2級-5 推測統計の基礎
中心と散らばりの活用 — 標準化
- 偏差
- 標準化(z得点)
- 変動係数
- 指数化
はじめに
「英語は72点、数学は80点。得意なのはどっち?」
点数だけを見れば、数学のほうが上です。でも、テストの難しさが違えば、そう簡単には言えませんよね。英語の平均点が60点、数学の平均点が68点なら、どちらも平均より12点上です。これで引き分けでしょうか?
さらに、散らばりも違うとしたらどうでしょうか? 英語は標準偏差が10点で、みんな平均の近くにいます。数学は標準偏差が15点で、点数が広がっています。すると、同じ12点でも、英語の12点のほうが「めずらしい」高得点だと言えそうです。
実は、違う物差しで測った数字は、そのままでは比べられません。メートルとフィートの長さを、数字だけで比べられないのと同じです。比べるには、物差しをそろえる必要があります。
そこで登場するのが、今回の主役 標準化 です。標準化とは、データを「平均から標準偏差いくつぶん離れているか」に直すことです。
前回の記事では、分散や標準偏差など、散らばりの指標を学びました。今回の記事では、標準偏差の意味を確かめたうえで、標準化、変動係数、指数化という3つの「比べるための道具」について解説します。
偏差と標準偏差:データを測る物差し
はじめに、偏差と標準偏差の意味について解説します。
偏差 は、各データと平均値の差です。
プラスなら平均より上、マイナスなら平均より下です。平均さんの家から、東へ何歩、西へ何歩のところに住んでいるかを表すイメージです。
ただ、「12点上」と言われても、それが大きいのか小さいのかは分かりません。みんなが平均のすぐそばに住む村なら、12歩は遠い場所です。みんなが遠くに散らばる村なら、すぐご近所です。
そこで、標準偏差が物差しになります。標準偏差は、その村の「典型的な距離」でした。これを1目盛りとして測れば、どの村でも遠さを同じ基準で語れます。
では、標準偏差の1目盛りは、どれくらいの意味を持つのでしょうか? 分布がベル型(正規分布に近い形)のときは、次の目安が成り立ちます。
【ベル型の分布の目安】
- 平均 ± 1 標準偏差の範囲に、全体の約68%が入る
- 平均 ± 2 標準偏差の範囲に、全体の約95%が入る
- 平均 ± 3 標準偏差の範囲に、全体の約99.7%が入る
具体的に見てみましょう。1,000人が受けたテストの平均点が60点、標準偏差が10点で、分布がベル型だったとします。50点から70点の間に約680人、40点から80点の間に約950人、30点から90点の間に約997人がいることになります。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。おにぎりを作る機械があり、重さの平均が100g、標準偏差が2gだとします。すると、ほとんど(約95%)のおにぎりは96gから104gの間に収まります。もし110gのおにぎりが出てきたら、平均から標準偏差5つぶんも離れています。「たまたま」とは考えにくく、機械の異常を疑う場面です。
例題:標準偏差の目安から割合を求める
ある検定試験の得点は、平均500点、標準偏差100点のベル型の分布でした。700点以上の人は、およそ何%いるでしょうか?
