統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

2級-17 推測統計の基礎

標本分布 — t分布・カイ二乗分布・F分布

  • 標準正規分布
  • 標準正規分布表の利用
  • t分布
  • カイ二乗分布
  • F分布
  • 分布表の活用
  • 上側確率点(パーセント点)

はじめに

「母標準偏差が分からないのに、どうやって計算するの?」

3級の検定の問題には、「母標準偏差は10とする」のような親切な一文が書いてありました。でも現実はどうでしょうか? ラーメン店の待ち時間を調べるとき、全国の待ち時間の標準偏差を知っている人はいません。平均が分からないから調べているのに、標準偏差だけ分かっているのは、不思議な話ですよね。

では、σ\sigma の代わりに標本から計算した値を入れればよいのでしょうか?

実は、これだけでは少しズレます。分からない値を推定で置き換えると、その分だけ新しいぶれが入り、標準化した値はもう標準正規分布に従わないのです。

そこで登場するのが、今回の主役 t分布、カイ二乗分布、F分布 です。どれも正規分布から生まれた、いわば三きょうだいです。この先の推定と検定の問題は、ほとんどがこの3人に標準正規分布を足した4人で解けます。

前回の記事では、標本平均が正規分布に近づくことを学びました。今回の記事では、正規母集団から導かれる3つの分布と、試験に欠かせない分布表の使い方について解説します。

標準正規分布と分布表の読み方

はじめに、すべての基本となる標準正規分布の表について解説します。

標準正規分布 は、平均0、分散1の正規分布 N(0,1)N(0, 1) です。正規分布に従う XX は、Z=(X−μ)/σZ = (X - \mu)/\sigma で標準化すると、この分布に従います。どんな正規分布も、この1枚の表に持ち込めるのです。

統計検定の付表には、ふつう 上側確率 が書いてあります。上側確率とは、P(Z≥z)P(Z \ge z)、つまり zz より右側の面積のことです。次の値は、その表からの抜粋です。

zz0.501.001.501.962.002.58
P(Z≥z)P(Z \ge z)0.30850.15870.06680.02500.02280.0049

標準正規分布表の利用 は、次の4つの形に分けられます。ポイントは、左右対称であることと、全体の面積が1であることの2つだけです。

【標準正規分布表の読み方】(a,ba, b は正の数)

  1. P(Z≥a)P(Z \ge a): 表の値そのまま
  2. P(Z≤−a)P(Z \le -a): 左右対称なので、P(Z≥a)P(Z \ge a) と同じ
  3. P(Z≤a)P(Z \le a): 全体から引いて、1−P(Z≥a)1 - P(Z \ge a)
  4. P(a≤Z≤b)P(a \le Z \le b): 引き算して、P(Z≥a)−P(Z≥b)P(Z \ge a) - P(Z \ge b)

例えば、P(−1≤Z≤1)P(-1 \le Z \le 1) は、全体の1から左右の裾を引いて、1−2×0.1587=0.68261 - 2 \times 0.1587 = 0.6826 です。「± 1σ に約68%」の正体は、この計算です。

例題:表から確率を求める

テストの点数 XX が N(50,102)N(50, 10^2) に従うとき、P(45≤X≤65)P(45 \le X \le 65) を求めましょう。

【解き方】

  1. 標準化する: (45−50)÷10=−0.5(45 - 50) \div 10 = -0.5、(65−50)÷10=1.5(65 - 50) \div 10 = 1.5
  2. 左右の裾を確認する: P(Z≤−0.5)=0.3085P(Z \le -0.5) = 0.3085、P(Z≥1.5)=0.0668P(Z \ge 1.5) = 0.0668
  3. 全体から引く: 1−0.3085−0.0668=0.62471 - 0.3085 - 0.0668 = 0.6247

答えは約0.625です。

逆に、確率から zz を求めることもあります。上側確率がちょうど α\alpha となる値を 上側確率点(パーセント点)と呼び、zαz_\alpha と書きます。

