はじめに
「ヤコビアンを掛けるのは覚えた。でも、補助変数はどう選べばいいの?」
準1級では、変換の公式に当てはめて分布を求めました。ところが1級の問題では、変換が単調でなかったり、1つの統計量の分布を求めるために、自分で変数を1つ足さなければならなかったりします。
例えば、引っ越しを想像してください。荷物の総量は、どの部屋に移しても変わりません。しかし、狭い部屋に押し込めば詰まり具合は高くなり、広い部屋に広げれば低くなります。
実は、確率の変換もこれと同じです。確率の総量は変わらず、間取りに合わせて密度だけが変わります。変数変換の公式は、すべて「小さな領域の確率は変換で変わらない」という保存則から出てきます。ここが分かれば、手順は機械的です。
そこで登場するのが、今回の主役 変数変換 の証明と、確率変数の線形結合 の行列による扱いです。
前回の記事では、分布の特性値を学びました。今回の記事では、1変数の公式の証明、補助変数の選び方、和・積・比の分布の導出、そして線形結合の分布について解説します。
1変数の変数変換:公式を証明する
はじめに、1変数の公式を証明します。
X の確率密度関数を fX とします。g が狭義単調で微分可能なとき、Y=g(X) の確率密度関数は次の式です。
fY(y)=fX(g−1(y))dydg−1(y)
証明は、累積分布関数を経由します。g が増加なら、次のようになります。
FY(y)=P(X≤g−1(y))=FX(g−1(y))
y で微分すると、合成関数の微分で公式が出ます。g が減少なら、不等号の向きが逆になるので FY(y)=1−FX(g−1(y)) です。微分すると前にマイナスが付きますが、g−1 の微分が負なので、全体は正です。2つの場合を1つにまとめたものが、絶対値です。
具体的に見てみましょう。X が標準コーシー分布 f(x)=1/{π(1+x2)} に従うとき、Y=1/X は1対1の変換です。x=1/y、∣dx/dy∣=1/y2 を入れると、次のようになります。
fY(y)=π(1+1/y2)1⋅y21=π(1+y2)1
標準コーシー分布の逆数は、また標準コーシー分布です。
g が単調でないときは、定義域を単調な区間に切り分けます。1つの y に対応する x を x1,x2,… とすると、それぞれの枝の寄与を足せばよいのです。
fY(y)=i∑fX(xi)dydxi
例えば、一定の速さで回る観覧車を考えます。角度 Θ が (0,2π) の一様分布に従うとき、高さ Y=cosΘ の分布はどうなるでしょうか? −1<y<1 の1つの値に、θ=arccosy と 2π−arccosy の2つの枝が対応します。どちらの枝でも ∣dθ/dy∣=1/1−y2 です。
fY(y)=2×2π1×1−y21=π1−y21
y=±1 の近くで密度が大きくなります。観覧車は、てっぺんと一番下の近くでは高さがほとんど変わらないので、そこに長くとどまって見えるのです。
もう1つ、1級で欠かせない変換があります。確率積分変換 です。F が連続で狭義増加のとき、X∼F なら U=F(X) は (0,1) の一様分布に従います。
例題:確率積分変換
X の累積分布関数 F は連続で狭義増加とする。〔1〕U=F(X) が (0,1) の一様分布に従うことを示せ。〔2〕T=−log(1−F(X)) の分布を求めよ。〔3〕X の危険率が h(x)=x(x>0)のとき、X2/2 の分布を答えよ。
【解答】
〔1〕0<u<1 について、P(F(X)≤u)=P(X≤F−1(u))=F(F−1(u))=u である。これは一様分布の累積分布関数である。
〔2〕t>0 について、P(T≤t)=P(U≤1−e−t)=1−e−t である。よって T は平均1の指数分布に従う。
〔3〕S(x)=e−x2/2 だから、−log(1−F(X))=−logS(X)=X2/2 である。〔2〕より、平均1の指数分布に従う。
〔2〕は、「累積の危険率で測った寿命は、どんな分布でも平均1の指数分布になる」という意味です。逆に X=F−1(U) とすれば、一様乱数から F に従う乱数が作れます。後の記事のシミュレーションの土台です。なお、F が階段状の離散型では〔1〕は成り立ちません。
以上が、1変数の公式の証明についての解説です。
多変数の変数変換:補助変数を選ぶ
次に、多変数の場合について説明します。
(X,Y) を (U,V) に1対1に変換するとき、公式は fU,V(u,v)=fX,Y(x,y)∣J∣ でした。J は x,y を u,v で偏微分した行列の行列式、ヤコビアンです。
