はじめに
「超幾何分布の分散を定義から計算しようとしたら、組合せの和で式が爆発した……」
準1級では、離散型分布の期待値と分散を公式として使いました。ところが1級では、「導け」と言われます。定義どおりに ∑xxp(x) を計算し始めると、階乗と組合せの山に埋もれて、答案用紙が足りなくなりますよね。
例えば、ブロックで作った大きな城の重さを知りたいとします。城を丸ごとはかりに載せるのは大変です。でも、ブロック1個の重さと個数が分かれば、掛け算で済みます。
実は、離散型分布の計算も同じです。分布をまるごと相手にせず、小さな部品に分解すると、面倒な和はほとんど消えます。そして、分布どうしは部品の組み替えでつながっているので、8つの分布を別々に覚える必要もありません。
そこで今回は、3つの技を主役にします。
【離散型分布の3つの技】
- 指示関数に分解する: 個数を0と1の和に分ける
- 確率母関数を使う: 独立な和を積に変える
- 条件付けで移る: 別の分布へ乗り換える
前回の記事では、極限定理を証明しました。今回の記事では、準1級で学んだ8つの離散型分布を、この3つの技で導き直して解説します。
指示関数に分解する:二項分布から多項分布まで
はじめに、1つ目の技である指示関数への分解について解説します。
いちばん素朴な部品から始めましょう。1,…,N を等しい確率でとる 一様分布(離散一様分布)は、期待値 (N+1)/2、分散 (N2−1)/12 でした。そして、1回の成否を0と1で表す ベルヌーイ分布 は、事象 A の指示関数の分布そのものです。p=P(A)、q=1−p とすると、E[1A]=p で、1A2=1A から V[1A]=p−p2=pq です。
二項分布 B(n,p) は、独立なベルヌーイ分布の和 X=I1+⋯+In です。和の期待値と、独立な和の分散から、E[X]=np、V[X]=npq がただちに出ます。組合せの和は1回も計算していません。城をブロックに分けて数えたのと同じです。
この技が本当に光るのは、部品が独立でないときです。期待値は独立でなくても足し算で済み、分散には共分散が加わります。
V[i∑Ii]=i∑V[Ii]+i=j∑Cov[Ii,Ij]
例題:超幾何分布の期待値と分散
赤玉 M 個を含む N 個の玉から、n 個を戻さずに順に取り出す。赤玉の個数 X は 超幾何分布 に従う。p=M/N、q=1−p とする。i 番目が赤なら1をとる変数を Ii とする。〔1〕E[X] を求めよ。〔2〕i=j のとき Cov[Ii,Ij] を求めよ。〔3〕V[X] を求めよ。〔4〕N=30、M=10、n=6 のときの値を求めよ。
【解答】
〔1〕並べ方の対称性から、i 番目の玉はどの玉も等しい確率でありうる。よって P(Ii=1)=p で、E[X]=np である。
〔2〕同じ対称性から E[IiIj]=N(N−1)M(M−1) である。したがって次を得る。
Cov[Ii,Ij]=NM(N−1M−1−NM)=−N−1pq
〔3〕組 (i,j) は n(n−1) 個あるので、次を得る。
V[X]=npq−n(n−1)N−1pq=npq⋅N−1N−n
〔4〕p=1/3 で、E[X]=2、V[X]=34×2924≈1.103 である。
共分散が負なのは、赤を1つ引くと次の赤が引きにくくなるからです。その分だけ、二項分布の分散1.333より小さくなります。(N−n)/(N−1) が 有限修正 で、n=N なら全部を取り出すので分散は0です。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。多項分布 は、n 回の独立な試行で、k 通りの結果の回数 (X1,…,Xk) を数える分布です。結果 a と b の共分散も、同じ分解で求まります。
試行 t で結果 a が出れば1とする変数を Ita とします。同じ試行で a と b は同時に起こらないので ItaItb=0 で、Cov[Ita,Itb]=−papb です。違う試行は独立なので共分散は0です。n 回分を足して、次の式が得られます。
Cov[Xa,Xb]=−npapb
