統計学 学習ノート

統計検定の4級から1級まで、出題範囲の順に記事と練習問題で学ぶ

1級数理-8 統計数理

標本分布 — 導出と応用

  • t分布
  • カイ二乗分布
  • F分布

はじめに

「t分布の密度関数って、いったいどこから出てくるの?」

準1級までは、t分布、カイ二乗分布、F分布の式を、できあがったものとして使ってきました。お店で買ってきたカレールーのようなものです。ルーがあれば、おいしいカレーはすぐに作れますよね。

でも、1級の論述では「スパイスから作ってください」と言われます。「この統計量が自由度 n−1n-1 のt分布に従うことを示せ」「密度を導け」という問題です。表を引けるだけでは、答案を1行も書けません。

実は、3つの分布の導出は、どれも同じ型でできています。独立な変数の同時密度を書き、変数変換でヤコビアンを掛け、いらない変数を積分で消す。たったこれだけです。

そこで登場するのが、今回の主役 標本分布 です。標本分布とは、統計量が従う確率分布のことです。

前回の記事では、ガンマ分布やベータ分布などの連続型分布を学びました。今回の記事では、その道具を使ってカイ二乗分布、t分布、F分布を導き、正規母集団の基本定理を証明して、推測への応用までを解説します。

カイ二乗分布:モーメント母関数で導く

はじめに、3つの分布の土台であるカイ二乗分布の導出について解説します。

カイ二乗分布 χ2(k)\chi^2(k) は、独立な標準正規変数の2乗和 W=Z12+⋯+Zk2W = Z_1^2 + \dots + Z_k^2 の分布でした。準1級では、これが形状 k/2k/2、尺度2のガンマ分布だと確かめました。答案では、この事実を定義の積分から示します。

E[etZ2]=∫−∞∞12π e−(1−2t)z2/2 dz=(1−2t)−1/2(t<12)E[e^{tZ^2}] = \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\, e^{-(1-2t)z^2/2}\,dz = (1-2t)^{-1/2} \qquad \left(t < \tfrac{1}{2}\right)

積分の中は、分散 1/(1−2t)1/(1-2t) の正規密度の定数倍です。正規密度の積分が1であることを使えば、積分そのものを計算しなくても値が出ます。独立な変数の和のモーメント母関数は積なので、WW のモーメント母関数は (1−2t)−k/2(1-2t)^{-k/2} です。これはガンマ分布のものと一致するので、一意性から密度が決まります。

fW(w)=wk/2−1 e−w/22k/2 Γ(k/2)(w>0)f_W(w) = \frac{w^{k/2-1}\, e^{-w/2}}{2^{k/2}\,\Gamma(k/2)} \qquad (w > 0)

料理で言うと、この式は「だし」です。t分布もF分布も、このだしから作ります。

次に、モーメントの一般式を作っておきましょう。これが後で何度も効きます。r>−k/2r > -k/2 のとき、次の式が成り立ちます。

E[Wr]=12k/2 Γ(k/2)∫0∞wk/2+r−1e−w/2 dw=2r Γ(k/2+r)Γ(k/2)E[W^r] = \frac{1}{2^{k/2}\,\Gamma(k/2)} \int_0^\infty w^{k/2+r-1} e^{-w/2}\,dw = \frac{2^r\, \Gamma(k/2 + r)}{\Gamma(k/2)}

積分はガンマ関数そのものなので、すぐに片づきます。rr に値を入れてみましょう。

【モーメントの一般式の使い方】

  1. r=1r = 1: E[W]=kE[W] = k
  2. r=2r = 2: E[W2]=k(k+2)E[W^2] = k(k+2) なので、V[W]=2kV[W] = 2k
  3. r=−1r = -1: E[1/W]=1/(k−2)E[1/W] = 1/(k-2)(k>2k > 2)
  4. r=1/2r = 1/2: E[W]=2 Γ ⁣(k+12)/Γ ⁣(k2)E[\sqrt{W}] = \sqrt{2}\,\Gamma\!\left(\frac{k+1}{2}\right)/\Gamma\!\left(\frac{k}{2}\right)

