統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

3級-19 データ分析の基本

仮説検定 — 母平均・母比率

  • 母平均の仮説検定
  • 母比率の仮説検定

はじめに

「このコイン、10回投げて9回も表が出た。いかさまじゃない?」

友達のコインでこんな結果が出たら、あなたはどう判断しますか? 「たまたまだよ」と言われると、そんな気もします。でも、さすがに偏りすぎている気もしますよね。

ふだん私たちは、こういう判断を勘で行っています。しかし、新しい薬が効くのか、工場の製品が基準を満たしているのかといった問題を、勘で決めるわけにはいきません。

実は、統計学には「たまたまでは説明がつかないか」を確率で判断する、決まった手順があります。

そこで登場するのが、今回の主役 仮説検定 です。

前回の記事では、標本から母数の範囲を求める区間推定を学びました。今回の記事では、3級の締めくくりとして、仮説検定の考え方と、母平均の仮説検定、母比率の仮説検定 の手順について解説します。

仮説検定の考え方:まず「たまたま」を疑う

はじめに、仮説検定の考え方について解説します。

仮説検定を一言で言うと、「たまたまだと仮定して、それでは説明がつかないなら、その仮定を捨てる」という方法です。

裁判に例えてみましょう。裁判では、被告人はまず無罪だと仮定されます。そのうえで、「無罪だとすれば説明がつかない証拠」が十分そろったときに、有罪と判断します。証拠が足りなければ無罪のままです。ただしそれは、「無実が証明された」という意味ではありません。

仮説検定も、まったく同じ流れです。

【仮説検定の用語】

  • 帰無仮説(null hypothesis): 「差はない」「たまたまだ」という、捨てたい仮説。H0H_0 と書く(裁判の「無罪」)
  • 対立仮説(alternative hypothesis): 本当に言いたい仮説。H1H_1 と書く(裁判の「有罪」)
  • 有意水準: 「これより小さい確率なら、たまたまとは言えない」と決める基準。α\alpha と書き、ふつうは0.05か0.01を使う
  • 検定統計量: 判断に使うために標本から計算する値
  • 棄却: 帰無仮説を捨てること

冒頭のコインで考えてみましょう。帰無仮説は「このコインは公平で、表の確率は1/2」です。対立仮説は「表が出やすい」です。

帰無仮説が正しいとして、10回中9回以上表が出る確率を計算します。二項分布を使うと、9回の確率は 10/1024、10回の確率は 1/1024 なので、合計は 11/1024 ≒ 0.011 です。

このように、帰無仮説のもとで、実際の結果かそれ以上に極端な結果が起こる確率を p値 と言います。0.011は有意水準の0.05より小さいので、「たまたまとは言いにくい」と判断して、帰無仮説を棄却します。つまり、いかさまの疑いありです。

手順をまとめると、次のようになります。

【仮説検定の5つの手順】

  1. 帰無仮説と対立仮説を立てる
  2. 有意水準を決める
  3. 検定統計量を計算する
  4. 棄却域と比べる(または p値と有意水準を比べる)
  5. 結論を述べる

棄却域 とは、検定統計量がその範囲に入ると帰無仮説を棄却する、という領域です。

また、「違いがあるか」を調べる検定を 両側検定、「大きいか」「小さいか」の一方向だけを調べる検定を 片側検定 と言います。検定統計量 ZZ の棄却域は、次のように変わります。

【有意水準5%の棄却域】

  • 両側検定(H1:μ≠μ0H_1: \mu \neq \mu_0): Z≤−1.96Z \le -1.96 または Z≥1.96Z \ge 1.96
  • 片側検定(H1:μ>μ0H_1: \mu > \mu_0): Z≥1.645Z \ge 1.645
  • 片側検定(H1:μ<μ0H_1: \mu < \mu_0): Z≤−1.645Z \le -1.645

両側検定は5%を左右に2.5%ずつ分けるので1.96、片側検定は5%を片方に全部置くので1.645です。有意水準1%の両側検定なら、2.58を使います。

以上が、仮説検定の考え方についての解説です。

母平均の仮説検定

次に、母平均の仮説検定について説明します。

母平均が基準の値 μ0\mu_0 と等しいかを調べます。母標準偏差 σ\sigma が分かっているとき、検定統計量は次の式で求めます。

Z=xˉ−μ0σ/nZ = \frac{\bar{x} - \mu_0}{\sigma / \sqrt{n}}

記号の意味は、xˉ\bar{x} が標本平均、μ0\mu_0 が帰無仮説の母平均、σ/n\sigma/\sqrt{n} が標準誤差です。言葉で言うと、「標本平均が、基準の値から標準誤差いくつ分離れているか」です。ZZ は、帰無仮説が正しければ標準正規分布に従うので、絶対値が大きいほど「たまたま」では説明しにくくなります。