証明の筋道はこうです。(U,V) の領域 B に対応する (X,Y) の領域を A とすると、確率は等しいので次の式が成り立ちます。
P((U,V)∈B)=∬AfX,Y(x,y)dxdy=∬BfX,Y(x(u,v),y(u,v))∣J∣dudv
右の等号は、重積分の変数変換です。どんな B でも成り立つので、右の積分の中身が (U,V) の確率密度関数です。小さな長方形が小さな平行四辺形に写り、その面積比が ∣J∣ なのです。
ほしいのが U だけのときは、もう1つの変数 V を自分で足します。これが補助変数です。
【補助変数の選び方】
- 変換が1対1になる
- x,y を u,v で解きやすい
- できれば U と独立になりそうな形にする(和に対して比、半径に対して角度など)
例題:ガンマ分布の和と比
X∼Ga(a,1)、Y∼Ga(b,1) は独立とする。ただし Ga(a,1) の確率密度関数は xa−1e−x/Γ(a)(x>0)である。U=X+Y、V=X/(X+Y) とする。〔1〕(U,V) の同時確率密度関数を求めよ。〔2〕U と V は独立で、U∼Ga(a+b,1)、V∼Be(a,b) であることを示せ。〔3〕B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b) を示せ。
【解答】
〔1〕逆に解くと x=uv、y=u(1−v) で、範囲は u>0、0<v<1 である。J=v⋅(−u)−u(1−v)=−u より ∣J∣=u である。代入して整理すると、次を得る。
fU,V(u,v)=Γ(a)Γ(b)(uv)a−1{u(1−v)}b−1e−uu=Γ(a+b)ua+b−1e−u⋅Γ(a)Γ(b)Γ(a+b)va−1(1−v)b−1
〔2〕〔1〕は u だけの関数と v だけの関数の積で、範囲も長方形だから、U と V は独立である。前の因子は Ga(a+b,1) の確率密度関数で積分は1だから、後の因子が V の確率密度関数である。これは Be(a,b) である。
〔3〕後の因子を v で積分すると1だから、∫01va−1(1−v)b−1dv=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b) である。
変数変換だけで、ベータ関数の公式まで証明できました。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。X,Y が独立に N(0,1) に従うとき、極座標 x=rcosθ、y=rsinθ に変換します。∣J∣=r なので、次のようになります。
fR,Θ(r,θ)=2π1e−(x2+y2)/2r=2π1⋅re−r2/2
Θ は (0,2π) の一様分布、R は re−r2/2 に従い、独立です。逆向きに読むと、一様乱数2つから正規乱数を作るボックス・ミュラー法になります。
試験のポイント:範囲の変換は省略できません。(u,v) の範囲を答案に書き、範囲が長方形で式が積に分かれるときに限り、独立と結論します。
以上が、多変数の変数変換についての説明です。
和・積・比の分布を同じ型で導く
続いて、よく問われる3つの形について解説します。
和、積、比は、どれも補助変数を V=X とすれば同じ型で解けます。同じ生地から3種類のパンを焼くようなものです。y を x,z で解き、ヤコビアンを掛けて、x で積分します。
【Z の確率密度関数の公式】
- 和 Z=X+Y: y=z−x、∣J∣=1 より fZ(z)=∫f(x,z−x)dx
- 積 Z=XY: y=z/x、∣J∣=1/∣x∣ より fZ(z)=∫f(x,z/x)∣x∣1dx
- 比 Z=Y/X: y=zx、∣J∣=∣x∣ より fZ(z)=∫f(x,zx)∣x∣dx
和の公式は、準1級の畳み込みです。積と比にも同じ型が使えることが、ポイントです。
具体的に見てみましょう。X,Y が独立に (0,1) の一様分布に従うとき、Z=XY の分布を求めます。0<z/x<1 が必要なので、積分の範囲は z<x<1 です。
fZ(z)=∫z1x1dx=−logz(0<z<1)
積分すると FZ(z)=z−zlogz で、例えば P(Z≤1/2)≈0.847 です。積分の範囲を (0,1) のままにする間違いが、とても多いので注意しましょう。
例題:正規分布の比
X,Y は独立に N(0,1) に従う。Z=Y/X の確率密度関数を求めよ。
【解答】
比の公式に f(x,y)=2π1e−(x2+y2)/2 を代入する。被積分関数は x の偶関数だから、次を得る。