4つ目の具体例を見てみましょう。正規母集団では S=σW/(n−1)S = \sigma\sqrt{W/(n-1)}(W∼χ2(n−1)W \sim \chi^2(n-1))と書けます。n=5n = 5 なら、E[S]=σ×2 Γ(5/2)2 Γ(2)≈0.940 σE[S] = \sigma \times \frac{\sqrt{2}\,\Gamma(5/2)}{2\,\Gamma(2)} \approx 0.940\,\sigma です。つまり、S2S^2 は σ2\sigma^2 の不偏推定量でも、SS は σ\sigma の不偏推定量ではありません。

例題:指数分布の和とカイ二乗分布

X1,…,XnX_1, \dots, X_n は独立で、密度 λe−λx\lambda e^{-\lambda x}(x>0x > 0)の指数分布に従う。(1) 2λ∑iXi∼χ2(2n)2\lambda\sum_i X_i \sim \chi^2(2n) を示せ。(2) n=5n = 5、∑ixi=20\sum_i x_i = 20 のとき、λ\lambda の95%信頼区間を求めよ。ただし、χ2(10)\chi^2(10) の下側2.5%点は3.25、上側2.5%点は20.48とする。

【答案】

  1. Yi=2λXiY_i = 2\lambda X_i のモーメント母関数は、E[e2λtX]=λ/(λ−2λt)=(1−2t)−1E[e^{2\lambda t X}] = \lambda/(\lambda - 2\lambda t) = (1-2t)^{-1}(t<1/2t < 1/2)である
  2. 独立性より、∑iYi\sum_i Y_i のモーメント母関数は (1−2t)−n(1-2t)^{-n} である。これは χ2(2n)\chi^2(2n) のものと一致するので、一意性から(1)が示された
  3. (1)より P(3.25≤2λ∑iXi≤20.48)=0.95P(3.25 \le 2\lambda\sum_i X_i \le 20.48) = 0.95 である
  4. データを代入すると 3.25≤40λ≤20.483.25 \le 40\lambda \le 20.48 で、0.081≤λ≤0.5120.081 \le \lambda \le 0.512 となる

答えは [0.081, 0.512] です。2λ∑iXi2\lambda\sum_i X_i は未知の λ\lambda を含みますが、分布は λ\lambda によりません。このような量を ピボット と呼びます。

以上が、カイ二乗分布の導出についての解説です。

標本平均と標本分散の独立性を証明する

次に、正規母集団の基本定理を証明します。t分布を使う検定は、すべてこの定理の上に立っています。

【正規母集団の基本定理】 X1,…,XnX_1, \dots, X_n が独立に N(μ,σ2)N(\mu, \sigma^2) に従うとき、次が成り立つ。

  1. Xˉ∼N(μ,σ2/n)\bar{X} \sim N(\mu, \sigma^2/n)
  2. (n−1)S2/σ2∼χ2(n−1)(n-1)S^2/\sigma^2 \sim \chi^2(n-1)
  3. Xˉ\bar{X} と S2S^2 は独立

準1級では「回転」のイメージで理解しました。答案では、回転を具体的に書きます。使うのは ヘルマート変換 です。n=3n = 3 なら、次の3本です。

Y1=X1+X2+X33,Y2=X1−X22,Y3=X1+X2−2X36Y_1 = \frac{X_1 + X_2 + X_3}{\sqrt{3}}, \quad Y_2 = \frac{X_1 - X_2}{\sqrt{2}}, \quad Y_3 = \frac{X_1 + X_2 - 2X_3}{\sqrt{6}}

一般に、第1行は (1/n,…,1/n)(1/\sqrt{n}, \dots, 1/\sqrt{n}) で、第 jj 行(j≥2j \ge 2)は、先頭の j−1j-1 個が 11、次が −(j−1)-(j-1)、残りが0のベクトルを長さ1にそろえたものです。どの2行も内積が0で、長さは1なので、直交行列 HH になります。

イメージとしては、nn 人の仕事の割り振り直しです。もともと全員が同じ仕事をしていた X1,…,XnX_1, \dots, X_n を、「平均係さん」1人と「ばらつき係さん」n−1n-1 人に分け直します。分け直しても、仕事の総量は変わりません。

