2級-12 推測統計の基礎
実験 — フィッシャーの3原則
- 実験のデザイン(実験計画)
- フィッシャーの3原則
はじめに
「新しい肥料を使ったら、去年より収穫が増えた! この肥料はすごい!」
農家の方がこう話していたら、どう思いますか? 喜びたいところですが、今年は天気がよかっただけかもしれません。去年と畑の土の状態が変わったのかもしれません。この比べ方では、肥料の効果と、その他の違いを見分けられないのです。
前回の記事では、調査の標本の選び方を学びました。その前の「観察研究と実験研究」では、研究者が要因を割り当てるのが実験研究だと学びましたね。今回は、その実験の組み立て方を掘り下げます。
実は、実験はやれば分かるものではありません。組み立て方が悪いと、どんなに丁寧に測っても、データから何も言えなくなります。そして、データを取り終えた後では、分析で救うことができないのです。
そこで登場するのが、今回の主役 フィッシャーの3原則 です。統計学者フィッシャーが、イギリスの農業試験場で畑の実験に取り組む中でまとめた、実験の設計図の基本です。今回の記事では、実験のデザインの考え方と、反復、無作為化、局所管理の3つの原則について解説します。
実験のデザイン:実験の前に決めること
はじめに、実験を組み立てるときの言葉と考え方について解説します。
実験のデザイン(実験計画、design of experiments) とは、知りたい効果を正しく、少ない手間で測れるように、実験の手順を前もって決めることです。家を建てる前に設計図を引くのと同じです。工事が終わってから柱の位置は直せませんよね。
実験を説明するには、次の言葉を使います。
【実験計画の用語】
- 因子: 結果に影響すると考えて調べる要因
- 水準: 因子の中で比べる具体的な条件
- 実験単位: 処理を割り当てる1つ1つの対象
- 応答: 測る結果
例えば、肥料の実験なら、因子は肥料の種類です。水準は肥料Aと肥料Bで、実験単位は畑を区切った1つ1つの区画、応答は区画ごとの収穫量です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。ラーメン店が麺のゆで時間を決める実験では、因子はゆで時間です。水準は2分と3分で、実験単位は出した1杯ずつ、応答はお客さんの評価の点数です。
実験で戦う相手は 誤差 です。同じ肥料を使っても、区画ごとに収穫量は揺れます。誤差には、性格の違う2種類があります。
【2種類の誤差】
- 偶然誤差: 測るたびに上下に揺れるズレ。平均すると打ち消される
- 系統誤差: 同じ方向に片寄り続けるズレ。平均しても消えない
前回の記事の、標本誤差と偏りの関係によく似ていますね。
フィッシャーの3原則は、これらの誤差に対処する3つの方法です。
【フィッシャーの3原則】
- 反復: 同じ処理を複数の実験単位に行い、偶然誤差の大きさを測る
- 無作為化: 処理の割り当てをくじで決め、系統誤差を偶然誤差に変える
- 局所管理: 条件の似た単位ごとに比べ、偶然誤差そのものを小さくする
以上が、実験のデザインについての解説です。
反復:1回の結果を信じない
次に、1つ目の原則である反復について説明します。
反復(replication) とは、同じ処理を複数の実験単位に行うことです。肥料Aを1区画だけでなく、4区画、8区画にまくということです。
なぜ必要なのでしょうか? 理由は2つあります。
【反復の2つの役割】
- 誤差の大きさが分かる: 同じ処理の中のばらつきが、誤差の物差しになる
- 精度が上がる: 平均をとると、偶然誤差が打ち消し合う
肥料Aと肥料Bを1区画ずつ試して、Bが10kg多かったとします。この10kgは大きな差でしょうか、小さな差でしょうか? 判断できません。区画による揺れがどのくらいなのか、分からないからです。
精度は、3級で学んだ標本平均の標準誤差で表せます。区画ごとの揺れの標準偏差を 、反復の回数を とすると、処理の平均の標準誤差は次のようになります。
例えば、 のとき、 なら6、 なら3、 なら2です。2つの処理の平均の差を比べるなら、標準誤差は次の式です。
有名な話を1つ紹介しましょう。ある婦人が「ミルクティーは、ミルクを先に入れたか紅茶を先に入れたかを、飲めば当てられる」と言いました。1杯だけ試すなら、勘でも確率 で当たります。これでは本当の力か分かりません。そこで、ミルクが先の4杯と紅茶が先の4杯を混ぜて8杯出します。4杯の選び方は70通りあるので、全部を当てる確率は、勘なら です。反復が、「たまたま」と「実力」を見分ける力を与えるのです。
ただし、反復には落とし穴があります。1つの区画の中で収穫量を3回量り直しても、反復にはなりません。量り直しで分かるのは秤の揺れだけで、区画の揺れは分からないからです。処理を割り当てた実験単位の数を増やして、はじめて反復です。
例題:反復の回数を決める
区画の揺れの標準偏差が kgのとき、2種類の肥料の平均の差の標準誤差を2kg以下にしたいとします。各肥料に何区画ずつ必要でしょうか?
