統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

3級-17 データ分析の基本

標本分布 — 標本平均と標本比率

  • 標本平均の標本分布
  • 標本比率の標本分布

はじめに

「支持率が先月より1ポイント下がったって。これ、本当に下がったの?」

世論調査のニュースを見て、こう思ったことはありませんか? 調査の対象は、国民全員ではなく、選ばれた2,000人ほどです。別の2,000人を選んでいたら、数字は少し違っていたはずです。

例えば、味噌汁の味見を考えてみましょう。鍋から小皿に1杯すくって味を確かめますよね。もう1杯すくうと、ほんの少しだけ味が違うかもしれません。でも、よくかき混ぜてあれば、大きくは外れません。

実は、この「すくうたびに少し変わる」ばらつきの大きさは、計算で求められます。標本がどれくらいぶれるのかが分かれば、1ポイントの変化に意味があるのかも判断できるのです。

そこで登場するのが、今回の主役 標本分布 です。

前回の記事では、二項分布と正規分布を学びました。今回の記事では、標本分布の考え方と、標本平均の標本分布、標本比率の標本分布 について解説します。

標本分布:標本の値もばらつく

はじめに、標本分布とは何かについて解説します。

調べたい集団全体を母集団、そこから選んだ一部を標本と呼ぶことは、すでに学びました。ここで、新しい言葉を整理します。母集団の特徴を表す値を 母数 と言い、標本から計算した値を 統計量 と言います。

【母数と統計量】

  • 母平均 μ\mu: 母集団の平均
  • 母標準偏差 σ\sigma: 母集団の標準偏差
  • 母比率 pp: 母集団の中で、ある性質を持つものの割合
  • 標本平均 Xˉ\bar{X}: 標本の平均
  • 標本比率 p^\hat{p}: 標本の中で、ある性質を持つものの割合

母数は1つに決まっていますが、ふつうは分かりません。一方、統計量は、選ばれた標本によって値が変わります。つまり、統計量は確率変数です。

ここがポイントです。確率変数には確率分布があります。統計量の確率分布のことを 標本分布 と言います。味見を何百回もくり返して、小皿ごとの塩分濃度でヒストグラムを作ったとき、そこに現れる分布のイメージです。

具体的に見てみましょう。1、2、3、4のカードが1枚ずつ入った箱を母集団とします。母平均は2.5、母分散は1.25です。ここから1枚引いて戻すことを2回行い、2枚の平均をとります。全部で 4 × 4 = 16 通りを数えると、次のようになります。

標本平均11.522.533.54
通り数1234321

表の見方はシンプルです。上の段が標本平均の値、下の段がその値になる組み合わせの数です。これが、標本平均の標本分布です。

形に注目してください。元の箱はどの値も1枚ずつの平らな分布でしたが、標本平均は真ん中の2.5が最も多い山型になりました。この分布の平均を計算すると2.5で、母平均と同じです。分散を計算すると0.625で、母分散の半分になっています。

なぜでしょうか? 大きい値と小さい値を引くと、平均をとるときに打ち消し合うからです。極端な標本平均は、両方とも極端な値を引いたときにしか出ません。

以上が、標本分布についての解説です。

標本平均の標本分布

次に、標本平均の標本分布について説明します。

先ほどのカードの例で見えた性質は、一般に成り立ちます。母平均 μ\mu、母分散 σ2\sigma^2 の母集団から、大きさ nn の標本を無作為に取り出すと、標本平均 Xˉ\bar{X} は次の性質を持ちます。

E(Xˉ)=μ,V(Xˉ)=σ2nE(\bar{X}) = \mu, \qquad V(\bar{X}) = \frac{\sigma^2}{n}

言葉で言うと、標本平均の平均は母平均に等しく、標本平均の分散は母分散の nn 分の1になります。先ほどの例では n=2n = 2 なので、1.25 ÷ 2 = 0.625 です。

