統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-5 統計数理

極限定理と確率分布の近似

  • 大数の弱法則
  • 中心極限定理
  • 二項分布の正規近似とポアソン近似
  • 少数法則
  • 連続修正

はじめに

「中心極限定理は使ってきた。でも、なぜ元の分布が何でも正規分布になるの?」

準1級までは、定理の結果を使って確率を近似してきました。しかし、サイコロでも、待ち時間でも、歪んだ分布でも、足していくと同じ釣り鐘の形になるというのは、よく考えると不思議な話です。

例えば、合唱を思い浮かべてください。1人ずつの声には、高さや響きに強い癖があります。ところが100人が同時に歌うと、個人の癖は打ち消し合って、全体の響きだけが残ります。

実は、この現象の証明は長くありません。前回までに準備したキュムラント母関数をテイラー展開すれば、数行で終わります。3次以降の項、つまり分布の癖が、nn の中で消えていくのが式で見えます。

そこで登場するのが、今回の主役 大数の弱法則 と 中心極限定理 です。

前回の記事では、変数変換で分布を厳密に導きました。今回の記事では、厳密な分布が求まらないときの武器として、2つの極限定理の証明と、二項分布の正規近似とポアソン近似 の導出について解説します。

大数の弱法則:不等式から証明する

はじめに、大数の弱法則の証明について解説します。

準1級で学んだ確率収束を思い出しましょう。どんな ε>0\varepsilon > 0 についても P(∣Xn−c∣≥ε)→0P(|X_n - c| \ge \varepsilon) \to 0 となることでした。これを示すには、分布を知らなくても確率を上から押さえられる道具が必要です。

それが マルコフの不等式 です。X≥0X \ge 0、a>0a > 0 のとき、次の式が成り立ちます。

P(X≥a)≤E[X]aP(X \ge a) \le \frac{E[X]}{a}

証明は1行です。いつでも a 1{X≥a}≤Xa\, \mathbf{1}_{\{X \ge a\}} \le X なので、両辺の期待値をとります。例えば、平均点30点のクラスで、90点以上の人は多くても3分の1です。それより多いと、平均が30点を超えてしまいますよね。

(X−μ)2(X - \mu)^2 にこの不等式を使うと、チェビシェフの不等式 が出ます。

P(∣X−μ∣≥ε)=P((X−μ)2≥ε2)≤σ2ε2P(|X - \mu| \ge \varepsilon) = P((X - \mu)^2 \ge \varepsilon^2) \le \frac{\sigma^2}{\varepsilon^2}

これで準備が整いました。大数の弱法則 は、X1,X2,…X_1, X_2, \dots が独立に平均 μ\mu、分散 σ2<∞\sigma^2 < \infty の分布に従うとき、標本平均 Xˉn\bar{X}_n が μ\mu に確率収束するという定理です。

証明は、V[Xˉn]=σ2/nV[\bar{X}_n] = \sigma^2/n をチェビシェフの不等式に入れるだけです。

P(∣Xˉn−μ∣≥ε)≤σ2nε2⟶0P(|\bar{X}_n - \mu| \ge \varepsilon) \le \frac{\sigma^2}{n\varepsilon^2} \longrightarrow 0

この不等式は、必要な標本の大きさも教えてくれます。例えば、未知の確率 pp のコインで、標本比率の誤差が0.05以上になる確率を0.05以下にしたいとします。σ2=p(1−p)≤1/4\sigma^2 = p(1-p) \le 1/4 なので、1/4n×0.052≤0.05\dfrac{1/4}{n \times 0.05^2} \le 0.05 より n≥2000n \ge 2000 です。

一方、後で学ぶ正規近似なら、1.96×0.5/n≤0.051.96 \times 0.5/\sqrt{n} \le 0.05 より n≥385n \ge 385 です。チェビシェフの不等式は、どんな分布にも使える代わりに、かなり余裕のある答えを返します。

証明を見ると、独立性を使ったのは V[Xˉn]→0V[\bar{X}_n] \to 0 のところだけです。逆に、前提が崩れると定理も崩れます。標準コーシー分布は特性関数が e−∣t∣e^{-|t|} で、Xˉn\bar{X}_n の特性関数は (e−∣t/n∣)n=e−∣t∣(e^{-|t/n|})^n = e^{-|t|} です。つまり、何個平均しても、Xˉn\bar{X}_n の分布は1個のときと同じなのです。期待値が存在しないので、近づく先もありません。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 分散が無限でも、期待値が有限で独立に同じ分布に従えば、大数の弱法則は成り立ちます。この場合は、特性関数を使って証明します。

