3級-10 データ分析の基本
散らばりの指標 — 分散と標準偏差
- 最小値
- 最大値
- 範囲
- 四分位数
- 四分位範囲
- 分散
- 標準偏差
- 偏差値
- 変動係数
はじめに
「このバス、平均10分で来るらしいよ。じゃあ安心だね」
本当にそうでしょうか? 2つの路線を考えてみましょう。路線Aは毎回8分から12分で来ます。路線Bは2分で来る日もあれば、18分待たされる日もあります。待ち時間の平均は、どちらも10分です。でも、朝の忙しいときに乗りたいのは、断然Aのほうですよね。
実は、平均値だけではデータの半分しか分かりません。もう半分は、値がどれだけ散らばっているかです。
そこで登場するのが、今回の主役 分散 と 標準偏差 です。どちらも「平均からどれくらいズレているか」を1つの数で表します。統計学のこの先ずっと使う、最も大切な道具です。
前回の記事では、代表値でデータの中心を表しました。今回の記事では、範囲や四分位数を思い出してから、分散、標準偏差、偏差値、変動係数について解説します。
範囲と四分位数:順番で広がりを見る
はじめに、順番を使った散らばりの指標について解説します。
4級で学んだように、データの中で最も小さい値が 最小値、最も大きい値が 最大値 で、その差が 範囲 です。手軽に計算できますが、両端の2つの値しか見ていません。
そこで、データの真ん中の部分に注目するのが 四分位数 です。背の順に並んだ列を、3本の仕切りで同じ人数の4グループに分けると考えてください。仕切りの位置の値が四分位数です。
【3つの四分位数】
- 第1四分位数 : 小さいほうから約25%の位置
- 第2四分位数 : 真ん中の位置。中央値と同じ
- 第3四分位数 : 小さいほうから約75%の位置
求め方はシンプルです。まず中央値でデータを前半と後半に分けます。前半の中央値が 、後半の中央値が です。データの個数が奇数のときは、中央値そのものは前半にも後半にも入れません。
そして、 と の差を 四分位範囲 と言います。
言葉で言うと、真ん中の約半分のデータが収まる幅です。
具体的に見てみましょう。9個のデータ 2, 4, 5, 7, 8, 10, 12, 13, 20 を考えます。
【求める手順】
- 中央値は5番目の8で、これが
- 前半 2, 4, 5, 7 の中央値が : (4 + 5) ÷ 2 = 4.5
- 後半 10, 12, 13, 20 の中央値が : (12 + 13) ÷ 2 = 12.5
- 四分位範囲: 12.5 − 4.5 = 8
範囲は 20 − 2 = 18 です。ここで最大値の20が200に変わったとしましょう。範囲は198に跳ね上がりますが、四分位範囲は8のままです。つまり、四分位範囲は外れ値に強い指標です。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 四分位数の定め方にはいくつかの流儀があり、統計ソフトによって値が少し変わることがあります。問題文に定め方が書かれていたら、それに従ってください。
以上が、順番を使った散らばりの指標についての解説です。
分散と標準偏差:平均からのズレをならす
次に、分散と標準偏差について説明します。
前回の記事で、平均値からのズレを偏差と呼びました。ズレの平均を求めれば散らばりが分かりそうですが、問題があります。偏差を足すと、必ず0になってしまうのです。プラスとマイナスが打ち消し合うからです。
そこで、偏差を2乗します。2乗すれば、マイナスのズレもプラスになります。ダーツを思い浮かべてください。的の中心の左に外れても右に外れても、外れは外れです。中心からの距離だけを問題にしたい、ということです。
この2乗した偏差の平均が 分散 です。
は個数、 はそれぞれの値、 は平均値です。言葉で言うと、「偏差を2乗して、全部足して、個数で割る」です。
ただし、2乗したので単位も2乗になります。分の分散は「分の2乗」で、意味がつかみにくいですよね。そこで平方根をとって、もとの単位に戻したものが 標準偏差 です。
標準偏差は、「平均からのズレの標準的な大きさ」と考えてください。
冒頭のバスで計算してみましょう。
【路線Aと路線Bの計算】
| 路線A | 路線B | |
|---|---|---|
| 待ち時間(分) | 8, 9, 10, 11, 12 | 2, 6, 10, 14, 18 |
| 平均値 | 10 | 10 |
| 偏差 | −2, −1, 0, 1, 2 | −8, −4, 0, 4, 8 |
| 偏差の2乗の合計 | 4 + 1 + 0 + 1 + 4 = 10 | 64 + 16 + 0 + 16 + 64 = 160 |
| 分散 | 10 ÷ 5 = 2 | 160 ÷ 5 = 32 |
| 標準偏差 | 約1.41分 | 約5.66分 |
平均値は同じなのに、標準偏差は4倍も違います。「路線Bは読めない」という実感が、数字になりました。
試験のポイント:3級では、データの散らばりを表す分散は で割る形を基本に考えます。問題文に で割ると書かれているときは、その指定に従います。 で割る理由は上の級で学びます。
計算には、次の便利な式も使えます。
言葉で言うと、「2乗の平均 − 平均の2乗」です。路線Bなら、2乗の合計は660、その平均は132で、132 − 100 = 32 となり、同じ値になります。
もう1つ、値を変換したときの動きを押さえましょう。全員の点数に5点足しても、全員が同じだけ動くので、散らばりは変わりません。一方、全部の値を2倍すると、ズレも2倍になります。地図を2倍に拡大すると、町と町の距離も2倍になるのと同じです。
| 変換(a は正の数) | 平均値 | 分散 | 標準偏差 |
|---|---|---|---|
| すべてに b を足す | b 増える | 変わらない | 変わらない |
| すべてを a 倍する | a 倍 | a² 倍 | a 倍 |
以上が、分散と標準偏差についての説明です。
偏差値:ものさしをそろえて比べる
続いて、偏差値について解説します。
国語も数学も80点だったとします。どちらが得意と言えるでしょうか? 平均点が違えば、散らばりも違うので、そのままでは比べられません。長さの測り方が、cmとインチで違うようなものです。
そこで、平均からのズレが標準偏差の何個ぶんかを計算します。これを 標準化 と言い、求めた値を で表します。
標準化すると、どのデータも平均が0、標準偏差が1にそろいます。ただし はマイナスや小数になって扱いにくいので、平均50、標準偏差10に変換したものが 偏差値 です。
具体的に見てみましょう。
【2教科の偏差値】
- 国語(平均70点、標準偏差5点): 50 + 10 × (80 − 70) ÷ 5 = 70
- 数学(平均60点、標準偏差20点): 50 + 10 × (80 − 60) ÷ 20 = 60
平均からのズレは数学のほうが大きいですが、数学はみんなが散らばっているので、20点のズレは標準偏差1個ぶんにすぎません。国語は散らばりが小さい中での10点なので、標準偏差2個ぶんです。集団の中で目立っているのは国語のほうです。
例題:偏差値から得点を求める
平均点62点、標準偏差8点のテストで、偏差値が65でした。得点は何点でしょうか?