平方根をとると、標本平均の標準偏差が得られます。

標本平均の標準偏差=σn\text{標本平均の標準偏差} = \frac{\sigma}{\sqrt{n}}

これを 標準誤差 と呼びます。標本平均が、母平均のまわりでどれくらいぶれるかを表す値です。

分布の形についても、大切な性質が2つあります。

【標本平均の分布の形】

  1. 母集団が正規分布なら、標本平均は正規分布 N(μ,σ2/n)N(\mu, \sigma^2/n) に従う
  2. 母集団が正規分布でなくても、nn が大きければ標本平均の分布は正規分布に近づく

2つ目は驚くべき性質です。サイコロの目のように平らな分布でも、たくさん集めて平均をとると、つりがねになるのです。カードの例で山型が現れたのは、その始まりです。

例えば、ある学校の生徒の身長が、平均170cm、標準偏差6cmだとします。1人だけ選ぶと、身長のばらつきは標準偏差6cmのままです。36人の平均なら、標準誤差は 6÷36=16 \div \sqrt{36} = 1 で、1cmまで小さくなります。

例題:標本平均の確率を求める

ある工場のお菓子の袋の内容量は、平均100g、標準偏差4gの正規分布に従います。16袋を無作為に選んだとき、標本平均が98.5g以下になる確率を求めましょう。

【解き方】

  1. 標準誤差を求める: 4÷16=14 \div \sqrt{16} = 1
  2. 標準化する: Z=(98.5−100)÷1=−1.5Z = (98.5 - 100) \div 1 = -1.5
  3. 左右対称を使って、ZZ が1.5以上になる確率を読む: 0.067

答えは約0.067です。標準化の分母が σ\sigma の4ではなく、標準誤差の1になる点に注意しましょう。

試験のポイント:1人の値の確率を聞かれたら σ\sigma で、nn 人の平均の確率を聞かれたら σ/n\sigma/\sqrt{n} で割ります。

以上が、標本平均の標本分布についての説明です。

標本比率の標本分布

続いて、標本比率の標本分布について解説します。

世論調査の支持率のように、「はい」と答えた人の割合を調べる場面を考えます。母比率が pp の母集団から nn 人を選び、そのうち XX 人が「はい」と答えたとします。標本比率は次のように定義します。

p^=Xn\hat{p} = \frac{X}{n}

前回の記事の知識が、ここで生きます。XX は「はい」の回数なので、二項分布 B(n,p)B(n, p) に従います。平均は npnp、分散は np(1−p)np(1-p) でした。p^\hat{p} は XX を nn で割ったものなので、平均は nn で割り、分散は n2n^2 で割ります。

E(p^)=p,V(p^)=p(1−p)nE(\hat{p}) = p, \qquad V(\hat{p}) = \frac{p(1-p)}{n}

言葉で言うと、標本比率の平均は母比率に等しく、その標準偏差は次の値です。

標本比率の標準偏差=p(1−p)n\text{標本比率の標準偏差} = \sqrt{\frac{p(1-p)}{n}}

さらに、二項分布の正規近似から、nn が大きいとき、p^\hat{p} は平均 pp、分散 p(1−p)/np(1-p)/n の正規分布で近似できます。

冒頭の支持率の話に戻りましょう。本当の支持率が40%で、2,400人に調査したとします。標準偏差は次のようになります。

0.4×0.62400=0.0001=0.01\sqrt{\frac{0.4 \times 0.6}{2400}} = \sqrt{0.0001} = 0.01

つまり、標本比率のぶれの大きさは約1ポイントです。正規分布では、平均 ± 1.96 標準偏差の範囲に95%が入るので、結果はおよそ38%から42%の間でぶれます。したがって、先月より1ポイント下がったという数字は、偶然のぶれの範囲に十分収まります。

例題:標本比率の確率を求める

ある地域の世帯のうち、20%が犬を飼っているとします。400世帯を無作為に選んだとき、標本比率が0.25以上になる確率を求めましょう。

【解き方】

  1. 標本比率の標準偏差を求める: 0.2×0.8÷400=0.0004=0.02\sqrt{0.2 \times 0.8 \div 400} = \sqrt{0.0004} = 0.02
  2. 標準化する: Z=(0.25−0.2)÷0.02=2.5Z = (0.25 - 0.2) \div 0.02 = 2.5
  3. 標準正規分布の表から読む: 約0.006