【解き方】
- 700点が標準偏差いくつぶんかを求める: (700 − 500) ÷ 100 = 2
- 平均 ± 2 標準偏差の範囲に約95%が入るので、外側は約5%
- ベル型は左右対称なので、上側はその半分: 5 ÷ 2 = 2.5
答えは約2.5%です。正規分布の表を使うと、より正確には約2.3%になります。
ここで注意が必要です。この目安は、ベル型のときの話です。右に裾が長い分布などには、そのまま当てはめられません。
試験のポイント:「約68%・約95%・約99.7%」はベル型の分布の目安です。分布の形を確かめてから使います。
以上が、偏差と標準偏差の意味についての解説です。
標準化:z得点で物差しをそろえる
次に、標準化について説明します。
標準化 は、偏差を標準偏差で割って、「標準偏差いくつぶん離れているか」に直す操作です。こうして得られた値を z得点(標準得点)と呼びます。
記号の意味は、 が元の値、 が平均値、 が標準偏差です。言葉で言うと、「平均を引いて、標準偏差で割る」です。
冒頭の点数を、標準化してみましょう。
- 英語:
- 数学:
英語のz得点は1.2、数学は0.8です。つまり、集団の中での位置は英語のほうが高いと分かります。元の点数は数学のほうが高いのに、順位が逆転しました。
1. データを変換すると何が起きるか
標準化の性質を理解するために、まず変換の決まりを整理しましょう。データを と変換すると、次のようになります。
言葉で言うと、足し算は平均値だけを動かし、散らばりを変えません。掛け算は平均値と散らばりの両方を変えます。
例えば、全員に5点を足しても、列全体がそのまま横へ動くだけなので、人と人の距離は変わりません。一方で、全員の点数を2倍すると、人と人の距離も2倍になり、分散は4倍になります。
2. 標準化した値の平均と分散
標準化は、、 とした変換です。先ほどの決まりに当てはめると、次のようになります。
つまり、標準化すると、どんなデータでも平均が0、標準偏差が1になります。単位も消えて、ただの数になります。あらゆるテストを「平均0、1目盛りが標準偏差」の共通の物差しに移したわけです。
小さな数値で確かめてみましょう。データ 2, 4, 6 は、平均値が4、分散が 、標準偏差が2です。標準化すると −1, 0, 1 になり、平均は0、分散は です。
3. 偏差値
3級で学んだ 偏差値 は、z得点を見やすく変換したものです。
平均が50、標準偏差が10になるように変換しています。マイナスや小数が出にくいように、z得点に化粧をしたイメージです。冒頭の例では、英語の偏差値が 、数学の偏差値が です。
例題:2人の成績を比べる
統計学のテストは平均70点、標準偏差8点でした。物理のテストは平均55点、標準偏差12点でした。Aさんは統計学で82点、Bさんは物理で73点をとりました。集団の中での位置が高いのはどちらでしょうか?
【解き方】
- Aさんのz得点を求める: (82 − 70) ÷ 8 = 1.5
- Bさんのz得点を求める: (73 − 55) ÷ 12 = 1.5
- 2つを比べる
答えは、どちらも同じです。z得点が1.5なので、どちらも偏差値は65です。
試験のポイント:標準化した値の平均は0、標準偏差は1です。データに の変換をしても、 なら z得点は変わりません。
以上が、標準化についての説明です。
変動係数:平均の大きさをそろえて散らばりを比べる
続いて、変動係数について解説します。
標準化は、1人の位置を比べる道具でした。一方で、グループ全体の散らばりを比べたいときもあります。例えば、「身長と体重では、どちらのほうが個人差が大きいか」という問いです。
標準偏差をそのまま比べるのは危険です。単位がセンチメートルとキログラムで違いますし、値の大きさも違います。
別の例で考えてみましょう。ゾウの体重の標準偏差が200kg、ネズミの体重の標準偏差が5gだとします。ゾウのほうが数字はずっと大きいのですが、ゾウの平均体重は5,000kg、ネズミの平均体重は30gです。200kgはゾウの4%の差ですが、5gはネズミの約17%の差です。比率で見ると、ネズミのほうが個体差は大きいのです。
この考え方を式にしたものが、変動係数(Coefficient of Variation、CV)です。
言葉で言うと、「標準偏差が平均値の何倍か」です。100を掛けて%で表すことも多いです。単位は打ち消し合って消えるので、単位の違うデータどうしでも比べられます。
例題:変動係数で散らばりを比べる
ある高校の男子の身長は平均170cm、標準偏差6cm、体重は平均60kg、標準偏差9kgでした。相対的に散らばりが大きいのはどちらでしょうか?
