2級-19 推測統計の基礎
1つの母集団の区間推定
- 正規母集団の母平均・母分散の区間推定
- 母比率の区間推定
- 相関係数の区間推定
はじめに
「この店の待ち時間、9人に聞いただけで何が分かるの?」
話題のラーメン店の平均待ち時間を知りたいとしましょう。行列の9人に聞いてみたものの、標本は小さく、全体のばらつきも分かりません。前回の公式には が入っていましたが、ここには がないのです。困りますよね。
さらに、知りたいのが平均とは限りません。「待ち時間のばらつきはどのくらいか」「常連客の割合は」「注文の量と滞在時間の関連の強さは」といった疑問もあります。
実は、どの疑問も、前回の「標本の値を中心に網を広げる」という同じ考え方で解けます。変わるのは、網の材料になる分布だけです。
そこで登場するのが、今回の主役 母平均・母分散・母比率・相関係数の区間推定 です。4つのレシピを1つずつ身につけましょう。
前回の記事では、信頼区間の考え方を学びました。今回の記事では、1つの母集団について、対象ごとの信頼区間の作り方を解説します。信頼係数は、特に断らない限り95%とします。
母平均の区間推定:σが分からないならt分布
はじめに、最もよく出る母平均の区間推定について解説します。
正規母集団の母平均・母分散の区間推定 のうち、まずは母平均から始めます。母平均の区間推定は、 が分かっているかどうかで分かれます。
【母平均の95%信頼区間】
- が既知:
- が未知:
が既知の場合は、前回の式そのままです。未知のときは、次のように置き換えます。 を不偏分散の平方根 に、1.96をt分布の上側2.5%点に変えるのです。
記号の意味は、 が標本平均、 が不偏分散の平方根、 が標本の大きさ、 が自由度 のt分布の上側2.5%点です。言葉で言うと、「標本平均 ± t の点 × 標準誤差」となります。
例題:待ち時間の母平均の信頼区間
ラーメン店で9人の待ち時間を調べると、次のデータが得られました(単位は分)。待ち時間は正規分布に従うとして、母平均の95%信頼区間を求めましょう。ただし、 とします。
20, 23, 28, 28, 31, 32, 33, 36, 39
【解き方】
- 標本平均を求める:
- 偏差の2乗の和を求める:
- 不偏分散を求める: なので
- 標準誤差を求める:
- 幅を求める:
答えは、 より、約25.39分から約34.61分です。
もし が分かっていたら、幅は で済みました。t分布の網が広いのは、物差しの不確かさの分だけ余裕をとっているからです。
なお、 が大きいときは、t分布はほぼ標準正規分布になります。正規母集団でなくても、 が大きければ、中心極限定理により同じ式が近似として使えます。
試験のポイント:区間の材料は、 が「既知」なら1.96、「未知」なら自由度 のtです。問題文の「母分散は未知」の一言を見逃さないようにしましょう。
以上が、母平均の区間推定についての解説です。
母分散の区間推定:左右非対称な網
次に、ばらつきそのものを推定する方法について説明します。
味の品質管理のように、「平均が合っているだけでなく、ばらつきが小さいこと」が大切な場面があります。そのときは、母分散の区間推定を使います。
材料は、カイ二乗分布の関係 です。この量が95%の確率で下側と上側の点の間に入る、という式を について解きます。
は上側2.5%の点で大きい値、 は上側97.5%の点で小さい値です。言葉で言うと、「偏差の2乗の和を、大きい点で割ったものが下限、小さい点で割ったものが上限」です。
ここがポイントです。分母が大きいほど値は小さくなるので、下限には大きい点を使います。順番が逆に見えますが、これは正しい形です。
例題:待ち時間の母分散の信頼区間
さきほどのラーメン店のデータから、母分散の95%信頼区間を求めましょう。ただし、、 とします。
【解き方】
- 偏差の2乗の和を確認する:
- 下限を求める:
- 上限を求める:
答えは、約16.4から約132.1です。
この区間は、点推定値の36を中心にしていません。カイ二乗分布が左右非対称なので、網も非対称になるのです。下には約20、上には約96も広がっています。
母標準偏差の信頼区間が欲しいときは、両端の平方根をとります。、 なので、約4.05分から約11.5分です。
標本が9個だけだと、ばらつきの推定はこれだけ粗くなります。平均よりも分散のほうが、推定はずっと難しいのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 母平均の区間は、 が大きければ正規分布でなくても近似できます。一方、母分散の区間は母集団が正規分布であることに強く頼っています。正規分布から外れたデータでは、注意が必要です。
以上が、母分散の区間推定についての説明です。
母比率の区間推定:正規近似で幅をとる
続いて、割合を推定する方法を見ていきましょう。
3級で学んだ母比率の区間推定を、ここで確認します。成功の回数は二項分布に従い、 が大きいと標本比率 は正規分布 で近似できます。標準誤差の中の は分からないので、 を入れて次の式で計算します。