例題:内容量は表示どおりか(両側検定)

お菓子の袋に「内容量100g」と表示されています。36袋を無作為に調べると、平均は98gでした。母標準偏差を6gとして、表示と違うかどうかを有意水準5%で検定しましょう。

【解き方】

  1. 仮説を立てる: H0:μ=100H_0: \mu = 100、H1:μ≠100H_1: \mu \neq 100
  2. 有意水準は0.05で、両側検定なので棄却域は ∣Z∣≥1.96|Z| \ge 1.96
  3. 検定統計量を計算する: Z=(98−100)÷(6÷36)=−2Z = (98 - 100) \div (6 \div \sqrt{36}) = -2
  4. 棄却域と比べる: ∣−2∣=2≥1.96|-2| = 2 \ge 1.96 なので棄却域に入る
  5. 結論: 帰無仮説を棄却する

答えは、「平均内容量は100gと異なると判断する」です。

ここで、前回の区間推定との関係を見てみましょう。この標本の95%信頼区間は 98 ± 1.96 で、96.04gから99.96gです。100gが区間の外にありますね。実は、有意水準5%の両側検定で棄却されることと、95%信頼区間に μ0\mu_0 が含まれないことは同じ意味です。

例題:平均点は上がったか(片側検定)

全国平均が60点の試験で、ある塾の36人の平均は64.5点でした。母標準偏差を15点として、全国より高いと言えるかを有意水準5%で検定しましょう。

【解き方】

  1. 仮説を立てる: H0:μ=60H_0: \mu = 60、H1:μ>60H_1: \mu > 60
  2. 片側検定なので、棄却域は Z≥1.645Z \ge 1.645
  3. 検定統計量を計算する: Z=(64.5−60)÷(15÷36)=4.5÷2.5=1.8Z = (64.5 - 60) \div (15 \div \sqrt{36}) = 4.5 \div 2.5 = 1.8
  4. 棄却域と比べる: 1.8 ≧ 1.645 なので棄却域に入る

答えは、「全国平均より高いと判断する」です。

ただし、もし「違いがあるか」を調べる両側検定だったら、1.8は1.96より小さいので棄却できません。どちらの検定にするかで結論が変わることがあります。そのため、片側か両側かは、データを見る前に問いから決めます。

試験のポイント:問題文が「異なるか」なら両側検定、「大きいか」「小さいか」「増えたか」なら片側検定です。

以上が、母平均の仮説検定についての説明です。

母比率の仮説検定

続いて、母比率の仮説検定について解説します。

母比率が基準の値 p0p_0 と等しいかを調べます。nn が大きいとき、検定統計量は次の式で求めます。

Z=p^−p0p0(1−p0)/nZ = \frac{\hat{p} - p_0}{\sqrt{p_0(1-p_0)/n}}

言葉で言うと、「標本比率が、基準の値から標準偏差いくつ分離れているか」です。

ここがポイントです。分母の標準偏差には、標本比率 p^\hat{p} ではなく、帰無仮説の p0p_0 を使います。区間推定では母比率が分からないので p^\hat{p} で代用しましたが、検定では「H0H_0 が正しい世界」を仮定して計算するので、p0p_0 が使えるのです。

例えば、コインを100回投げて62回表が出たとします。公平なら p0=0.5p_0 = 0.5 です。分母は 0.5×0.5÷100=0.05\sqrt{0.5 \times 0.5 \div 100} = 0.05 で、Z=(0.62−0.5)÷0.05=2.4Z = (0.62 - 0.5) \div 0.05 = 2.4 です。両側検定の棄却域に入るので、公平とは言えないと判断します。

例題:支持率は過半数か

市長選の調査で、無作為に選んだ400人のうち216人がAさんを支持すると答えました。Aさんの支持率が過半数を超えていると言えるかを、有意水準5%で検定しましょう。

【解き方】

  1. 仮説を立てる: H0:p=0.5H_0: p = 0.5、H1:p>0.5H_1: p > 0.5
  2. 片側検定なので、棄却域は Z≥1.645Z \ge 1.645
  3. 標本比率を求める: p^=216÷400=0.54\hat{p} = 216 \div 400 = 0.54
  4. 検定統計量を計算する: Z=(0.54−0.5)÷0.5×0.5÷400=0.04÷0.025=1.6Z = (0.54 - 0.5) \div \sqrt{0.5 \times 0.5 \div 400} = 0.04 \div 0.025 = 1.6
  5. 棄却域と比べる: 1.6 は 1.645 より小さいので、棄却域に入らない

答えは、「過半数を超えているとは言えない」です。標本では54%でも、この人数では、本当は50%の場合のぶれとして説明がついてしまうのです。

試験のポイント:母比率の検定の分母は p0(1−p0)/n\sqrt{p_0(1-p_0)/n} で、区間推定の分母 p^(1−p^)/n\sqrt{\hat{p}(1-\hat{p})/n} とは違います。

