2級-18 推測統計の基礎
点推定と区間推定
- 点推定
- 推定量と推定値
- 有限母集団
- 一致性
- 不偏性
- 信頼区間
- 信頼係数
はじめに
「内閣支持率42%って言うけど、本当にぴったり42%なの?」
ニュースの世論調査を見て、こう思ったことはありませんか? 調べたのは1,000人ほどです。別の1,000人に聞けば、41%や44%になるかもしれません。それなのに、1つの数字だけが切り取られて伝わります。
魚とりに例えてみましょう。1本の銛で魚を突くなら、狙いを1点に定めます。でも、ぴったり当たることはめったにありません。一方、網を投げれば、魚がその中にいる可能性はぐっと高くなります。
実は、統計の推定にもこの2つのやり方があります。ぴったり1つの値で言い当てる銛の方法と、幅を持たせて言い当てる網の方法です。
そこで登場するのが、今回の主役 点推定 と 区間推定 です。3級では母平均の区間推定の手順を学びました。今回は、なぜその手順でよいのかを、一段深く見ていきます。
前回の記事では、t分布などの分布と分布表の使い方を学びました。今回の記事では、推定量のよさを測る基準と、信頼区間の正しい意味について解説します。
点推定:推定量と推定値
はじめに、点推定の基本について解説します。
点推定 は、母数を1つの値で推定する方法です。例えば、母平均を標本平均で言い当てるのが点推定です。
ここで、よく似た2つの言葉を区別します。これが 推定量と推定値 です。
【推定量と推定値】
- 推定量: データから値を計算するルール。確率変数である(例: )
- 推定値: 実際のデータを入れて出た数字。ただの値である(例: 13)
料理に例えると、推定量はレシピで、推定値はできあがった一皿です。レシピは同じでも、材料(標本)が違えば、毎回違う味の一皿ができます。推定量のよさを議論するとは、「このレシピは、平均していい料理を作るか」を議論することです。
代表的な推定量は次のとおりです。
| 知りたい母数 | 推定量 | 式 |
|---|---|---|
| 母平均 | 標本平均 | |
| 母分散 | 不偏分散 | |
| 母比率 | 標本比率 |
母数の推定量には、 や のように、ハット(帽子)をつけて書くことがあります。
具体的に見てみましょう。5個の商品の重さが、12, 15, 11, 14, 13(g)だったとします。
【推定値の計算】
- 母平均の推定値:
- 偏差の2乗の和:
- 母分散の推定値:
推定値は、母平均が13g、母分散が2.5です。
以上が、点推定についての解説です。
よい推定量の条件:不偏性と一致性
次に、推定量のよさを測る基準について説明します。
レシピが何通りもあるとき、どれを選べばよいのでしょうか? 基準は主に2つです。1つずつ見ていきましょう。
1. 不偏性
不偏性 は、推定量の期待値が母数に一致するという性質です。
(シータ)は母数の総称です。言葉で言うと、「平均すると真の値に当たる」ということです。ダーツでいえば、1本1本は外れても、矢の中心が的の真ん中にある状態です。前々回に学んだとおり なので、標本平均は不偏性を持ちます。
では、分散はどうでしょうか? ここで、3級から持ち越した疑問が解決します。なぜ分散の推定には ではなく で割るのでしょうか?
標本の偏差は、母平均 ではなく、標本平均 から測ります。標本平均はその標本の真ん中なので、偏差の2乗の和は、 から測るより必ず小さめになります。自分たちの平均で測ると、実力より「まとまって」見えてしまうのです。 で割った分散の期待値は、次のように母分散より小さくなります。
で割れば、この小ささがちょうど埋まります。だから、 を 不偏分散 と呼ぶのです。
極端に小さい例で確かめてみましょう。母集団が0と2の2つの値で、どちらも確率1/2だとします。母分散は1です。2個のデータを取り出す4通りの結果は次のとおりです。
| 標本 | で割った分散 | で割った分散 |
|---|---|---|
| 0, 0 | 0 | 0 |
| 0, 2 | 1 | 2 |
| 2, 0 | 1 | 2 |
| 2, 2 | 0 | 0 |
| 平均 | 0.5 | 1 |
で割ると平均は0.5で、母分散の1の半分です。 で割ると、ぴったり1になります。
2. 一致性
一致性 は、標本の大きさ を大きくすると、推定量が母数に近づくという性質です。
データを増やすほど真の値に近づくなら安心ですよね。前々回の大数の法則により、標本平均は一致性を持ちます。写真の解像度を上げるほど、本物がくっきり見えるイメージです。
不偏性と一致性は、別の性質です。せっかくなので、例で比べてみましょう。
| 推定量 | 不偏性 | 一致性 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 標本平均 | ある | ある | 期待値が で、 とともに近づく |
| 最初の1個 | ある | ない | 期待値は だが、 を増やしても変わらない |
| で割った分散 | ない | ある | 小さめに出るが、 が大きいと差は消える |
「最初の1個だけ見る」というレシピは、平均すれば当たるので不偏です。でも、どれだけデータを集めても精度が上がりません。一方、 で割った分散は、少し小さめに偏るものの、 が大きければ母分散に近づきます。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 不偏な推定量が2つあるなら、分散が小さいほうがよいと考えます。この基準を有効性と呼びます。例えば、 の分散は で、 の分散は なので、 のほうが有効です。
試験のポイント:不偏性は「平均すると当たる」、一致性は「データが増えると当たる」です。分散の不偏な推定量は、 で割った不偏分散です。
