3級-3 データ分析の基本
実験の基本的な考え方
- 実験研究
- 観察研究
- 処理群と対照群
はじめに
「朝ごはんを食べる子は成績がいいって聞くけど、本当に朝ごはんのおかげなの?」
こんな話を聞いたことはありませんか? 調べてみると、朝食を毎日食べる生徒のほうが、確かにテストの平均点は高いかもしれません。
でも、少し立ち止まって考えてみましょう。毎朝きちんと朝食が出る家は、生活のリズムが整っていて、勉強する時間もきちんと確保できているのかもしれません。もしそうなら、成績を上げたのは朝食ではなく、規則正しい生活そのものです。
実は、「AとBが一緒に起きている」ことと、「AがBを起こしている」ことの間には、大きな距離があります。この距離を埋めるには、データの集め方そのものを工夫する必要があります。
そこで登場するのが、今回の主役 実験 です。前回の記事では、母集団から標本を選ぶ方法を学びました。今回の記事では、原因と効果を確かめるための 実験研究 と 観察研究 の違い、そして 処理群と対照群 を比べる意味について解説します。
実験研究と観察研究
はじめに、実験研究と観察研究の違いについて解説します。
2つの違いは一言で言うと、「調べる人が手を加えるかどうか」です。
【2つの研究】
- 実験研究: 調べる人が条件を決めて、対象に手を加えて結果を比べる研究
- 観察研究: 手を加えず、すでに起きていることをそのまま記録して調べる研究
料理に例えてみましょう。「塩を入れたスープと入れないスープを作って味を比べる」のが実験研究です。「いろいろな家庭のスープを飲み歩いて、塩の量と味を記録する」のが観察研究です。
具体的に見てみましょう。ある中学校で、新しい暗記アプリの効果を知りたいとします。
- 学校がくじで生徒を2つに分け、片方にだけアプリを使ってもらって成績を比べる: 実験研究
- アプリをすでに使っている生徒と使っていない生徒の成績を、アンケートで調べて比べる: 観察研究
どちらもアプリを使う人と使わない人を比べていますが、「誰が使うか」を決めたのが調べる人か本人かが違います。ここが分かれ目です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。肥料を与える畑と与えない畑を研究者が決めて収穫量を比べるのは、実験研究です。一方で、農家ごとの肥料の使い方と収穫量を聞き取って比べるのは、観察研究です。
試験のポイント:「調べる人が条件を割り当てたか」で判断します。人数の多さや、データをどう集計したかでは決まりません。
以上が、実験研究と観察研究についての解説です。
処理群と対照群:比べる相手を用意する
次に、処理群と対照群について説明します。
実験で手を加えることを 処理(treatment) と呼びます。処理を受けるグループが 処理群 で、処理を受けないグループが 対照群(control group) です。処理群は実験群、対照群はコントロール群とも呼ばれます。
では、なぜ対照群が必要なのでしょうか? 処理群だけを調べて、前後を比べればよいのではないでしょうか?
具体的に見てみましょう。暗記アプリを20人に1か月使ってもらったら、単語テストの平均点が60点から72点に上がったとします。12点の上昇です。これだけを見ると、アプリの効果は12点に思えますよね。
ところが、アプリを使わなかった別の20人も、同じ期間に60点から66点へ上がっていました。
| グループ | 開始時の平均点 | 1か月後の平均点 | 上昇 |
|---|---|---|---|
| 処理群(アプリあり) | 60 | 72 | +12 |
| 対照群(アプリなし) | 60 | 66 | +6 |
授業が進んだことや、テストに慣れたことで、アプリがなくても6点は上がっていたのです。したがって、アプリによる効果は 12 − 6 = 6 点と考えられます。
要するに、対照群は「もし処理をしなかったらどうなっていたか」を見せてくれる相手です。徒競走のタイムを、隣のレーンの選手なしで測っても、向かい風のせいで遅いのか分からないのと同じです。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。新しい風邪薬の試験を考えます。
処理群の100人に本物の薬を飲んでもらい、対照群の100人には見た目が同じで有効成分のない薬を飲んでもらいました。これを 偽薬(プラセボ) と言います。3日後に回復していたのは、処理群で70人、対照群で55人でした。
処理群の70%だけを見ると、よく効く薬に見えます。しかし、風邪は放っておいても治りますし、「薬を飲んだ」という安心感で楽になることもあります。これをプラセボ効果と呼びます。薬そのものの効果は、70% − 55% = 15ポイントと考えるのが適切です。
例題:処理の効果を求める
畑を区画に分け、処理群には新しい肥料を与え、対照群には与えずに育てました。1区画あたりの平均収穫量は、処理群が5.2kg、対照群が4.6kgでした。昨年は両方とも4.0kgでした。肥料の効果として最も適切な値はいくつでしょうか?
