2級-22 推測統計の基礎
1つの母集団の仮説検定
- 母平均の検定
- 母分散の検定
- 母比率の検定
はじめに
「内容量60gって書いてあるけど、本当に60gあるの?」
スナック菓子の袋を開けたとき、こう思ったことはありませんか? 例えば、あなたが工場の品質管理を任されたとしましょう。25袋を抜き取って量ると、平均は60.9gでした。この0.9gのズレは、機械の調子が狂っているサインでしょうか? それとも、たまたまのばらつきでしょうか?
工場で気になることは、平均だけではありません。「部品の長さのばらつきが増えたのではないか」「不良品の割合が基準を超えたのではないか」といった疑問も出てきます。平均、ばらつき、割合と、調べたいものはそれぞれ違いますよね。
実は、これらの疑問は、どれも同じ手順で答えられます。取り替えるのは「検定統計量の式」と「見比べる分布」の2つだけです。
そこで登場するのが、今回の主役 母平均の検定、母分散の検定、母比率の検定 です。
前回の記事では、帰無仮説、p値、2種類の過誤といった検定の考え方を学びました。今回の記事では、その考え方を使って、1つの母集団について3種類の検定を最後まで解く手順を解説します。
検定の手順は1つだけ
はじめに、どの検定にも共通する手順について解説します。
前回の記事で見たように、仮説検定は裁判に似ています。「無罪」にあたる帰無仮説をいったん認めて、それではデータの説明がつかないときにだけ「有罪」、つまり棄却と判断するのでした。この流れは、3級で学んだ母平均・母比率の検定でも、今回の3つの検定でも、まったく同じです。
【検定の5つの手順】
- 帰無仮説 と対立仮説 を立てる
- 有意水準 を決める(多くは5%)
- データから検定統計量を計算する
- 棄却域と見比べる、または p値を求める
- 結論を言葉で述べる
料理に例えると、これは1つのレシピです。鍋に入れる材料だけを取り替えれば、別の料理ができます。今回の材料を一覧にすると、次のようになります。
| 調べたいもの | 条件 | 検定統計量 | 見比べる分布 |
|---|---|---|---|
| 母平均 | 母分散が既知 | 標準正規分布 | |
| 母平均 | 母分散が未知 | 自由度 n−1 の t分布 | |
| 母分散 | 正規母集団 | 自由度 n−1 のカイ二乗分布 | |
| 母比率 | 標本が大きい | 標準正規分布(近似) |
式を見る前に、1つだけ押さえておきましょう。 と は、どれも次の形をしています。
要するに、「ズレが標準誤差という物差し何本分か」を測っているのです。例えば、ズレが0.9gで物差しが0.4gなら、物差し2.25本分のズレです。2本分を超えるようなズレは、たまたまでは起きにくいと考えます。
棄却域の境目は、分布表から読み取ります。この記事では、上側確率が になる点を 、、 と書きます。標準正規分布なら 、 です。
以上が、検定に共通する手順についての解説です。
母平均の検定:zとtを使い分ける
次に、母平均の検定について説明します。
母平均の検定 は、母平均が基準の値 と等しいかどうかを調べる検定です。母分散が分かっているかどうかで、使う式が2つに分かれます。1つずつ見ていきましょう。
1. 母分散が分かっているとき
過去の膨大な記録などから、母標準偏差 が分かっているときは、次の を使います。
は標本平均、 は帰無仮説の母平均、 は標本の大きさです。言葉で言うと、標本平均のズレを、標本平均の標準偏差 で割った値です。母集団が正規分布に従うなら、 が正しいときに は標準正規分布に従います。
例題:内容量の検定(両側)
袋の内容量の母標準偏差は2gと分かっています。25袋の平均が60.9gのとき、母平均は60gと言えるかを有意水準5%で検定しましょう。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、(多くても少なくても困るので両側)
- 有意水準は5%なので、棄却域は
- 検定統計量を計算する:
- 2.25 > 1.96 なので棄却域に入る(p値は約0.024)
- 結論: を棄却する
答えは「有意水準5%で、母平均は60gとは言えない」です。
2. 母分散が分からないとき
実際には、母分散が分からないことのほうが多いです。このときは、 を標本から求めた に置き換えます。 は、 で割った不偏分散の平方根です。
物差しの長さまで標本から見積もるので、そのぶん不確かさが増えます。そのため、母集団が正規分布に従うとき、 のもとで は標準正規分布より裾の広い、自由度 の t分布に従います。
例題:電池の持ちの検定(片側)
公称の電池持ちが20時間の製品を10台試すと、次の結果でした。公称より短いと言えるかを、有意水準5%で検定しましょう。
19.2, 20.1, 18.8, 19.5, 20.4, 19.0, 19.7, 18.9, 19.6, 19.8
【解き方】
- 仮説を立てる: 、(短いことだけを疑うので片側)
- 自由度は 10 − 1 = 9。 なので、棄却域は
- 標本平均は19.5、不偏分散は約0.278、 は約0.527
- 検定統計量を計算する:
- −3.0 < −1.833 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、公称より短いと言える」です。
自由度が大きくなると、t分布は標準正規分布に近づきます。上側2.5%点は、自由度9で2.262、自由度100で1.984となり、 に迫っていきます。
検定と区間推定は、表と裏の関係にあります。例えば、この電池のデータから母平均の95%信頼区間を求めると、19.12〜19.88です。20はこの外にあるので、両側検定でも有意水準5%で棄却されます。つまり、「95%信頼区間が を含まない」ことと「両側5%の検定で棄却される」ことは同じ意味です。
試験のポイント:問題文の「母標準偏差」か「標本から求めた標準偏差」かを最初に確かめます。前者なら 、後者なら自由度 の です。
以上が、母平均の検定についての説明です。
母分散の検定:ばらつきそのものを調べる
