統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-6 統計数理

離散型分布 — 確率計算への応用

  • 一様分布
  • ベルヌーイ分布
  • 二項分布
  • 超幾何分布
  • 幾何分布
  • ポアソン分布
  • 負の二項分布
  • 多項分布

はじめに

「超幾何分布の分散を定義から計算しようとしたら、組合せの和で式が爆発した……」

準1級では、離散型分布の期待値と分散を公式として使いました。ところが1級では、「導け」と言われます。定義どおりに ∑xx p(x)\sum_x x\, p(x) を計算し始めると、階乗と組合せの山に埋もれて、答案用紙が足りなくなりますよね。

例えば、ブロックで作った大きな城の重さを知りたいとします。城を丸ごとはかりに載せるのは大変です。でも、ブロック1個の重さと個数が分かれば、掛け算で済みます。

実は、離散型分布の計算も同じです。分布をまるごと相手にせず、小さな部品に分解すると、面倒な和はほとんど消えます。そして、分布どうしは部品の組み替えでつながっているので、8つの分布を別々に覚える必要もありません。

そこで今回は、3つの技を主役にします。

【離散型分布の3つの技】

  1. 指示関数に分解する: 個数を0と1の和に分ける
  2. 確率母関数を使う: 独立な和を積に変える
  3. 条件付けで移る: 別の分布へ乗り換える

前回の記事では、極限定理を証明しました。今回の記事では、準1級で学んだ8つの離散型分布を、この3つの技で導き直して解説します。

指示関数に分解する:二項分布から多項分布まで

はじめに、1つ目の技である指示関数への分解について解説します。

いちばん素朴な部品から始めましょう。1,…,N1, \dots, N を等しい確率でとる 一様分布(離散一様分布)は、期待値 (N+1)/2(N+1)/2、分散 (N2−1)/12(N^2 - 1)/12 でした。そして、1回の成否を0と1で表す ベルヌーイ分布 は、事象 AA の指示関数の分布そのものです。p=P(A)p = P(A)、q=1−pq = 1 - p とすると、E[1A]=pE[\mathbf{1}_A] = p で、1A2=1A\mathbf{1}_A^2 = \mathbf{1}_A から V[1A]=p−p2=pqV[\mathbf{1}_A] = p - p^2 = pq です。

二項分布 B(n,p)B(n, p) は、独立なベルヌーイ分布の和 X=I1+⋯+InX = I_1 + \cdots + I_n です。和の期待値と、独立な和の分散から、E[X]=npE[X] = np、V[X]=npqV[X] = npq がただちに出ます。組合せの和は1回も計算していません。城をブロックに分けて数えたのと同じです。

この技が本当に光るのは、部品が独立でないときです。期待値は独立でなくても足し算で済み、分散には共分散が加わります。

V[∑iIi]=∑iV[Ii]+∑i≠jCov[Ii,Ij]V\left[\sum_i I_i\right] = \sum_i V[I_i] + \sum_{i \ne j} \mathrm{Cov}[I_i, I_j]

例題:超幾何分布の期待値と分散

赤玉 MM 個を含む NN 個の玉から、nn 個を戻さずに順に取り出す。赤玉の個数 XX は 超幾何分布 に従う。p=M/Np = M/N、q=1−pq = 1 - p とする。ii 番目が赤なら1をとる変数を IiI_i とする。〔1〕E[X]E[X] を求めよ。〔2〕i≠ji \ne j のとき Cov[Ii,Ij]\mathrm{Cov}[I_i, I_j] を求めよ。〔3〕V[X]V[X] を求めよ。〔4〕N=30N = 30、M=10M = 10、n=6n = 6 のときの値を求めよ。

【解答】

〔1〕並べ方の対称性から、ii 番目の玉はどの玉も等しい確率でありうる。よって P(Ii=1)=pP(I_i = 1) = p で、E[X]=npE[X] = np である。

〔2〕同じ対称性から E[IiIj]=M(M−1)N(N−1)E[I_i I_j] = \dfrac{M(M-1)}{N(N-1)} である。したがって次を得る。

Cov[Ii,Ij]=MN(M−1N−1−MN)=−pqN−1\mathrm{Cov}[I_i, I_j] = \frac{M}{N}\left(\frac{M-1}{N-1} - \frac{M}{N}\right) = -\frac{pq}{N-1}

〔3〕組 (i,j)(i, j) は n(n−1)n(n-1) 個あるので、次を得る。

V[X]=npq−n(n−1)pqN−1=npq⋅N−nN−1V[X] = npq - n(n-1)\frac{pq}{N-1} = npq \cdot \frac{N-n}{N-1}