【証明】

  1. Y=HX\boldsymbol{Y} = H\boldsymbol{X} とおく。HH は直交行列なので、ヤコビアンの絶対値は1で、∥y∥=∥x∥\|\boldsymbol{y}\| = \|\boldsymbol{x}\| である
  2. X\boldsymbol{X} の同時密度は (2πσ2)−n/2exp⁡{−∥x−μ1∥2/(2σ2)}(2\pi\sigma^2)^{-n/2} \exp\{-\|\boldsymbol{x} - \mu\boldsymbol{1}\|^2/(2\sigma^2)\} である。H1=(n,0,…,0)⊤H\boldsymbol{1} = (\sqrt{n}, 0, \dots, 0)^\top なので、Y\boldsymbol{Y} の同時密度は次の積の形になる
f(y)=12πσ2exp⁡{−(y1−nμ)22σ2}∏j=2n12πσ2exp⁡(−yj22σ2)f(\boldsymbol{y}) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left\{-\frac{(y_1 - \sqrt{n}\mu)^2}{2\sigma^2}\right\} \prod_{j=2}^{n} \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} \exp\left(-\frac{y_j^2}{2\sigma^2}\right)
  1. よって Y1,…,YnY_1, \dots, Y_n は独立で、Y1∼N(nμ,σ2)Y_1 \sim N(\sqrt{n}\mu, \sigma^2)、Yj∼N(0,σ2)Y_j \sim N(0, \sigma^2)(j≥2j \ge 2)である
  2. Y1=n XˉY_1 = \sqrt{n}\,\bar{X} なので、Xˉ∼N(μ,σ2/n)\bar{X} \sim N(\mu, \sigma^2/n) である
  3. (n−1)S2=∑iXi2−nXˉ2=∑j=1nYj2−Y12=∑j=2nYj2(n-1)S^2 = \sum_i X_i^2 - n\bar{X}^2 = \sum_{j=1}^{n} Y_j^2 - Y_1^2 = \sum_{j=2}^{n} Y_j^2 である
  4. したがって S2S^2 は Y2,…,YnY_2, \dots, Y_n だけの関数で、Y1Y_1 の関数である Xˉ\bar{X} と独立である。また、(n−1)S2/σ2=∑j≥2(Yj/σ)2∼χ2(n−1)(n-1)S^2/\sigma^2 = \sum_{j \ge 2}(Y_j/\sigma)^2 \sim \chi^2(n-1) である

n=2n = 2 で確かめてみましょう。Xˉ=(X1+X2)/2\bar{X} = (X_1 + X_2)/2 で、S2=(X1−X2)2/2S^2 = (X_1 - X_2)^2/2 です。つまり定理は、「正規変数の和と差は独立」と言っているだけです。

短く書くなら、別証もあります。(Xˉ,X1−Xˉ,…,Xn−Xˉ)(\bar{X}, X_1 - \bar{X}, \dots, X_n - \bar{X}) は多変量正規分布に従い、Cov(Xˉ,Xi−Xˉ)=σ2/n−σ2/n=0\text{Cov}(\bar{X}, X_i - \bar{X}) = \sigma^2/n - \sigma^2/n = 0 です。多変量正規分布では無相関と独立が同じなので、Xˉ\bar{X} は偏差の全体と独立です。S2S^2 は偏差の関数なので、Xˉ\bar{X} と独立になります。

ただし、これは正規分布に特有の性質です。例えば、ベルヌーイ分布の標本で Xˉ=1\bar{X} = 1 なら、全員が1なので S2=0S^2 = 0 に決まります。Xˉ\bar{X} を知ると S2S^2 が分かるのですから、独立ではありません。一般に Cov(Xˉ,S2)=μ3/n\text{Cov}(\bar{X}, S^2) = \mu_3/n(μ3\mu_3 は3次の中心モーメント)で、平均1の指数分布なら μ3=2\mu_3 = 2 です。