以上が、不偏性と一致性についての説明です。
有限母集団:母集団に限りがあるとき
続いて、母集団の大きさが限られている場合について解説します。
ここまでは、母集団が十分に大きく、取り出しても中身が変わらないと考えてきました。でも、クラス40人から10人を選ぶような場合はどうでしょうか? このように大きさ が限られた母集団を 有限母集団 と呼びます。
有限母集団から戻さずに標本をとると、標本平均の期待値は同じ ですが、分散は次のように小さくなります。
を 有限母集団修正 と呼びます。確率分布の記事で見た、超幾何分布の分散についていた係数と同じものです。
小さな鍋の味見を考えてください。鍋の半分を飲んで確かめれば、残りの味はほとんど見当がつきますよね。極端に、全部飲む()と係数は0になり、誤差はなくなります。全数調査に標本誤差がないのは、このためです。
例えば、1,000世帯の町から100世帯を選ぶとします。母標準偏差は20です。修正なしの分散は です。修正の係数は なので、分散は約3.60、標準偏差は約1.90になります。
逆に、 が よりずっと大きければ、係数はほぼ1です。1億人から1,000人を選ぶとき、修正は必要ありません。だから、全国調査でも1,000人ほどで足りるのです。調査の精度を決めるのは、母集団の大きさではなく、標本の大きさのほうです。
以上が、有限母集団についての解説です。
区間推定:信頼区間と信頼係数
最後に、網を投げる方法を見ていきましょう。
区間推定 は、母数を幅で推定する方法です。この幅を 信頼区間 と呼びます。信頼区間がどれくらい確かなのかを表す値が 信頼係数 で、95%がよく使われます。
正規母集団で が既知なら、標本平均を標準化した は標準正規分布に従います。
かっこの中を について解くと、95%信頼区間が得られます。
言葉で言うと、「標本平均を中心に、標準誤差の1.96倍ずつ左右に広げる」です。99%なら1.96が2.576に変わります。
例題:信頼区間を求める
の正規母集団から25個の標本をとると、標本平均は64でした。母平均の95%信頼区間と99%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 標準誤差を求める:
- 95%の幅: なので
- 99%の幅: なので
答えは、95%信頼区間が60.08から67.92、99%信頼区間が約58.85から約69.15です。信頼係数を上げると、幅は広がります。より確実に捕まえるには、大きな網が必要なのです。
信頼係数の正しい意味
ここが最大のポイントです。95%信頼区間の「95%」は何の確率でしょうか?
動いているのは母平均ではなく、区間のほうです。母平均は、分からないだけで決まった1つの値です。輪投げに例えると、棒(母平均)は地面に固定されていて、輪(信頼区間)が毎回違う場所に飛びます。
【95%信頼区間の意味】
- 正しい: 同じ手順で標本を取り直して区間を作ると、100回中およそ95回は母平均を含む
- 誤り: 計算した60.08〜67.92の中に、母平均がある確率が95%である
一度計算した区間は、母平均を含むか含まないかのどちらかです。95%は、この手順そのものの成功率です。
試験のポイント:「95%」は区間の作り方の信頼度です。「母平均が95%の確率で区間に入る」という選択肢は誤りとして出ます。
区間の幅を決めるもの
幅は なので、次のように動きます。
【区間の幅の動き】
- 信頼係数を上げると、幅は広がる
- 標本の大きさを大きくすると、幅は狭まる(4倍で半分)
- 母標準偏差が大きいと、幅は広がる
逆算すれば、必要な標本の大きさも求められます。 で、誤差(片側の幅)を2以内にしたいなら、 を解きます。 なので、97個以上が必要です。
以上が、区間推定についての説明です。
細かい導出を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「点推定は1点、区間推定は幅。95%は手順の成功率」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は点推定と区間推定の考え方について紹介しました。銛のように1点を狙うのが点推定、網のように幅で捕まえるのが区間推定です。世論調査の42%も、本当は幅を持った数字です。「どのくらいのズレがありうるのか」を一緒に示すことが、統計の誠実さなのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 推定量はレシピ(確率変数)、推定値は一皿(数字)。
- 不偏性は「平均すると当たる」、一致性は「データが増えると当たる」。
- 分散は で割ると不偏になる。 で割ると小さめに出る。
- 有限母集団では、分散に係数 がかかる。
- 95%は「手順の成功率」。母平均は動かず、区間のほうが動く。
キーワードのおさらい
- 点推定: 母数を1つの値で推定すること
- 推定量: データから値を計算するルール(確率変数)
- 推定値: 実際のデータから計算した数字
- 不偏性: 推定量の期待値が母数に等しいという性質
- 一致性: 標本が大きくなると推定量が母数に近づくという性質
- 有限母集団: 大きさが限られた母集団
- 信頼区間: 母数を幅で推定した区間
- 信頼係数: 手順の確かさを表す値(95%など)
さて、ここまでの信頼区間は、 が分かっている親切な場面の話でした。現実では は分かりませんし、知りたいのが平均とも限りません。分散や比率、相関係数を知りたいときは、どうすればよいのでしょうか?
次回は、前回のt分布とカイ二乗分布を使った「1つの母集団の区間推定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。