【解き方】
- 式を立てる:
- 両辺を6で割る:
- 両辺を2乗する:
- について解く:
答えは、各肥料18区画ずつです。
試験のポイント:同じ実験単位を測り直すのは反復ではありません。反復の数は、処理を割り当てた実験単位の数です。
以上が、反復についての説明です。
無作為化:くじで偏りを誤差に変える
続いて、2つ目の原則である無作為化について解説します。
無作為化(randomization) とは、どの処理をどの実験単位に割り当てるか、どの順で行うかを、くじや乱数で決めることです。「観察研究と実験研究」の記事で学んだ無作為割り当ては、この原則のことです。
例えば、畑の東側は水はけがよく、西側は悪いとします。もし東の4区画に肥料A、西の4区画に肥料Bをまくと、Aの収穫が多くても、肥料の効果なのか場所の効果なのか分かりません。系統誤差が、処理の効果と完全に重なっています。
このとき、水はけのことを知っている必要はありません。ここがポイントです。8区画に番号をつけて、くじで4つを肥料Aに割り当てればよいのです。トランプをよく切ると、配られる札に偏りがなくなるのと同じです。すると、水はけのよさはどちらの処理にも同じように入る見込みになります。
これを誤差の言葉で言うと、次のようになります。
【無作為化の効果】
- 無作為化の前: 場所の効果が、片方の処理にだけ乗る系統誤差になる
- 無作為化の後: 場所の効果が、どちらにも揺れる偶然誤差に変わる
偶然誤差なら、確率で扱えます。つまり、「この差が偶然で生じる確率」を計算できるようになります。後の記事で学ぶ検定は、この土台の上に立っています。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。2種類のラーメンの味を比べるとき、全員が先にAを食べると、お腹がすいた状態の評価がAにだけ乗ります。順番もくじで決めれば、この偏りは防げます。時間とともに測定器の調子が変わる場合も、処理の順番を無作為化します。
人の実験では、思い込みにも注意が必要です。そこで、本物の薬と見分けのつかない偽の薬(プラセボ)を対照に使います。さらに、誰がどちらを受けたかを、参加者にも評価する人にも伏せます。これを 二重盲検法 と言います。割り当てをくじで決めても、評価の段階で偏りが入っては意味がないからです。
試験のポイント:無作為化の目的は、分かっていない要因による系統誤差を、偶然誤差に変えることです。
以上が、無作為化についての解説です。
局所管理:似た者どうしで比べる
最後に、3つ目の原則である局所管理を見ていきましょう。
無作為化で公平にはなりましたが、畑全体の揺れが大きいままだと、肥料の差が揺れに埋もれてしまいます。そこで、比べる舞台を小さくします。
局所管理(local control) とは、実験の場を条件のそろった小さなまとまりに分けて、そのまとまりの中で処理を比べることです。このまとまりを ブロック と呼び、分けることを ブロック化 と言います。
柔道の体重別の階級を思い浮かべてください。体重がバラバラな相手と戦うと、技の差なのか体格の差なのか分かりません。同じ階級の中で戦えば、技の差がはっきり見えます。畑なら、隣どうしの区画を1つのブロックにします。人の実験なら、同じ人の左右の手や、年齢の近い人どうしをブロックにします。
ブロックの中で処理の割り当てをくじで決めると、局所管理と無作為化の両方が実現します。この組み立てを 乱塊法 と呼びます。
例題:ブロック化の効果を計算する
畑を水はけの順に4つのブロックに分け、各ブロックに肥料AとBを無作為に割り当てました。収穫量(kg)は次のとおりです。
| ブロック | 1 | 2 | 3 | 4 |
|---|---|---|---|---|
| 肥料A | 30 | 40 | 50 | 60 |
