3級-16 データ分析の基本
確率変数と確率分布 — 二項分布と正規分布
- 確率変数の平均・分散・標準偏差
- 二項分布
- 正規分布
- 二項分布の正規近似
はじめに
「このくじ、1回引くと平均いくらもらえるの?」
お祭りのくじ引きを前にして、こう考えたことはありませんか? 1等は500円、2等は100円、はずれは0円。賞金は引くまで分かりません。それでも、たくさん引いたときの平均なら、引く前に計算できそうです。
実は、確率が分かっていれば、まだ起きていない結果についても、データと同じように平均や標準偏差を計算できます。
そこで登場するのが、今回の主役 確率変数 と 確率分布 です。これまでデータで学んだ平均や分散を、確率の世界に持ち込む道具です。
前回の記事では、独立な試行と条件付き確率を学びました。今回の記事では、確率変数の考え方と、統計学で最もよく使う2つの確率分布、二項分布 と 正規分布 について解説します。
確率変数:結果を数字で表す
はじめに、確率変数と確率分布について解説します。
確率変数 とは、試行の結果によって値が決まる変数です。サイコロの目のように、振るまで値は分かりませんが、どの値がどの確率で出るかは分かっています。ふつう、 のように大文字で書きます。
値と確率の対応を 確率分布 と言います。くじの賞金表のようなものです。
| 賞金 (円) | 0 | 100 | 500 |
|---|---|---|---|
| 確率 | 0.7 | 0.2 | 0.1 |
確率をすべて足すと、必ず1になります。この表は、相対度数の表とよく似ていますね。実際、確率分布はデータの度数分布表の「確率版」です。そのため、確率変数の平均・分散・標準偏差も、データと同じ発想で求められます。
記号の意味は、 が値、 がその確率、(ミュー)が平均、(シグマ2乗)が分散です。確率変数の平均は 期待値 とも呼びます。標準偏差 は分散の平方根です。
言葉で言うと、平均は「値 × 確率を全部足したもの」、分散は「平均からのズレの2乗 × 確率を全部足したもの」です。確率を重みにして、ならしているのです。
例題:くじの平均と標準偏差
先ほどのくじの賞金について、平均、分散、標準偏差を求めましょう。
【解き方】
- 平均: 0 × 0.7 + 100 × 0.2 + 500 × 0.1 = 70
- 分散: 70² × 0.7 + 30² × 0.2 + 430² × 0.1 = 3,430 + 180 + 18,490 = 22,100
- 標準偏差:
答えは、平均70円、分散22,100、標準偏差は約149円です。1回のくじの参加費が100円なら、平均では損をする計算ですね。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。サイコロの目 なら、平均は (1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6) × 1/6 = 3.5 です。3.5という目はありませんが、たくさん振った平均がそこに近づくという意味です。
以上が、確率変数についての解説です。
二項分布:成功の回数を数える
次に、二項分布について説明します。
二項分布 は、「成功か失敗か」の独立な試行を 回くり返したときの、成功の回数 の分布です。成功の確率を として、 と書きます。フリースローを打つ、コインを投げる、くじを引く。どれも「回数を数える」場面です。
がちょうど になる確率は、次の式で求めます。
記号の意味は次のとおりです。
【二項分布の式の中身】
- : 回のうち、どの 回で成功するかの選び方の数
- : 回成功する確率
- : 残りの回が失敗する確率
具体的に見てみましょう。成功率0.6のフリースローを5本打って、ちょうど3本成功する確率を求めます。
5本のうち、どの3本が成功かの選び方は、 通りです。成功が3回で 0.6³ = 0.216、失敗が2回で 0.4² = 0.16 です。したがって、次のようになります。
さらに、二項分布の平均と分散は、公式で一気に求まります。
言葉で言うと、平均は「回数 × 成功率」です。5本打って成功率0.6なら、平均は 5 × 0.6 = 3本で、直感どおりですよね。分散は 3 × 0.4 = 1.2 で、標準偏差は約1.10本です。
試験のポイント:二項分布が使えるのは、試行が独立で、成功の確率が毎回同じときです。平均 、分散 はそのまま覚えましょう。
以上が、二項分布についての説明です。
正規分布:左右対称のつりがね
続いて、正規分布について解説します。
正規分布 は、平均を中心に左右対称の、つりがねの形をした分布です。身長やテストの点数、製品の重さなど、たくさんの小さな偶然が積み重なって決まる値は、この形に近づきます。平均 、分散 の正規分布を と書きます。
ここまでのサイコロや回数は、飛び飛びの値でした。一方、身長は連続した値をとります。そのため正規分布では、確率を「グラフの下の面積」で表します。全体の面積が1で、ある範囲の面積がその範囲に入る確率です。
大切なのは、標準偏差いくつ分離れているかで、面積が決まっていることです。
【正規分布の範囲と確率】
- 平均 ± 1σ の範囲: 約68%
