2級-9 推測統計の基礎
時系列データの処理
- 成長率
- 指数化
- 幾何平均
- 系列相関
- コレログラム
- トレンド
- 平滑化(移動平均)
はじめに
「先月より売上が3割も増えた。うちの店、絶好調じゃない?」
こう喜ぶ前に、確かめたいことがあります。そのお店がアイスクリーム屋で、今が7月だとしたらどうでしょうか? 毎年この時期に増えているだけかもしれません。逆に、去年の7月より減っている可能性もあります。
前回の記事では、単回帰で2つの変数の関係を調べました。そのデータは、順番を入れ替えても結果が変わらないものでした。でも、毎月の売上や毎日の気温は違います。順番を入れ替えると、意味が壊れてしまいます。
実は、このように時間の順に並んだデータには、ふつうのデータにはない見方が必要です。4級と3級で、時系列データの増減率、指数、移動平均を学びましたね。2級では、これらを道具として使いこなします。
そこで登場するのが、今回の主役 成長率 と コレログラム です。成長率は変化の速さを、コレログラムは過去と現在のつながりを教えてくれます。今回の記事では、成長率、指数化、幾何平均、トレンドと平滑化、系列相関について解説します。
成長率と指数化:変化を比べやすくする
はじめに、変化を数字で表す2つの道具について解説します。
成長率(growth rate) は、前の時点からどれだけの割合で増えたかを表す値です。時点 の値を と書くと、次の式で求めます。
言葉で言うと、増えた量を、元の値で割ったものです。増えた量だけを見ないのがポイントです。例えば、100万円から110万円への10万円増と、1,000万円から1,010万円への10万円増では、勢いがまったく違いますよね。前者は10%、後者は1%の成長です。
具体的に見てみましょう。あるお店の年間売上(万円)が次のようだったとします。
| 年 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上 | 400 | 500 | 450 | 540 | 648 |
| 成長率 | +25% | −10% | +20% | +20% | |
| 指数(1年目 = 100) | 100 | 125 | 112.5 | 135 | 162 |
2年目の成長率は、(500 − 400) ÷ 400 = 0.25 で、25%です。
毎月のデータでは、季節の影響に注意します。冒頭のアイスクリーム屋なら、6月と7月を比べる前月比では、季節の動きが混ざります。そこで、去年の7月と比べる 前年同月比 を使います。同じ季節どうしを比べれば、季節の動きは打ち消されます。
次に、指数化 です。指数化とは、ある時点を基準の100にそろえて、他の時点の値を表すことです。
指数化は、スタートラインをそろえる作業です。徒競走で、全員を同じ線に並べてから走らせるようなものです。
例えば、売上400万円のこのお店と、売上50万円の小さな店を比べたいとします。金額のままでは、差が大きすぎて比べられません。小さな店の売上が5年目に70万円だとすると、指数は 70 ÷ 50 × 100 = 140 です。このお店の162と並べると、伸びの大きさを同じものさしで比べられます。
基準の時点は、自由に変えられます。3年目を100にすると、5年目は 648 ÷ 450 × 100 = 144 です。
試験のポイント:指数の差は「ポイント」、変化の割合は「%」で表します。指数が100から120を経て144になったとき、後半の上昇は24ポイントで、20%の増加です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 成長率が小さいとき、成長率は自然対数の差 でよく近似できます。例えば、2%の成長なら です。
以上が、成長率と指数化についての解説です。
幾何平均:平均の成長率を正しく求める
次に、平均の成長率の求め方について説明します。
「売上が1年目に25%増えて、次の年に20%減った。平均すると毎年2.5%の成長だね」
この計算は、まちがいです。100万円が25%増えると125万円、そこから20%減ると100万円です。元に戻っているので、平均の成長率は0%のはずです。
なぜずれるのでしょうか? 成長は足し算ではなく、掛け算で積み重なるからです。成長率ではなく倍率で見ると、1.25倍のあとに0.8倍で、1.25 × 0.8 = 1 となります。
そこで登場するのが 幾何平均(geometric mean) です。 個の正の値を掛けて、 乗根をとった値です。
倍率の幾何平均を とすると、平均成長率は です。つまり、「毎年同じ倍率で増えたとしたら、何倍ずつか」を求めています。段の高さがバラバラな階段を、同じ段数のまま、高さのそろった階段に作り直すイメージです。