補足(ここは読み飛ばしてOK): 逆も成り立ちます。独立な同一分布の標本で Xˉ\bar{X} と S2S^2 が独立なら、その分布は正規分布に限られます。また、ヘルマート変換を一般化した、2乗和の分解についての定理をコクランの定理と呼びます。

以上が、基本定理の証明についての解説です。

t分布:補助変数を使って密度を導く

続いて、変数変換の型を使って、t分布の密度を導きます。

t分布 t(k)t(k) は、独立な Z∼N(0,1)Z \sim N(0,1) と W∼χ2(k)W \sim \chi^2(k) から作る T=Z/W/kT = Z/\sqrt{W/k} の分布でした。ここで問題が1つあります。変数は ZZ と WW の2つなのに、作りたい量は TT の1つです。これでは変換の前後で次元が合いません。

そこで、補助変数 を呼びます。U=WU = W を足して2変数の変換にし、(T,U)(T, U) の同時密度を出してから UU を積分で消します。補助変数さんは、変換のときだけ手伝いに来て、仕事が終わったら帰ってもらう助っ人です。

例題:t分布の密度を導く

独立な Z∼N(0,1)Z \sim N(0, 1)、W∼χ2(k)W \sim \chi^2(k) について、T=Z/W/kT = Z/\sqrt{W/k} の密度を導け。

【答案】

  1. (Z,W)(Z, W) の同時密度は、12πe−z2/2⋅wk/2−1e−w/22k/2Γ(k/2)\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-z^2/2} \cdot \frac{w^{k/2-1}e^{-w/2}}{2^{k/2}\Gamma(k/2)}(w>0w > 0)である
  2. t=z/w/kt = z/\sqrt{w/k}、u=wu = w と変換する。逆変換は z=tu/kz = t\sqrt{u/k}、w=uw = u で、ヤコビアンは u/k\sqrt{u/k} である
  3. (T,U)(T, U) の同時密度は次のとおりである
f(t,u)=C uk+12−1exp⁡{−u2(1+t2k)},C=12πk  2k/2 Γ(k/2)f(t, u) = C\, u^{\frac{k+1}{2}-1} \exp\left\{-\frac{u}{2}\left(1 + \frac{t^2}{k}\right)\right\}, \qquad C = \frac{1}{\sqrt{2\pi k}\;2^{k/2}\,\Gamma(k/2)}
  1. ∫0∞ua−1e−bu du=Γ(a)/ba\int_0^\infty u^{a-1} e^{-bu}\,du = \Gamma(a)/b^a を a=(k+1)/2a = (k+1)/2、b=(1+t2/k)/2b = (1 + t^2/k)/2 で使って uu を積分すると、次の密度を得る
fT(t)=Γ ⁣(k+12)kπ  Γ ⁣(k2)(1+t2k)−k+12(−∞<t<∞)f_T(t) = \frac{\Gamma\!\left(\frac{k+1}{2}\right)}{\sqrt{k\pi}\;\Gamma\!\left(\frac{k}{2}\right)} \left(1 + \frac{t^2}{k}\right)^{-\frac{k+1}{2}} \qquad (-\infty < t < \infty)

k=1k = 1 を入れると 1/{π(1+t2)}1/\{\pi(1 + t^2)\} で、コーシー分布になります。検算として便利なので、答案の余白で確かめましょう。

モーメントは、密度を積分しなくても、独立性とカイ二乗分布の一般式で求まります。

E[T2]=k E[Z2] E[1/W]=kk−2,E[T4]=k2 E[Z4] E[W−2]=3k2(k−2)(k−4)E[T^2] = k\,E[Z^2]\,E[1/W] = \frac{k}{k-2}, \qquad E[T^4] = k^2\,E[Z^4]\,E[W^{-2}] = \frac{3k^2}{(k-2)(k-4)}

例えば k=6k = 6 なら、分散は1.5で、E[T4]=13.5E[T^4] = 13.5 です。4次モーメントを分散の2乗で割ると 13.5÷2.25=613.5 \div 2.25 = 6 となり、正規分布の3より大きいことが分かります。裾の厚さが、数字で確かめられました。

k→∞k \to \infty の極限も、密度の極限より速い方法があります。大数の法則で W/k→1W/k \to 1 に確率収束するので、スルツキーの補題から T→N(0,1)T \to N(0, 1) と分布収束します。