例題:隣どうしだけ相関があるとき

X1,X2,…X_1, X_2, \dots は平均 μ\mu、分散 σ2\sigma^2 で、Cov[Xi,Xi+1]=ρσ2\mathrm{Cov}[X_i, X_{i+1}] = \rho\sigma^2、∣i−j∣≥2|i - j| \ge 2 なら無相関とする。〔1〕V[Xˉn]V[\bar{X}_n] を求めよ。〔2〕Xˉn\bar{X}_n が μ\mu に確率収束することを示せ。〔3〕どの2つの相関も ρ>0\rho > 0 のとき、同じ証明が使えない理由を述べよ。

【解答】

〔1〕隣り合う組は n−1n - 1 個あるので、V[∑iXi]=nσ2+2(n−1)ρσ2V[\sum_i X_i] = n\sigma^2 + 2(n-1)\rho\sigma^2 である。n2n^2 で割って、次を得る。

V[Xˉn]=σ2n(1+2ρ n−1n)V[\bar{X}_n] = \frac{\sigma^2}{n}\left(1 + 2\rho\, \frac{n-1}{n}\right)

〔2〕チェビシェフの不等式より、次のとおり確率収束する。

P(∣Xˉn−μ∣≥ε)≤σ2(1+2∣ρ∣)nε2⟶0P(|\bar{X}_n - \mu| \ge \varepsilon) \le \frac{\sigma^2 (1 + 2|\rho|)}{n\varepsilon^2} \longrightarrow 0

〔3〕V[Xˉn]=σ2n{1+(n−1)ρ}→σ2ρ>0V[\bar{X}_n] = \dfrac{\sigma^2}{n}\{1 + (n-1)\rho\} \to \sigma^2\rho > 0 となり、上界が0に収束しないからである。

要するに、大数の法則に必要なのは独立性そのものではなく、「遠くどうしの相関が消えること」です。

以上が、大数の弱法則についての解説です。

中心極限定理:母関数で証明する

次に、中心極限定理の証明について説明します。

中心極限定理 は、X1,X2,…X_1, X_2, \dots が独立に平均 μ\mu、分散 σ2\sigma^2(0<σ2<∞0 < \sigma^2 < \infty)の分布に従うとき、次の分布収束が成り立つという定理です。

Zn=n(Xˉn−μ)σ→dN(0,1)Z_n = \frac{\sqrt{n}(\bar{X}_n - \mu)}{\sigma} \xrightarrow{d} N(0, 1)

証明には、もう1つの定理を引用します。連続性定理 です。00 の近くのすべての tt で MZn(t)→MZ(t)M_{Z_n}(t) \to M_Z(t) なら、ZnZ_n は ZZ に分布収束します。母関数の一意性の、極限版だと思ってください。

ここでは、XiX_i にモーメント母関数が存在する場合を証明します。

【中心極限定理の証明】

  1. Yi=(Xi−μ)/σY_i = (X_i - \mu)/\sigma とおくと E[Yi]=0E[Y_i] = 0、V[Yi]=1V[Y_i] = 1 で、Zn=∑iYi/nZ_n = \sum_i Y_i / \sqrt{n} である
  2. YiY_i のキュムラント母関数を K(s)K(s) とする。独立だから log⁡MZn(t)=nK(t/n)\log M_{Z_n}(t) = n K(t/\sqrt{n}) である
  3. K(0)=0K(0) = 0、K′(0)=0K'(0) = 0、K′′(0)=1K''(0) = 1 より、s→0s \to 0 で K(s)=s2/2+o(s2)K(s) = s^2/2 + o(s^2) である
  4. s=t/ns = t/\sqrt{n} を代入すると nK(t/n)=t2/2+n⋅o(1/n)→t2/2n K(t/\sqrt{n}) = t^2/2 + n \cdot o(1/n) \to t^2/2 である
  5. et2/2e^{t^2/2} は N(0,1)N(0, 1) のモーメント母関数だから、連続性定理より結論を得る

手順3がポイントです。KK の展開で、元の分布の情報は平均と分散だけが2次までに入っています。3次の項は κ3s3/6\kappa_3 s^3/6 で、これは手順4で次のようになります。

n×κ36⋅t3n3/2=κ3t36n⟶0n \times \frac{\kappa_3}{6} \cdot \frac{t^3}{n^{3/2}} = \frac{\kappa_3 t^3}{6\sqrt{n}} \longrightarrow 0

分布の癖は、1/n1/\sqrt{n} の速さで消えるのです。合唱で、人数が増えるほど個人の癖が埋もれるのと同じです。分布の特性値の記事で見た「和の歪度は 1/n1/\sqrt{n} 倍になる」は、この式と同じことを言っています。

