2級-23 推測統計の基礎
2つの母集団の仮説検定
- 母平均の差の検定(分散既知
- 分散未知であるが等分散
- 分散未知で等しいとは限らない場合)
- 母分散の比の検定
- 母比率の差の検定
はじめに
「新しい教材を使ったクラスのほうが平均点が高い。これって教材のおかげ?」
例えば、新しい教材を使ったA組の平均点が75点、これまでの教材のB組が68点だったとしましょう。7点の差があります。でも、もう一度テストをしたら、差は3点になるかもしれません。逆転することだってあるかもしれませんよね。
実は、差の大きさだけを見ても、この問いには答えられません。何人のデータなのか、点数がどれくらい散らばっているのかで、同じ7点の重みが変わるからです。
前回の記事では、「内容量は60gか」のように、1つの母集団を基準の値と比べました。今回は基準の値がありません。比べる相手は、もう1つの母集団です。言わば、1人で記録に挑む競技から、2チームの対戦に変わるイメージです。
そこで登場するのが、今回の主役 母平均の差の検定、母分散の比の検定、母比率の差の検定 です。
今回の記事では、2つの母集団を比べる3種類の検定と、その使い分けについて解説します。
2つを比べるときの考え方
はじめに、3つの検定に共通する考え方について解説します。
結論を一言で言うと、「2つの母集団に違いはない」を帰無仮説にして、標本の差がたまたまで説明できるかを調べます。平均なら 、分散なら 、比率なら です。
差を測るには、物差しが必要です。ここで、確率変数の記事で学んだ性質を思い出しましょう。独立な2つの確率変数では、差の分散は、それぞれの分散の和になります。
なぜ引き算なのに足し算になるのでしょうか? 2人でシーソーに乗る場面を想像してください。片方だけが揺れても、両方が揺れても、シーソーの傾きは揺れます。それぞれの揺れが足し合わさって、差の揺れになるのです。
具体的に見てみましょう。標本平均の分散がA組で4、B組で5なら、差の分散は9で、標準誤差は3です。差が7なら物差し約2.3本分、差が3なら物差し1本分です。同じ「差」でも、物差しと比べて初めて大きさが分かります。
なお、平均と比率は差を見ますが、分散だけは比を見ます。分散は「何倍か」で比べる量だからです。
以上が、2つを比べるときの考え方についての解説です。
母平均の差の検定:3つの場合分け
次に、母平均の差の検定について説明します。
母平均の差の検定 は、2つの正規母集団の母平均が等しいかを調べる検定です。範囲表の言葉で言うと、母平均の差の検定(分散既知、分散未知であるが等分散、分散未知で等しいとは限らない場合)の3つの場合に分かれます。ここでは、大きさ の標本の平均を 、大きさ の標本の平均を とします。
1つずつ見ていきましょう。
1. 分散既知の場合
2つの母分散 、 が分かっているときは、次の を使います。
分母は、先ほどの「差の分散は和」をそのまま式にしたものです。 のもとで は標準正規分布に従います。
例えば、2台の機械の製品の重さを比べます。機械Aは母分散36で36個の平均が102g、機械Bは母分散25で25個の平均が99gでした。分母は なので、 です。2.12 > 1.96 なので、有意水準5%で差があると判断します。
2. 分散未知であるが等分散の場合
母分散は分からないものの、等しいと考えてよいときは、2つの標本をまとめて共通の分散を見積もります。これが プールした分散 です。
、 は、それぞれの不偏分散です。言葉で言うと、自由度を重みにした、2つの不偏分散の加重平均です。2人の味見の結果を、味見の回数に応じて混ぜるイメージです。検定統計量は次の形になります。
のもとで、 は自由度 の t分布に従います。
例題:教材の効果の検定
A組10人の平均が75点で不偏分散が64、B組12人の平均が68点で不偏分散が49でした。母分散は等しいとして、平均に差があるかを有意水準5%で検定しましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- プールした分散を求める:
- 分母を求める:
- 検定統計量を計算する:
- 2.19 > 2.086 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、平均に差があると言える」です。
3. 分散未知で等しいとは限らない場合
母分散が等しいと言えないときは、プールせず、それぞれの不偏分散をそのまま使います。これが ウェルチの検定 です。
この は、次の自由度 の t分布で近似します。
式は長いですが、 と の2つの数を入れるだけです。小数になったら、近い整数で分布表を読みます。
具体的に見てみましょう。ある店の売上を比べます。A店は8日分で平均52万円、不偏分散100です。B店は20日分で平均44万円、不偏分散16です。
【ウェルチの検定の計算】
- 、
- 検定統計量:
- 自由度: なので約8
- より、2.19 < 2.306 で棄却しない
ここがポイントです。このデータを等分散と決めつけてプールすると、、自由度26となり、棄却されてしまいます。ばらつきの大きいA店のほうが標本が少ないのに、B店の小さなばらつきが混ざって、物差しが短くなったからです。
4. 対応のあるデータの場合
最後に、よくある落とし穴を1つ見ておきましょう。同じ8人の睡眠時間を、アプリを使う前と後で測ったとします。これは2つの独立な標本ではなく、1人から2つの値をとった 対応のあるデータ です。
