統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

3級-2 データ分析の基本

母集団と標本 — 標本調査の仕組み

  • 母集団
  • 標本
  • 全数調査
  • 無作為抽出
  • 標本の大きさ
  • 乱数表
  • 国勢調査

はじめに

「テレビの世論調査、1,000人くらいに聞いただけで、なんで国民の意見が分かるの?」

ニュースで内閣の支持率を見ると、調査の対象はだいたい1,000人から2,000人ほどです。1億人を超える人が暮らす国で、そんなに少ない人数で足りるのか、不思議に思いますよね。

でも、みそ汁の味見を思い出してください。鍋の中身を全部飲み干さなくても、よくかき混ぜてからスプーンに一口とれば、全体の味は分かります。逆に、かき混ぜずに上澄みだけをすくうと、全体の味を間違えてしまいます。

実は、調査の良し悪しを決めるのは、人数の多さよりも「偏りなく選べているか」です。

そこで登場するのが、今回の主役 母集団 と 標本 です。4級でも、一部から全体を知るという標本調査の考え方を学びました。前回の記事では、変数と4つの尺度を整理しました。今回の記事では、データの集め方に話を進めて、全数調査と標本調査の違い、無作為抽出と乱数表の使い方、標本の大きさについて解説します。

母集団と標本:全体と一部

はじめに、母集団と標本について解説します。

母集団(population) は、調べたい対象の全体です。標本(sample) は、母集団の中から実際に選んで調べる一部です。鍋のみそ汁全体が母集団で、スプーンの一口が標本です。

注意したいのは、母集団は「知りたいこと」によって決まる点です。

例えば、ある中学校の生徒800人の睡眠時間を知りたいとします。そこで50人を選んで聞いたとしましょう。このとき、母集団は全校生徒800人で、標本は選ばれた50人です。

せっかくなので、別の例も見てみましょう。ある工場で今日作ったお菓子1万個の重さを知りたくて、100個を取り出して量ったとします。母集団は今日作った1万個で、標本は取り出した100個です。母集団は人とは限らず、製品でも、畑の区画でも構いません。

調査の流れは、次のようになります。

【標本調査の流れ】

  1. 知りたい全体(母集団)を決める
  2. 母集団から一部(標本)を選ぶ
  3. 標本を調べて、値を計算する
  4. その結果から、母集団の様子を推し量る

最後の手順が大切です。標本を調べること自体が目的ではなく、本当に知りたいのは母集団です。

以上が、母集団と標本についての解説です。

全数調査と標本調査

次に、全数調査と標本調査の違いについて説明します。

母集団のすべてを調べる方法を 全数調査 と言います。悉皆調査(しっかいちょうさ)とも呼ばれます。一方で、母集団の一部だけを調べる方法が 標本調査 です。鍋を全部飲むのが全数調査で、一口の味見が標本調査です。

全数調査の代表が 国勢調査 です。国勢調査は、日本に住むすべての人と世帯を対象に、5年に1度行われる国の調査です。人口や世帯の実態を正確につかみ、選挙区の区割りや行政の計画に使うために、全員を調べる必要があります。

では、全部調べるほうが常によいのでしょうか? そうとも言えません。全数調査には、大きな費用と時間がかかります。また、調べると壊れてしまうものには使えません。

例えば、電池が何時間もつかを調べるには、電池を使い切る必要があります。全数調査をすると、売る電池がなくなってしまいますよね。缶詰の中身の検査や、花火の検査も同じです。

全数調査標本調査
調べる範囲母集団のすべて母集団の一部
長所標本による誤差がない費用と時間が少ない
短所費用と時間が大きい標本による誤差が出る
例国勢調査、学校の健康診断世論調査、視聴率調査、製品の検査

試験のポイント:国勢調査は全数調査、世論調査や製品の検査は標本調査です。「調べると壊れるもの」は全数調査ができません。

以上が、全数調査と標本調査についての説明です。

無作為抽出と乱数表

続いて、標本の選び方について解説します。

標本調査で最も大切なのは、標本が母集団の縮図になっていることです。そのための方法が 無作為抽出(random sampling) です。無作為抽出は、母集団のどの要素も同じ確率で選ばれるように、くじ引きのように標本を選ぶ方法です。

「無作為」は「適当に」という意味ではありません。調べる人の好みや都合が入らないようにする、きちんとした手続きです。

例えば、学校の運動部の加入率を調べるのに、放課後のグラウンドにいる生徒に聞いたとします。運動部の生徒ばかりが答えるので、加入率は実際より高く出てしまいます。平日の昼に駅前で聞く調査なら、昼間に働いている人が入りにくくなります。これらはかき混ぜずに上澄みをすくった状態で、標本の 偏り と呼ばれます。

そこで使うのが 乱数表 です。乱数表は、0から9の数字がどれも同じ確率で、規則なく並んだ表です。この表を読むことで、くじ引きと同じことが紙の上でできます。

【乱数表で標本を選ぶ手順】

  1. 母集団の全員に番号を付ける
  2. 乱数表の読み始めの位置を決める
  3. 番号と同じ桁数ずつ、順に数字を読む
  4. 番号の範囲外の数字は飛ばす
  5. すでに選ばれた番号が出たら飛ばす
  6. 必要な人数が集まったら終わる