例えば、指数分布の歪度は2なので、30個の和の歪度は 2/30≈0.372/\sqrt{30} \approx 0.37 です。まだ右に少し歪んでいます。「n≥30n \ge 30 なら大丈夫」という目安は、元の分布が強く歪んでいると当てになりません。

補足(ここは読み飛ばしてOK): モーメント母関数が存在しなくても、特性関数で同じ展開をすれば、分散が有限なら定理は成り立ちます。分散が無限のコーシー分布では、定理は成り立ちません。

例題:ポアソン分布の標準化

Xλ∼Po(λ)X_\lambda \sim Po(\lambda) とし、Zλ=(Xλ−λ)/λZ_\lambda = (X_\lambda - \lambda)/\sqrt{\lambda} とする。λ→∞\lambda \to \infty のとき、ZλZ_\lambda が N(0,1)N(0, 1) に分布収束することを、モーメント母関数を用いて示せ。

【解答】

XλX_\lambda のモーメント母関数は exp⁡(λ(et−1))\exp(\lambda(e^t - 1)) である。MaX+b(t)=ebtMX(at)M_{aX+b}(t) = e^{bt} M_X(at) を用いると、次を得る。

log⁡MZλ(t)=−tλ+λ(et/λ−1)\log M_{Z_\lambda}(t) = -t\sqrt{\lambda} + \lambda\left(e^{t/\sqrt{\lambda}} - 1\right)

eu=1+u+u2/2+u3/6+⋯e^{u} = 1 + u + u^2/2 + u^3/6 + \cdots に u=t/λu = t/\sqrt{\lambda} を代入すると、右辺は次のようになる。

−tλ+tλ+t22+t36λ+⋯⟶t22-t\sqrt{\lambda} + t\sqrt{\lambda} + \frac{t^2}{2} + \frac{t^3}{6\sqrt{\lambda}} + \cdots \longrightarrow \frac{t^2}{2}

よって MZλ(t)→et2/2M_{Z_\lambda}(t) \to e^{t^2/2} で、連続性定理より結論を得る。

試験のポイント:極限の証明では「母関数の極限を計算する」だけで終わらせず、「連続性定理より」と結論を書きます。λ\lambda が整数でなくても使える点で、再生性による説明より一般的です。

以上が、中心極限定理の証明についての説明です。

二項分布の正規近似とポアソン近似

最後に、二項分布の2つの近似を見ていきましょう。

同じ二項分布でも、pp が一定のままなら正規分布に、npnp が一定のままならポアソン分布に近づきます。1つずつ見ていきましょう。

1. 正規近似と連続修正

X∼B(n,p)X \sim B(n, p) はベルヌーイ分布の和なので、中心極限定理から (X−np)/npq(X - np)/\sqrt{npq} は N(0,1)N(0, 1) に分布収束します。ただし、q=1−pq = 1 - p です。

ここで問題があります。XX は整数しかとらないのに、正規分布は連続です。棒グラフの棒を、なめらかな曲線の下の面積で置きかえることを考えてください。P(X=k)P(X = k) の棒の幅は、k−0.5k - 0.5 から k+0.5k + 0.5 までです。したがって、境目を0.5ずらすのが自然です。これが 連続修正 です。

P(a≤X≤b)≈Φ(b+0.5−npnpq)−Φ(a−0.5−npnpq)P(a \le X \le b) \approx \Phi\left(\frac{b + 0.5 - np}{\sqrt{npq}}\right) - \Phi\left(\frac{a - 0.5 - np}{\sqrt{npq}}\right)

具体的に見てみましょう。X∼B(50,0.4)X \sim B(50, 0.4) の P(X≤15)P(X \le 15) です。平均20、分散12です。

計算法式値
正確な値二項分布の和0.0955
連続修正なしΦ((15−20)/12)\Phi((15 - 20)/\sqrt{12})0.0745
連続修正ありΦ((15.5−20)/12)\Phi((15.5 - 20)/\sqrt{12})0.0970

0.5ずらすだけで、誤差が10分の1以下になりました。

2. ポアソン近似と少数法則

次は、nn が大きく pp が小さい場合です。npn→λn p_n \to \lambda のとき、B(n,pn)B(n, p_n) の確率母関数の極限を計算します。

Gn(s)={1+pn(s−1)}n={1+npn(s−1)n}n⟶eλ(s−1)G_n(s) = \{1 + p_n(s - 1)\}^n = \left\{1 + \frac{n p_n (s - 1)}{n}\right\}^n \longrightarrow e^{\lambda(s - 1)}

右辺は Po(λ)Po(\lambda) の確率母関数です。確率母関数の収束から、それぞれの確率の収束が言えます。これが 少数法則 で、起こりにくい出来事を多数の試行で数えると、ポアソン分布に近づくという定理です。宝くじの高額当選者の数や、1日の交通事故の件数が、その例です。