fZ(z)=2π1∫−∞∞∣x∣e−(1+z2)x2/2dx=π1∫0∞xe−(1+z2)x2/2dx=π(1+z2)1
よって Z は標準コーシー分布に従う。
前の節の極座標で見ると、Y/X=tanΘ です。Θ は一様分布に従うので、一様な角度の正接がコーシー分布だと分かります。
以上が、和・積・比の分布についての解説です。
確率変数の線形結合を行列で扱う
最後に、確率変数の線形結合を見ていきましょう。
確率ベクトル X の平均を μ、分散共分散行列を Σ とします。Y=AX+b について、次が成り立ちます。
E[Y]=Aμ+b,V[Y]=AΣA⊤
証明は、Y−E[Y]=A(X−μ) を (Y−E[Y])(Y−E[Y])⊤ に入れて、期待値をとるだけです。A を1行のベクトル a⊤ にすると V[a⊤X]=a⊤Σa≥0 で、Σ が非負定値であることが分かります。前回の「分散は負にならない」が、ここでも顔を出しました。
例えば、分散 σ2 で、どの2つの相関も ρ である X1,…,Xn の平均 Xˉ を考えます。a=(1/n,…,1/n)⊤ を入れると、次のようになります。
V[Xˉ]=nσ2{1+(n−1)ρ}
σ2=4、ρ=0.2、n=10 なら1.12で、独立のときの0.4の約3倍です。n→∞ でも σ2ρ=0.8 が残ります。全員が同じ先生に習ったクラスのように、共通のぶれは、人数を増やしても平均で消えないのです。また、分散が負にならないことから、ρ≥−1/(n−1) も分かります。
分布の形については、準1級で見たとおり、独立ならモーメント母関数の積で調べます。特に、独立な正規分布の線形結合は正規分布です。
例題:標本平均と偏差
X1,…,Xn は独立に平均 μ、分散 σ2 の分布に従う。〔1〕Cov[Xˉ,Xi−Xˉ]=0 を示せ。〔2〕さらに Xi∼N(μ,σ2) のとき、Xˉ と ∑i(Xi−Xˉ)2 が独立であることを示せ。
【解答】
〔1〕Cov[Xˉ,Xi]=n1V[Xi]=nσ2、V[Xˉ]=nσ2 だから、差をとって0である。
〔2〕第1行が (1,…,1)/n の直交行列 P をとり、Y=PX とする。ν=E[Y] とおく。直交変換は長さを変えないので ∑i(xi−μ)2=∑i(yi−νi)2 で、∣detP∣=1 である。したがって変数変換の公式より、Y の同時確率密度関数は積に分かれ、Y1,…,Yn は独立で、それぞれ分散 σ2 の正規分布に従う。ここで Y1=nXˉ で、次が成り立つ。
i=2∑nYi2=i=1∑nXi2−nXˉ2=i=1∑n(Xi−Xˉ)2
Xˉ は Y1 だけの関数で、偏差平方和は Y2,…,Yn だけの関数だから、両者は独立である。
この結果は、後の標本分布の記事で t 分布を導く鍵になります。
以上が、確率変数の線形結合についての解説です。
細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「確率の量は保存され、密度だけが補正される」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は変数変換の公式の証明と、補助変数を使った導出の手順を紹介しました。引っ越しで荷物が消えないように、確率の総量は変わりません。この保存則さえ押さえれば、和でも比でも、同じ手順で分布が導けます。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 1変数の公式は累積分布関数の微分から出る。単調でなければ枝ごとに足す。
- F(X) は一様分布に従う。これが確率積分変換である。
- 補助変数は、1対1で解きやすく、独立になりそうな形を選ぶ。範囲の変換を忘れない。
- 和・積・比は、V=X とする同じ型で導ける。
- 線形結合の分散は AΣA⊤。直交変換を使うと、正規標本の平均と偏差平方和の独立が示せる。
キーワードのおさらい
- 変数変換: 確率変数を関数で別の確率変数に変え、その分布を求めること
- ヤコビアン: 変換による面積の伸び縮みを表す行列式
- 確率積分変換: F(X) が一様分布に従うという変換
- 補助変数: 1対1の変換にするために足す変数
- 確率変数の線形結合: 確率変数に定数を掛けて足したもの。平均は a⊤μ、分散は a⊤Σa
さて、ここまでは分布を厳密に導いてきました。しかし、n 個の和の分布を厳密に求められる場面は限られます。n が大きいとき、和はどんな分布に近づくのでしょうか?
次回は、極限定理と確率分布の近似について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。