最後に、t分布と標本の関係です。Z=n(Xˉ−μ)/σZ = \sqrt{n}(\bar{X} - \mu)/\sigma、W=(n−1)S2/σ2W = (n-1)S^2/\sigma^2 とおくと、基本定理からこの2つは独立です。定義に入れると σ\sigma が消えて、n(Xˉ−μ)/S∼t(n−1)\sqrt{n}(\bar{X} - \mu)/S \sim t(n-1) が示されます。

以上が、t分布の導出についての解説です。

F分布:ベータ分布を経由して導く

次に、F分布を導きます。t分布と同じ型ですが、途中で通るベータ分布の性質も大切なので、この経路で見ていきましょう。

F分布 F(k1,k2)F(k_1, k_2) は、独立な W1∼χ2(k1)W_1 \sim \chi^2(k_1)、W2∼χ2(k2)W_2 \sim \chi^2(k_2) から作る F=(W1/k1)/(W2/k2)F = (W_1/k_1)/(W_2/k_2) の分布でした。まず、S=W1+W2S = W_1 + W_2、B=W1/(W1+W2)B = W_1/(W_1 + W_2) と変換します。

ケーキを2人で分ける場面を想像してください。SS はケーキ全体の大きさ、BB は1人目の取り分の割合です。実は、ガンマ分布ではこの2つが独立になります。

w1=bsw_1 = bs、w2=(1−b)sw_2 = (1-b)s のヤコビアンは ss です。同時密度に代入すると、e−s/2e^{-s/2} と ss のべきの部分と、bb の部分がきれいに分かれます。

f(b,s)=bk1/2−1(1−b)k2/2−1B(k1/2, k2/2)⏟Beta(k1/2, k2/2)⋅s(k1+k2)/2−1 e−s/22(k1+k2)/2 Γ ⁣(k1+k22)⏟χ2(k1+k2)f(b, s) = \underbrace{\frac{b^{k_1/2-1}(1-b)^{k_2/2-1}}{B(k_1/2,\ k_2/2)}}_{\text{Beta}(k_1/2,\ k_2/2)} \cdot \underbrace{\frac{s^{(k_1+k_2)/2-1}\, e^{-s/2}}{2^{(k_1+k_2)/2}\,\Gamma\!\left(\frac{k_1+k_2}{2}\right)}}_{\chi^2(k_1 + k_2)}

積に分かれたので、BB と SS は独立です。SS の因数からは、カイ二乗分布の再生性も同時に出ています。

あとは1変数の変換です。F=k2k1⋅B1−BF = \frac{k_2}{k_1} \cdot \frac{B}{1-B} なので、b=k1x/(k1x+k2)b = k_1 x/(k_1 x + k_2)、db/dx=k1k2/(k1x+k2)2db/dx = k_1 k_2/(k_1 x + k_2)^2 を代入して整理します。

fF(x)=1B(k1/2, k2/2)(k1k2)k1/2xk1/2−1(1+k1k2x)−(k1+k2)/2(x>0)f_F(x) = \frac{1}{B(k_1/2,\ k_2/2)} \left(\frac{k_1}{k_2}\right)^{k_1/2} x^{k_1/2-1} \left(1 + \frac{k_1}{k_2}x\right)^{-(k_1+k_2)/2} \qquad (x > 0)

モーメントも、やはり独立性で求まります。E[Fr]=(k2/k1)r E[W1r] E[W2−r]E[F^r] = (k_2/k_1)^r\, E[W_1^r]\, E[W_2^{-r}] に一般式を入れるだけです。

E[F]=k2k2−2,E[F2]=k22 (k1+2)k1(k2−2)(k2−4)E[F] = \frac{k_2}{k_2 - 2}, \qquad E[F^2] = \frac{k_2^2\,(k_1 + 2)}{k_1 (k_2 - 2)(k_2 - 4)}

