2級-10 推測統計の基礎
観察研究と実験研究
- 観察研究
- 実験研究
- 調査の設計
- 母集団
- 標本
- 全数調査
- 標本調査
- ランダムネス
- 無作為抽出
はじめに
「朝ごはんを食べる子は成績がいい、というニュースを見た。うちの子にも毎朝しっかり食べさせよう!」
もちろん、朝ごはんは大切です。でも、ここで立ち止まって考えてみましょう。朝ごはんを食べる子は、早寝早起きの習慣がある子かもしれません。家で勉強を見てもらえる子かもしれません。そうだとしたら、成績を上げているのは朝ごはんそのものではない可能性があります。
前回の記事では、時系列データの読み方を学びました。ここまでは、データが手元にある前提で話を進めてきました。でも、データをどう集めたかによって、そこから言えることは大きく変わります。
実は、同じ「関係がある」という結果でも、データの取り方によって重みがまったく違います。「関係がある」としか言えない場合と、「原因である」とまで言える場合があるのです。
そこで登場するのが、今回の主役 観察研究 と 実験研究 です。今回の記事では、この2つの違いに加えて、調査の設計、全数調査と標本調査、ランダムネスと無作為抽出について解説します。
観察研究と実験研究:割り当てるのは誰か
はじめに、データの2つの取り方について解説します。
3級で、処理を受ける処理群と、受けない対照群を比べる考え方を学びましたね。ここで注目するのは、「どの人がどちらの群に入るかを、誰が決めたか」です。
観察研究(observational study) は、研究者が手を加えず、ありのままの状態を記録する研究です。朝ごはんの例なら、食べる子と食べない子を調べるだけです。食べるかどうかは、本人や家庭が決めています。
実験研究(experimental study) は、調べたい要因を研究者が割り当てて、結果を比べる研究です。例えば、新しい学習アプリの効果を調べるために、研究者が生徒をくじで2組に分け、片方にだけアプリを使わせます。
例えるなら、観察研究はバードウォッチングです。鳥の暮らしには手を出さず、双眼鏡で記録します。実験研究は植木鉢の栽培です。肥料をやる鉢とやらない鉢を自分で決めて、育ち方を比べます。
| 観察研究 | 実験研究 | |
|---|---|---|
| 要因を決める人 | 本人や環境 | 研究者 |
| 言えること | 関連がある | 原因と結果の関係(因果関係) |
| 向いている場面 | 割り当てが難しいとき | 割り当てが可能なとき |
| 例 | 喫煙者の健康を追跡する | 新しい薬と偽の薬を比べる |
それなら、いつも実験研究をすればよいと思いますよね。でも、これには弱点があります。例えば、喫煙が健康に与える影響を調べるために、「あなたは20年間たばこを吸ってください」と割り当てることは、倫理的に許されません。災害や景気の影響のように、割り当てること自体が不可能な要因もあります。こうした問いには、観察研究が大きな役割を果たします。
例題:どちらの研究か
次のそれぞれは、観察研究と実験研究のどちらでしょうか?
