はじめに
「この検定が最強力であることを証明せよ。……どこから手をつければいいの?」
準1級では、「尤度比の大きい順に棄却域に入れる」という結論を、買い物の例えで学びました。予算が有意水準で、満足度が検出力です。1級では、その結論を自分の手で証明します。そして、片側検定がなぜ一様に最強力なのか、ワルド型とスコア型がなぜ同じカイ二乗分布に近づくのかまで、式で説明することが求められます。
実は、この記事の内容は2つの計算に集約されます。1つは「被積分関数が必ず0以上になる」という1行の不等式です。もう1つは対数尤度の2次のテイラー展開です。
そこで登場するのが、今回の主役 ネイマン・ピアソンの基本定理 です。ここから一様最強力検定を導き、さらにテイラー展開で 尤度比検定、ワルド型検定、スコア型検定 の漸近分布を導きます。
前回の記事では、検定を検定関数 φ として定義し、検出力関数 π(θ) で評価しました。今回の記事では、その言葉を使って、最適な検定の構成法を証明まで解説します。
ネイマン・ピアソンの基本定理を証明する
はじめに、定理の完全な形とその証明について解説します。
単純仮説 H0:f=f0 対 H1:f=f1 を考えます。f0,f1 はデータ全体の密度(または確率関数)です。定理は3つの主張からなります。
φ(x)=⎩⎨⎧1γ0(f1(x)>kf0(x))(f1(x)=kf0(x))(f1(x)<kf0(x))
【ネイマン・ピアソンの基本定理】
- 存在: 任意の 0<α<1 に対して、E0[φ(X)]=α を満たす上の形の検定がある
- 十分性: 上の形で大きさ α の検定は、有意水準 α の最強力検定である
- 必要性: 有意水準 α の最強力検定は、f1=kf0 の上で、ほとんど確実に上の形に一致する
1つずつ見ていきましょう。
1. 存在の証明
a(c)=P0(f1(X)>cf0(X)) とおきます。a(c) は c の非増加関数で、右連続です。c を小さい側から近づけた極限との差は P0(f1=cf0) です。
そこで、a(k)≤α≤a(k−) を満たす k をとります。a(k−) は左極限です。次の γ を選べば、大きさはちょうど α です。
γ=a(k−)−a(k)α−a(k)
買い物で言えば、費用対効果の順に買っていき、最後の1品だけ予算が足りないときは、その品物を一部だけ買う、ということです。
2. 十分性の証明
ここが定理の中心です。φ′ を有意水準 α の任意の検定とします。次の被積分関数は、すべての x で0以上です。
(φ(x)−φ′(x))(f1(x)−kf0(x))≥0
なぜでしょうか? 場合分けをします。f1>kf0 なら φ=1 なので、左の因子は0以上です。f1<kf0 なら φ=0 なので、左の因子は0以下です。どちらも積は0以上です。f1=kf0 なら積は0です。
これを積分して整理すると、次の不等式を得ます。
E1[φ]−E1[φ′]≥k(E0[φ]−E0[φ′])=k(α−E0[φ′])≥0
左辺は検出力の差です。よって φ の検出力は φ′ 以上です。
ここがポイントです。「検定を比べる」という難しそうな問題が、各点の符号の確認に帰着しました。答案でも、この不等式を最初に書けば、残りは一本道です。
3. 必要性と便利な系
φ′ も最強力なら、上の不等式の左端と右端がともに0になります。k>0 のとき、被積分関数の積分が0なので、f1=kf0 の上で φ=φ′ がほとんど確実に成り立ちます。
もう1つ、後で使う系を証明しておきます。φ′≡α(データを見ないくじ)も有意水準 α の検定なので、十分性より、次が成り立ちます。
E1[φ]≥E1[φ′]=α
つまり、最強力検定の検出力は大きさ以上です。くじ引きには負けません。
例題:確率化を含む最強力検定
X を1回観測する。H0:X∼Po(1) 対 H1:X∼Po(3) の、大きさ0.05の最強力検定を構成し、検出力を求めよ。Po(1) では P(X≥4)=0.0190、P(X=3)=0.0613、Po(3) では P(X≥4)=0.3528、P(X=3)=0.2240 である。
【解答】
尤度比は f1(x)/f0(x)=e−23x で、x の増加関数である。したがって、基本定理の検定は「x が大きいとき棄却」の形である。P0(X≥4)=0.0190<0.05<0.0190+0.0613=P0(X≥3) なので、x≥4 で棄却し、x=3 で確率 γ で棄却する。
大きさの条件 0.0190+0.0613γ=0.05 より、γ=0.506 である。
検出力は 0.3528+0.506×0.2240=0.466 である。
せっかくなので、別の例も見てみましょう。H0:X∼N(0,1) 対 H1:密度 21e−∣x∣ のラプラス分布を、1回の観測で検定します。尤度比は定数倍を除いて次の形です。
f0(x)f1(x)∝exp{2(∣x∣−1)2}
これは ∣x∣=1 で最小になり、そこから離れるほど大きくなります。すると棄却域は、∣x∣−1 の絶対値が大きい範囲、つまり ∣x∣ が大きい側と、∣x∣ が0に近い側の2か所です。5%の検定を解くと、∣x∣>1.995 または ∣x∣<0.005 となります。ラプラス分布は中心が尖っているので、0のごく近くもまた H1 の証拠なのです。定理が言うのは「裾を棄却せよ」ではなく、「尤度比の大きいところを棄却せよ」です。