例えば F(4,10)F(4, 10) なら、E[F]=1.25E[F] = 1.25、E[F2]=3.125E[F^2] = 3.125 で、分散は 3.125−1.5625=1.56253.125 - 1.5625 = 1.5625 です。

また、定義の分子と分母を入れ替えると、1/F∼F(k2,k1)1/F \sim F(k_2, k_1) です。ここから、F分布の下側の点は表の上側の点の逆数で求まります。

F1−α(k1,k2)=1Fα(k2,k1)F_{1-\alpha}(k_1, k_2) = \frac{1}{F_{\alpha}(k_2, k_1)}

FαF_\alpha は上側 100α100\alpha %点です。自由度の順番が入れ替わる点に注意しましょう。

以上が、F分布の導出についての解説です。

応用:部品からピボットを組み立てる

最後に、3つの分布を推測にどう使うかを見ていきましょう。

標本分布の答案は、組み立て家具に似ています。部品は「標準正規変数 ZZ」「カイ二乗変数 WW」「2つが独立である根拠」の3つです。部品がそろえば、説明書どおりに組むだけです。

【標本分布の答案の型】

  1. 未知の母数を含む量を標準化して ZZ を作る
  2. 平方和を σ2\sigma^2 で割って WW を作り、自由度を数える
  3. 独立である理由を1行書く
  4. t分布やF分布の定義に当てはめて、σ\sigma のようなじゃまな母数を消す

具体的に見てみましょう。等分散の正規2標本(大きさ mm と nn)で、μ1−μ2\mu_1 - \mu_2 を調べます。

Z=(Xˉ−Yˉ)−(μ1−μ2)σ1/m+1/n,W=(m−1)S12+(n−1)S22σ2Z = \frac{(\bar{X} - \bar{Y}) - (\mu_1 - \mu_2)}{\sigma\sqrt{1/m + 1/n}}, \qquad W = \frac{(m-1)S_1^2 + (n-1)S_2^2}{\sigma^2}

WW はカイ二乗分布の再生性から χ2(m+n−2)\chi^2(m + n - 2) に従います。Xˉ,Yˉ,S12,S22\bar{X}, \bar{Y}, S_1^2, S_2^2 は基本定理と標本の独立性から互いに独立なので、ZZ と WW も独立です。したがって、Sp2=Wσ2/(m+n−2)S_p^2 = W\sigma^2/(m + n - 2) を合併分散として、次が言えます。

(Xˉ−Yˉ)−(μ1−μ2)Sp1/m+1/n∼t(m+n−2)\frac{(\bar{X} - \bar{Y}) - (\mu_1 - \mu_2)}{S_p\sqrt{1/m + 1/n}} \sim t(m + n - 2)

分子と分母の σ\sigma が消えたことがポイントです。せっかくなので、別の例も見てみましょう。分散の比なら、(S12/σ12)/(S22/σ22)∼F(m−1,n−1)(S_1^2/\sigma_1^2)/(S_2^2/\sigma_2^2) \sim F(m-1, n-1) です。定義にそのまま入れるだけで示せます。

例題:2つの指数分布の比

X1,…,XnX_1, \dots, X_n は率 λ1\lambda_1 の指数分布、Y1,…,YmY_1, \dots, Y_m は率 λ2\lambda_2 の指数分布に従い、すべて独立とする。(1) λ1Xˉ/(λ2Yˉ)∼F(2n,2m)\lambda_1\bar{X}/(\lambda_2\bar{Y}) \sim F(2n, 2m) を示せ。(2) n=4n = 4、m=6m = 6、xˉ=30\bar{x} = 30、yˉ=12\bar{y} = 12 のとき、λ1/λ2\lambda_1/\lambda_2 の95%信頼区間を求めよ。ただし F0.025(8,12)=3.51F_{0.025}(8, 12) = 3.51、F0.025(12,8)=4.20F_{0.025}(12, 8) = 4.20 とする。

