分布 と呼びます。3級で学んだクロス集計表の、確率版だと考えてください。
例えば、朝ごはんを食べたら 、食べなければ 、小テストに合格したら 、不合格なら とします。
| 合計 | |||
|---|---|---|---|
| 0.3 | 0.2 | 0.5 | |
| 0.1 | 0.4 | 0.5 | |
| 合計 | 0.4 | 0.6 | 1 |
表の見方を説明します。真ん中の4つの数が同時確率です。例えば、 です。右端と下端の合計は、それぞれ だけ、 だけの分布で、周辺分布 と言います。
すべての について が成り立つとき、 と は 独立 です。この例では、 で、 と異なるので、独立ではありません。
では、2変数の共分散・相関を定義しましょう。3級で学んだデータの共分散と同じ考え方です。
共分散は、2つの変数が一緒に動く向きを表します。それを −1 から1の範囲にそろえたものが、相関係数 (ロー)です。二人三脚に例えると、共分散は足並みのそろい方で、相関係数はそれを点数にしたものです。
例題:同時分布から共分散と相関係数を求める
表の と の共分散と相関係数を求めましょう。
【解き方】
- 期待値: 、
- 積の期待値: となるのは だけなので、
- 共分散:
- 分散: 、
- 相関係数:
答えは、共分散0.1、相関係数約0.41です。正の相関があると読めます。
ここで大切な注意があります。独立なら共分散は0ですが、逆は成り立ちません。例えば、 が −1, 0, 1 を確率 ずつとり、 とします。、 なので、共分散は0です。でも、 は で完全に決まるので、独立ではありません。共分散が測れるのは、直線的な関係だけなのです。
試験のポイント:独立ならば無相関ですが、無相関でも独立とは限りません。
以上が、同時分布と共分散・相関についての解説です。
確率変数の和と差:散らばりは足し算になる
最後に、確率変数の和と差(同時分布、和の期待値・分散)を見ていきましょう。同時分布が分かれば、2つの変数を足した値や引いた値の性質も計算できます。
国語と数学の合計点のように、2つの確率変数を足した値を考えることがあります。期待値は、とても素直です。
この式は、独立でなくても、いつでも成り立ちます。
一方で、分散には共分散の項がつきます。
と が独立なら共分散が0なので、和も差も同じ式になります。
ここがポイントです。差の分散も、足し算です。なぜでしょうか? 2人が別々に歩いて、距離の差を測るとします。どちらの歩幅が揺れても、差は揺れます。揺れは打ち消し合わず、積み重なるのです。
具体的に見てみましょう。国語の点数 が平均60点、標準偏差8点、数学の点数 が平均55点、標準偏差6点だとします。
【和と差の計算(独立のとき)】
- 合計の期待値: 60 + 55 = 115
- 差の期待値: 60 − 55 = 5
- 和と差の分散:
- 和と差の標準偏差:
標準偏差は8 + 6 = 14ではなく、10です。標準偏差を足すのではなく、分散を足すことに注意しましょう。
もし相関係数が0.5なら、どうなるでしょうか? 共分散は 0.5 × 8 × 6 = 24 です。合計の分散は 100 + 2 × 24 = 148 で、標準偏差は約12.2に増えます。差の分散は 100 − 48 = 52 で、標準偏差は約7.2に減ります。同じ向きに動く2つを足すと揺れが増え、引くと揺れが減るのです。
例題:同時分布から和と差の分散を求める
朝ごはんと小テストの表の について、 と を求めましょう。
【解き方】
- 分散と共分散: 、、
- 和の分散:
- 差の分散:
答えは、、 です。
確かめてみましょう。 は0, 1, 2を確率0.3, 0.3, 0.4でとります。期待値は1.1で、2乗の期待値は1.9なので、分散は 1.9 − 1.21 = 0.69 と、公式に一致します。
和の公式は、3つ以上にも広がります。互いに独立で、同じ期待値 、分散 を持つ の平均 については、次の式が成り立ちます。
例えば、サイコロの目の分散は なので、2個のサイコロの目の和の分散は です。そして、 個の平均をとると、分散は に小さくなります。これが、標本平均のぶれの正体です。
以上が、確率変数の和と差についての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「期待値は素直に足し引き、分散は足し算に共分散を添える」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、結果を数として扱う確率変数と、その計算のルールについて紹介しました。データの平均・分散・相関で学んだことが、確率の世界で同じ形で働いています。特に分散の足し算は、この先の標本平均や検定の土台になります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 確率変数は中身の見えない福袋。離散型は積み木、連続型は砂の山で、確率は面積になる。
- 期待値は分布のつり合う支点。分散は で計算できる。
- 。定数は消え、掛けた数は2乗になる。
- 共分散は足並みのそろい方。独立なら無相関だが、逆は成り立たない。
- 期待値はそのまま足し引き。独立なら、和でも差でも分散は足し算。
キーワードのおさらい
- 離散型確率変数: とびとびの値をとる確率変数
- 連続型確率変数: 連続した値をとり、確率密度関数で表す確率変数
- 期待値: 値と確率の積の合計で、確率変数の平均
- 分散: 期待値からのズレの2乗の期待値
- 標準偏差: 分散の平方根
- 同時分布: 2つの確率変数の値の組み合わせの確率
- 共分散: 2つの確率変数が一緒に動く向きと大きさ
- 相関係数: 共分散を2つの標準偏差で割った、−1 から1の値
さて、今回の分布は、くじのように自分で表を作ったものでした。でも、世の中には、コイン投げの回数や待ち時間など、何度も現れる決まった形の分布があります。
次回は、二項分布やポアソン分布、正規分布など、基礎的な「確率分布」の特徴について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。