3級-18 データ分析の基本
区間推定 — 母平均・母比率
- 母平均の区間推定
- 母比率の区間推定
はじめに
「平均いくらって言い切って、外れたらどうするの?」
ある学校の生徒を無作為に36人選んで通学時間を聞くと、平均は42分でした。ここから「この学校の全校生徒の平均通学時間は42分です」と言い切れるでしょうか? 別の36人を選べば、41分や44分になるかもしれません。ぴったり42分と言い切るのは、少し無理がありますよね。
魚釣りに例えてみましょう。魚がいる1点を銛で突くのは、とても難しいことです。でも、網を広げて投げれば、かなりの確率で魚を捕まえられます。
実は、統計学でも同じ発想をします。1つの値で言い切る代わりに、「このあたりにあるはず」という幅で答えるのです。しかも、その答えがどれくらい信頼できるかを数字で示せます。
そこで登場するのが、今回の主役 区間推定 です。
前回の記事では、標本平均や標本比率がどのようにぶれるかを学びました。今回の記事では、そのぶれの大きさを使って、母平均の区間推定 と 母比率の区間推定 を行う方法について解説します。
点推定から区間推定へ
はじめに、区間推定の考え方について解説します。
標本の値を使って母数を言い当てることを 推定 と言います。推定には2つの方法があります。
【2つの推定】
- 点推定: 母数を1つの値で言い当てる(銛で突く)
- 区間推定: 母数が入りそうな範囲で言い当てる(網を投げる)
区間推定で求める範囲を 信頼区間 と言います。そして、その方法で母数をとらえられる確率を 信頼係数 と言います。ふつうは95%や99%を使います。
なぜ範囲が作れるのでしょうか? 前回の記事を思い出しましょう。標本平均 は、平均 、標準誤差 の正規分布に従いました。正規分布では、平均 ± 1.96 標準偏差の範囲に95%が入ります。
つまり、標本平均の95%は、母平均から「1.96 × 標準誤差」以内の距離にあります。距離は、どちらから見ても同じです。そこで見方を裏返して、「母平均は、標本平均から 1.96 × 標準誤差 以内にあるだろう」と考えるのです。
散歩中の犬と飼い主を想像してください。リードの長さが決まっていれば、犬の居場所が分かると、飼い主はその近くにいると言えますよね。犬が標本平均、飼い主が母平均、リードの長さが 1.96 × 標準誤差です。
ここで、95%の意味を正しく押さえましょう。とても間違えやすいところです。
母平均は、まだ分からないだけで、1つの決まった値です。動くのは区間のほうです。輪投げで考えてみましょう。地面に立っている杭が母平均で、投げる輪が信頼区間です。杭は動きません。輪を投げるたびに、着地する場所が変わります。「信頼係数95%」とは、この投げ方をくり返すと、100回のうち約95回は輪が杭に入る、という意味です。
試験のポイント:信頼係数95%は「同じ方法で区間を何度も作ると、そのうち約95%の区間が母数を含む」という意味です。「母平均が95%の確率でこの区間の中を動く」という説明は誤りです。
以上が、区間推定の考え方についての解説です。
母平均の区間推定
次に、母平均の区間推定について説明します。
母分散 が分かっている母集団で、大きさ の標本の平均が のとき、母平均 の95%信頼区間は次の式で求めます。
記号の意味は、 が標本平均の値、 が母標準偏差、 が標本の大きさです。言葉で言うと、「標本平均 ± 1.96 × 標準誤差」です。
99%信頼区間にしたいときは、1.96を2.58に変えます。標準正規分布で、中央の99%が入る範囲が ± 2.58 だからです。
例題:平均通学時間の信頼区間
ある学校の生徒から無作為に36人を選ぶと、通学時間の平均は42分でした。母標準偏差を12分として、全校生徒の平均通学時間の95%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 標準誤差を求める:
- 幅を求める: 1.96 × 2 = 3.92
- 標本平均から引いて足す: 42 − 3.92 = 38.08、42 + 3.92 = 45.92
答えは、38.08分以上45.92分以下です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。あるラーメン店で64人の待ち時間を調べると、平均は20分でした。母標準偏差は8分とします。標準誤差は 8 ÷ 8 = 1 なので、95%信頼区間は 20 ± 1.96 で、18.04分から21.96分です。99%信頼区間は 20 ± 2.58 で、17.42分から22.58分です。
99%のほうが、幅が広いですね。より確実にとらえたいなら、網を大きく広げる必要があるのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 実際には母標準偏差が分からないことが多いです。 が十分に大きければ、標本の標準偏差で代用して同じ式を使います。 が小さいときに使う 分布は、2級で学びます。
