2級-13 推測統計の基礎
確率 — 加法定理・乗法定理・ベイズの定理
- 事象と確率
- 加法定理
- 条件付き確率
- 乗法定理
- ベイズの定理
はじめに
「検査で陽性と出た。精度90%の検査らしいから、病気の確率は90%ってこと?」
こんな場面を想像すると、不安になりますよね。ところが、実際に計算してみると、病気である確率は15%ほどになることがあります。90%と15%では、受け止め方がまったく違います。
前回の記事までで、データの集め方を学びました。くじで選び、くじで分けることで、結果を確率で語れるようになるのでした。ここからは、その確率のルールを整理します。4級で確率の基礎を、3級で独立と条件付き確率を学びましたね。2級では、これらを公式として使いこなします。
実は、冒頭の勘違いは「AのときのBの確率」と「BのときのAの確率」を取り違えたことから起こります。この2つは、まったく別の数字です。
そこで登場するのが、今回の主役 ベイズの定理 です。結果から原因の確率を逆算する、確率の中でも特に強力な道具です。今回の記事では、事象の言葉をそろえたうえで、加法定理、条件付き確率、乗法定理、そしてベイズの定理について解説します。
事象と確率:言葉をそろえる
はじめに、確率を語るための言葉について解説します。
確率の話は、次の3つの言葉から始まります。
【確率の基本用語】
- 試行: サイコロを振るように、結果が偶然に決まる行為
- 標本空間: 起こり得る結果すべての集まり。 と書く
- 事象: 標本空間の一部で、「偶数の目が出る」のような結果の集まり
サイコロなら、標本空間は です。全校生徒の名簿が標本空間で、「サッカー部の人」のような名簿の一部が事象だと考えてください。
事象どうしの関係にも名前があります。具体的に見てみましょう。 を「偶数の目」、 を「3の倍数の目」 とします。
【事象の関係】
- 和事象 : または が起こる。例では
- 積事象 : と がともに起こる。例では
- 余事象 : が起こらない。例では
- 排反: と が同時には起こらない。例えば「偶数の目」と「奇数の目」
確率 は、事象の起こりやすさを0から1の数で表したものです。どんな確率も、次の3つのルールを満たします。
【確率の3つのルール】
- どの事象 でも
- 全体の確率は1:
- と が排反なら
どの結果も同様に確からしいときは、次の式で計算できます。
例の場合は、、 です。
ルールから、すぐに便利な式が出ます。起こる確率と起こらない確率を足すと1なので、次のように計算できます。
例えば、サイコロを3回振って、少なくとも1回6が出る確率を考えます。「1回、2回、3回の場合」に分けると大変ですが、余事象は「3回とも6以外」です。したがって、 と一度で求まります。「少なくとも」と書かれていたら、余事象の出番です。
以上が、事象と確率についての解説です。
加法定理:重なりを引く
次に、和事象の確率を求める加法定理について説明します。
加法定理 は、「 または 」の確率を求める公式です。
言葉で言うと、2つの確率を足して、重なりを引きます。なぜ引くのでしょうか? 2つのクラブの名簿を合わせて人数を数えると、両方に入っている人が2回数えられてしまいますよね。その1回ぶんを引くのです。
数値を入れてみましょう。サイコロの例では、 です。実際に の4つなので、 と一致します。
と が排反のときは重なりがないので、 となり、そのまま足すだけになります。
例題:加法定理と余事象
40人のクラスで、数学が好きな人は24人、英語が好きな人は18人、両方好きな人は10人でした。1人を無作為に選ぶとき、次の確率を求めましょう。
- 数学か英語の少なくとも一方が好きである
- どちらも好きではない
【解き方】
- 確率に直す: 、、
- 加法定理:
- 余事象:
答えは、1が0.8、2が0.2です。
以上が、加法定理についての説明です。
条件付き確率と乗法定理:舞台を絞る
続いて、条件付き確率と乗法定理について解説します。
条件付き確率 は、「 が起こったと分かったときの、 の確率」です。 と書きます。
言葉で言うと、舞台を全校生徒から の教室の中だけに絞り、そこで の割合を見るのです。だから、分母が になります。
具体的に見てみましょう。ある学校の生徒200人の通学手段と、今月の遅刻の有無を集計しました。
| 遅刻あり | 遅刻なし | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 電車 | 12 | 108 | 120 |
| バス | 16 | 64 | 80 |
| 合計 | 28 | 172 | 200 |
バス通学の人に絞ると、遅刻の確率は です。一方で、遅刻した人に絞ると、バス通学の確率は です。
分子は同じ16なのに、値はまったく違います。つまり、 と は別物です。ここがポイントです。冒頭の勘違いも、この取り違えでした。
条件付き確率の式の分母を払うと、乗法定理 が得られます。
言葉で言うと、「まず が起こり、そのうえで が起こる確率」を掛け算で求める公式です。順番に関門を通っていくイメージです。
例えば、10本のうち3本が当たりのくじを、引いたくじを戻さずに2人が順に引きます。
【くじの確率の計算】
- 2人とも当たる:
- 2人目が当たる:
2人目が当たる確率は、1人目の結果で場合分けして足すと になり、1人目と同じです。くじは、引く順番によらず公平なのです。
条件が確率を変えない場合もあります。 のとき、 と は 独立 であると言います。このとき、乗法定理は次の形になります。
サイコロの例では、 で、 なので、 と は独立です。偶数かどうかを知っても、3の倍数かどうかの見込みは変わりません。
