はじめに
「最尤推定量を求めよって、どこまで書けば満点なの?」
準1級では、対数尤度を微分して0とおき、推定値を計算しました。ところが、論述の答案で「微分して0とおくと θ^=…」とだけ書くと、それでは足りないことがあります。その点が本当に最大なのかを、確かめていないからです。
霧の中の山登りを想像してください。足元が平らな場所を見つけても、そこが山頂とは限りません。尾根の途中かもしれないし、谷底かもしれませんよね。尤度の山でも、同じことが起きます。
実は、最尤推定の理論は、対数尤度を微分した1つの関数に集約されます。この関数の性質を押さえれば、推定量の計算も、次の記事以降の理論も、すべて見通しよく書けるようになります。
そこで登場するのが、今回の主役 有効スコア関数 です。有効スコア関数とは、対数尤度関数を母数で微分した関数で、単にスコア関数とも呼びます。
前回の記事では、情報を失わない要約である十分統計量を学びました。今回の記事では、尤度関数の書き下ろし方、有効スコア関数の性質の証明、そして最尤推定を答案として書き切る方法について解説します。
尤度関数:モデルから式を書き下ろす
はじめに、尤度関数の定義と書き方について解説します。
準1級の復習です。データ x を固定して、同時確率(密度)を母数 θ の関数と見たものを 尤度関数 と呼び、その対数を 対数尤度関数 と呼びます。
L(θ)=f(x;θ)=i=1∏nf(xi;θ),ℓ(θ)=logL(θ)=i=1∑nlogf(xi;θ)
尤度は、オーディションの点数のようなものです。審査員はデータで、候補者は θ の値です。「その値が真なら、このデータはどのくらい起きやすいか」で、候補者に点数がつきます。
ここで注意が2つあります。
1つ目は、尤度は θ の確率ではないということです。候補者全員の点数を足しても、1になる保証はありません。例えば、12回中3回当たる二項分布の尤度を p で積分すると、∫01(312)p3(1−p)9dp=1/13 です。
2つ目は、尤度の定数倍には意味がないということです。点数は比べるためのものなので、全員に同じ数を掛けても順位は変わりません。例えば、次の2つの実験を比べてみましょう。
【同じ尤度をもつ2つの実験】
- 12回引くと決めて、3回当たった: L(p)=(312)p3(1−p)9(二項分布)
- 3回当たるまで引いて、12回かかった: L(p)=(211)p3(1−p)9(負の二項分布)
実験の設計は違いますが、尤度はともに p3(1−p)9 に比例します。したがって、最尤推定値はどちらも p^=1/4 です。
1級の腕の見せどころは、複雑な観測の尤度を自分で書くことです。原則は1つだけで、「観測された事象の確率を、そのまま掛ける」です。
例えば、寿命が率 λ の指数分布に従う部品5個を試験し、2, 3, 5 の時点で3個が故障して、残り2個は6の時点で動いたまま試験を打ち切ったとします。故障した部品の情報は密度 λe−λt で、打ち切った部品の情報は「6より長くもった」という確率 e−6λ です。
L(λ)=故障∏λe−λti打ち切り∏e−λcj=λde−λτ
d=3 は故障数で、τ=2+3+5+6+6=22 は総試験時間です。微分すると λ^=d/τ=3/22≈0.136 で、平均寿命の推定値は約7.3です。打ち切りの2個を無視して故障の3個だけで平均すると3.3になり、長生きした部品を捨てたぶん、大きく過小評価してしまいます。
以上が、尤度関数についての解説です。
有効スコア関数:2つの等式を証明する
次に、最尤法の理論の中心である有効スコア関数について説明します。
有効スコア関数(efficient score function)は、対数尤度関数の傾きです。
U(θ)=∂θ∂ℓ(θ)=i=1∑nu(Xi;θ),u(x;θ)=∂θ∂logf(x;θ)
U(θ)=0 が 尤度方程式 です。X が確率変数なので、U(θ) も確率変数です。ここからが1級の話です。U は次の2つの等式を満たします。
Eθ[U(θ)]=0,Vθ[U(θ)]=−Eθ[∂θ∂U(θ)]