上側確率 α\alpha0.100.050.0250.010.005
zαz_\alpha1.2821.6451.9602.3262.576

例えば、z0.025=1.96z_{0.025} = 1.96 です。左右に2.5%ずつ残すと真ん中が95%になるので、95%の信頼区間で1.96が出てきます。

以上が、標準正規分布と分布表の読み方についての解説です。

カイ二乗分布:ばらつきの分布

次に、ばらつきを測る分布について説明します。

カイ二乗分布 は、標準正規分布に従う値を2乗して足した量の分布です。

χ2=Z12+Z22+⋯+Zk2 ∼ χ2(k)\chi^2 = Z_1^2 + Z_2^2 + \dots + Z_k^2 \ \sim\ \chi^2(k)

Z1,…,ZkZ_1, \dots, Z_k は互いに独立な標準正規分布の変数で、kk を 自由度 と呼びます。言葉で言うと、「自由に動ける値の個数」です。期待値と分散は次のとおりです。

E[χ2]=k,V[χ2]=2kE[\chi^2] = k, \qquad V[\chi^2] = 2k

2乗の和なので、値は0以上です。形は右に裾が長く、自由度が大きくなると左右対称に近づきます。

なぜ2乗の和が大切なのでしょうか? 分散が「偏差の2乗の和」だからです。正規母集団 N(μ,σ2)N(\mu, \sigma^2) から大きさ nn の標本をとり、不偏分散を S2S^2 とすると、次の関係が成り立ちます。

(n−1)S2σ2 ∼ χ2(n−1)\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2} \ \sim\ \chi^2(n-1)

つまり、標本のばらつきと母分散の比は、自由度 n−1n-1 のカイ二乗分布に従うのです。

では、自由度はなぜ nn ではなく n−1n-1 なのでしょうか? 3人で割り勘をする場面を考えてください。合計金額が決まっていれば、2人の金額を決めた時点で、最後の1人の金額は自動的に決まります。同じように、偏差の和は必ず0なので、n−1n-1 個の偏差が決まると、最後の1個は自由に動けません。

カイ二乗分布の表は、左右対称ではありません。したがって、上側の点だけでなく下側の点も、別に読む必要があります。上側確率0.975の点とは、下側に2.5%を残す点のことです。

自由度χ0.9752\chi^2_{0.975}χ0.952\chi^2_{0.95}χ0.052\chi^2_{0.05}χ0.0252\chi^2_{0.025}
50.831.1511.0712.83
103.253.9418.3120.48
209.5910.8531.4134.17

例題:不偏分散の上限を求める

母分散が4の正規母集団から、大きさ11の標本をとります。不偏分散 S2S^2 が5%の確率でしか超えない値を求めましょう。

【解き方】

  1. 自由度は 11−1=1011 - 1 = 10
  2. 表から χ0.052(10)=18.31\chi^2_{0.05}(10) = 18.31
  3. 10S2/4=18.3110 S^2 / 4 = 18.31 を解く: S2=18.31×4÷10≈7.32S^2 = 18.31 \times 4 \div 10 \approx 7.32

答えは約7.32です。

以上が、カイ二乗分布についての説明です。

t分布:σが分からないときの標準正規分布

続いて、σ\sigma の問題を解決する分布について解説します。

t分布 は、標準正規分布の変数を、カイ二乗分布の変数で割って作ります。

T=ZW/k ∼ t(k)T = \frac{Z}{\sqrt{W / k}} \ \sim\ t(k)

ZZ は標準正規分布、WW は自由度 kk のカイ二乗分布に従う変数で、互いに独立です。定義は難しそうですが、使い方はかんたんです。標準化の式の σ\sigma を、標本から求めた標準偏差 SS(不偏分散の平方根)に置き換えるだけです。

T=Xˉ−μS/n ∼ t(n−1)T = \frac{\bar{X} - \mu}{S / \sqrt{n}} \ \sim\ t(n-1)

正規母集団なら、この TT は正確に自由度 n−1n-1 のt分布に従います。

【t分布の特徴】

  1. 0を中心に左右対称の山型
  2. 標準正規分布より山が低く、裾が厚い
  3. 自由度が大きくなると、標準正規分布に近づく

なぜ裾が厚いのでしょうか? 物差しそのものがぶれているからです。σ\sigma は固定された正確な物差しですが、SS は標本ごとに伸び縮みする物差しです。たまたま SS が小さく出ると、TT の値は大きくなります。その分だけ、極端な値が出やすいのです。