試験のポイント:排反と独立は別物です。排反は「同時に起こらない」、独立は「互いの確率に影響しない」です。どちらの確率も正のとき、排反な2つの事象は独立ではありません。一方が起これば、もう一方の確率は0になるからです。
以上が、条件付き確率と乗法定理についての解説です。
ベイズの定理:結果から原因を逆算する
最後に、ベイズの定理を見ていきましょう。
探偵を思い浮かべてください。現場に足跡という結果が残っていて、犯人という原因を推理します。原因が分かっているときに結果の確率を考えるのは簡単ですが、探偵がほしいのは逆の確率です。この逆算を行うのが、ベイズの定理(Bayes' theorem) です。
まず、原因 が互いに排反で、どれか1つは必ず起こるとします。このとき、結果 の確率は、原因ごとに分けて足せます。さきほどのくじの2人目の計算と同じ形です。
これを 全確率の公式 と言います。乗法定理と合わせると、ベイズの定理が得られます。
記号の意味は次のとおりです。
【ベイズの定理の記号】
- : 事前確率。結果を見る前の、原因 の確率
- : 原因 のもとで、結果 が起こる確率
- : 事後確率。結果 を見た後の、原因 の確率
言葉で言うと、「その原因の道を通って結果にたどり着く確率」を、「すべての道の合計」で割ります。
例題:検査で陽性のときの確率
ある病気にかかっている人の割合は1%です。検査は、病気の人を90%の確率で陽性と判定し、病気でない人を5%の確率で誤って陽性と判定します。検査が陽性のとき、本当に病気である確率を求めましょう。
【解き方】
- 事前確率: 病気 0.01、病気でない 0.99
- 病気で陽性になる道: 0.01 × 0.90 = 0.009
- 病気でないのに陽性になる道: 0.99 × 0.05 = 0.0495
- 陽性の確率(全確率の公式): 0.009 + 0.0495 = 0.0585
- 事後確率: 0.009 ÷ 0.0585 ≈ 0.154
答えは約15.4%です。
意外に低いですよね。人数に直すと、理由が見えてきます。10,000人が検査を受けたとしましょう。
| 陽性 | 陰性 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 病気 | 90 | 10 | 100 |
| 病気でない | 495 | 9,405 | 9,900 |
| 合計 | 585 | 9,415 | 10,000 |
陽性の585人のうち、本当に病気なのは90人だけです。病気でない人が圧倒的に多いので、わずか5%の誤判定でも495人になってしまうのです。
もう一度検査をしたらどうでしょうか? ここがベイズの定理の面白いところです。1回目の事後確率0.154を、2回目の事前確率にします。2回目も陽性なら、 に上がります。情報が増えるたびに、確率を更新していけるのです。
例題:不良品の原因を探す
ある工場には製造ラインが3つあります。全製品に占める割合と不良率は、次のとおりです。
| ライン | A | B | C |
|---|---|---|---|
| 製品の割合 | 50% | 30% | 20% |
| 不良率 | 1% | 2% | 4% |
不良品が1つ見つかりました。ラインCで作られた確率を求めましょう。
【解き方】
- 各ラインの道: Aは 0.5 × 0.01 = 0.005、Bは 0.3 × 0.02 = 0.006、Cは 0.2 × 0.04 = 0.008
- 不良の確率: 0.005 + 0.006 + 0.008 = 0.019
- 事後確率: 0.008 ÷ 0.019 ≈ 0.421
答えは約42.1%です。製品の割合が最も少ないCが、不良品の原因としては最も疑わしいと分かります。
試験のポイント:ベイズの定理の問題は、「各原因の道の確率」を掛け算で出し、合計で割る手順で解けます。迷ったら、10,000人などの人数に直して表を作りましょう。
以上が、ベイズの定理についての説明です。
細かい公式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「または は足して重なりを引く、かつ は順に掛ける、逆向きの確率は道の割合で求める」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、確率の基本法則と、結果から原因を逆算するベイズの定理について紹介しました。「90%の検査で陽性」は「病気の確率が90%」を意味しません。元の割合をふまえて、逆向きの確率を計算することが大切です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 標本空間が名簿、事象が名簿の一部。「少なくとも」は余事象で求める。
- 加法定理は、足して重なりを引く。排反なら足すだけ。
- 条件付き確率は舞台を絞る。 と は別物。
- 乗法定理は、関門を順に通る掛け算。独立なら確率をそのまま掛ける。
- ベイズの定理は探偵の推理。原因の道の確率を、すべての道の合計で割る。
キーワードのおさらい
- 事象: 標本空間の一部で、結果の集まり
- 排反: 2つの事象が同時には起こらないこと
- 加法定理:
- 条件付き確率: が起こったと分かったときの の確率
- 乗法定理:
- 独立: 一方が起こっても、他方の確率が変わらないこと
- ベイズの定理: 事前確率と結果の確率から、事後確率を求める定理
さて、今回は「当たる」「陽性になる」のように、結果を言葉で扱いました。でも、賞金の金額やサイコロの目のように、結果が数で表されるなら、「平均していくらになるか」も計算できそうですよね。
次回は、結果を数として扱う「確率変数」と、その期待値・分散について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。