2級-20 推測統計の基礎
2つの母集団の区間推定
- 正規母集団の母平均の差・母分散の比の区間推定
- 母比率の差の区間推定
はじめに
「新しい勉強法のクラスのほうが、平均点が5点高かった。これって本当に効果があるの?」
2つのクラスのテストを比べて、新しい勉強法のクラスが5点上回ったとします。すぐに「効果あり」と言いたくなりますよね。でも、たまたま得意な生徒が多かっただけかもしれません。別の年にもう一度比べたら、差は2点かもしれないし、逆転するかもしれません。
実は、2つのグループを比べるときに本当に知りたいのは、それぞれの平均ではなく「差」そのものです。そして、その差にも、前回までと同じように幅があります。
そこで登場するのが、今回の主役 2つの母集団の区間推定 です。平均の差、分散の比、比率の差に網を投げます。そして、網の中に「差がない」を意味する0が入っているかどうかが、判断の決め手になります。
前回の記事では、1つの母集団の区間推定を学びました。今回の記事では、正規母集団の母平均の差・母分散の比の区間推定 と、母比率の差の区間推定 について解説します。信頼係数は、特に断らない限り95%とします。
母平均の差:3つの場合分け
はじめに、最もよく出る母平均の差について解説します。
2つの母集団の平均を とします。知りたいのは差 です。点推定は、標本平均の差 です。
ここで、確率変数の記事で学んだ性質が効きます。独立な2つの確率変数では、差の分散は分散の和です。引き算なのに足し算になる点に注意しましょう。ばらつくものを2つ組み合わせると、差であっても、ばらつきは増えるのです。シーソーの左右が両方ゆれると、高さの差のゆれは大きくなるイメージです。
あとは分散の扱いで、3つの場合に分かれます。
【母平均の差の場合分け】
- 母分散が既知
- 母分散は未知だが、等しいと考えられる
- 母分散は未知で、等しいとは限らない
1つずつ見ていきましょう。
1. 母分散が既知のとき
正規分布に従うので、1.96を使います。
例えば、クラスAは25人で平均72点、 です。クラスBは16人で平均66点、 です。標準誤差は なので、 より、約0.46点から約11.54点です。
2. 母分散が未知だが等しいとき
2つの母分散が同じ だと考えられるなら、2つの標本の情報を合わせて を推定します。これを プールした分散(合併分散)と呼びます。
言葉で言うと、「2つの不偏分散を、自由度の重みで平均したもの」です。2つのスープを合わせて味見するようなものです。信頼区間は、自由度 のt分布を使います。
例題:等分散を仮定して差を推定する
新しい勉強法のクラス(10人)は平均72点、不偏分散36でした。従来のクラス(12人)は平均65点、不偏分散25でした。母分散が等しい正規母集団だとして、母平均の差の95%信頼区間を求めましょう。ただし、 とします。
【解き方】
- プールした分散:
- 標準誤差:
- 自由度:
- 幅:
答えは、 より、約2.11点から約11.89点です。区間全体が0より上にあるので、新しい勉強法のほうが平均が高いと言えそうです。
3. 母分散が未知で等しいとは限らないとき
等分散を仮定できないときは、それぞれの不偏分散を使います。この方法を ウェルチの方法 と呼びます。標準誤差はかんたんですが、自由度は次の式で近似します。
(ニュー)は整数にならないので、最も近い整数で表を読みます。さきほどの例なら、標準誤差は で、 です。18として を使うと、 より、約1.99点から約12.01点になります。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 同じ人を前後で測るような「対応のある」データでは、ここまでの式は使いません。1人ごとの差をとって、1つの標本として母平均の区間推定をします。例えば、6人の変化が 4, 5, −1, 6, 4, 4 なら、平均は約3.67、標準偏差は約2.42で、 から、約1.12から約6.21です。
試験のポイント:「母分散は未知だが等しい」なら自由度 のプールした分散です。問題文の前提を読むことが、場合分けのすべてです。
以上が、母平均の差の区間推定についての解説です。
母分散の比:F分布で割合を測る
次に、ばらつきを比べる方法について説明します。
例えば、2台の機械のうち、どちらが均一な製品を作るかを比べたいとします。分散は「差」ではなく「比」で比べます。ばらつきは何倍か、という見方です。
標本分布の記事で学んだF分布の関係を使います。
これを について解くと、95%信頼区間が得られます。
言葉で言うと、「不偏分散の比を、下限は F で割り、上限は自由度を入れ替えた F を掛ける」となります。下側の点は、F分布の「自由度を入れ替えて逆数」の性質から出てきます。
例題:母分散の比の信頼区間
さきほどの2つのクラス(、、、)について、母分散の比 の95%信頼区間を求めましょう。ただし、、 とします。
【解き方】
- 不偏分散の比:
- 下限:
- 上限:
答えは、約0.40から約5.63です。
区間は1を含みます。比が1とは、母分散が等しいということです。したがって、「母分散が等しい」という仮定と矛盾しないと読めます。
ここがポイントです。差を見るときの基準は0でしたが、比を見るときの基準は1です。
また、この区間はとても広いですよね。標本が10個前後では、分散の比はほとんど絞り込めません。「1を含むから等しいと確定した」ではなく、「違うとは言い切れない」という意味です。
以上が、母分散の比の区間推定についての説明です。
母比率の差:2つの割合を比べる
続いて、割合を比べる方法を見ていきましょう。