答えは約0.006です。本当に20%なら、400世帯で25%以上になることはめったにありません。

以上が、標本比率の標本分布についての解説です。

標本を大きくすると何が起こるか

最後に、標本の大きさと精度の関係を見ていきましょう。

2つの標本分布を並べると、次のようになります。

【2つの標本分布】

  • 標本平均: 分布の中心は μ\mu、ぶれの大きさは σ/n\sigma/\sqrt{n}
  • 標本比率: 分布の中心は pp、ぶれの大きさは p(1−p)/n\sqrt{p(1-p)/n}

どちらも、nn が大きければ正規分布に近づき、分布の中心は母数と同じです。味見で言えば、小皿の味は平均すると鍋の味に一致します。そして、どちらも分母に n\sqrt{n} が入っています。

ここがポイントです。ぶれの大きさは、nn に比例して小さくなるのではなく、n\sqrt{n} に比例して小さくなります。

【標本の大きさと標準誤差(σ=12\sigma = 12 の場合)】

  • n=9n = 9: 12 ÷ 3 = 4
  • n=36n = 36: 12 ÷ 6 = 2
  • n=144n = 144: 12 ÷ 12 = 1

標準誤差を半分にするには、標本を4倍に増やす必要があります。10分の1にしたければ、100倍です。味見の小皿を大きくすれば味は正確に分かりますが、精度を2倍にするだけで4倍の味噌汁が要るのです。世論調査の人数が数千人程度に抑えられている理由も、ここにあります。

逆に言えば、母集団がどれほど大きくても、標準誤差の式に母集団の大きさは出てきません。鍋が大きくても、よくかき混ぜてあれば、小皿1杯で味は分かります。大事なのは、標本の大きさと、無作為に選ぶことです。

試験のポイント:「標本の大きさを4倍にすると、標準誤差は2分の1になる」という関係はよく問われます。

以上が、標本の大きさと精度についての説明です。

細かい式が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「標本平均や標本比率は母数を中心にばらつき、そのぶれは n\sqrt{n} で小さくなる」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は標本から計算した値のばらつきを表す標本分布について紹介しました。味見の結果は毎回少し変わりますが、そのぶれ方には決まりがあります。ぶれの大きさが計算できることこそが、一部から全体を語れる理由です。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 統計量は標本ごとに値が変わる確率変数で、その分布が標本分布。
  • 標本平均の平均は μ\mu、標準偏差は σ/n\sigma/\sqrt{n}。
  • 標本比率の平均は pp、標準偏差は p(1−p)/n\sqrt{p(1-p)/n}。
  • nn が大きければ、どちらも正規分布で近似できる。
  • 精度を2倍にするには、標本を4倍に増やす必要がある。

キーワードのおさらい

  • 母数: 母平均や母比率など、母集団の特徴を表す値
  • 統計量: 標本平均や標本比率など、標本から計算した値
  • 標本分布: 統計量の確率分布
  • 標本平均の標本分布: 平均 μ\mu、分散 σ2/n\sigma^2/n の分布。nn が大きければ正規分布に近づく
  • 標本比率の標本分布: 平均 pp、分散 p(1−p)/np(1-p)/n の分布。nn が大きければ正規分布に近づく
  • 標準誤差: 統計量の標準偏差。統計量のぶれの大きさを表す値

さて、今回は「母平均が分かっているとき、標本平均がどうぶれるか」を考えました。でも、実際の調査は逆です。手元にあるのは標本で、知りたいのは母平均のほうです。では、標本から母集団をどこまで言い当てられるのでしょうか?

次回は、標本から母平均・母比率の範囲を求める「区間推定」について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 標本分布の説明として、最も適切なものはどれか。
問2. 母標準偏差が12である母集団から、大きさ36の標本を無作為に取り出す。標本平均の標準誤差として正しいものはどれか。
問3. 標本の大きさを4倍にすると、標本平均の標準誤差はどう変わるか。
問4. 母比率が0.5である母集団から、大きさ100の標本を無作為に取り出す。標本比率の標準偏差として正しいものはどれか。
問5. 平均50、標準偏差8の正規分布に従う母集団から、大きさ16の標本を無作為に取り出す。標本平均が53以上になる確率に最も近いものはどれか。