例題:乱数表で5人を選ぶ

40人のクラスの生徒に01から40の番号を付けました。次の乱数の列を左から2桁ずつ読み、5人の標本を選びましょう。

23 09 72 15 09 13 40 59 28 60

【解き方】

  1. 23: 範囲内なので選ぶ(1人目)
  2. 09: 範囲内なので選ぶ(2人目)
  3. 72: 40より大きいので飛ばす
  4. 15: 範囲内なので選ぶ(3人目)
  5. 09: すでに選ばれているので飛ばす
  6. 13: 範囲内なので選ぶ(4人目)
  7. 40: 範囲内なので選ぶ(5人目)

答えは、23番、09番、15番、13番、40番の5人です。5人そろったので、後の数字は使いません。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 現在の調査では、乱数表の代わりにコンピュータが作る乱数を使うのがふつうです。考え方は同じです。

以上が、無作為抽出と乱数表についての解説です。

標本の大きさ:何人調べるか

最後に、標本の大きさについて見ていきましょう。

標本の大きさ(sample size) は、標本に含まれる要素の個数です。記号 nn で表します。全校生徒800人から50人を選んだなら、標本の大きさは n=50n = 50 です。

ここで、言葉の使い方に注意が必要です。50人の標本を1組とったとき、標本の大きさは50ですが、標本の数は1です。「標本数50」と言うと、50組とったという意味に聞こえてしまいます。

標本が大きいほど、推し量った値は真の値に近づきます。例えば、母集団の支持率がちょうど50%のとき、無作為抽出で調べた支持率が、およそ95%の確率で収まる範囲を計算すると、次のようになります。

標本の大きさ nn標本の支持率のおよその範囲
10050% ± 10ポイント
40050% ± 5ポイント
1,60050% ± 2.5ポイント

標本を4倍にすると、ブレの幅が半分になっています。なぜそうなるかは、3級の後半の標本分布の記事で学びます。ここでは、1,000人から2,000人を無作為に選べば、数ポイントの幅で全体を推し量れるという点が分かれば十分です。

ここがポイントです。このブレの幅を決めるのは標本の大きさで、母集団の大きさにはほとんど左右されません。鍋が大きくても、よくかき混ぜてあれば、味見の量はスプーン一口で足りるのと同じです。これが、冒頭の世論調査の答えです。

でも、これには弱点があります。標本を大きくして減るのは、選び方の偶然によるブレだけです。偏った選び方をしていると、10万人に聞いても偏りは消えません。上澄みをいくら飲んでも、鍋の底の味は分からないのです。

例題:標本から全体を推し量る

生徒1,200人の高校から、無作為抽出で60人を選びました。そのうち45人が「朝食を毎日食べる」と答えました。全校で朝食を毎日食べる生徒は、およそ何人と考えられるでしょうか?

【解き方】

  1. 標本の比率を求める: 45 ÷ 60 = 0.75
  2. 母集団の人数を掛ける: 1,200 × 0.75 = 900

答えは、およそ900人です。無作為抽出の標本なら、標本の比率は母集団の比率に近いと考えられるので、全体の人数を見積もることができます。

試験のポイント:標本を大きくすると偶然のブレは小さくなりますが、選び方の偏りは直りません。無作為抽出が先で、人数はその次です。

以上が、標本の大きさについての説明です。

細かい数字を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「よくかき混ぜてから味見をする」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は母集団と標本、そして標本調査の仕組みについて紹介しました。少ない人数で全体が分かるのは、魔法ではありません。偏りなく選ぶという手続きを守っているからこそ、一部の結果を全体の話として使えるのです。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 母集団は鍋全体、標本はスプーンの一口。本当に知りたいのは母集団。
  • 全数調査は正確だが費用と時間が大きく、調べると壊れるものには使えない。
  • 無作為抽出は「適当に」ではなく、どの要素も同じ確率で選ばれるようにする手続き。
  • 乱数表は、範囲外と重複を飛ばしながら読む。
  • 標本を大きくすると偶然のブレは減るが、選び方の偏りは消えない。

キーワードのおさらい

  • 母集団: 調べたい対象の全体
  • 標本: 母集団から選んで実際に調べる一部
  • 全数調査: 母集団のすべてを調べる調査
  • 無作為抽出: 母集団のどの要素も同じ確率で選ばれるように標本を選ぶ方法
  • 標本の大きさ: 標本に含まれる要素の個数
  • 乱数表: 0から9の数字が同じ確率で規則なく並んだ表
  • 国勢調査: 日本に住むすべての人と世帯を対象に5年に1度行う全数調査

さて、ここまでは、すでにある全体の様子を調べる話でした。では、「この勉強法は本当に効くのか」のように、原因と効果を確かめたいときはどうすればよいでしょうか?

次回は、「実験の基本的な考え方」について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. ある市の小学6年生3,000人の体力を知るために、200人を選んで測定した。このときの母集団と標本の説明として正しいものはどれか。
問2. 全数調査が適さない調査として最も適切なものはどれか。
問3. 50人の生徒に01から50の番号を付け、乱数の列 94 46 32 19 89 05 95 42 を左から2桁ずつ読んで4人を選ぶ。4人目に選ばれる番号はどれか。
問4. 標本の大きさについての説明として、最も適切なものはどれか。
問5. 900個の製品から無作為抽出で30個を調べたところ、不良品が3個あった。900個の中の不良品の個数の見積もりとして最も適切なものはどれか。