続いて、母分散の検定について解説します。
ダーツを思い浮かべてください。平均すると的の中心に当たっていても、矢が大きく散らばっていては、よい投げ手とは言えませんよね。工場の部品も同じで、平均が基準どおりでも、ばらつきが大きければ不良品が増えます。
母分散の検定 は、母分散が基準の値 と等しいかどうかを調べる検定です。検定統計量は引き算ではなく、比の形になります。
は不偏分散、 は帰無仮説の母分散です。言葉で言うと、標本のばらつきが基準の何倍かを見ています。 が基準どおりなら、この値は自由度 の近くになります。
母集団が正規分布に従うとき、 のもとでこの値は自由度 のカイ二乗分布に従います。カイ二乗分布は左右対称ではないので、下側と上側の点を別々に分布表から読みます。また、正規分布の仮定が崩れると結果が大きく狂いやすい検定です。
例題:部品のばらつきの検定
部品の長さの母分散の基準は0.04mm²です。新しい工程で16個を測ると、不偏分散は0.07でした。ばらつきが増えたと言えるかを、有意水準5%で検定しましょう。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 自由度は15。 なので、棄却域は
- 検定統計量を計算する:
- 26.25 > 25.00 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、ばらつきが増えたと言える」です。
ここがポイントです。もし の両側検定なら、棄却域の境目は下側の と上側の に変わります。26.25はこの間にあるので、棄却できません。同じデータでも、対立仮説の立て方で結論が変わるのです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。ばらつきが「減った」ことを示したいときは、下側で判定します。基準が同じ0.04で、21個の不偏分散が0.02なら、 です。下側5%点の より小さいので、減ったと言えます。
試験のポイント:カイ二乗分布の表は上側確率で引きます。下側5%の点は「上側0.95」の欄です。
以上が、母分散の検定についての解説です。
母比率の検定:割合を調べる
最後に、母比率の検定を見ていきましょう。
母比率の検定 は、母比率が基準の値 と等しいかどうかを調べる検定です。味見に例えると、鍋全体が基準どおりの味かを、ひとさじで確かめるようなものです。
回のうち当たりが出た回数は二項分布に従います。 が大きければ、二項分布は正規分布で近似できるのでした。そこで、標本比率 について、次の を使います。
ここで分母に注意してください。区間推定では を使いましたが、検定では帰無仮説の を使います。検定は「 が正しいとしたら」と考えるので、物差しも の値で作るのです。近似を使う目安は、 と がともに5以上であることです。
例題:ガチャの当たり確率の検定
当たりの確率が10%と公表されているガチャを400回引くと、当たりは28回でした。公表より低いと言えるかを、有意水準5%で検定しましょう。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 棄却域は
- 標本比率は 28 ÷ 400 = 0.07
- 分母は
- 検定統計量を計算する:
- −2.0 < −1.645 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、公表より低いと言える」です。p値は約0.023です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。ある提案の賛成率が過半数かを調べるため、900人に聞くと477人が賛成でした。 で、 です。
片側検定()なら 1.8 > 1.645 で棄却されますが、両側検定なら 1.8 < 1.96 で棄却されません。どちらを使うかは、データを見る前に、問いに合わせて決めます。結果を見てから都合のよいほうを選ぶのは反則です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): が小さいときは、正規近似を使わず、二項分布の確率を直接足します。例えば、10回中8回以上表が出る確率は、公平なコインなら 56 ÷ 1024 = 約0.055 です。
以上が、母比率の検定についての説明です。
細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「手順は同じで、調べたいものに合わせて検定統計量と分布を取り替える」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は1つの母集団についての3種類の検定を紹介しました。式は違って見えますが、やっていることは「基準の値からのズレが、たまたまと言える範囲かどうか」を確かめるだけです。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 検定の手順は1つ。取り替えるのは検定統計量と見比べる分布だけ。
- 母平均は、母分散が既知なら 、未知なら自由度 の を使う。
- 母分散は比の形の を使う。分布は左右対称ではないので、上側と下側の点を別々に読む。
- 母比率は正規近似の を使う。分母の物差しは で作る。
- 両側5%の検定と95%信頼区間は、表と裏の関係にある。
キーワードのおさらい
- 母平均の検定: 母平均が基準の値と等しいかを、 または で調べる検定
- 母分散の検定: 母分散が基準の値と等しいかを、カイ二乗分布で調べる検定
- 母比率の検定: 母比率が基準の値と等しいかを、正規近似の で調べる検定
さて、今回は基準の値が決まっていました。でも、実際には「新しい教材と古い教材、どちらの平均点が高いか」のように、2つのグループを比べたいことも多いですよね。
次回は、平均の差、分散の比、比率の差を調べる「2つの母集団の仮説検定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。