例えば、2種類のチラシのどちらが来店につながるかを比べたいとします。 人のうち 人、 人のうち 人が反応したとき、それぞれの標本比率を とします。
が大きければ、それぞれの比率は正規分布で近似でき、差の分散は分散の和です。平均の差と同じ形になります。
例題:チラシの反応率の差
チラシAは200人中60人、チラシBは300人中60人が反応しました。母比率の差の95%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 標本比率: 、 で、差は0.1
- 分散の和:
- 標準誤差:
- 幅:
答えは、 より、0.022から0.178です。区間が0を含まないので、チラシAのほうが反応率が高いと言えそうです。差は最小で2.2ポイント、最大で17.8ポイントと読めます。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。同じ差0.1でも、人数が20人と30人だと、標準誤差は 倍の約0.126になります。幅は約0.25で、区間は−0.15から0.35まで広がり、0を含みます。差の大きさが同じでも、人数によって結論が変わるのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 2つの比率が等しいかどうかの検定では、2つを合わせた比率で標準誤差を計算することがあります。区間推定では「等しい」と仮定しないので、それぞれの比率をそのまま使います。
以上が、母比率の差の区間推定についての解説です。
区間の読み方:0と1が判断の基準
最後に、求めた区間から何が言えるのかを見ていきましょう。
3つの区間推定は、基準の値を含むかどうかで読みます。
| 調べるもの | 基準の値 | 含まないとき | 含むとき |
|---|---|---|---|
| 母平均の差 | 0 | 平均に差があると言える | 差があるとは言えない |
| 母比率の差 | 0 | 比率に差があると言える | 差があるとは言えない |
| 母分散の比 | 1 | 分散が違うと言える | 違うとは言えない |
健康診断の基準値のようなものです。基準の値が区間の外にあれば「要注意」、中にあれば「今回は判断できない」と読みます。「差がないと証明された」ではないことに注意しましょう。この読み方は、この後の仮説検定とちょうど対応します。
ここで、ありがちな読み間違いを1つ紹介します。2つの平均の信頼区間をそれぞれ作り、重なっているかどうかで判断する方法です。
さきほどのクラスAとBで確かめましょう。平均の信頼区間は、それぞれ次のようになります。
【それぞれの95%信頼区間】
- クラスA: より、68.08から75.92
- クラスB: より、62.08から69.92
2つの区間は68.08から69.92で重なっています。でも、差の信頼区間は約0.46から約11.54で、0を含みません。差の標準誤差は、標準誤差の単純な足し算より小さいからです。
差を調べたいなら、差の信頼区間を作りましょう。それぞれの区間の重なりで判断してはいけません。
例題:区間から判断する
ある製品の改良前後で、平均の差(改良後 − 改良前)の95%信頼区間が −0.8 から 3.2 でした。この結果の読み方として適切なものを考えましょう。
【考え方】
- 差の基準の値は0
- 区間は0を含んでいる
- 平均に差があるとは言えないが、差がないと証明されたわけでもない
答えは、「信頼係数95%で、差があるとは言えない」です。
試験のポイント:差は0、比は1が基準です。区間が基準を含まないとき、有意な差があると読みます。
以上が、区間の読み方についての説明です。
細かい公式が覚えきれなくても問題ありません。ここでは、「差の分散は分散の足し算、見るのは0か1を含むかどうか」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は2つの母集団を比べる区間推定について紹介しました。2つの平均に差があっても、それは標本の結果です。差にも幅をつけることで、「たまたま」と「本物」を見分けられます。これが、統計で比べるということです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 差の分散は、分散の足し算。ばらつくもの同士の差は、ばらつきが増える。
- 母平均の差は、既知なら 、等分散なら自由度 のプールした分散、等分散でなければウェルチの方法。
- 母分散の比はF分布で求める。基準は1で、自由度の入れ替えに注意する。
- 母比率の差は、それぞれの比率の分散を足して正規近似する。
- 基準の値を含むかどうかで判断する。含むときは「差があるとは言えない」と読む。
キーワードのおさらい
- 母平均の差の区間推定: 2つの標本平均の差を中心に、分散の場合分けに応じて作る区間
- プールした分散: 2つの不偏分散を自由度の重みで平均した値
- ウェルチの方法: 等分散を仮定せず、近似の自由度でt分布を使う方法
- 母分散の比の区間推定: 不偏分散の比とF分布の点から作る区間
- 母比率の差の区間推定: 標本比率の差を中心に、正規近似で作る区間
さて、区間の読み方として「基準の値を含むかどうか」で判断する話をしました。実は、この判断の考え方を正面からルールにしたものがあります。裁判の判決のように、「疑わしいから有罪」と言えるのは、どんなときでしょうか?
次回は、推測統計のもう1つの柱である「仮説検定の考え方」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。