【解き方】
- 偏差値の式に入れる: 65 = 50 + 10 × (x − 62) ÷ 8
- 50を移して10で割る: (x − 62) ÷ 8 = 1.5
- 8を掛けて62を足す: x = 62 + 12 = 74
答えは74点です。偏差値が50より15高いことは、平均より標準偏差1.5個ぶん高いことを表します。
補足(ここは読み飛ばしてOK): データが左右対称の山型(正規分布)に近いとき、偏差値60以上の人は全体の約16%です。正規分布は後の記事で学びます。
以上が、偏差値についての解説です。
変動係数:平均の違うものを比べる
最後に、変動係数を見ていきましょう。
象の体重が10kg変わっても誰も気づきませんが、猫の体重が10kg変わったら大事件です。同じ散らばりでも、もとの大きさによって重みが違うのです。
そこで、標準偏差を平均値で割ります。これが 変動係数 です。
は標準偏差、 は平均値です。言葉で言うと、「標準偏差は平均値の何倍か」を表します。100倍して%で表すこともあります。分子と分母の単位が打ち消されるので、単位がなくなります。そのため、平均の大きさが違うものだけでなく、身長(cm)と体重(kg)のように単位が違うものの散らばりも比べられます。
例えば、大人の体重が平均60kg、標準偏差6kg、子猫の体重が平均1kg、標準偏差0.2kgだったとします。標準偏差は大人のほうが大きいですが、変動係数は大人が 6 ÷ 60 = 0.1、子猫が 0.2 ÷ 1 = 0.2 で、相対的な散らばりは子猫のほうが大きいと言えます。
ただし、弱点もあります。変動係数は、0に「何もない」という意味がある比例尺度で、値が正のデータにしか使えません。摂氏の気温のような間隔尺度では、0度に特別な意味がないので、割り算の結果に意味がないのです。
例題:変動係数で比べる
商品Aの1日の売上は平均400円、標準偏差40円でした。商品Bの1日の売上は平均2,000円、標準偏差120円でした。相対的な散らばりが大きいのはどちらでしょうか?
【解き方】
- Aの変動係数: 40 ÷ 400 = 0.10
- Bの変動係数: 120 ÷ 2,000 = 0.06
答えはAです。標準偏差はBのほうが大きいですが、平均に対する散らばりはAのほうが大きくなります。
試験のポイント:平均や単位の異なるデータの散らばりを比べるときは、標準偏差ではなく変動係数を使います。
以上が、変動係数についての説明です。
細かい公式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「偏差を2乗してならしたものが分散で、平方根でもとの単位に戻したものが標準偏差」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回はデータの散らばりを数で表す指標について紹介しました。平均値が「どこにいるか」を語るなら、散らばりの指標は「どれくらい頼りになるか」を語ります。この2つがそろって、はじめてデータの姿が見えてきます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 範囲は手軽だが両端しか見ない。四分位範囲は真ん中の約半分の幅で、外れ値に強い。
- 分散は偏差の2乗の平均。標準偏差はその平方根で、もとの単位に戻る。
- 値に同じ数を足しても散らばりは変わらない。 倍すると分散は 倍、標準偏差は 倍。
- 偏差値はものさしをそろえる道具で、平均50、標準偏差10になる。
- 変動係数は標準偏差を平均値で割った値で、平均や単位の違うものを比べられる。
キーワードのおさらい
- 最小値・最大値: データの中で最も小さい値・最も大きい値
- 範囲: 最大値 − 最小値
- 四分位数: データを小さい順に4等分する3つの値
- 四分位範囲: 第3四分位数 − 第1四分位数
- 分散: 偏差の2乗の平均
- 標準偏差: 分散の正の平方根
- 偏差値: 50 + 10 × (値 − 平均値) ÷ 標準偏差
- 変動係数: 標準偏差 ÷ 平均値
さて、ここまでは1つの変数の散らばりを見てきました。では、勉強時間と点数のように、2つの変数が一緒に動く様子は、どう数で表せばよいのでしょうか? 今回の偏差が、ここでも主役になります。
次回は、「共分散と相関係数」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。