- 平均 ± 2σ の範囲: 約95%
- 平均 ± 3σ の範囲: 約99.7%
実際の計算では、値を次の式で変換します。これを 標準化 と言います。
言葉で言うと、「平均から標準偏差いくつ分離れているか」です。偏差値と同じ考え方です。 は平均0、標準偏差1の 標準正規分布 に従うので、どんな正規分布でも1枚の表で確率が読めます。
| 1.00 | 1.50 | 1.645 | 1.96 | 2.00 | 2.58 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 以上になる確率 | 0.159 | 0.067 | 0.050 | 0.025 | 0.023 | 0.005 |
表の見方はシンプルです。上の段が の値、下の段が「 がそれ以上になる確率」で、これを上側確率と呼びます。
例題:正規分布の確率を求める
ある高校の男子の身長は、平均170cm、標準偏差6cmの正規分布に従うとします。179cm以上の生徒の割合を求めましょう。
【解き方】
- 標準化する:
- 表から の値を読む: 0.067
答えは約6.7%です。
せっかくなので、逆向きも考えてみましょう。平均より低い側は、左右対称を使います。164cm以下は なので、 が1以上になる確率と同じ0.159です。
試験のポイント:正規分布の問題は、まず標準化して に直します。 より外側が片側2.5%ずつ、合わせて5%という値は、この先の推定と検定で何度も使います。
以上が、正規分布についての解説です。
二項分布の正規近似
最後に、二項分布と正規分布をつなぐ話を見ていきましょう。
二項分布の を大きくしていくと、棒グラフの形はだんだんと左右対称のつりがねに近づきます。これを利用して、 が大きい二項分布を正規分布で置き換えることを 二項分布の正規近似 と言います。
言葉で言うと、「同じ平均と同じ分散を持つ正規分布で代用する」ということです。
なぜ代用するのでしょうか? コインを100回投げて、表が60回以上出る確率を二項分布の式で求めようとすると、60回から100回まで41個の確率を足すことになります。これは手で計算できません。遠くの町まで1歩ずつ数えて歩かず、地図で距離を読むようなものです。
具体的に見てみましょう。平均は 100 × 0.5 = 50、分散は 100 × 0.5 × 0.5 = 25 なので、標準偏差は5です。標準化すると で、表から約0.023と求まります。
例題:正規近似で確率を求める
ある商品の購入者の20%が、リピーターになるとします。400人の購入者のうち、リピーターが92人以上になる確率を、正規近似で求めましょう。
【解き方】
- 平均を求める: 400 × 0.2 = 80
- 標準偏差を求める:
- 標準化する:
- 表から読む: 0.067
答えは約0.067です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 正規近似は「近似」なので、正確な値とは少しズレます。コインの例の正確な値は約0.028です。このズレを小さくする連続修正という工夫は、2級で学びます。
以上が、二項分布の正規近似についての説明です。
細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「回数は二項分布、連続した値は正規分布、 が大きければ二項分布は正規分布で近似できる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は確率変数と、二項分布・正規分布について紹介しました。確率分布は、まだ起きていない結果の度数分布表のようなものです。この表さえあれば、データと同じように平均や標準偏差を語れます。そして、どんな正規分布も、標準化すれば1枚の表で読めるようになります。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 確率分布はくじの賞金表。平均は「値 × 確率」の合計で求める。
- 分散は「平均からのズレの2乗 × 確率」の合計で、標準偏差はその平方根。
- 二項分布は成功の回数の分布で、平均 、分散 。
- 正規分布は左右対称のつりがね。標準化すると1枚の表で確率が読める。
- が大きい二項分布は、同じ平均・分散の正規分布で近似できる。
キーワードのおさらい
- 確率変数: 試行の結果によって値が決まる変数
- 確率分布: 確率変数の値と確率の対応
- 期待値: 確率変数の平均
- 二項分布: 独立な試行を 回くり返したときの成功回数の分布
- 正規分布: 平均を中心に左右対称の、つりがね形の分布
- 標準化: 平均を引いて標準偏差で割る変換
- 標準正規分布: 平均0、標準偏差1の正規分布
- 二項分布の正規近似: が大きい二項分布を正規分布で置き換えること
さて、確率分布の道具がそろいました。いよいよ、これを統計調査に使います。同じ調査をやり直すと、標本の平均は毎回少しずつ変わるはずです。では、そのばらつきはどれくらいなのでしょうか?
次回は、標本から計算した値のばらつきを表す「標本分布」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。