例えば、X∼B(200,0.01)X \sim B(200, 0.01) と Po(2)Po(2) を比べると、P(X=2)P(X = 2) は0.2720と0.2707、P(X≤2)P(X \le 2) はともに0.6767です。

補足(ここは読み飛ばしてOK): pp が試行ごとに違っても、少数法則は成り立ちます。独立なベルヌーイ変数の和とポアソン分布の分布の差は、ル・カムの不等式により ∑ipi2\sum_i p_i^2 で押さえられます。

【2つの近似の使い分け】

  • 正規近似: npnp と nqnq がどちらも大きい(目安は5以上)。連続修正を付ける
  • ポアソン近似: nn が大きく pp が小さい。λ=np\lambda = np とする

例題:不良品の個数

不良率2%の製品について、次の確率を近似せよ。〔1〕150個の中に不良品が5個以上ある確率を、ポアソン近似で求めよ。〔2〕2500個の中の不良品が40個以下である確率を、連続修正を用いた正規近似で求めよ。

【解答】

〔1〕λ=150×0.02=3\lambda = 150 \times 0.02 = 3 である。Po(3)Po(3) より、次を得る。

P(X≥5)=1−e−3(1+3+92+92+278)≈0.185P(X \ge 5) = 1 - e^{-3}\left(1 + 3 + \frac{9}{2} + \frac{9}{2} + \frac{27}{8}\right) \approx 0.185

〔2〕np=50np = 50、npq=49=7\sqrt{npq} = \sqrt{49} = 7 である。連続修正により z=(40.5−50)/7≈−1.36z = (40.5 - 50)/7 \approx -1.36 で、Φ(−1.36)≈0.087\Phi(-1.36) \approx 0.087 である。

正確な値は、〔1〕が0.183、〔2〕が0.084です。答案では、どの近似をなぜ使ったかを1行添えましょう。

以上が、二項分布の正規近似とポアソン近似についての解説です。

細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「分散で押さえるのが大数の法則、キュムラントの2次で止めるのが中心極限定理」という点だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は大数の弱法則と中心極限定理の証明、そして二項分布の2つの近似を紹介しました。100人の合唱で個人の癖が消えるように、和をとると分布の癖は 1/n1/\sqrt{n} の速さで消えて、平均と分散だけが残ります。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • マルコフの不等式からチェビシェフの不等式が出て、大数の弱法則はその1行の応用である。
  • 大数の法則には V[Xˉn]→0V[\bar{X}_n] \to 0 が効いている。コーシー分布では成り立たない。
  • 中心極限定理は、キュムラント母関数の展開と連続性定理で証明できる。
  • 二項分布は、npnp が大きければ連続修正つきの正規近似、pp が小さければポアソン近似を使う。

キーワードのおさらい

  • 大数の弱法則: 標本平均が母平均に確率収束するという定理
  • 中心極限定理: 標準化した標本平均が N(0,1)N(0, 1) に分布収束するという定理
  • 二項分布の正規近似とポアソン近似: B(n,p)B(n, p) を N(np,npq)N(np, npq) か Po(np)Po(np) で近似すること
  • 少数法則: npnp を一定にして n→∞n \to \infty とすると、二項分布がポアソン分布に近づくという定理
  • 連続修正: 離散型を連続型で近似するとき、境目を0.5ずらす補正
  • チェビシェフの不等式: 分散だけで裾の確率を上から押さえる不等式
  • 連続性定理: 母関数の収束から分布収束を導く定理

さて、極限の道具がそろいました。ここからは、個々の分布を数理的に見直していきます。二項分布もポアソン分布も、期待値や分散をもっと楽に導く方法があるのでしょうか?

次回は、離散型分布について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. 平均50、標準偏差5の確率変数 XX について、チェビシェフの不等式から得られる P(∣X−50∣≥15)P(|X - 50| \ge 15) の上界として正しいものはどれか。
問2. 分散4の分布の標本平均について、P(∣Xˉn−μ∣≥0.5)≤0.1P(|\bar{X}_n - \mu| \ge 0.5) \le 0.1 がチェビシェフの不等式から保証される最小の nn として正しいものはどれか。
問3. X∼B(100,0.5)X \sim B(100, 0.5) について、連続修正を用いた正規近似による P(X≥60)P(X \ge 60) に最も近いものはどれか。
問4. X∼B(500,0.004)X \sim B(500, 0.004) について、ポアソン近似による P(X=0)P(X = 0) に最も近いものはどれか。
問5. X1,…,XnX_1, \dots, X_n が独立に標準コーシー分布に従うとき、標本平均 Xˉn\bar{X}_n の説明として最も適切なものはどれか。