4級-3 データの読み方の基礎
標本調査 — 一部から全体を知る
- 母集団と標本
- 無作為抽出
- 世論調査
はじめに
「内閣支持率って、たった千人くらいに聞いただけで分かるの?」
ニュースで支持率を見て、こう思ったことはありませんか? 日本の有権者は1億人くらいいます。自分は一度も電話をもらったことがないのに、「国民の4割が支持」と言われても、少し不思議な感じがしますよね。
ここで、台所を思い浮かべてみましょう。お味噌汁の味を確かめるとき、鍋を全部飲み干す人はいません。よくかき混ぜて、小皿に一口とって味見をします。それでも、鍋全体の味はちゃんと分かります。
実は、支持率の調査もこれと同じ考え方です。全員を調べなくても、選び方さえ正しければ、一部から全体の様子を知ることができます。
そこで登場するのが、今回の主役 標本調査 です。
前回の記事では、データの種類を見ました。今回の記事では、データの集め方に戻って、一部を調べて全体を知る標本調査の意味と、偏らせないための 無作為抽出 について解説します。
全数調査と標本調査
はじめに、調査の2つの方法について解説します。
調べたい対象の全員を調べる方法を 全数調査 と言います。一部だけを選んで調べる方法を 標本調査 と言います。
全数調査の代表が、国勢調査です。5年に1度、日本に住むすべての人と世帯を対象に行われます。学校の身体測定も、全員を測るので全数調査です。
全数調査なら、対象全体の正確な値が分かります。それなのに、なぜ標本調査が必要なのでしょうか? 理由は大きく2つあります。
【標本調査を使う理由】
- 全員を調べると、時間とお金がかかりすぎる
- 調べると商品が壊れてしまい、全部は調べられない
1つ目は分かりやすいですよね。国勢調査は、たくさんの人手とお金をかけて、5年に1度だけ行う大仕事です。毎月の支持率を同じやり方で調べるのは、現実的ではありません。
2つ目は、工場でよくある話です。例えば、電球が何時間もつかを調べるには、切れるまで点け続けるしかありません。全部を調べたら、売る電球がなくなってしまいます。缶詰の中身の検査も同じで、開けてしまった缶詰は売れません。
このように、全部を調べられない検査では、標本調査を使います。
以上が、全数調査と標本調査についての解説です。
母集団と標本:鍋と一口
次に、母集団と標本について説明します。
標本調査の用語は、味見に当てはめると覚えやすいです。
母集団 は、本当に知りたい対象の全体です。味見でいえば、鍋いっぱいのお味噌汁です。標本 は、母集団から選び出して、実際に調べた一部です。味見でいえば、小皿の一口です。英語では、標本を サンプル(sample) と言います。お店の試供品のサンプルと同じ言葉です。
また、標本に含まれる個数を 標本の大きさ と言います。小皿に何口分とったか、というイメージです。
具体的に見てみましょう。全校生徒600人の朝ごはんの習慣を知るために、50人を選んで聞いたとします。
【この調査の場合】
- 母集団: 全校生徒600人
- 標本: 選ばれた50人
- 標本の大きさ: 50
ここで注意したいのは、母集団は「何を知りたいか」で決まることです。同じ50人に聞いたとしても、知りたいのが全校生徒なら母集団は600人ですし、3年生だけなら母集団は3年生全員です。
例題:標本から全体を推測する
全校生徒600人から50人を偏りなく選んで聞いたところ、20人が「毎日朝ごはんを食べる」と答えました。全校生徒のうち、毎日朝ごはんを食べる人はおよそ何人と考えられるでしょうか?