このときは、人ごとの差を計算して、前回学んだ1標本の t検定を使います。差が 20, −5, 15, 30, 10, 25, 5, 20 分なら、平均は15、標準偏差は11.34です。 で、 を超えるので、効果があると言えます。
試験のポイント:「分散は既知か」「等分散か」「対応があるか」の3つを問題文から読み取って、式を選びます。自由度もそれぞれ違います。
以上が、母平均の差の検定についての説明です。
母分散の比の検定:どちらが安定しているか
続いて、母分散の比の検定について解説します。
母分散の比の検定 は、2つの正規母集団の母分散が等しいかを調べる検定です。例えば、2人の弓道部員の矢の散らばりを比べて、どちらが安定しているかを調べるようなものです。検定統計量は、不偏分散の比です。
のもとで、 は自由度 のF分布に従います。比なので、等しければ1の近くになります。
両側検定では、大きいほうの不偏分散を分子に置く のがコツです。こうすると は1以上になり、上側 の点と比べるだけで済みます。分子の自由度が先に来る点にも注意しましょう。
例題:売上のばらつきの比較
先ほどのA店(8日分、不偏分散100)とB店(20日分、不偏分散16)の母分散が等しいかを、有意水準5%で検定しましょう。 です。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 大きいほうを分子にする:
- 自由度は分子が7、分母が19
- 6.25 > 3.05 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、母分散は等しいとは言えない」です。だからこのデータにはウェルチの検定が合うのです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。教材の例では です。 より小さいので棄却されず、等分散の仮定と矛盾しません。
補足(ここは読み飛ばしてOK): F分布の下側の点は、自由度を入れ替えた上側の点の逆数で求まります。例えば、下側2.5%点は です。また、最近は等分散の検定を挟まず、最初からウェルチの検定を使う考え方も広まっています。
以上が、母分散の比の検定についての解説です。
母比率の差の検定:2つの割合を比べる
最後に、母比率の差の検定を見ていきましょう。
母比率の差の検定 は、2つの母集団の母比率が等しいかを調べる検定です。例えば、2種類の広告の購入率を比べるときに使います。
前回の検定では、帰無仮説の値 で物差しを作りました。今回は で、具体的な値がありません。そこで、「違いがないなら2つは同じ集団だ」と考えて、全体をまとめた比率 で物差しを作ります。2つの鍋が同じ味なら、1つの鍋にまとめて味見してよい、というイメージです。
、 はそれぞれの該当人数、、 はそれぞれの標本比率です。、 が大きいとき、 のもとで は近似的に標準正規分布に従います。
例題:広告の効果の比較
広告Aは200人中60人が購入し、広告Bは300人中66人が購入しました。購入率に差があるかを、有意水準5%で検定しましょう。
【解き方】
- 仮説を立てる: 、
- 標本比率は 、
- まとめた比率は
- 分母を求める:
- 検定統計量を計算する:
- 2.02 > 1.96 なので、 を棄却する
答えは「有意水準5%で、購入率に差があると言える」です。
ここで、区間推定との違いに注意しましょう。比率の差の信頼区間では、 を仮定しないので、 でまとめず 、 を別々に使います。
試験のポイント:比率の差の検定の分母は、まとめた比率 で作ります。別々の比率を使う区間推定の式と混同しないようにしましょう。
以上が、母比率の差の検定についての説明です。
細かい場合分けが分からなくなったとしても問題ありません。ここでは、「2つの間に違いはないと仮定して、差や比が物差し何本分かを調べる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は2つの母集団を比べる検定を紹介しました。差が大きく見えても、物差しと比べなければ意味は分かりません。そして、その物差しの作り方は、分散の情報によって変わります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 独立な2標本の差の分散は、それぞれの分散の和になる。
- 母平均の差は、分散既知なら 、等分散ならプールした 、等分散と言えないならウェルチの を使う。
- 対応のあるデータは、差をとって1標本の t検定にする。
- 母分散の比は で調べる。大きいほうを分子に置く。
- 母比率の差は、まとめた比率で物差しを作る。
キーワードのおさらい
- 母平均の差の検定: 2つの母平均が等しいかを、 または で調べる検定
- プールした分散: 2つの不偏分散を自由度で重みづけした平均
- ウェルチの検定: 等分散を仮定せずに母平均の差を調べる t検定
- 対応のあるデータ: 同じ対象から2つの値をとったデータ
- 母分散の比の検定: 2つの母分散が等しいかを、F分布で調べる検定
- 母比率の差の検定: 2つの母比率が等しいかを、まとめた比率を使った で調べる検定
さて、今回の比率の検定は「買った・買わない」の2択でした。でも、サイコロの目のように3つ以上の種類があるときや、部活と朝食のように2つの質的変数の関連を調べたいときは、どうすればよいでしょうか?
次回は、カイ二乗統計量を使う「適合度検定と独立性の検定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。