以上が、母平均の区間推定についての説明です。
母比率の区間推定
続いて、母比率の区間推定について解説します。
考え方は母平均と同じです。前回の記事で学んだように、標本比率 は、 が大きいとき、平均 、標準偏差 の正規分布で近似できます。
ただし、1つ困ることがあります。標準偏差の式に、知りたいはずの が入っているのです。そこで、 の代わりに標本比率 を使います。すると、母比率 の95%信頼区間は次のようになります。
言葉で言うと、「標本比率 ± 1.96 × 標本比率の標準誤差」です。形は母平均のときとそっくりです。
例題:賛成する人の割合の信頼区間
無作為に選んだ400人のうち、240人が新しい公園の計画に賛成しました。賛成する人の母比率の95%信頼区間を求めましょう。
【解き方】
- 標本比率を求める:
- 標準誤差を求める:
- 幅を求める: 1.96 × 0.0245 ≒ 0.048
- 標本比率から引いて足す: 0.6 − 0.048 = 0.552、0.6 + 0.048 = 0.648
答えは、約0.552以上0.648以下です。賛成は55.2%から64.8%の間にありそうだと言えます。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。900世帯を調べて、ある番組の視聴率が10%でした。標準誤差は なので、95%信頼区間は 0.1 ± 0.0196 で、約8.0%から12.0%です。視聴率が1ポイント上下しても、この幅の中では誤差のうちなのです。
試験のポイント:母比率の区間推定では、標準誤差の式の に標本比率 を入れます。
以上が、母比率の区間推定についての解説です。
区間の幅を決めるもの
最後に、信頼区間の幅が何で決まるのかを見ていきましょう。
ここまでの例から、区間の幅を決める要素が2つ見えてきます。
【信頼区間の幅】
- 信頼係数を大きくする(95% → 99%): 幅は広くなる
- 標本の大きさ を大きくする: 幅は狭くなる
天気予報を想像してください。「明日の気温は0度から40度の間です」と言えば、ほぼ確実に当たりますが、役に立ちません。「明日は25度ちょうどです」と言えば便利ですが、外れやすくなります。確実さと細かさは、綱引きの関係にあります。
この綱引きを両方とも解決する方法が、標本を増やすことです。ただし、前回の記事のとおり、幅は に比例して狭くなります。幅を半分にするには、標本は4倍必要です。
この関係を逆に使うと、調査に必要な人数を見積もれます。
例題:必要な標本の大きさ
世論調査で、母比率の95%信頼区間を標本比率 ± 0.03(± 3ポイント)以内に収めたいとします。標本比率がいくつになるか分からないので、幅が最も大きくなる として考えます。少なくとも何人に調査すればよいでしょうか?
【解き方】
- 幅の式を立てる:
- について解く:
- 2乗する:
答えは1,068人です。割り切れないときは切り上げます。世論調査の対象が1,000人から2,000人ほどのことが多いのは、このためです。
以上が、信頼区間の幅についての説明です。
細かい計算を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「信頼区間は標本の値 ± 1.96 × 標準誤差で、 が大きいほど狭くなる」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は標本から母数の範囲を求める区間推定について紹介しました。1つの値で言い切るのではなく、幅を持たせて答え、その確かさを数字で示す。これが、一部のデータから全体を語るときの誠実な答え方です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 点推定は銛で突くこと、区間推定は網を投げること。
- 95%信頼区間は「標本の値 ± 1.96 × 標準誤差」で、99%なら2.58を使う。
- 母数は杭で、信頼区間は輪。95%は輪が杭に入る割合のこと。
- 母比率の区間推定では、標準誤差の中の に を入れる。
- 信頼係数を上げると幅は広がり、 を増やすと幅は狭まる。
キーワードのおさらい
- 点推定: 母数を1つの値で推定すること
- 区間推定: 母数が入りそうな範囲を推定すること
- 信頼区間: 区間推定で求めた範囲
- 信頼係数: 同じ方法で作った区間が母数を含む割合
- 母平均の区間推定: 標本平均 ± 1.96 × で求める(95%のとき)
- 母比率の区間推定: 標本比率 ± 1.96 × で求める(95%のとき)
さて、区間推定は「母数はどのあたりか」に答える道具でした。一方で、「この薬は本当に効くのか」「このコインはいかさまか」のように、はい・いいえで判断したい問いもありますよね。
次回は、3級の最後の記事として、データで仮説を確かめる「仮説検定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。