2級-8 推測統計の基礎
単回帰と予測
- 最小二乗法
- 変動の分解
- 決定係数
- 回帰係数
- 分散分析表
- 観測値と予測値
- 残差プロット
- 標準誤差
- 変数変換
はじめに
「明日の気温が分かれば、飲み物を何本仕入れればいいか読めないかな?」
お店を任されたら、こう考えますよね。暑い日ほど冷たい飲み物が売れるのは、誰でも知っています。でも、仕入れの数を決めるには「1度上がると何本増えるのか」「その見込みはどれくらい当たるのか」まで、数字で知りたいはずです。
前回の記事では、質的変数どうしの関連を2元クロス表で調べました。今回は量的変数に戻り、一方の値からもう一方の値を予測します。3級で、最小二乗法で回帰直線を引く方法を学びましたね。
実は、線を引いただけでは、仕事は半分しか終わっていません。その線がどれくらい信用できるのかを評価して、はじめて予測に使えるのです。
そこで登場するのが、今回の主役 単回帰分析 です。1つの変数 で、もう1つの変数 を説明する分析のことです。今回の記事では、回帰直線の求め方を確認したうえで、変動の分解、決定係数、分散分析表、標準誤差、残差プロット、変数変換について解説します。
最小二乗法:観測値と予測値のズレを小さくする
はじめに、最小二乗法で回帰直線を求める手順を解説します。
単回帰では、 と の関係を次の直線で表します。 の上の山形の記号は「予測した値」という印で、「ワイハット」と読みます。
ここで は切片、 は傾きです。 を 説明変数、 を 目的変数 と呼びます。 のことを 回帰係数 と言います。回帰係数は、 が1増えたときに が平均的にいくら増えるかを表します。
実際に測った値を 観測値、直線から計算した値を 予測値 と言います。観測値と予測値の差が 残差 です。
最小二乗法(least squares method) は、この残差の2乗の合計が最も小さくなるように と を決める方法です。たくさんの点のそばを通る棒を、ゴムひもで全部の点とつないだところを想像してください。棒は、ゴムひもの引っ張り合いがつり合う場所に落ち着きます。遠い点ほど強く引くので、2乗するのです。
答えは、次の公式で求まります。
記号の意味は次のとおりです。
【記号の意味】
- : の偏差の2乗の合計
- : の偏差と の偏差の積の合計
言葉で言うと、傾きは「 と が一緒に動く量」を「 が動く量」で割った値です。切片の式は、回帰直線が必ず平均の点 を通ることを表しています。
例題:回帰直線を求める
ある店の6日間の最高気温 (度)と、飲み物の売上本数 が次のようでした。回帰直線を求めましょう。
| 日 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 気温 | 20 | 22 | 24 | 26 | 28 | 30 |
| 売上 | 71 | 84 | 88 | 95 | 100 | 102 |
【解き方】
- 平均を求める: 、
- 偏差を求める: は −5, −3, −1, 1, 3, 5、 は −19, −6, −2, 5, 10, 12
- 傾き:
- 切片:
答えは です。気温が1度上がると、売上は平均して3本増えると読めます。気温27度の日なら、15 + 3 × 27 = 96 で、96本の予測です。
ただし、観測した範囲の外への予測には注意が必要です。気温40度を入れると135本になりますが、データは20度から30度までしかありません。その先でも同じ直線が続く保証はないのです。
試験のポイント:傾きは相関係数 を使って とも書けます。 と2つの標準偏差が与えられたら、この式を使います。
以上が、最小二乗法についての解説です。
変動の分解と決定係数:線はどれだけ説明できたか
次に、回帰直線の当てはまりを測る方法について説明します。
売上は日によって動きます。この動き全体のうち、気温で説明できたのはどのくらいでしょうか? これを調べるのが 変動の分解 です。
例えるなら、1枚のケーキの切り分けです。ケーキ全体が「売上の動き」で、回帰直線が説明できたぶんを1切れ取ります。残った部分は「説明できなかったぶん」です。
式で書くと、次のようになります。
左から順に、次の名前で呼びます。
【3つの変動】
- 全変動 : 観測値が平均のまわりでどれだけ動くか
- 回帰変動 : 予測値が平均のまわりでどれだけ動くか(説明できたぶん)
- 残差変動 : 残差の2乗の合計(説明できなかったぶん)
つまり、 です。この分解は、最小二乗法で引いた直線では必ず成り立ちます。
そして、全変動のうち回帰で説明できた割合が 決定係数(coefficient of determination) です。
は0から1の値をとり、1に近いほど当てはまりがよいことを表します。単回帰では、相関係数の2乗と一致します。
具体的に見てみましょう。例題のデータの予測値と残差は次のとおりです。
| 気温 | 20 | 22 | 24 | 26 | 28 | 30 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 観測値 | 71 | 84 | 88 | 95 | 100 | 102 |
| 予測値 | 75 | 81 | 87 | 93 | 99 | 105 |
| 残差 | −4 | 3 | 1 | 2 | 1 | −3 |
残差を全部足すと0になります。これも最小二乗法の性質です。3つの変動を計算すると、次のようになります。
【変動の計算】
- 全変動:
- 回帰変動:
- 残差変動:
確かに 670 = 630 + 40 です。したがって、 となります。売上の動きの約94%を、気温で説明できたという意味です。
試験のポイント: のように負の相関でも、決定係数は と正の値です。
以上が、変動の分解と決定係数についての説明です。
分散分析表と標準誤差:表で一度に評価する
続いて、計算結果をまとめる分散分析表と、予測のズレを表す標準誤差について解説します。
分散分析表(ANOVA table) は、変動の分解を1枚にまとめた成績表です。統計ソフトの出力にも必ず出てきます。例題のデータでは、次のようになります。