イメージはシーソーです。真の θ の位置で対数尤度の傾きを測ると、データしだいで右上がりにも右下がりにもなります。でも、平均するとちょうど釣り合って、傾きは0です。
等式には、次の 正則条件 が必要です。
【正則条件】
- f(x;θ)>0 となる x の範囲(台)が θ によらない
- f は θ について2回微分できる
- ∫fdx を θ で2回微分するとき、微分と積分の順序を交換できる
【証明】
- ∫f(x;θ)dx=1 を θ で微分する。∂f/∂θ=uf なので、∫ufdx=0、すなわち Eθ[u]=0 である
- ∫ufdx=0 をもう一度 θ で微分すると、∫(∂u/∂θ)fdx+∫u(∂f/∂θ)dx=0 である
- 第2項は ∫u2fdx なので、Eθ[u2]=−Eθ[∂u/∂θ] を得る
- U は独立な u(Xi;θ) の和なので、Eθ[U]=0 で、Vθ[U]=nEθ[u2]=−Eθ[∂U/∂θ] である
この Eθ[u2] が、準1級で学んだフィッシャー情報量 I(θ) です。スコアの揺れの大きさが、データのもつ情報の量になっています。
具体的に見てみましょう。ポアソン分布では u=x/λ−1 です。E[u]=λ/λ−1=0 で、V[u]=V[X]/λ2=1/λ です。もう一方も −E[∂u/∂λ]=E[X]/λ2=1/λ で、確かに一致します。
別の例も見てみましょう。正則条件が崩れる U(0,θ) では、台の中で u=−1/θ です。つまり E[u]=−1/θ=0 で、等式が成り立ちません。台が θ とともに動くので、手順1の微分で積分の端の項が余分に出るからです。
例題:スコア関数の性質を確かめる
密度 f(x;θ)=(x/θ)e−x2/(2θ)(x>0、θ>0)からの大きさ n の標本について、有効スコア関数 U(θ) を求め、Eθ[U]=0 を確かめよ。さらに Vθ[U] を求めよ。
【答案】
- logf=logx−logθ−x2/(2θ) より、u=−θ1+2θ2x2 で、U(θ)=−θn+2θ2∑iXi2 である
- Y=X2 と変換すると、Y の密度は 2θ1e−y/(2θ) で、平均 2θ の指数分布である
- E[X2]=2θ より、E[u]=−1/θ+2θ/(2θ2)=0 である。よって Eθ[U]=0 である
- V[X2]=4θ2 より、V[u]=4θ2/(4θ4)=1/θ2 で、Vθ[U]=n/θ2 である
答えは Vθ[U]=n/θ2 です。−E[∂u/∂θ]=−1/θ2+2θ/θ3=1/θ2 でも、同じ値になります。
最後に、母数が複数ある場合です。関心のある母数 θ のほかに、じゃまな母数 η(局外母数)があるとします。このとき、θ のスコアには η の不確かさの影響が混ざるので、その分を取り除いた次の量を考えます。
U~θ=Uθ−IθηIηη−1Uη
Iθη などは、スコアの共分散行列の成分です。これは、Uθ を Uη に回帰したときの残差にあたります。
例えば、yi=α+βxi+εi(σ2 既知)で、β に関心があるとしましょう。Uα=∑iεi/σ2、Uβ=∑ixiεi/σ2 で、Iβα/Iαα=xˉ です。代入すると、U~β=∑i(xi−xˉ)εi/σ2 となります。その分散は Sxx/σ2 で、逆数は最小二乗推定量の分散 σ2/Sxx に一致します。切片が分からないぶん、β の情報が ∑ixi2/σ2 から Sxx/σ2 に減ったのです。
補足(ここは読み飛ばしてOK):
「有効スコア」は efficient score の訳で、局外母数がないときは対数尤度の微分そのものです。局外母数があるときは、上の残差を指す本もあります。試験では問題文の定義を確かめましょう。
以上が、有効スコア関数についての説明です。
最尤推定:答案を書き切る
続いて、最尤推定 を答案として書き切る手順を解説します。
【最尤推定の答案の手順】
- 尤度関数と対数尤度関数を、母数の範囲とともに書く
- 台が母数で決まるなら微分を使わず、尤度の形を直接見る
- 尤度方程式 U(θ)=0 を解く
- 求めた点が最大であることを示す
手順4の方法は、主に3つあります。全域で ℓ′′(θ)<0 を示す(凹関数なら、尤度方程式の解は最大点です)。U(θ) の符号の変化を調べる。解が複数あるなら、尤度の値を比べる。