〔4〕p=1/3p = 1/3 で、E[X]=2E[X] = 2、V[X]=43×2429≈1.103V[X] = \dfrac{4}{3} \times \dfrac{24}{29} \approx 1.103 である。

共分散が負なのは、赤を1つ引くと次の赤が引きにくくなるからです。その分だけ、二項分布の分散1.333より小さくなります。(N−n)/(N−1)(N-n)/(N-1) が 有限修正 で、n=Nn = N なら全部を取り出すので分散は0です。

せっかくなので、別の例も見てみましょう。多項分布 は、nn 回の独立な試行で、kk 通りの結果の回数 (X1,…,Xk)(X_1, \dots, X_k) を数える分布です。結果 aa と bb の共分散も、同じ分解で求まります。

試行 tt で結果 aa が出れば1とする変数を ItaI_{ta} とします。同じ試行で aa と bb は同時に起こらないので ItaItb=0I_{ta} I_{tb} = 0 で、Cov[Ita,Itb]=−papb\mathrm{Cov}[I_{ta}, I_{tb}] = -p_a p_b です。違う試行は独立なので共分散は0です。nn 回分を足して、次の式が得られます。

Cov[Xa,Xb]=−npapb\mathrm{Cov}[X_a, X_b] = -n p_a p_b

例えば、サイコロを12回振って、1の目の回数と2の目の回数の共分散は −12/36=−1/3-12/36 = -1/3 です。分散はどちらも 12×(1/6)×(5/6)=5/312 \times (1/6) \times (5/6) = 5/3 なので、相関係数は −1/5-1/5 です。

以上が、指示関数への分解についての解説です。

確率母関数で待ち時間を扱う:幾何分布と負の二項分布

次に、2つ目の技である確率母関数について説明します。

待つ分布には2つの流儀がありました。ここでは準1級と同じく、失敗の回数で数えます。幾何分布 は、初めて成功するまでの失敗の回数 XX の分布です。

P(X=k)=pqk,G(s)=∑k=0∞p(qs)k=p1−qsP(X = k) = p q^k, \qquad G(s) = \sum_{k=0}^{\infty} p (qs)^k = \frac{p}{1 - qs}

負の二項分布 は、rr 回目の成功までの失敗の回数です。独立な幾何分布 rr 個の和なので、確率母関数は rr 乗です。ここから確率も平均も出ます。

G(s)=(p1−qs)r=pr∑k=0∞(r+k−1k)(qs)kG(s) = \left(\frac{p}{1 - qs}\right)^r = p^r \sum_{k=0}^{\infty} \binom{r + k - 1}{k} (qs)^k

展開には、(1−u)−r(1 - u)^{-r} のべき級数を使いました。sks^k の係数を読むと、P(X=k)=(r+k−1k)prqkP(X = k) = \dbinom{r+k-1}{k} p^r q^k です。指数が −r-r の二項展開から出てくるので、負の二項分布と呼びます。

平均と分散は、キュムラント母関数 K(t)=rlog⁡p−rlog⁡(1−qet)K(t) = r\log p - r\log(1 - q e^t) の微分から求めます。

K′(t)=rqet1−qet,K′′(t)=rqet(1−qet)2⇒E[X]=rqp,V[X]=rqp2K'(t) = \frac{r q e^t}{1 - q e^t}, \quad K''(t) = \frac{r q e^t}{(1 - q e^t)^2} \quad \Rightarrow \quad E[X] = \frac{rq}{p}, \quad V[X] = \frac{rq}{p^2}

幾何分布の特徴である 無記憶性 も、1級では特徴づけとして扱います。0以上の整数をとる XX について、次の定理が成り立ちます。ガチャが過去を覚えていないのは、幾何分布だけなのです。

【定理】0<P(X≥1)<10 < P(X \ge 1) < 1 とする。すべての s,t≥0s, t \ge 0 で P(X≥s+t∣X≥s)=P(X≥t)P(X \ge s + t \mid X \ge s) = P(X \ge t) なら、XX は幾何分布に従う。

証明は短いです。ak=P(X≥k)a_k = P(X \ge k) とおくと、仮定は as+t=asata_{s+t} = a_s a_t です。s=1s = 1 からくり返すと ak=a1ka_k = a_1^k です。q=a1q = a_1 とおくと、P(X=k)=ak−ak+1=(1−q)qkP(X = k) = a_k - a_{k+1} = (1 - q) q^k で、これは幾何分布です。