- 100人の希望者をくじで2組に分け、片方にだけ毎日の運動を指示し、3か月後の体重を比べた
- 毎日運動している人としていない人を探して、体重を比べた
- ある店が、曜日ごとの客数と天気の関係を記録した
【考え方】
- 運動するかどうかを研究者が決めているので、実験研究
- 運動するかどうかは本人が決めているので、観察研究
- 天気は誰にも割り当てられないので、観察研究
見るべき点はただ1つ、「研究者が要因を割り当てたかどうか」です。
試験のポイント:観察研究で関連が見られても、それだけで因果関係があるとは言えません。
以上が、観察研究と実験研究についての解説です。
交絡とランダムネス:比べる相手をそろえる
次に、観察研究で因果関係を言いにくい理由について説明します。
原因は 交絡(confounding) です。調べたい要因と結果の両方に関わる別の要因が、効果を混ぜてしまう現象を言います。この別の要因を 交絡因子 と呼びます。
徒競走に例えてみましょう。新しい靴をはいた人のほうが速かったとしても、新しい靴を買う人は、もともと陸上部の人が多いかもしれません。靴の効果と、もともとの脚力の効果が混ざって、見分けられなくなっています。「散布図と相関」の記事で学んだ見かけの相関も、この仕組みで起こります。
例題:交絡を表から読み取る
ある塾で、希望者が補習を受けました。テストの合格者数は次のとおりです。
| クラス | 補習あり | 補習なし |
|---|---|---|
| 上位クラス | 20人中18人 | 80人中64人 |
| 下位クラス | 80人中48人 | 20人中10人 |
全体とクラス別で、合格率を比べましょう。
【解き方】
- 上位クラス: 補習ありは 18 ÷ 20 = 90%、なしは 64 ÷ 80 = 80%
- 下位クラス: 補習ありは 48 ÷ 80 = 60%、なしは 10 ÷ 20 = 50%
- 全体の補習あり: (18 + 48) ÷ 100 = 66%
- 全体の補習なし: (64 + 10) ÷ 100 = 74%
全体では補習なしのほうが8ポイント高いのに、どちらのクラスでも補習ありのほうが10ポイント高くなりました。結論が逆転しています。
なぜでしょうか? 補習を受けた人の多くが下位クラスの人だからです。元の学力が、補習の受けやすさと合格の両方に関わる交絡因子になっています。全体の数字は、「補習の効果」ではなく「受けた人の顔ぶれの違い」を映していたのです。
クラスのように分かっている要因なら、このように層別で調べられます。ここがポイントです。やる気、家庭環境、体調など、測っていない要因はそうはいきません。
そこで ランダムネス(randomness) の出番です。ランダムネスとは、規則性がなく、結果を誰にも予想できない性質のことです。くじやコイン投げが持つ性質だと考えてください。
実験研究では、処理群と対照群をくじで決めます。これを 無作為割り当て と言います。くじは、やる気も家庭環境も知りません。だから、測っていない要因まで、2つの群に平均的に同じくらいずつ入ります。比べる相手がそろうので、差が出れば処理の効果だと判断できます。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。新しいレシピを評価するとき、常連客に新レシピを、初めての客に旧レシピを出すと、味の差なのか客の好みの差なのか分かりません。来店した順にくじで出し分ければ、客の好みは両方に同じように混ざります。
以上が、交絡とランダムネスについての説明です。
調査の設計:誰に何を聞くのかを先に決める
続いて、調査全体の組み立て方について解説します。
調査の設計 とは、データを集める前に、目的と手順を決めることです。料理で言えば、献立を決めてから買い物に行くことです。4級で学んだPPDACサイクルの Plan にあたります。
【調査の設計の流れ】
- 目的を決める: 何を明らかにしたいのか
- 母集団を定める: 誰についての結論がほしいのか
- 調査項目を決める: 何をどう測るのか
- 全数調査か標本調査かを選ぶ
- 標本の選び方と調査の方法を決める
- 実施して、集計・分析する
ここで、3級の用語を思い出しましょう。母集団(population) は、知りたい対象の全体です。標本(sample) は、母集団から実際に調べるために取り出した一部です。鍋のスープが母集団で、味見の一口が標本です。
母集団は、はっきり言葉で定めます。例えば「高校生のスマホ利用時間」では足りません。「いつの時点の」「どの地域の」高校生なのかが必要です。ある市の高校の全生徒を調べたいなら、母集団は「今年度の、その市の高校生全員」です。
調べ方は、大きく2つに分かれます。
全数調査 は、母集団のすべてを調べる方法です。5年ごとに全世帯が対象となる国勢調査が代表例です。標本調査 は、母集団の一部だけを調べて、全体を推測する方法です。
| 全数調査 | 標本調査 | |
|---|---|---|
| 調べる対象 | 全部 | 一部 |
| 費用・時間 | 大きい | 小さい |
| 標本による誤差 | ない | ある |
| 向いている場面 | 全体の正確な数が必要 | 早く、安く傾向を知りたい |
全数調査のほうが、いつも優れているわけではありません。人数が多いと、調査員の確認も行き届かなくなり、記入の間違いなどが増えることもあります。また、調べると対象が壊れる場合には、そもそも全数調査ができません。
具体的に見てみましょう。工場で作った電球の寿命を調べるには、切れるまで点灯させる必要があります。全部調べると、売る電球がなくなってしまいます。だから、この場合は標本調査しかありません。
例題:全数調査か標本調査か
次の目的に合う調べ方はどちらでしょうか?