例えば、サイコロを12回振って、1の目の回数と2の目の回数の共分散は −12/36=−1/3 です。分散はどちらも 12×(1/6)×(5/6)=5/3 なので、相関係数は −1/5 です。
以上が、指示関数への分解についての解説です。
確率母関数で待ち時間を扱う:幾何分布と負の二項分布
次に、2つ目の技である確率母関数について説明します。
待つ分布には2つの流儀がありました。ここでは準1級と同じく、失敗の回数で数えます。幾何分布 は、初めて成功するまでの失敗の回数 X の分布です。
P(X=k)=pqk,G(s)=k=0∑∞p(qs)k=1−qsp
負の二項分布 は、r 回目の成功までの失敗の回数です。独立な幾何分布 r 個の和なので、確率母関数は r 乗です。ここから確率も平均も出ます。
G(s)=(1−qsp)r=prk=0∑∞(kr+k−1)(qs)k
展開には、(1−u)−r のべき級数を使いました。sk の係数を読むと、P(X=k)=(kr+k−1)prqk です。指数が −r の二項展開から出てくるので、負の二項分布と呼びます。
平均と分散は、キュムラント母関数 K(t)=rlogp−rlog(1−qet) の微分から求めます。
K′(t)=1−qetrqet,K′′(t)=(1−qet)2rqet⇒E[X]=prq,V[X]=p2rq
幾何分布の特徴である 無記憶性 も、1級では特徴づけとして扱います。0以上の整数をとる X について、次の定理が成り立ちます。ガチャが過去を覚えていないのは、幾何分布だけなのです。
【定理】0<P(X≥1)<1 とする。すべての s,t≥0 で P(X≥s+t∣X≥s)=P(X≥t) なら、X は幾何分布に従う。
証明は短いです。ak=P(X≥k) とおくと、仮定は as+t=asat です。s=1 からくり返すと ak=a1k です。q=a1 とおくと、P(X=k)=ak−ak+1=(1−q)qk で、これは幾何分布です。
例題:全種類を集めるまでの回数
n 種類が等確率で出るガチャを、全種類そろうまで引く。回数を T とする。〔1〕T を独立な確率変数の和に分解せよ。〔2〕E[T] と V[T] を求めよ。〔3〕n=6 のときの値を求めよ。
【解答】
〔1〕k 種類持っている状態から新しい種類が出るまでの回数を Wk(k=0,…,n−1)とする。各回で新しい種類が出る確率は pk=(n−k)/n で、過去によらない。よって T=W0+⋯+Wn−1 で、Wk は独立である。
〔2〕Wk−1 は成功確率 pk の幾何分布に従うから、E[Wk]=1/pk、V[Wk]=(1−pk)/pk2 である。したがって次を得る。
E[T]=k=0∑n−1n−kn=nj=1∑nj1,V[T]=k=0∑n−1pk21−pk
〔3〕E[T]=6(1+1/2+⋯+1/6)=14.7、V[T]=38.99 である。
6種類を集めるのに、平均で14.7回かかります。最後の1種類だけで平均6回かかるのが効いています。
試験のポイント:幾何分布は、試行回数で数えるか失敗回数で数えるかで、平均が1ずれます。答案のはじめに、どちらで定義したかを明記します。
以上が、確率母関数で待ち時間を扱う方法についての説明です。
条件付けで分布を移る:ポアソン分布を中心に
最後に、3つ目の技である条件付けを見ていきましょう。
ポアソン分布 Po(λ) は、確率母関数 G(s)=eλ(s−1) から再生性がすぐに分かります。さらに、確率の比 P(X=k)/P(X=k−1)=λ/k を見ると、k<λ の間は確率が増え続けます。したがって、最頻値は λ の整数部分です。λ が整数なら λ と λ−1 の2つです。
分布どうしの関係は、路線図に例えられます。条件付けは、乗り換えです。
【分布の乗り換え】
| 出発 | 操作 | 到着 |
|---|
| 独立な Po(λ1)、Po(λ2) | 和で条件付け | 二項分布 |
| 独立な k 個のポアソン分布 | 和で条件付け | 多項分布 |
| 独立な B(m,p)、B(n,p) | 和で条件付け | 超幾何分布 |