3級までの、足して割る平均は 算術平均 と呼びます。倍率がそろっていない限り、算術平均は幾何平均より高い値になります。
例題:年平均成長率を求める
売上の表で、1年目から5年目までの年平均成長率を求めましょう。
【解き方】
- 倍率を並べる: 1.25, 0.9, 1.2, 1.2
- 4つを掛ける: 1.25 × 0.9 × 1.2 × 1.2 = 1.62
- 4乗根をとる:
- 1を引く: 0.128
答えは約12.8%です。途中の倍率を掛けた1.62は、648 ÷ 400 と同じです。したがって、最初と最後の値だけ分かれば計算できます。確かめると、400 × 1.128⁴ はほぼ648に戻ります。
一方で、成長率の算術平均は (25 − 10 + 20 + 20) ÷ 4 = 13.75 で、13.75%です。この率で4年伸ばすと約670万円になり、実際の648万円を超えてしまいます。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。ある会員数が50%増えて、その翌年に50%減ったとします。倍率は1.5と0.5なので、2年で0.75倍です。 なので、年平均では約13.4%の減少です。算術平均の0%とは、大きく食い違います。
試験のポイント:期間を通じた平均成長率は、倍率の幾何平均から求めます。 期間なら、(最後の値 ÷ 最初の値) の 乗根から1を引きます。
以上が、幾何平均についての説明です。
トレンドと平滑化:大きな流れを取り出す
続いて、時系列の大きな流れを取り出す方法について解説します。
時系列の動きは、性格の違う動きの重ね合わせです。波打ち際を思い浮かべてください。潮が満ちる大きな流れの上に、規則的な波があり、さらに細かなしぶきが飛んでいます。
【時系列の3つの動き】
- トレンド(傾向変動): 長い期間にわたる上昇や下降の流れ。潮の満ち引き
- 季節変動: 1年などの周期でくり返す動き。規則的な波
- 不規則変動: 偶然による短期の動き。しぶき
トレンドを見たいのに、波としぶきがじゃまをします。そこで、細かな上下をならして滑らかにする 平滑化(smoothing) の出番です。代表的な方法が、3級で学んだ 移動平均 です。隣り合ういくつかの値の平均を、1時点ずつずらしながら求めます。
例えば、7日間の販売数 12, 15, 13, 17, 19, 18, 22 の3項移動平均を考えます。
【3項移動平均の計算】
- 2日目の位置: (12 + 15 + 13) ÷ 3 ≈ 13.3
- 3日目の位置: (15 + 13 + 17) ÷ 3 = 15
- 4日目の位置: (13 + 17 + 19) ÷ 3 ≈ 16.3
ジグザグが消えて、なだらかな上昇が見えてきます。ただし、両端の値は求められません。項数を増やすほど滑らかになりますが、欠ける端も増えます。
ここがポイントです。季節変動を消すには、項数を周期に合わせます。四半期データなら4項、月次データなら12項です。1周期ぶんを平均すれば、どの季節も同じ回数だけ入るので、季節の山と谷が打ち消し合います。
ただし、項数が偶数だと平均の位置が時点と時点の間に来てしまいます。そこで、隣り合う2つの移動平均をさらに平均して、位置をそろえます。これを 中心化移動平均 と呼びます。
例題:四半期データの中心化移動平均
ある商品の四半期ごとの販売数(千個)が次のようでした。
| 年 | 第1四半期 | 第2四半期 | 第3四半期 | 第4四半期 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 20 | 40 | 60 | 30 |
| 2年目 | 24 | 44 | 64 | 34 |
| 3年目 | 28 | 48 | 68 | 38 |
1年目の第3四半期の位置の、中心化移動平均を求めましょう。
【解き方】
- 1つ目の4項平均: (20 + 40 + 60 + 30) ÷ 4 = 37.5
- 2つ目の4項平均: (40 + 60 + 30 + 24) ÷ 4 = 38.5
- 2つの平均をとる: (37.5 + 38.5) ÷ 2 = 38
答えは38です。同じ計算を続けると、38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45 となります。元のデータは20から68まで大きく揺れていたのに、季節の波が消えました。四半期ごとに1ずつ増えるトレンドだけが残っています。
以上が、トレンドと平滑化についての解説です。
系列相関とコレログラム:過去とのつながりを読む
最後に、過去の値と今の値のつながりを測る方法を見ていきましょう。