【解き方】
- 標本の中の割合を求める: 20 ÷ 50 = 0.4
- 母集団でも同じ割合だと考える: 600 × 0.4 = 240
答えは、およそ240人です。「ちょうど240人」と断定はできません。あくまで一部から見積もった値なので、「およそ」を付けて考えます。
試験のポイント:「標本の大きさ」は標本に含まれる個数のことです。全校600人から50人を選んだなら、標本の大きさは600ではなく50です。
以上が、母集団と標本についての説明です。
無作為抽出:よくかき混ぜてから一口とる
続いて、標本の選び方について解説します。
味見で大切なのは、一口とる前によくかき混ぜることです。かき混ぜずに上澄みだけをすくうと、「薄いな」と勘違いして、味噌を入れすぎてしまいます。
標本調査でも同じことが起こります。例えば、全校生徒の読書量を知りたいときに、図書室に来ていた生徒だけに聞いたらどうなるでしょうか? 本が好きな人ばかりが集まるので、全校の平均より読書量が多く見えてしまいます。このように、標本が母集団の縮図になっていない状態を「標本に偏りがある」と言います。
そこで、誰が選ばれるかを偶然に任せます。この方法が 無作為抽出 です。無作為抽出とは、母集団のどの人も同じ確率で選ばれるように、くじのように標本を選ぶ方法です。「無作為」は、選ぶ人の考えを入れないという意味です。適当に選ぶという意味ではない点に注意しましょう。
【無作為抽出の手順の例】
- 全校生徒の名簿に、1番から600番まで番号を付ける
- くじや乱数(でたらめに並んだ数)で、50個の番号を選ぶ
- その番号の生徒に調査する
ここがポイントです。自分で「いろいろな人に聞こう」と思って選ぶのは、無作為抽出ではありません。話しかけやすい人を無意識に選んでしまうからです。人の判断を入れないことが、偏りを防ぐ一番の方法です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。駅前で平日の昼間に買い物の調査をすると、通勤している人の声はあまり入りません。また、インターネットの投票は、関心の強い人が自分から答えに来るので、全体の意見とは限りません。人数がどれだけ多くても、偏った選び方の標本では、全体を正しく表せないのです。
例題:無作為抽出を見分ける
ある市の中学生の睡眠時間を調べます。無作為抽出に当たるのはどれでしょうか?
- A: 市の全中学生の名簿から、乱数で300人を選ぶ
- B: 朝いちばんに登校した生徒から順に300人を選ぶ
- C: 調査に協力したいと手を挙げた生徒300人を選ぶ
【考え方】
- B は早起きの生徒に偏るので、無作為ではない
- C は協力的な生徒に偏るので、無作為ではない
- A はどの生徒も同じ確率で選ばれる
答えは A です。
以上が、無作為抽出についての解説です。
世論調査の読み方
最後に、ニュースでよく見る世論調査を見ていきましょう。
世論調査 は、社会の問題や政治について、人々の考えを調べる調査です。内閣支持率が代表例です。世論調査は、まさに標本調査そのものです。
【世論調査の場合】
- 母集団: 全国の有権者
- 標本: 選ばれて回答した人(1,000人ほどのことが多い)
- 選び方: コンピュータで電話番号を無作為に作ってかける、など
ここで冒頭の疑問に戻りましょう。千人で足りるのは、無作為に選んでいるからです。よくかき混ぜてあれば、鍋がどれだけ大きくても、味見は一口で足ります。
ただし、標本から出した値にはズレがあります。これを誤差と言います。例えば、1,000人の調査では、支持率の値に、だいたい上下3ポイントほどの誤差があると考えられています。標本の大きさを4,000人に増やすと、この誤差はおよそ半分になります。増やすほど小さくなりますが、0にはなりません。
このことを知っていると、ニュースの見え方が変わります。例えば、支持率が先月の41%から今月は42%に上がったとしましょう。1,000人の調査なら、この1ポイントの差は誤差の範囲かもしれません。「本当に支持が増えた」とまでは言えないのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK): 世論調査では、電話に出ない人や回答を断る人もいます。答えてくれた人だけが標本になるので、答えない人の意見が入らないという弱点もあります。
試験のポイント:標本調査の結果には誤差があります。標本の大きさを大きくすると誤差は小さくなりますが、なくなりはしません。
以上が、世論調査の読み方についての説明です。
細かい数字は覚えなくても問題ありません。ここでは、「人数の多さより、偏りなく選ぶことが大切」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は一部を調べて全体を知る標本調査について紹介しました。全部を飲み干さなくても、よくかき混ぜてから一口とれば、鍋全体の味は分かります。この「かき混ぜる」にあたるのが無作為抽出です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 全員を調べるのが全数調査、一部を調べるのが標本調査。
- 鍋全体が母集団で、小皿の一口が標本。
- 無作為抽出は、よくかき混ぜてから一口とること。人の判断を入れずに偶然で選ぶ。
- 世論調査も標本調査。結果には誤差があるので、わずかな増減に飛びつかない。
キーワードのおさらい
- 全数調査: 対象の全員を調べる方法
- 標本調査: 対象の一部を選んで調べる方法
- 母集団: 本当に知りたい対象の全体
- 標本: 母集団から選び出して調べた一部
- 標本の大きさ: 標本に含まれる個数
- 無作為抽出: どの人も同じ確率で選ばれるように、くじのように標本を選ぶ方法
- 世論調査: 社会の問題などについて人々の考えを調べる調査
さて、データを集める方法が分かりました。集めたデータは、表やグラフにすると一気に読みやすくなります。ところで、棒グラフと円グラフは、どう使い分ければよいのでしょうか?
次回は、「統計グラフの見方・読み方」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。