【答案】

  1. 最初の例題より W1=2λ1∑iXi∼χ2(2n)W_1 = 2\lambda_1\sum_i X_i \sim \chi^2(2n)、W2=2λ2∑jYj∼χ2(2m)W_2 = 2\lambda_2\sum_j Y_j \sim \chi^2(2m) で、2つの標本は独立なので W1W_1 と W2W_2 は独立である
  2. F分布の定義より、(W1/2n)/(W2/2m)=λ1Xˉ/(λ2Yˉ)∼F(2n,2m)(W_1/2n)/(W_2/2m) = \lambda_1\bar{X}/(\lambda_2\bar{Y}) \sim F(2n, 2m) である
  3. 下側の点は F0.975(8,12)=1/4.20≈0.238F_{0.975}(8, 12) = 1/4.20 \approx 0.238 である
  4. 0.238≤(λ1/λ2)×2.5≤3.510.238 \le (\lambda_1/\lambda_2) \times 2.5 \le 3.51 を解いて、0.095≤λ1/λ2≤1.400.095 \le \lambda_1/\lambda_2 \le 1.40 となる

答えは [0.095, 1.40] です。1を含むので、この区間からは2つの率が違うとは言えません。

試験のポイント:t分布やF分布に従うことを示す問題では、「独立である理由」が採点の分かれ目です。基本定理のどの部分を使ったかを、必ず1行書きましょう。

以上が、標本分布の応用についての解説です。

細かい定数を忘れてしまっても問題ありません。ここでは、「同時密度を書き、補助変数を足して変換し、積分で消す」という型だけ押さえておきましょう。

今回のまとめ

それでは、今回の内容を振り返ります。

今回は、カイ二乗分布、t分布、F分布を導き、正規母集団の基本定理を証明しました。3つの分布は、覚える公式ではなく、正規分布から変数変換で作り出せるものです。ルーの中身が分かれば、どんな味付けの問題が来ても対応できます。

今回のポイントを振り返りましょう。

振り返り

  • カイ二乗分布はモーメント母関数で導ける。E[Wr]=2rΓ(k/2+r)/Γ(k/2)E[W^r] = 2^r\Gamma(k/2+r)/\Gamma(k/2) が万能の道具になる。
  • 基本定理は、ヘルマート変換で「平均係さん」と「ばらつき係さん」に分けて証明する。
  • t分布は補助変数を足して変換し、積分で消して導く。
  • F分布はベータ分布を経由して導ける。全体の大きさと取り分の割合は独立になる。
  • 答案では ZZ、WW、独立性の根拠の3部品をそろえて、定義に当てはめる。

キーワードのおさらい

  • 標本分布: 統計量が従う確率分布
  • カイ二乗分布: 独立な標準正規変数の2乗和の分布。形状 k/2k/2、尺度2のガンマ分布
  • t分布: Z/W/kZ/\sqrt{W/k} の分布。ZZ と WW は独立
  • F分布: (W1/k1)/(W2/k2)(W_1/k_1)/(W_2/k_2) の分布。W1W_1 と W2W_2 は独立
  • ヘルマート変換: 第1行が標本平均に対応する直交変換
  • ピボット: 未知の母数を含むが、分布が母数によらない量

さて、ここまでは統計量の分布を調べてきました。では、どんな統計量を作れば、データの情報を失わずに済むのでしょうか?

次回は、十分統計量の定義と分解定理の証明、そして順序統計量について紹介します。

それでは、次の記事へ進んでいきましょう。

練習問題5問開いて挑戦する
問1. W∼χ2(8)W \sim \chi^2(8) のとき、E[W2]E[W^2] の値として正しいものはどれか。
問2. W∼χ2(12)W \sim \chi^2(12) のとき、E[1/W]E[1/W] の値として正しいものはどれか。
問3. F0.05(10,5)=4.74F_{0.05}(10, 5) = 4.74、F0.05(5,10)=3.33F_{0.05}(5, 10) = 3.33 のとき、F0.95(5,10)F_{0.95}(5, 10) の値に最も近いものはどれか。ただし FαF_\alpha は上側 100α100\alpha %点である。
問4. 率 λ\lambda の指数分布からの大きさ6の標本について、2λ∑iXi2\lambda\sum_i X_i が従う分布として正しいものはどれか。
問5. T∼t(9)T \sim t(9) のとき、1/T21/T^2 が従う分布として正しいものはどれか。