2級-11 推測統計の基礎
標本調査と無作為抽出
- 標本サイズ(標本の大きさ)
- 標本誤差
- 偏りの源
- 系統抽出法
- 層化抽出法
- クラスター抽出法
- 多段抽出法
はじめに
「世論調査って、たった1,000人くらいに聞いただけで、日本全体のことが分かるの?」
ニュースの内閣支持率を見て、こう感じたことはありませんか? 1億人以上いる国で、1,000人は10万人に1人にも足りません。こんなに少なくて大丈夫なのかと、不安になりますよね。
前回の記事では、無作為抽出が標本調査の土台であることを学びました。味見をするなら、鍋をよくかき混ぜてからすくう、という話でしたね。
実は、よくかき混ぜてあれば、味見に必要な量は鍋の大きさによりません。小鍋でも大鍋でも、スプーン1杯で味は分かります。だから、世論調査は1,000人ほどで成り立つのです。一方で、かき混ぜ方が悪いと、どんなに大きなスプーンを使っても正しい味は分かりません。
そこで登場するのが、今回の主役 標本誤差 と 偏り です。今回の記事では、この2種類のズレと標本サイズの関係、そして現実の調査で使われる系統抽出法、層化抽出法、クラスター抽出法、多段抽出法について解説します。
標本誤差と標本サイズ:何人に聞けば足りるのか
はじめに、偶然によるズレと人数の関係について解説します。
標本誤差(sampling error) とは、標本から求めた値と母集団の本当の値とのズレのうち、「たまたま誰が選ばれたか」で生じる部分です。無作為に選んでも、選ばれる顔ぶれは調査のたびに変わります。その結果、値も少しずつ変わるのです。
標本誤差の大きさを左右するのが、標本サイズ(標本の大きさ) です。標本に含まれる個体の数のことで、 で表します。1,000人に聞いたら、標本サイズは1,000です。「標本が1,000個ある」のではない点に注意しましょう。
3級で学んだとおり、標本比率のぶれは次の標準誤差で表せます。
は母集団の比率、 は標本サイズです。そして、標本比率はおよそ95%の確率で、本当の比率から標準誤差の1.96倍以内に収まります。この範囲を、ここでは「95%の誤差の幅」と呼びます。
具体的に見てみましょう。賛成の比率が の問題を 人に聞くとします。
【誤差の幅の計算】
- 標準誤差:
- 95%の誤差の幅: 1.96 × 0.025 = 0.049
つまり、±4.9ポイントのズレを見込む必要があります。標本サイズを4倍の1,600人にすると、誤差の幅は ±2.45ポイントで、ちょうど半分になります。
ここがポイントです。 はルートの中にあるので、誤差を半分にするには、4倍の人数が必要です。写真の画質を上げるようなもので、最初は人数を増やすと見違えるほど精度が上がりますが、だんだん効き目が小さくなります。
そして、この式には母集団の大きさが入っていません。だから、1万人の町でも1億人の国でも、必要な人数はほとんど変わらないのです。
例題:必要な標本サイズを求める
ある政策の賛成率を、95%の誤差の幅が ±3ポイント以内になるように調べたいとします。賛成率の見当はつきません。最低でも何人に聞けばよいでしょうか?