例えば、お店のお客さん400人のうち120人が常連だったとします。
【計算の手順】
- 標本比率:
- 標準誤差:
- 幅:
95%信頼区間は、0.255から0.345です。およそ25.5%から34.5%と言えます。
せっかくなので、世論調査の話もしましょう。誤差(片側の幅)を3ポイント以内にするには、何人に聞けばよいでしょうか? 調べる前は が分からないので、幅が最も広くなる を使います。
したがって、1,068人以上です。新聞の世論調査がおよそ1,000人なのは、こういう計算から来ているのです。
試験のポイント:必要な標本の大きさを問われて が分からないときは、最悪の場合の で計算します。求めた数は切り上げます。
以上が、母比率の区間推定についての解説です。
相関係数の区間推定:z変換でまっすぐにする
次に、関連の強さを推定する方法について解説します。
相関係数の標本分布は、母相関係数 が1や−1に近いほど、片寄った形になります。これは、壁の近くでボールが跳ね返るようなものです。相関係数には1を超えられない壁があるので、そのままでは左右対称の網が投げられません。
そこで、壁のない世界へ移してから網を投げます。これが フィッシャーのz変換 です。
は標本相関係数です。2変量正規分布のデータなら、 は近似的に平均 、分散 の正規分布に従います。
【相関係数の区間推定の手順】
- を に変換する
- の世界で を計算する
- 両端を で元に戻す
地図アプリのように、一度別の座標に変換してから距離を測り、最後に元の座標へ戻すイメージです。
例題:相関係数の信頼区間
28組のデータから、標本相関係数 を得ました。母相関係数の95%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 変換する:
- 幅を求める:
- の世界の区間: から
- 元に戻す: は約0.292、 は約0.795
答えは、約0.29から約0.80です。
に対して、下に約0.31、上に約0.20と、非対称です。また、区間が0を含まないので、「母相関係数は0ではなさそうだ」と読めます。この手順全体が、相関係数の区間推定 です。
以上が、相関係数の区間推定についての説明です。
4つのレシピの選び方
最後に、ここまでの4つのレシピを整理しましょう。
| 知りたいもの | 使う分布 | 95%信頼区間の形 | 区間の形 |
|---|---|---|---|
| 母平均( 既知) | 標準正規分布 | 対称 | |
| 母平均( 未知) | t分布(自由度 ) | 対称 | |
| 母分散 | カイ二乗分布(自由度 ) | を2つの点で割る | 非対称 |
| 母比率 | 正規近似 | 対称 | |
| 相関係数 | z変換で正規近似 | 変換して幅をとり、元に戻す | 非対称 |
問題を解くときの流れは、どれも同じです。
【区間推定を解く手順】
- 何を推定するかを確かめる(平均、分散、比率、相関係数)
- 表の中から分布を選び、自由度を確認する
- 点推定値と標準誤差を計算する
- 分布表の値を掛けて幅を出す(または割る)
- 上限と下限を答える
以上が、4つのレシピの選び方についての解説です。
細かい式が覚えきれなくても問題ありません。ここでは、「平均は 、分散は 、比率は正規近似」という対応だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は1つの母集団について、対象ごとの区間推定を紹介しました。4つのレシピは、見た目こそ違いますが、「標本の値を中心に、分布表の値を使って網を広げる」という骨組みは同じです。何を推定するかによって、網の材料になる分布が変わるだけなのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 母平均は、 が未知なら自由度 のt分布を使う。
- 母分散は、カイ二乗分布の大きい点で割ると下限、小さい点で割ると上限。区間は非対称。
- 母比率は、正規近似で幅をとる。必要な は、分からなければ で見積もる。
- 相関係数は、z変換で正規分布の世界へ移してから区間を作り、元に戻す。
キーワードのおさらい
- 正規母集団の母平均の区間推定: が既知なら標準正規分布、未知ならt分布で求める区間
- 母分散の区間推定: カイ二乗分布の2つの点で割って求める区間
- 母比率の区間推定: 標本比率の正規近似で求める区間
- 相関係数の区間推定: フィッシャーのz変換を使って求める区間
- フィッシャーのz変換: 相関係数を正規分布で扱える値に変える変換
さて、今回は1つの母集団だけを見てきました。でも、実際に知りたいのは「A店とB店はどちらが速いのか」「新しい教え方は前より効果があるのか」のように、2つを比べる話が多いですよね。
次回は、2つの差や比を推定する「2つの母集団の区間推定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。