例題:全種類を集めるまでの回数

nn 種類が等確率で出るガチャを、全種類そろうまで引く。回数を TT とする。〔1〕TT を独立な確率変数の和に分解せよ。〔2〕E[T]E[T] と V[T]V[T] を求めよ。〔3〕n=6n = 6 のときの値を求めよ。

【解答】

〔1〕kk 種類持っている状態から新しい種類が出るまでの回数を WkW_k(k=0,…,n−1k = 0, \dots, n-1)とする。各回で新しい種類が出る確率は pk=(n−k)/np_k = (n-k)/n で、過去によらない。よって T=W0+⋯+Wn−1T = W_0 + \cdots + W_{n-1} で、WkW_k は独立である。

〔2〕Wk−1W_k - 1 は成功確率 pkp_k の幾何分布に従うから、E[Wk]=1/pkE[W_k] = 1/p_k、V[Wk]=(1−pk)/pk2V[W_k] = (1 - p_k)/p_k^2 である。したがって次を得る。

E[T]=∑k=0n−1nn−k=n∑j=1n1j,V[T]=∑k=0n−11−pkpk2E[T] = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{n}{n-k} = n \sum_{j=1}^{n} \frac{1}{j}, \qquad V[T] = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{1 - p_k}{p_k^2}

〔3〕E[T]=6(1+1/2+⋯+1/6)=14.7E[T] = 6(1 + 1/2 + \cdots + 1/6) = 14.7、V[T]=38.99V[T] = 38.99 である。

6種類を集めるのに、平均で14.7回かかります。最後の1種類だけで平均6回かかるのが効いています。

試験のポイント:幾何分布は、試行回数で数えるか失敗回数で数えるかで、平均が1ずれます。答案のはじめに、どちらで定義したかを明記します。

以上が、確率母関数で待ち時間を扱う方法についての説明です。

条件付けで分布を移る:ポアソン分布を中心に

最後に、3つ目の技である条件付けを見ていきましょう。

ポアソン分布 Po(λ)Po(\lambda) は、確率母関数 G(s)=eλ(s−1)G(s) = e^{\lambda(s-1)} から再生性がすぐに分かります。さらに、確率の比 P(X=k)/P(X=k−1)=λ/kP(X = k)/P(X = k-1) = \lambda/k を見ると、k<λk < \lambda の間は確率が増え続けます。したがって、最頻値は λ\lambda の整数部分です。λ\lambda が整数なら λ\lambda と λ−1\lambda - 1 の2つです。

分布どうしの関係は、路線図に例えられます。条件付けは、乗り換えです。

【分布の乗り換え】

出発操作到着
独立な Po(λ1)Po(\lambda_1)、Po(λ2)Po(\lambda_2)和で条件付け二項分布
独立な kk 個のポアソン分布和で条件付け多項分布
独立な B(m,p)B(m, p)、B(n,p)B(n, p)和で条件付け超幾何分布
Po(λ)Po(\lambda) の λ\lambda がガンマ分布λ\lambda について平均負の二項分布
B(n,p)B(n, p)np=λnp = \lambda のまま n→∞n \to \inftyポアソン分布
超幾何分布M/N=pM/N = p のまま N→∞N \to \infty二項分布

具体的に見てみましょう。1行目です。X∼Po(3)X \sim Po(3)、Y∼Po(2)Y \sim Po(2) が独立で、X+Y=5X + Y = 5 と分かったとします。このとき XX は B(5,0.6)B(5, 0.6) に従うので、P(X=3∣X+Y=5)=10×0.63×0.42≈0.346P(X = 3 \mid X + Y = 5) = 10 \times 0.6^3 \times 0.4^2 \approx 0.346 です。

4行目の 混合 も、確率母関数なら短く書けます。λ∼Ga(α,β)\lambda \sim Ga(\alpha, \beta) とし、E[euλ]=(β/(β−u))αE[e^{u\lambda}] = (\beta/(\beta - u))^\alpha に u=s−1u = s - 1 を入れます。

G(s)=E[eλ(s−1)]=(ββ+1−s)α=(p1−qs)α,p=β1+βG(s) = E[e^{\lambda(s-1)}] = \left(\frac{\beta}{\beta + 1 - s}\right)^\alpha = \left(\frac{p}{1 - qs}\right)^\alpha, \qquad p = \frac{\beta}{1 + \beta}