【解き方】
- 見当がつかないので、誤差が最大になる を使う
- 式を立てる:
- について解く:
- 人数は切り上げる
答えは1,068人です。世論調査の人数が1,000人前後なのは、この計算からです。
試験のポイント:標本誤差は に比例します。誤差を にするには標本サイズを4倍、 にするには9倍にします。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 母集団の大きさ が標本サイズに比べて小さいときは、標準誤差に を掛けます。これを有限母集団修正と言います。、 でも約0.95倍で、影響は小さいです。
以上が、標本誤差と標本サイズについての解説です。
偏りの源:人数を増やしても消えないズレ
次に、もう1つのズレである偏りについて説明します。
偏り(バイアス、bias) とは、結果が同じ方向にずれ続ける誤差です。体重計を思い浮かべてください。2kg重く出る体重計では、何回量って平均しても、2kg重いままです。標本誤差は測るたびに上下にぶれるズレで、偏りはずっと片側に寄るズレです。
この違いは、人数を増やしたときに現れます。標本誤差は人数を増やすと小さくなりますが、偏りは小さくなりません。
実際に、こんな事例があります。昔のアメリカ大統領選で、ある雑誌が200万人以上の回答を集めて予想を出しましたが、大きく外れました。名簿が比較的豊かな層に偏っていたうえに、返事をくれた人にも偏りがあったのです。ずっと少ない人数の調査のほうが、結果をよく当てました。
偏りが生まれる場所、すなわち 偏りの源 には、次のようなものがあります。
【主な偏りの源】
- 抽出の枠の偏り: 名簿に載らない人がいる。例えば、固定電話の番号から選ぶと、固定電話のない若い世代が抜け落ちる
- 自発的な応募: 関心の強い人だけが答える。例えば、ネット投票やアンケートはがき
- 無回答: 選ばれた人が答えてくれない。例えば、忙しい人ほど回答しない
- 測定や回答の偏り: 聞き方で答えが動く。例えば、「多くの人が賛成している〜に賛成ですか」という誘導的な質問や、言いにくい質問へのうその回答
例題:無回答の偏りを計算する
ある店が、1,000人の会員に満足度を尋ねました。回答率は40%で、回答者のうち「満足」は80%でした。回答しなかった人に後から聞き直すと、「満足」は50%でした。全会員の本当の満足率と、回答者だけで集計したときの偏りを求めましょう。
【解き方】
- 回答者の割合は0.4、無回答者の割合は0.6
- 全体の満足率: 0.4 × 0.8 + 0.6 × 0.5 = 0.62
- 偏り: 0.80 − 0.62 = 0.18
答えは、本当の満足率が62%で、18ポイント高めに偏っていました。回答者を2倍に増やしても、同じ人たちが答えるなら、この18ポイントは消えません。
試験のポイント:標本サイズを大きくすると標本誤差は減りますが、偏りは減りません。偏りは、調査の設計で防ぐものです。
以上が、偏りの源についての説明です。
4つの標本抽出法:現実の調査の工夫
続いて、単純無作為抽出を現実に合わせた4つの方法について解説します。
単純無作為抽出は理想の方法ですが、弱点があります。全国から1,000人を選ぶと、調査員が全国の家を1軒ずつ回ることになり、費用が膨らみます。全員の名簿が用意できないこともあります。そこで、確率で選ぶという原則を守りながら、手間を減らす工夫が生まれました。1つずつ見ていきましょう。
1. 系統抽出法
系統抽出法(systematic sampling) は、名簿の最初の1人だけを乱数で決めて、その後は一定の間隔で選ぶ方法です。「20人おきに声をかける」というイメージです。
例えば、2,000人の名簿から100人を選ぶとします。間隔は 2000 ÷ 100 = 20 です。1から20の乱数で7が出たら、7番、27番、47番と進み、最後は1987番です。
手軽ですが、落とし穴もあります。名簿の並びに周期があると、偏るのです。例えば、毎日の売上を7日おきに抜き出すと、全部同じ曜日になってしまいます。
2. 層化抽出法
層化抽出法(stratified sampling) は、母集団を性質の似たグループ(層)に分けて、それぞれの層から無作為に選ぶ方法です。幕の内弁当の味見に例えると、ごはん、魚、卵焼きを、それぞれ少しずつ食べるイメージです。全部を混ぜてすくうより、確実に全体が分かります。
各層の人数の割合に合わせて標本を分けることを 比例配分 と言います。層の中が似ていて、層どうしが違うほど、精度は上がります。
例題:比例配分で全体の平均を推定する
ある高校の生徒は、1年生500人、2年生300人、3年生200人です。比例配分で50人を選びます。各学年の人数を求めましょう。また、通学時間の標本平均が1年生20分、2年生30分、3年生50分のとき、全校の平均を推定しましょう。
【解き方】
- 学年の割合は 0.5, 0.3, 0.2
- 人数: 50 × 0.5 = 25、50 × 0.3 = 15、50 × 0.2 = 10
- 全校の平均は、割合を重みとする平均: 0.5 × 20 + 0.3 × 30 + 0.2 × 50 = 29
答えは、1年生25人、2年生15人、3年生10人で、全校の平均は29分です。