さきほどの例題の分布で書いてみましょう。U(θ)=(n/θ2)(θ^−θ)(θ^=∑ixi2/(2n))と変形すると、θ<θ^ で U>0、θ>θ^ で U<0 です。ここで ℓ は増加から減少に変わるので、θ^ は最大点です。ℓ′′(θ^)<0 を1点で確かめただけでは、局所的な最大しか言えない点に注意しましょう。
では、確認をしないと何が起きるのでしょうか? 位置母数 θ のコーシー分布 f=1/[π{1+(x−θ)2}] で、データが −3,3 の2個だとします。尤度方程式を解くと、解は θ=0 と θ=±8≈±2.83 の3つです。ところが、ℓ(0)≈−4.61 に対して、ℓ(±8)≈−3.58(定数を除く)です。θ=0 は山頂ではなく谷底でした。冒頭の霧の山が、本当に現れたわけです。
例題:遺伝子型の頻度を推定する
3つの型の確率が θ2、2θ(1−θ)、(1−θ)2(0<θ<1)で、度数が n1,n2,n3(n=n1+n2+n3)である。θ の最尤推定量を導け。(n1,n2,n3)=(30,50,20) のときの値も求めよ。
【答案】
- 定数を除いて、ℓ(θ)=alogθ+blog(1−θ) である。ここで a=2n1+n2、b=n2+2n3 である
- U(θ)=a/θ−b/(1−θ)=0 を解くと、θ^=a/(a+b)=(2n1+n2)/(2n) である
- ℓ′′(θ)=−a/θ2−b/(1−θ)2<0 なので ℓ は凹関数で、θ^ は最大点である(a,b>0 のとき)
- 値は (60+50)/200=0.55 である
答えは θ^=(2n1+n2)/(2n) で、値は0.55です。数え方の意味は素直で、全部で 2n 個ある遺伝子のうちの片方の型の割合です。
次に、微分が効かない場合です。1つずつ見ていきましょう。
1. 尤度に折れ目がある場合
ラプラス分布 f=21e−∣x−θ∣ では、ℓ(θ)=−∑i∣xi−θ∣+定数 です。これはデータ点で折れる折れ線で、θ より大きいデータの個数が小さいデータの個数を上回る間は増加します。したがって、最尤推定量は標本中央値です。
データが 1, 3, 7 なら θ^=3 です。データが偶数個のときは、中央の2つの値の間で傾きが0になるので、その間のすべての値が最尤推定値です。最尤推定値は1つとは限りません。
2. 台が母数で決まる場合
密度 f(x;α,c)=αcαx−α−1(x≥c)のパレート分布を考えます。L=αncnα(∏ixi)−α−11{c≤x(1)} は c について増加なので、まず c^=x(1) です。これを代入して α を微分すると、α^=n/∑ilog(xi/c^) です。
データが 2, 3, 4, 8 なら、c^=2 で、α^=4/(log1.5+log2+log4)≈1.61 です。片方を先に最大化してから、もう片方を解く方法を覚えておきましょう。
例題:尤度方程式を数値で解く
ゼロが観測されないポアソン分布 P(X=x)=e−λλx/{x!(1−e−λ)}(x=1,2,…)がある。(1) xˉ を使って尤度方程式を書け。(2) xˉ=2 のとき、λ0=2 から始めて、ニュートン法で λ^ を小数第2位まで求めよ。
【答案】
- ℓ(λ)/n=−λ+xˉlogλ−log(1−e−λ)+定数 を微分して整理すると、次の式を得る
nU(λ)=λxˉ−1−e−λ1=0
- U′(λ)/n=−xˉ/λ2+e−λ/(1−e−λ)2 を使い、λnew=λ−U(λ)/U′(λ) を繰り返す
- λ の値は、2→1.509→1.590→1.594→1.594 と進む
答えは約1.59です。λ/(1−e−λ) は増加関数なので、xˉ>1 なら解はただ1つです。xˉ=λ/(1−e−λ) は、標本平均と母平均をそろえた式でもあります。
試験のポイント:解が陽に書けない問題でも、「尤度方程式を書く」「解の一意性を示す」までは必ず答案にできます。
以上が、最尤推定の答案の書き方についての解説です。
不変性と十分統計量との関係
最後に、最尤推定量がもつ2つの構造を見ていきましょう。