表を見てみましょう。t0.025(k)t_{0.025}(k) は、標準正規分布の1.96に当たる値です。

自由度t0.05t_{0.05}t0.025t_{0.025}t0.005t_{0.005}
52.0152.5714.032
101.8122.2283.169
151.7532.1312.947
301.6972.0422.750
∞1.6451.9602.576

自由度が小さいほど値が大きく、下の段で標準正規分布の値にそろうことが分かります。自由度が小さいデータでは、用心して幅を広めにとる、という意味です。

例題:t分布で珍しさを判定する

母平均が100とされる正規母集団から大きさ16の標本をとると、標本平均は105、標準偏差 SS は8でした。TT の値を求めて、TT が95%の確率で入る範囲に収まっているかを確かめましょう。

【解き方】

  1. 自由度は 16−1=1516 - 1 = 15 で、表から t0.025(15)=2.131t_{0.025}(15) = 2.131。TT は95%の確率で ±2.131 の間に入る
  2. 分母を計算する: S/n=8÷4=2S / \sqrt{n} = 8 \div 4 = 2
  3. TT を計算する: T=(105−100)÷2=2.5T = (105 - 100) \div 2 = 2.5

答えは T=2.5T = 2.5 で、範囲の外です。母平均が本当に100なら、かなり珍しいことが起きています。なお、σ\sigma が分かっているときの範囲は ±1.96 でした。±2.131 はそれより広く、「分からない」分だけ余裕をとっていることが分かります。

試験のポイント:母標準偏差が分かっていれば zz、標本から求めた標準偏差を使うなら tt です。自由度は n−1n-1 で、nn と間違えないようにしましょう。

以上が、t分布についての解説です。

F分布:2つのばらつきを比べる

次に、2つの分散を比べる分布を見ていきましょう。

F分布 は、2つのカイ二乗分布の変数を、それぞれの自由度で割ってから比をとった分布です。

F=W1/k1W2/k2 ∼ F(k1,k2)F = \frac{W_1 / k_1}{W_2 / k_2} \ \sim\ F(k_1, k_2)

W1,W2W_1, W_2 は独立で、k1k_1 を第1自由度、k2k_2 を第2自由度と呼びます。比をとるので値は0以上で、右に裾が長い形です。

2つの正規母集団から大きさ n1,n2n_1, n_2 の標本をとると、不偏分散の比について次の関係が成り立ちます。

S12/σ12S22/σ22 ∼ F(n1−1, n2−1)\frac{S_1^2 / \sigma_1^2}{S_2^2 / \sigma_2^2} \ \sim\ F(n_1 - 1,\ n_2 - 1)

例えば、2人のバッティング投手の球のばらつきを比べる場面を思い浮かべてください。差ではなく「何倍ばらついているか」で比べるのが、F分布の見方です。母分散が等しければ、比は1の近くに集まります。

F分布の表は、自由度が2つあるので、上側5%の表、上側2.5%の表のように、確率ごとに別の表になるのがふつうです。

第1自由度, 第2自由度F0.05F_{0.05}F0.025F_{0.025}
5, 103.334.24
10, 54.746.62
9, 93.184.03

自由度を入れ替えると値が変わることに注意してください。

下側の点は、表に載っていません。そこで、次の性質を使います。

F1−α(k1,k2)=1Fα(k2,k1)F_{1-\alpha}(k_1, k_2) = \frac{1}{F_{\alpha}(k_2, k_1)}

分子と分母を入れ替えると、1/F1/F は F(k2,k1)F(k_2, k_1) に従うからです。例えば、F0.95(5,10)=1÷F0.05(10,5)=1÷4.74≈0.211F_{0.95}(5, 10) = 1 \div F_{0.05}(10, 5) = 1 \div 4.74 \approx 0.211 です。自由度を入れ替えて逆数をとる、と覚えましょう。

補足(ここは読み飛ばしてOK): t分布の2乗はF分布に従います。つまり t(k)2∼F(1,k)t(k)^2 \sim F(1, k) です。例えば t0.025(10)2=2.2282≈4.96t_{0.025}(10)^2 = 2.228^2 \approx 4.96 は、F0.05(1,10)F_{0.05}(1, 10) と同じ値です。