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | F比 |
|---|---|---|---|---|
| 回帰 | 630 | 1 | 630 | 63 |
| 残差 | 40 | 4 | 10 | |
| 全体 | 670 | 5 |
表の見方を、順に確認しましょう。
【分散分析表の見方】
- 平方和: 3つの変動そのもの
- 自由度: 全体は 、回帰は説明変数の数の1、残差は
- 平均平方: 平方和を自由度で割った値
- F比: 回帰の平均平方を残差の平均平方で割った値
残差の自由度が なのは、 と の2つを決めるのにデータの情報を使ったからです。
F比は、説明できたぶんが、説明できなかったぶんの何倍あるかを表します。裁判に例えると、「直線に意味はない」という仮定がどこまで苦しいかを示す数字です。傾きが本当は0なら、F比は自由度 (1, 4) のF分布に従います。F分布の表の上側5%点は7.71で、63はそれを大きく超えています。したがって、傾きは0ではないと判断できます。検定の手順は、後の記事でていねいに学びます。
次に、標準誤差(standard error) です。標準誤差とは、推定した値がどれくらいぶれるかを表す標準偏差のことです。回帰分析では、2つの標準誤差がよく登場します。
は 残差の標準誤差 で、予測が典型的にどれだけ外れるかを表します。 は 回帰係数の標準誤差 で、別の6日間を調べたら傾きがどれくらい変わりそうかを表します。
数値を入れてみましょう。
【標準誤差の計算】
- 残差の標準誤差:
- 回帰係数の標準誤差:
予測はだいたい3本前後外れ、傾きの3には0.38ほどのぶれがあると読めます。傾きを標準誤差で割った が、回帰係数の検定に使う値です。この2乗はF比の63と一致します。
試験のポイント:単回帰では、回帰係数の 値の2乗が分散分析表のF比に等しくなります。
以上が、分散分析表と標準誤差についての解説です。
残差プロットと変数変換:線の形を疑う
最後に、モデルそのものを点検する方法を見ていきましょう。
決定係数が高くても、直線を当てはめたこと自体がまちがっている場合があります。そこで、健康診断の出番です。残差プロット は、横軸に か予測値、縦軸に残差をとった散布図です。うまくいっていれば、残差には何の模様も残りません。
【残差プロットの読み方】
- 0のまわりにランダムに散らばる: 直線のモデルでよい
- U字形や山形の曲線になる: 本当の関係は曲がっている
- 右に行くほど上下の幅が広がる: ばらつきが一定ではない
- 1点だけ大きく離れる: 外れ値を疑う
模様が残っているときの処方箋が 変数変換 です。変数を別の形に置き換えて、直線で扱える形にします。1つずつ見ていきましょう。
1. 単位を変える変換
例えば、 の単位を「分」から「時間」に変えると、1時間は60分なので、回帰係数は60倍になります。一方で、相関係数と決定係数は変わりません。ものさしを取り替えても、点の並び方は同じだからです。
2. 対数変換
例えば、ある動画の再生回数が、1日ごとに100回、200回、400回、800回と倍々で増えたとします。このままでは直線になりません。ところが、常用対数をとると2.00、2.30、2.60、2.90となり、等間隔の直線に変わります。積み重なる増え方を、足し算の増え方に翻訳したわけです。売上や所得のように右へ裾を引くデータで、ばらつきが広がる場合にも効きます。
自然対数を使った回帰では、回帰係数の読み方が変わります。
【対数をとったときの読み方】
- : が1増えると、 は約 %増える
- : が1%増えると、 は約 %増える
例題:対数をとった回帰式を読む
ある店の売上 と、広告の回数 について、自然対数をとった回帰式 が得られました。広告を1回増やすと、売上はどう変わるでしょうか?
【解き方】
- が1増えると、 は0.03増える
- 対数の差は比に対応するので、 は 倍になる
- 1.03倍は、約3%の増加である
答えは「約3%増える」です。「0.03増える」ではない点に注意しましょう。
以上が、残差プロットと変数変換についての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「線を引いたら、説明できた割合を測り、残差で線の形を点検する」という流れを押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、回帰直線を求めるだけでなく、その線を評価する方法について紹介しました。回帰分析の本体は線を引く作業ではなく、「どれだけ説明でき、どれだけ外れるのか」を確かめる作業です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 最小二乗法は、残差の2乗の合計を最小にする。傾きは で、直線は平均の点を通る。
- 全変動は、回帰変動と残差変動に分解できる。ケーキのうち線が取れた割合が決定係数。
- 分散分析表は変動の成績表。F比と標準誤差で、線の信頼度を読む。
- 残差プロットは線の健康診断。模様が残ったら変数変換を考える。
キーワードのおさらい
- 最小二乗法: 残差の2乗の合計が最小になるように直線を決める方法
- 回帰係数: が1増えたときの の平均的な変化量
- 観測値と予測値: 実際に測った値と、回帰直線から計算した値
- 変動の分解: 全変動を回帰変動と残差変動に分けること
- 決定係数: 全変動のうち回帰で説明できた割合
- 分散分析表: 平方和・自由度・平均平方・F比をまとめた表
- 標準誤差: 推定した値のぶれを表す標準偏差
- 残差プロット: 残差を縦軸にとって模様の有無を見る散布図
- 変数変換: 変数を対数などに置き換えて分析しやすくすること
さて、ここまでのデータは、順番を入れ替えても結果が変わらないものでした。でも、毎月の売上や株価のように、時間の順番そのものに意味があるデータもありますよね。
次回は、成長率やコレログラムを使う「時系列データの処理」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。