1つ目は 不変性 です。θ^ が最尤推定量なら、g(θ) の最尤推定量は g(θ^) です。円で測って一番高い買い物は、ドルで測っても一番高いですよね。1対1の変換では山頂の位置が動かないので、これは当然です。
g が1対1でないときは、τ=g(θ) の尤度を、L∗(τ)=supθ:g(θ)=τL(θ) と定めます。
【不変性の証明】
- τ^=g(θ^) とおく。θ^ は g(θ)=τ^ の範囲に含まれるので、L∗(τ^)≥L(θ^) である
- 任意の τ について、L∗(τ)=supθ:g(θ)=τL(θ)≤supθL(θ)=L(θ^) である
- したがって L∗(τ)≤L∗(τ^) で、τ^ は L∗ の最大点である
具体的に見てみましょう。身長が正規分布に従い、μ^=170、σ^=5 だったとします。180を超える確率は2つの母数の関数で、1対1ではありません。それでも、その最尤推定値は 1−Φ((180−170)/5)=1−Φ(2)≈0.023 です。
ただし、不変性は不偏性を保ちません。例えば、S2 が不偏でも S は不偏でないように、関数をとると期待値はずれます。「最尤推定量は不偏」とは言えないのです。
2つ目は、十分統計量との関係です。分解定理より ℓ(θ)=logg(T;θ)+logh(x) で、第2項は θ によりません。つまり、対数尤度の山の形は T だけで決まります。
θ^=argθmaxlogg(T;θ)
したがって、最尤推定量がただ1つなら、それは十分統計量の関数です。先ほどの打ち切りの例では、(d,τ) が十分統計量で、λ^=d/τ はその関数になっています。
なお、最尤推定量が1つでないと、話は少し変わります。U(θ,θ+1) では、尤度は x(n)−1≤θ≤x(1) で一定の1です。この区間の中のどの点も最尤推定値で、十分統計量と無関係な選び方もできます。その場合は、十分統計量の関数である最尤推定量が「選べる」という言い方が正確です。
以上が、不変性と十分統計量との関係についての解説です。
細かい例を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「スコアの平均は0、分散は情報量」「最大の確認まで書いて答案は完成」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は、尤度関数を書き下ろし、有効スコア関数の性質を証明して、最尤推定を答案として書き切る方法を紹介しました。尤度方程式の解は、霧の山の平らな場所にすぎません。山頂だと確かめるところまでが、最尤推定です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 尤度は確率ではなく、定数倍に意味がない。複雑な観測でも、観測された事象の確率をそのまま掛ければ書ける。
- 有効スコア関数は対数尤度の傾き。正則条件のもとで、平均は0で、分散は2階微分の期待値の符号を変えたものに等しい。
- 最尤推定の答案は、尤度方程式を解いたあとに最大の確認まで書く。解が複数のこともある。
- 折れ目のある尤度や、台が母数で決まる尤度では、微分に頼らず形を直接見る。
- 不変性は成り立つが不偏性は保たれない。最尤推定量がただ1つなら十分統計量の関数である。
キーワードのおさらい
- 尤度関数: データを固定し、同時確率(密度)を母数の関数と見たもの
- 対数尤度関数: 尤度関数の対数。独立な標本では各観測の対数密度の和
- 有効スコア関数: 対数尤度関数を母数で微分した関数
- 尤度方程式: 有効スコア関数を0とおいた方程式
- 正則条件: 台が母数によらず、微分と積分を交換できるなどの条件
- 局外母数: 関心はないが、モデルに含まれていて未知の母数
- 最尤推定: 尤度関数を最大にする値を推定値とする方法
さて、最尤法は強力ですが、推定量の作り方はこれだけではありません。尤度が書けないとき、分布を仮定したくないときは、どうすればよいのでしょうか?
次回は、モーメント法、最小二乗法、線形推定(BLUE)など、最尤法以外の推定法について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。