【解き方】
- 処理群の増加: 5.2 − 4.0 = 1.2
- 対照群の増加: 4.6 − 4.0 = 0.6
- 差をとる: 1.2 − 0.6 = 0.6
答えは0.6kgです。処理群の増加の1.2kgをそのまま答えると、天候など両方に共通する変化まで肥料の手柄にしてしまいます。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 薬の試験では、本人だけでなく医師にも、どちらの薬かを伏せて行うことがあります。これを二重盲検法と呼びます。思い込みが結果に入り込むのを防ぐ工夫です。
以上が、処理群と対照群についての説明です。
無作為に分ける:スタートラインをそろえる
続いて、グループの分け方について解説します。
処理群と対照群があれば十分かというと、そうではありません。2つのグループが最初から違っていたら、比べても意味がないからです。
例えば、暗記アプリの実験で「使いたい人は手を挙げてください」と集めたとします。手を挙げるのは、もともとやる気のある生徒かもしれません。すると、処理群の成績が伸びたとしても、アプリのおかげなのか、やる気のおかげなのか区別できません。
綱引きで、片方のチームだけ力の強い人が集まっていたら、新しい掛け声の効果は測れませんよね。
そこで、くじ引きなどで偶然に任せてグループを分けます。これを 無作為割り付け と言います。やる気、もともとの学力、家庭の環境など、調べる人が気づいていない違いも含めて、2つのグループに同じくらいずつ散らばります。つまり、処理以外の条件がそろいやすくなるのです。
【よい実験の3つの条件】
- 比べる相手として対照群がある
- 処理群と対照群を無作為に分けている
- 処理以外の条件をそろえている
ここで、前回の無作為抽出と混同しないように整理しましょう。
| 無作為抽出 | 無作為割り付け | |
|---|---|---|
| 何をするか | 母集団から標本を選ぶ | 標本を処理群と対照群に分ける |
| 目的 | 結果を全体に当てはめられるようにする | 処理の効果を正しく比べられるようにする |
| 例え | 鍋をかき混ぜて味見する | チームをくじで分けて綱引きする |
試験のポイント:処理群と対照群を本人の希望で決めると、処理以外の違いが混ざります。無作為に分けることが、処理の効果を確かめる鍵です。
以上が、グループの分け方についての解説です。
観察研究の弱点と使いどころ
最後に、観察研究の弱点と使いどころを見ていきましょう。
観察研究の弱点は、冒頭の朝食の話です。朝食を食べるかどうかは本人や家庭が決めているので、2つのグループは生活習慣などの点で最初から違っています。
例えば、ジョギングを続けている人は血圧が低い、というデータがあったとします。ジョギングのおかげかもしれません。でも、健康に気をつける人が、食事にも気をつけているだけかもしれません。観察研究では、この2つを切り分けることが難しいのです。
では、実験研究だけをすればよいのでしょうか? そうはいきません。
例えば、たばこの害を調べるために、人をくじで分けて、片方に何十年もたばこを吸わせることは許されません。「片方の生徒だけ朝食を抜きなさい」という実験も、やってはいけない実験です。
【観察研究の出番】
- 手を加えることが倫理的に許されないとき
- 長い期間や大きな費用がかかり、実験できないとき
- 地震や景気のように、そもそも人が操作できないとき
実際に、たばこと肺がんの関係は、喫煙者と非喫煙者を長年追いかけた観察研究を積み重ねて明らかになりました。
要するに、原因と効果を確かめる力は実験研究のほうが強く、調べられる範囲は観察研究のほうが広いのです。
| 実験研究 | 観察研究 | |
|---|---|---|
| 手を加えるか | 加える | 加えない |
| 原因と効果の確認 | しやすい | 難しい |
| 使える場面 | 倫理と費用の面で限られる | 広い |
例題:研究の種類を見分ける
次の2つの調査は、実験研究と観察研究のどちらでしょうか?
A. 市内の家庭100世帯について、テレビの視聴時間と子どもの睡眠時間を聞き取る。
B. 学習塾が生徒60人をくじで2組に分け、片方だけ新しい教材で授業をして、テストの結果を比べる。
【考え方】
- Aは、視聴時間を調べる人が決めていない。すでにある状態を記録しているだけである
- Bは、調べる人が教材の割り当てを決めている
答えは、Aが観察研究、Bが実験研究です。Bでは新しい教材の組が処理群、もとの教材の組が対照群です。
以上が、観察研究の弱点と使いどころについての説明です。
細かい用語を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「比べる相手を用意し、くじで分ける」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は実験の基本的な考え方について紹介しました。「効いた」と言うためには、効かなかった場合の姿を見せてくれる相手が必要です。その相手を公平に用意する工夫が、対照群と無作為割り付けでした。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 実験研究は調べる人が条件を割り当て、観察研究はそのまま記録する。
- 対照群は「もし処理をしなかったら」を見せてくれる比較の相手。
- 処理の効果は、処理群の変化から対照群の変化を引いて考える。
- 無作為に分けると、気づいていない違いも含めてスタートラインがそろう。
- 観察研究は原因の特定に弱いが、実験できない問題を調べられる。
キーワードのおさらい
- 実験研究: 調べる人が条件を決めて対象に手を加え、結果を比べる研究
- 観察研究: 手を加えず、すでにある状態を記録して調べる研究
- 処理群: 調べたい処理を受けるグループ
- 対照群: 処理を受けず、比較の相手になるグループ
- 無作為割り付け: くじ引きなどで処理群と対照群に分けること
- 偽薬(プラセボ): 見た目は同じで有効成分のない薬
さて、データの集め方が分かったので、ここからは集めたデータを見せる番です。4級で学んだグラフに加えて、株価のチャートのように、少し変わったグラフも読めるようになりましょう。
次回は、「1変数のグラフの見方・読み方」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。