以上が、F分布についての解説です。

分布表の活用:4つの分布の使い分け

最後に、4つの分布をどの場面で使うかを整理します。

分布何を調べるか自由度形
標準正規分布σ\sigma が既知の平均、比率なし左右対称
t分布σ\sigma が未知の平均n−1n-1左右対称、裾が厚い
カイ二乗分布1つの母分散n−1n-1右に裾が長い
F分布2つの母分散の比n1−1, n2−1n_1 - 1,\ n_2 - 1右に裾が長い

分布表の活用 は、次の手順で進めます。料理でいえば、レシピを選んでから、材料を量る順番です。

【分布表を読む手順】

  1. 調べたいものから分布を選ぶ(平均なら zz か tt、分散なら χ2\chi^2、分散の比なら FF)
  2. 自由度を確認する
  3. 上側確率を確認する(両側で5%なら、片側は2.5%)
  4. 左右対称の分布は符号を変えるだけ、非対称の分布は下側も別に読む

例題:表の値を読む

大きさ10の標本から、次の値を読み取りましょう。(1) t分布で、絶対値がその値を超える確率が5%となる点。(2) カイ二乗分布で、下側に2.5%を残す点。

【解き方】

  1. 両方とも自由度は 10−1=910 - 1 = 9
  2. (1) は両側5%なので、片側2.5%の点を読む: t0.025(9)=2.262t_{0.025}(9) = 2.262
  3. (2) は上側確率0.975の点を読む: χ0.9752(9)=2.70\chi^2_{0.975}(9) = 2.70

答えは、(1) 2.262、(2) 2.70です。

以上が、分布表の活用についての説明です。

定義の式を完全に覚えられなくても問題ありません。ここでは、「どの分布を、どの自由度で、どの上側確率で読むか」という3点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は正規母集団から導かれる3つの分布と、分布表の使い方について紹介しました。σ\sigma が分からないという現実の悩みに答えるのが、t分布です。ばらつきそのものを調べるのがカイ二乗分布で、ばらつきを比べるのがF分布です。この先の問題は、結局「どの表のどこを読むか」に帰着します。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 標準正規分布の表は上側確率が基本。左右対称と全体の面積1で、すべての形に読み替える。
  • カイ二乗分布は標準正規分布の2乗の和。分散の分布で、平均は自由度 kk、分散は 2k2k。
  • t分布は σ\sigma を SS に置き換えたときの分布。裾が厚く、自由度が大きいと標準正規分布に近づく。
  • F分布は分散の比の分布。下側の点は、自由度を入れ替えて逆数をとる。

キーワードのおさらい

  • 標準正規分布: 平均0、分散1の正規分布
  • 上側確率点(パーセント点): 上側確率がちょうど α\alpha となる値
  • 自由度: 自由に動ける値の個数
  • カイ二乗分布: 独立な標準正規分布の変数の2乗の和の分布
  • t分布: σ\sigma を標本の標準偏差に置き換えて標準化した量の分布
  • F分布: 2つのカイ二乗分布の変数を自由度で割った比の分布

さて、道具はすべてそろいました。次はいよいよ、これらを使って母集団の値を言い当てます。でも、「言い当てる」とは、どういうことなのでしょうか? 良い当て方と悪い当て方は、どう違うのでしょうか?

次回は、「点推定と区間推定」について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. ZZ が標準正規分布に従うとき、P(−1≤Z≤2)P(-1 \le Z \le 2) の値として正しいものはどれか。ただし P(Z≥1)=0.1587P(Z \ge 1) = 0.1587、P(Z≥2)=0.0228P(Z \ge 2) = 0.0228 とする。
問2. 正規母集団から大きさ13の標本をとり、母標準偏差が未知のままt分布を使う。両側5%の点として正しいものはどれか。ただし t0.025(12)=2.179t_{0.025}(12) = 2.179、t0.025(13)=2.160t_{0.025}(13) = 2.160 とする。
問3. 自由度8のカイ二乗分布に従う確率変数の、期待値と分散の組として正しいものはどれか。
問4. F0.05(6,4)=6.16F_{0.05}(6, 4) = 6.16 のとき、F0.95(4,6)F_{0.95}(4, 6) に最も近いものはどれか。
問5. t分布の説明として、最も適切なものはどれか。