【解き方】
- 身長の変動係数を求める: 6 ÷ 170 ≒ 0.035(3.5%)
- 体重の変動係数を求める: 9 ÷ 60 = 0.15(15%)
- 2つを比べる
答えは体重です。平均に対する散らばりは、体重が身長の4倍以上あります。
ただし、変動係数はどんなデータにも使えるわけではありません。3級で学んだ比例尺度のように、0が「何もない」ことを意味する、正の値のデータに使います。
例えば、摂氏の気温は0℃でも「温度がない」わけではありません。平均気温が0℃に近いと分母が0に近づき、変動係数はいくらでも大きくなってしまいます。同じ気温でも、摂氏と華氏で値が変わるので、比べる意味がありません。
試験のポイント:単位や平均の大きさが違うグループの散らばりは、変動係数で比べます。使えるのは比例尺度の正の値のデータです。
以上が、変動係数についての解説です。
指数化:基準を100にして変化を比べる
最後に、指数化について見ていきましょう。
ここまでは、同じ時点のデータを比べてきました。今度は、時間の変化を比べます。
2つのお店の売上の伸びを比べたいとします。A店の売上は200万円、220万円、260万円と動きました。B店は50万円、60万円、70万円です。金額の増え方はA店のほうが大きいのですが、店の規模が違うので、どちらが「伸びている」のかが分かりません。
そこで、スタートラインをそろえます。徒競走で、全員を同じ線に立たせるイメージです。これが 指数化 です。基準の時点の値を100として、ほかの時点の値を表します。
1年目を基準にして、2つのお店を指数化してみましょう。
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | |
|---|---|---|---|
| A店の売上(万円) | 200 | 220 | 260 |
| A店の指数 | 100 | 110 | 130 |
| B店の売上(万円) | 50 | 60 | 70 |
| B店の指数 | 100 | 120 | 140 |
金額の増加はA店の60万円に対してB店は20万円ですが、指数で見ると、B店のほうが速く伸びていることが分かります。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。公的統計の記事で登場した消費者物価指数も、基準の年を100とした指数です。指数が105なら、基準の年より物価が5%高いことを表します。単位の違う多くの品目の価格の動きをまとめて語れるのも、指数の強みです。
指数には、2つの注意点があります。1つ目は、基準の時点の選び方です。売上が異常に少なかった年を基準にすると、その後の伸びが大きく見えてしまいます。基準を変えるときは、全時点の値を新しい基準の値で割り直します。
2つ目は、「ポイント」と「%」の違いです。
例題:指数の変化を読む
ある商品の価格指数が、120から132に上がりました。上昇率は何%でしょうか?
【解き方】
- 指数の差を求める: 132 − 120 = 12。これは12ポイントの上昇
- もとの指数で割る: 12 ÷ 120 = 0.1
答えは10%です。指数の差の12ポイントと、上昇率の10%は別のものです。もとの指数が100のときだけ、2つの数字が一致します。
試験のポイント:指数の差は「ポイント」、変化の割合は「%」です。上昇率は、比較のもとになる時点の指数で割って求めます。
3つの道具を、最後に並べておきましょう。
【比べるための3つの道具】
- 標準化: 集団の中での1人の位置を比べる
- 変動係数: 単位や大きさの違うグループの散らばりを比べる
- 指数化: 規模の違う系列の時間変化を比べる
以上が、指数化についての説明です。
式の変形を覚えられなくても問題ありません。ここでは、「そのままでは比べられない数字も、基準をそろえれば比べられる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は中心と散らばりの指標を活用して、数字を比べる方法について紹介しました。標準偏差で割る、平均で割る、基準の値で割る。どれも「割り算で物差しをそろえる」という、同じ発想の道具です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 偏差は平均からの差。標準偏差はそれを測る1目盛り。ベル型なら ±1, ±2, ±3 標準偏差に約68%, 95%, 99.7%が入る。
- 標準化はz得点に直す操作。平均0、標準偏差1の共通の物差しになる。
- 変換 で、平均値は 、標準偏差は になる。
- 変動係数は標準偏差 ÷ 平均値。単位や規模の違う散らばりを比べられる。
- 指数化は基準を100にそろえる操作。ポイントと%を区別する。
キーワードのおさらい
- 偏差: 各データと平均値の差
- 標準化(z得点): 平均を引いて標準偏差で割り、平均0、標準偏差1にする操作。得られた値がz得点
- 偏差値: z得点を 50 + 10z に変換した値
- 変動係数: 標準偏差を平均値で割った値
- 指数化: 基準の時点の値を100として、ほかの時点の値を表すこと
さて、ここまでは1つの変数を調べてきました。でも、世の中で本当に知りたいのは、「勉強時間が増えると、点数は上がるのか」のような、2つの変数の関係ですよね。
次回は、2つの変数の連動を調べる「散布図と相関」について紹介します。3級で学んだ相関係数に、見かけの関係を見抜く方法を加えます。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。