今日が暑ければ、明日もたぶん暑いですよね。一方で、今日のサイコロの目から、明日の目は予想できません。この違いを数字で表すのが 系列相関(serial correlation) です。自己相関とも呼びます。同じ系列を 時点ずらして、自分自身との相関を測ります。ずらす幅 を ラグ と言います。
記号の意味は次のとおりです。 はデータの個数、 は全体の平均です。
言葉で言うと、分子は「 時点離れた2つの偏差の積の合計」で、分母は「偏差の2乗の合計」です。3級で学んだ相関係数と同じ考え方で、値は −1 から1の間に入ります。
例題:系列相関を計算する
データ 2, 3, 5, 7, 8 のラグ1とラグ2の系列相関を求めましょう。
【解き方】
- 平均は5で、偏差は −3, −2, 0, 2, 3
- 分母: 9 + 4 + 0 + 4 + 9 = 26
- ラグ1の分子: (−3)(−2) + (−2)(0) + (0)(2) + (2)(3) = 12
- ラグ2の分子: (−3)(0) + (−2)(2) + (0)(3) = −4
- 割り算: 、
答えは 、 です。隣どうしは同じ向きに動きやすいと読めます。
コレログラム(correlogram) は、ラグごとの系列相関を棒で並べたグラフです。時系列の性格が一目で分かる、いわば履歴書です。例題の四半期データでは、次の値になります。
| ラグ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 系列相関 | −0.03 | −0.68 | 0.06 | 0.64 | −0.07 | −0.46 |
ラグ4で大きな正の値、ラグ2で大きな負の値になっています。4四半期前と同じ動きをし、半年前とは逆の動きをするからです。つまり、周期4の季節変動があると読めます。
コレログラムの読み方は、次の形を覚えておきましょう。
【コレログラムの読み方】
- ラグ1からほぼ0: 過去と無関係なランダムな動き
- ゆっくり減っていく: トレンドがある、または動きが長く続く
- 周期ごとに山が出る: 季節変動がある。月次データならラグ12、24に山
- 正と負を交互にくり返す: 上がったら下がる、という短い振動
試験のポイント:コレログラムの問題では、山が出るラグから周期を読み取ります。トレンドがあると、ラグが増えても正の値がなかなか0に近づきません。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 完全にランダムな系列では、系列相関はおよそ の範囲に収まります。例えば、100個のデータなら ±0.2 が目安です。
以上が、系列相関とコレログラムについての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「変化は倍率で考える、周期に合わせてならす、ラグをずらして周期を読む」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、時間の順に並んだデータを読み解く道具について紹介しました。時系列の数字は、そのまま眺めても潮と波としぶきが混ざっています。割合にそろえ、ならし、ずらして比べることで、はじめて本当の動きが見えてきます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 成長率は増えた量を元の値で割る。指数化はスタートラインを100にそろえる。
- 平均成長率は、倍率の幾何平均から求める。算術平均は高めに出る。
- 時系列はトレンド・季節変動・不規則変動の重ね合わせ。周期に合わせた移動平均で季節の波を消せる。
- 系列相関は自分自身とのずらした相関。コレログラムの山から周期を読む。
キーワードのおさらい
- 成長率: 前の時点からの増加量を、前の時点の値で割った割合
- 指数化: 基準の時点を100にして、他の時点の値を表すこと
- 幾何平均: 個の値の積の 乗根
- トレンド: 長い期間にわたる上昇や下降の流れ
- 平滑化(移動平均): 隣り合う値の平均をとって、細かな上下をならすこと
- 系列相関: 同じ系列を時点をずらして測った相関
- コレログラム: ラグごとの系列相関を並べたグラフ
さて、ここまではデータが手元にあるものとして話を進めてきました。でも、そのデータはどうやって集めたものでしょうか? 「朝ごはんを食べる子は成績がよい」という結果があっても、集め方によって意味はまったく変わります。
次回は、データの集め方の基本である「観察研究と実験研究」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。