以上が、母比率の仮説検定についての解説です。

検定の結果を正しく読む

最後に、検定の結果を読むときの注意点を見ていきましょう。

検定で帰無仮説を棄却したとき、「統計的に 有意 である」と言います。ただし、この言葉はよく誤解されます。

【検定の結果を読む3つの注意点】

  1. 棄却できないことは、帰無仮説が正しいという証明ではない
  2. p値は、帰無仮説が正しい確率ではない
  3. 有意であることは、差が大きいことを意味しない

1つずつ見ていきましょう。

1. 棄却できないのは「証拠不足」

裁判で証拠不足のときと同じです。棄却できなかったときの結論は「差があるとは言えない」で、「差がない」と言い切ってはいけません。先ほどの支持率の例でも、調査の人数を増やせば、過半数と言える可能性は残ります。

2. p値の意味

p値は「帰無仮説が正しいとしたときに、これほど極端な結果が出る確率」です。天気で言えば、「晴れの予報が正しいとして、これほど黒い雲が出る確率」のようなものです。「晴れの予報が正しい確率」ではありません。α\alpha と比べて、p値 ≦ α\alpha なら棄却します。

3. 有意と差の大きさは別

ZZ の分母は標準誤差なので、nn を増やすと、ごくわずかな差でも有意になります。例えば、1万人の調査で0.1点の差が有意だとしても、実際の役に立つ差とは限りません。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 検定にも誤りはあります。正しい帰無仮説を棄却してしまう誤りと、誤った帰無仮説を棄却できない誤りです。この2種類の誤りは、2級で詳しく学びます。

以上が、検定の結果の読み方についての説明です。

細かい手順を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「たまたまだと仮定して、説明がつかなければ棄却する」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回はデータで仮説を確かめる仮説検定について紹介しました。「たまたまだと仮定して、その世界でこの結果がどれほど珍しいかを計算する」。この裁判のような発想が、薬の効果から製品の品質まで、社会のさまざまな判断を支えています。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 帰無仮説は裁判の「無罪」。まず仮定して、説明がつかなければ棄却する。
  • p値は、帰無仮説のもとでこれほど極端な結果が出る確率。
  • 有意水準5%の棄却域は、両側検定で ±1.96、片側検定で 1.645。
  • 母平均の検定は標準誤差 σ/n\sigma/\sqrt{n} で割り、母比率の検定は p0p_0 を使った標準偏差で割る。
  • 棄却できないのは証拠不足で、帰無仮説の証明ではない。

キーワードのおさらい

  • 仮説検定: データをもとに仮説が正しいかを確率で判断する方法
  • 帰無仮説: 差がないとする、棄却したい仮説
  • 対立仮説: 帰無仮説を棄却したときに主張する仮説
  • 有意水準: 帰無仮説を棄却する基準の確率
  • 検定統計量: 判断に使うために標本から計算する値
  • 棄却域: 検定統計量が入ると帰無仮説を棄却する領域
  • p値: 帰無仮説のもとで、実際の結果かそれ以上に極端な結果が起こる確率
  • 両側検定と片側検定: 違いを両方向で調べるか、一方向で調べるかの違い
  • 母平均の仮説検定: 標本平均と基準の値の差を標準誤差で割る検定
  • 母比率の仮説検定: 標本比率と基準の値の差を p0p_0 の標準偏差で割る検定

ここまでお疲れさまでした。これで3級の範囲はすべて終わりです。

データの集め方から、グラフと集計、代表値と散らばり、相関と回帰、確率と分布、そして推定と検定まで、統計学の全体像を一周しました。

次の2級では、この土台の上に積み上げます。母標準偏差が分からないときに使う tt 分布、2つのグループを比べる検定、検定の2種類の誤りなど、実際のデータ分析に欠かせない道具がそろいます。その最初の記事では、分析の出発点に戻って、データの探し方と公的統計について紹介します。

それでは、2級へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 「ある工場の製品の平均重量は、基準の50gと異なるか」を検定する。帰無仮説と対立仮説の組として正しいものはどれか。
問2. 母標準偏差が20の母集団で、H0:μ=200H_0: \mu = 200、H1:μ≠200H_1: \mu \neq 200 を有意水準5%で検定する。大きさ100の標本の平均が204のとき、正しいものはどれか。
問3. H0:p=0.2H_0: p = 0.2 の検定で、大きさ100の標本のうち30がある性質を持っていた。検定統計量 ZZ の値として正しいものはどれか。
問4. ある検定で p値が0.03だった。正しいものはどれか。
問5. 検定の結果、帰無仮説を棄却できなかった。このときの解釈として、最も適切なものはどれか。