| 肥料B | 33 | 42 | 54 | 63 |
ブロックを無視した場合と、ブロックごとの差を使う場合で、平均の差の標準誤差を比べましょう。
【解き方】
- 平均: Aは45、Bは48で、差は3
- ブロックを無視する: 不偏分散はAが約166.7、Bが174で、標準誤差は
- ブロックごとの差(B − A): 3, 2, 4, 3 で、平均は3
- 差の不偏分散:
- 差の標準誤差:
ブロックを無視すると、標準誤差は9.23で、差の3はノイズの中に埋もれます。一方で、ブロックごとの差を使うと、標準誤差は0.41で、差の3がはっきり見えます。収穫量の揺れのほとんどは、肥料ではなくブロックの違いによるものだったのです。
3つの原則をまとめると、次のようになります。
| 原則 | すること | 効果 | 例え |
|---|---|---|---|
| 反復 | 実験単位を増やす | 誤差を測り、精度を上げる | 何度も味見する |
| 無作為化 | くじで割り当てる | 系統誤差を偶然誤差に変える | トランプを切る |
| 局所管理 | 似た単位の中で比べる | 誤差を小さくする | 体重別の階級 |
例題:どの原則にあたるか
次の工夫は、3原則のどれにあたるでしょうか?
- 同じ肥料を5つの区画にまいた
- 時間帯の影響を除くため、午前と午後のそれぞれで試作品Aと試作品Bを両方作って比べた
- 実験を行う順番を乱数で決めた
【考え方】
- 同じ処理を複数の単位に行っているので、反復
- 条件のそろった時間帯の中で比べているので、局所管理
- 順番を偶然に任せているので、無作為化
試験のポイント:「隣り合う区画をまとめる」「同じ人で比べる」は局所管理、「くじで決める」は無作為化、「数を増やす」は反復です。
以上が、局所管理についての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「数を増やす、くじで決める、似た者どうしで比べる」という3つの言葉だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、効果を正しく測るための実験の組み立て方について紹介しました。実験の良し悪しは、データを取る前に決まります。3つの原則は、どれも特別な技術ではなく、「公平に比べる」という当たり前を徹底するための工夫なのです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 実験のデザインは、データを取る前に引く設計図。後から分析では直せない。
- 反復は、誤差の物差しを手に入れて、精度を上げる。測り直しは反復ではない。
- 無作為化は、トランプを切るように偏りをならす。系統誤差が偶然誤差に変わる。
- 局所管理は、体重別の階級のように、似た者どうしで比べて誤差を小さくする。
キーワードのおさらい
- 実験のデザイン(実験計画): 効果を正しく測れるように、実験の手順を前もって決めること
- フィッシャーの3原則: 反復、無作為化、局所管理の3つの原則
- 反復: 同じ処理を複数の実験単位に行うこと
- 無作為化: 処理の割り当てや順番をくじや乱数で決めること
- 局所管理: 条件のそろったブロックの中で処理を比べること
- 乱塊法: ブロックに分け、その中で処理を無作為に割り当てる実験の組み立て方
さて、ここまでで、データの集め方の話はひと区切りです。くじで選び、くじで分けると、結果は「確率」で語れるようになる、と何度も話してきました。では、その確率は、どんなルールで計算すればよいのでしょうか?
次回は、推測の土台となる「確率」の法則、加法定理・乗法定理・ベイズの定理について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。