これは負の二項分布です。ポアソン分布では平均と分散が等しいのに、負の二項分布では分散が平均より大きくなります。来店者の多い日と少ない日がある、つまり λ\lambda 自体がばらつくと、その分だけ分散が増えるのです。

例題:二項分布から超幾何分布へ

X∼B(m,p)X \sim B(m, p)、Y∼B(n,p)Y \sim B(n, p) は独立とする。〔1〕X+YX + Y の分布を求めよ。〔2〕X+Y=kX + Y = k のもとでの XX の条件付き分布を求めよ。〔3〕結果が pp によらないことの統計的な意味を述べよ。

【解答】

〔1〕確率母関数の積は (q+ps)m+n(q + ps)^{m+n} だから、一意性より X+Y∼B(m+n,p)X + Y \sim B(m + n, p) である。

〔2〕独立性と〔1〕より、次のように約分できる。

P(X=x∣X+Y=k)=(mx)pxqm−x(nk−x)pk−xqn−k+x(m+nk)pkqm+n−k=(mx)(nk−x)(m+nk)P(X = x \mid X + Y = k) = \frac{\binom{m}{x} p^x q^{m-x} \binom{n}{k-x} p^{k-x} q^{n-k+x}}{\binom{m+n}{k} p^k q^{m+n-k}} = \frac{\binom{m}{x} \binom{n}{k-x}}{\binom{m+n}{k}}

これは、赤玉 mm 個、白玉 nn 個から kk 個を取り出したときの赤玉の個数の超幾何分布である。

〔3〕未知の pp が消えるので、2群の成功確率が等しいという仮説のもとで、和を固定すれば pp を知らずに確率を計算できる。

〔3〕は、後の記事で学ぶフィッシャー検定の原理です。条件付けは、計算の技であるだけでなく、推測の技でもあるのです。

以上が、条件付けで分布を移る方法についての解説です。

細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「分解する、母関数にする、条件付ける」の3つの技だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は離散型分布を、3つの技で導き直しました。城の重さをブロックの個数で計算するように、分布も部品に分解すれば、面倒な和を避けられます。そして、8つの分布は別々の暗記項目ではなく、1枚の路線図でつながっています。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • 個数は指示関数の和に分解する。独立でなければ共分散を足す。
  • 超幾何分布の分散は、負の共分散から有限修正 (N−n)/(N−1)(N-n)/(N-1) が出る。
  • 幾何分布は無記憶性で特徴づけられ、負の二項分布はその和である。
  • 分布どうしは、和での条件付け、混合、極限でつながっている。

キーワードのおさらい

  • 一様分布: 1,…,N1, \dots, N を等しい確率でとる分布
  • ベルヌーイ分布: 指示関数の分布。期待値 pp、分散 pqpq
  • 二項分布: 独立なベルヌーイ分布 nn 個の和
  • 超幾何分布: 戻さずに取り出したときの個数の分布。分散に有限修正が付く
  • 幾何分布: 初めて成功するまでの失敗の回数の分布。0以上の整数をとる分布で無記憶性をもつのはこれだけ
  • ポアソン分布: まれな出来事の回数の分布。和で条件付けると二項分布に移る
  • 負の二項分布: rr 回目の成功までの失敗の回数の分布。ポアソン分布のガンマ混合でもある
  • 多項分布: 二項分布を kk 通りの結果に広げた分布。Cov[Xa,Xb]=−npapb\mathrm{Cov}[X_a, X_b] = -n p_a p_b

さて、離散型の路線図ができました。連続型でも、同じようなつながりがあるのでしょうか? 実は、連続型の分布の多くは、たった2つの積分から生まれます。

次回は、連続型分布について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 赤玉6個を含む20個の玉から5個を戻さずに取り出す。赤玉の個数の分散に最も近いものはどれか。
問2. 3通りの結果の確率が0.2、0.3、0.5である試行を10回行う多項分布で、Cov[X1,X2]\mathrm{Cov}[X_1, X_2] として正しいものはどれか。
問3. 確率母関数が G(s)=(0.41−0.6s)3G(s) = \left(\dfrac{0.4}{1 - 0.6s}\right)^3 である確率変数の期待値として正しいものはどれか。
問4. 3種類が等確率で出るガチャを、全種類そろうまで引く回数の期待値として正しいものはどれか。
問5. λ\lambda がガンマ分布 Ga(2,1)Ga(2, 1) に従い、λ\lambda が与えられたもとで X∼Po(λ)X \sim Po(\lambda) とする。V[X]V[X] として正しいものはどれか。