3. クラスター抽出法
クラスター抽出法(cluster sampling) は、母集団を学校や町内のようなまとまり(クラスター)に分けて、まとまりを無作為に選び、選ばれた中を全員調べる方法です。集落抽出法とも言います。みかんの品質を、箱単位で選んで箱の中を全部調べるイメージです。
例えば、全国の中学生を調べるときに、200校から10校をくじで選び、その10校の生徒全員を調べます。生徒全員の名簿はいらず、調査員は10校に行くだけです。
ただし、同じ学校の生徒は、地域や学習環境が似ています。そのため、同じ人数の単純無作為抽出より、標本誤差は大きくなりがちです。
4. 多段抽出法
多段抽出法(multistage sampling) は、抽出を何段階かに分けて行う方法です。トーナメントの予選のように、大きな単位から順に絞ります。
例えば、全国の調査では、1段目で市区町村を選び、2段目でその中の地点を選び、3段目で世帯を選びます。学校の例なら、1段目で200校から20校、2段目で各校から20人を選ぶと、400人の標本になります。クラスター抽出法と違い、選ばれたまとまりの全員は調べません。大規模な公的統計の調査では、層化と組み合わせた層化多段抽出が広く使われています。
以上が、4つの標本抽出法についての解説です。
抽出法の使い分け:層とクラスターの違いを押さえる
最後に、4つの方法の使い分けを見ていきましょう。
ここまでの内容をまとめると、次のようになります。
| 方法 | 選び方 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 系統抽出法 | 一定の間隔で選ぶ | 手順が簡単 | 並びの周期で偏る |
| 層化抽出法 | 層ごとに無作為に選ぶ | 精度が上がる | 層の情報が必要 |
| クラスター抽出法 | まとまりを選び全員調べる | 名簿・費用が少なくてすむ | 精度が下がりやすい |
| 多段抽出法 | 段階的に絞る | 大規模調査に向く | 段が増えると精度が下がりやすい |
試験で最も問われるのが、層化抽出法とクラスター抽出法の違いです。どちらも母集団をグループに分けますが、グループの役割は正反対です。
【層とクラスターの違い】
- 層化抽出法: すべての層から選ぶ。層の中は似ていて、層どうしは違うのが理想
- クラスター抽出法: 一部のまとまりだけを選ぶ。まとまりの中はいろいろで、まとまりどうしは似ているのが理想
層化は「全部の代表を少しずつ集める」、クラスターは「母集団の縮図になる箱を選ぶ」と覚えましょう。
例題:抽出法を見分ける
次の調査で使われている方法を答えましょう。
- 工場の製品から、製造番号の末尾が3のものだけを検査した
- 市内の児童を地区ごとに分け、すべての地区から同じ割合で無作為に選んだ
- 市内の町内会を5つくじで選び、その全世帯を調べた
【考え方】
- 10個おきに選んでいるので、系統抽出法
- すべての地区から選んでいるので、層化抽出法
- 一部のまとまりの全員を調べているので、クラスター抽出法
試験のポイント:「全部のグループから選ぶ」なら層化、「一部のグループを選び全員調べる」ならクラスターです。
以上が、抽出法の使い分けについての説明です。
細かい公式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「人数で減るズレと減らないズレがある」「グループの使い方で方法が決まる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、標本調査で生まれる2種類のズレと、現実に使われる抽出法について紹介しました。「1,000人で足りるのか」という問いの答えは、「よくかき混ぜてあれば足りる」です。人数を数える前に、選び方を見ることが大切です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 標本誤差は偶然のズレで、 に比例する。誤差を半分にするには4倍の人数が必要。
- 必要な人数は、母集団の大きさにほとんどよらない。スプーン1杯で鍋の味は分かる。
- 偏りは重く出る体重計。人数を増やしても消えないので、調査の設計で防ぐ。
- 層化抽出法は全部の層から選び、クラスター抽出法は一部のまとまりを全員調べる。
キーワードのおさらい
- 標本サイズ(標本の大きさ): 標本に含まれる個体の数
- 標本誤差: 誰が選ばれたかという偶然で生じるズレ
- 偏りの源: 抽出の枠、自発的な応募、無回答、測定など、ズレが片側に寄る原因
- 系統抽出法: 最初だけ乱数で決め、一定の間隔で選ぶ方法
- 層化抽出法: 層に分け、各層から無作為に選ぶ方法
- クラスター抽出法: まとまりを無作為に選び、その全員を調べる方法
- 多段抽出法: 大きな単位から段階的に絞って選ぶ方法
さて、ここまではデータの「集め方」のうち、調査の話でした。もう一方の実験研究では、効果を正しく測るためにどんな工夫をすればよいのでしょうか? くじで分けるだけで十分でしょうか?
次回は、実験の組み立て方の基本である「フィッシャーの3原則」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。