- 飛行機に乗る全乗客の手荷物に、危険物がないかを確かめる
- あるテレビ番組の視聴率を毎週知る
- 工場で作ったせんべいの塩分の量を確かめる
【考え方】
- 1人でも見逃すと困るので、全数調査
- 全世帯は調べられず、傾向が分かればよいので、標本調査
- 測るとせんべいが食べられなくなるので、標本調査
以上が、調査の設計についての解説です。
無作為抽出:標本にランダムネスを持ち込む
最後に、標本の正しい選び方を見ていきましょう。
標本調査で大切なのは、標本が母集団の縮図になっていることです。味見をするなら、鍋をよくかき混ぜてからすくいますよね。混ぜずに上澄みだけをすくったら、鍋全体の味は分かりません。このかき混ぜる作業が 無作為抽出(random sampling) です。
無作為抽出とは、くじのように偶然に任せて、母集団から標本を選ぶ方法です。最も基本の形が 単純無作為抽出 で、どの個体も、どの組み合わせも、同じ確率で選ばれます。
【単純無作為抽出の手順】
- 母集団の全員の名簿を用意する
- 全員に番号をつける
- 乱数を使って、必要な人数ぶんの番号を選ぶ
例えば、5人の名簿から2人を選ぶとします。選び方は全部で10通りあり、どの組も確率は です。特定の1人が選ばれる確率は、 です。
「無作為」は、「適当に」という意味ではありません。ここがポイントです。人が「適当に」選ぶと、話しかけやすい人や目立つ人に偏ります。例えば、駅前で声をかけた100人は、その時間に駅にいて、足を止めてくれた人たちです。ネットの投票に自分から応募した人も、関心の強い人ばかりになります。どれも人数は多くても、無作為抽出ではありません。
無作為抽出をすると、選ばれ方が確率で説明できます。そのおかげで、標本の結果がどのくらいぶれるのかを計算できるようになります。この先の推定や検定は、すべてこの土台の上に立っています。
ここで、混同しやすい2つの「無作為」を整理しましょう。
| 無作為抽出 | 無作為割り当て | |
|---|---|---|
| くじを引く場面 | 母集団から標本を選ぶとき | 標本を処理群と対照群に分けるとき |
| 得られるもの | 結果を母集団に広げられる | 差を処理の効果と判断できる |
例えば、ある大学の希望者だけを無作為に2組に分けた実験では、因果関係は判断できます。でも、希望者は無作為に選ばれていないので、結果を国民全体に広げることには注意が必要です。
試験のポイント:無作為抽出は結論を母集団に一般化するため、無作為割り当ては因果関係を判断するためのものです。
以上が、無作為抽出についての説明です。
細かい分類を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「割り当てたのは誰か」「どうやって選んだか」の2点を確かめる、という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、データの取り方によって、結論の重みが変わることを紹介しました。数字を読む前に「このデータはどう集められたのか」と問う癖をつけるだけで、ニュースの見え方は大きく変わります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 観察研究はバードウォッチング、実験研究は植木鉢の栽培。研究者が要因を割り当てるかどうかが分かれ目。
- 交絡因子があると、効果が混ざって結論が逆転することもある。くじによる割り当てが、測っていない要因までそろえてくれる。
- 調査の設計では、母集団を言葉ではっきり定めてから調べ方を選ぶ。
- 無作為抽出は、鍋をかき混ぜてからの味見。「適当に選ぶ」こととは違う。
キーワードのおさらい
- 観察研究: 研究者が手を加えず、ありのままを記録する研究
- 実験研究: 研究者が要因を割り当てて結果を比べる研究
- 調査の設計: データを集める前に、目的と手順を決めること
- 母集団: 知りたい対象の全体
- 標本: 母集団から実際に調べるために取り出した一部
- 全数調査: 母集団のすべてを調べる方法
- 標本調査: 母集団の一部を調べて全体を推測する方法
- ランダムネス: 規則性がなく、結果を予想できない性質
- 無作為抽出: 偶然に任せて母集団から標本を選ぶ方法
さて、無作為に選んでも、標本はあくまで一部なので、結果には必ずズレが残ります。何人に聞けば十分なのでしょうか? そして、全員の名簿がないときは、どうやって選べばよいのでしょうか?
次回は、標本誤差と各種の抽出法を学ぶ「標本調査と無作為抽出」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。