| Po(λ) の λ がガンマ分布 | λ について平均 | 負の二項分布 |
| B(n,p) | np=λ のまま n→∞ | ポアソン分布 |
| 超幾何分布 | M/N=p のまま N→∞ | 二項分布 |
具体的に見てみましょう。1行目です。X∼Po(3)、Y∼Po(2) が独立で、X+Y=5 と分かったとします。このとき X は B(5,0.6) に従うので、P(X=3∣X+Y=5)=10×0.63×0.42≈0.346 です。
4行目の 混合 も、確率母関数なら短く書けます。λ∼Ga(α,β) とし、E[euλ]=(β/(β−u))α に u=s−1 を入れます。
G(s)=E[eλ(s−1)]=(β+1−sβ)α=(1−qsp)α,p=1+ββ
これは負の二項分布です。ポアソン分布では平均と分散が等しいのに、負の二項分布では分散が平均より大きくなります。来店者の多い日と少ない日がある、つまり λ 自体がばらつくと、その分だけ分散が増えるのです。
例題:二項分布から超幾何分布へ
X∼B(m,p)、Y∼B(n,p) は独立とする。〔1〕X+Y の分布を求めよ。〔2〕X+Y=k のもとでの X の条件付き分布を求めよ。〔3〕結果が p によらないことの統計的な意味を述べよ。
【解答】
〔1〕確率母関数の積は (q+ps)m+n だから、一意性より X+Y∼B(m+n,p) である。
〔2〕独立性と〔1〕より、次のように約分できる。
P(X=x∣X+Y=k)=(km+n)pkqm+n−k(xm)pxqm−x(k−xn)pk−xqn−k+x=(km+n)(xm)(k−xn)
これは、赤玉 m 個、白玉 n 個から k 個を取り出したときの赤玉の個数の超幾何分布である。
〔3〕未知の p が消えるので、2群の成功確率が等しいという仮説のもとで、和を固定すれば p を知らずに確率を計算できる。
〔3〕は、後の記事で学ぶフィッシャー検定の原理です。条件付けは、計算の技であるだけでなく、推測の技でもあるのです。
以上が、条件付けで分布を移る方法についての解説です。
細かい式を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「分解する、母関数にする、条件付ける」の3つの技だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は離散型分布を、3つの技で導き直しました。城の重さをブロックの個数で計算するように、分布も部品に分解すれば、面倒な和を避けられます。そして、8つの分布は別々の暗記項目ではなく、1枚の路線図でつながっています。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 個数は指示関数の和に分解する。独立でなければ共分散を足す。
- 超幾何分布の分散は、負の共分散から有限修正 (N−n)/(N−1) が出る。
- 幾何分布は無記憶性で特徴づけられ、負の二項分布はその和である。
- 分布どうしは、和での条件付け、混合、極限でつながっている。
キーワードのおさらい
- 一様分布: 1,…,N を等しい確率でとる分布
- ベルヌーイ分布: 指示関数の分布。期待値 p、分散 pq
- 二項分布: 独立なベルヌーイ分布 n 個の和
- 超幾何分布: 戻さずに取り出したときの個数の分布。分散に有限修正が付く
- 幾何分布: 初めて成功するまでの失敗の回数の分布。0以上の整数をとる分布で無記憶性をもつのはこれだけ
- ポアソン分布: まれな出来事の回数の分布。和で条件付けると二項分布に移る
- 負の二項分布: r 回目の成功までの失敗の回数の分布。ポアソン分布のガンマ混合でもある
- 多項分布: 二項分布を k 通りの結果に広げた分布。Cov[Xa,Xb]=−npapb
さて、離散型の路線図ができました。連続型でも、同じようなつながりがあるのでしょうか? 実は、連続型の分布の多くは、たった2つの積分から生まれます。
次回は、連続型分布について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。