以上が、ネイマン・ピアソンの基本定理についての解説です。
単調尤度比から一様最強力検定へ
次に、片側の複合仮説に進みます。
基本定理は単純仮説どうしの話でした。しかし、実際に知りたいのは H0:θ≤θ0 対 H1:θ>θ0 のような複合仮説です。ここで効いてくるのが 単調尤度比 です。
θ′<θ′′ のとき、比 f(x;θ′′)/f(x;θ′) が統計量 T(x) の非減少関数であるとき、この分布族は T について単調尤度比を持つと言います。
指数型分布族 f(x;θ)=h(x)c(θ)exp{w(θ)T(x)} は、w が増加関数なら単調尤度比を持ちます。比を計算すると exp{(w(θ′′)−w(θ′))T(x)} の定数倍になり、T の増加関数だからです。正規分布の平均、二項分布、ポアソン分布の標本合計は、どれもこの形です。
例えるなら、どのお店に行っても費用対効果の順位表が同じ、という状況です。順位表が同じなら、買い物リストも同じになります。
定理(カーリン・ルービン):T について単調尤度比を持つ分布族で、次の検定を考える。
φ(x)=⎩⎨⎧1γ0(T(x)>c)(T(x)=c)(T(x)<c),Eθ0[φ(X)]=α
このとき、φ は H0:θ≤θ0 対 H1:θ>θ0 の有意水準 α の一様最強力検定で、検出力関数 π(θ) は非減少である。
証明の筋道は3段です。
【証明の3段】
- 単純仮説への帰着: θ1>θ0 を固定する。単調尤度比より、φ は θ0 対 θ1 の基本定理の形をしている。よって、Eθ0[φ′]≤α を満たす検定の中で最強力である。φ は θ1 の値に依存しないので、すべての θ1>θ0 で最強力である
- 検出力の単調性: θ′<θ′′ を固定する。φ は θ′ 対 θ′′ の基本定理の形でもあり、その大きさは π(θ′) である。前の節の系より、π(θ′′)≥π(θ′) である
- 複合仮説の処理: 2 より、supθ≤θ0π(θ)=π(θ0)=α なので、φ は有意水準 α の検定である。一方、H0 の有意水準 α の検定は、すべて Eθ0[φ′]≤α を満たすので、1 の比較の対象に含まれる
ここがポイントです。基本定理を2回使っています。1回目は「最強力であること」に、2回目は「複合仮説の大きさが境目で決まること」にです。
では、両側の対立仮説ではどうでしょうか? θ1>θ0 に最強力な検定は T の右側を棄却し、θ2<θ0 に最強力な検定は左側を棄却します。基本定理の必要性より、最強力検定はこの形にほとんど確実に限られるので、両方を同時に満たす検定はありません。したがって、一様最強力検定は一般に存在しません。そのときは、前回の不偏性の制約を加えた一様最強力不偏検定や、次の節の尤度比検定に進みます。
例題:一様最強力検定の導出
X1,…,X6 は密度 f(x;θ)=θxθ−1(0<x<1、θ>0)に独立に従う。(1) H0:θ≤1 対 H1:θ>1 の有意水準5%の一様最強力検定を求めよ。(2) 検出力関数を、カイ二乗分布で表せ。(3) θ=2 の検出力を求めよ。χ0.952(12)=5.226、P(χ2(12)≤10.45)=0.424 とする。
【解答】
(1) T=−∑ilogXi とする。∏ixiθ−1=e−(θ−1)T なので、同時密度は θ6e−(θ−1)T である。θ′<θ′′ の比は (θ′′/θ′)6exp{−(θ′′−θ′)T} で、T の減少関数である。つまり −T について単調尤度比を持つ。カーリン・ルービンの定理より、一様最強力検定の棄却域は T<k の形である。
区間推定の記事で示したとおり 2θT∼χ2(12) である。θ=1 で P(2T<2k)=0.05 より、2k=χ0.952(12)=5.226 である。答えは「−2∑ilogXi<5.226 なら棄却」である。
(2) π(θ)=Pθ(2T<5.226)=P(χ2(12)<5.226θ) である。
(3) π(2)=P(χ2(12)<10.45)=0.424 である。
(2) の式は θ の増加関数で、定理の結論とも合っています。
試験のポイント:一様最強力検定の答案は、「単調尤度比の確認 → 定理の適用 → 帰無分布で定数を決める → 検出力」の順に書きます。尤度比の増減の向きを必ず確かめましょう。
以上が、単調尤度比と一様最強力検定についての説明です。
尤度比検定:ウィルクスの定理を導く
続いて、一様最強力検定が使えない場面の汎用の方法を解説します。
複合仮説 H0:θ∈Θ0 に対して、尤度比検定 は次の比が小さいときに棄却します。
λ(x)=supθ∈ΘL(θ;x)supθ∈Θ0L(θ;x)
基本定理の比を、それぞれの仮説の最良の値で評価したものだと考えてください。準1級で学んだとおり、Θ の次元から Θ0 の次元を引いた数を r とすると、H0 のもとで −2logλ は χ2(r) に近づきます。これが ウィルクスの定理 です。
ここでは、1次元の H0:θ=θ0 の場合を導きます。対数尤度を ℓ(θ)、1個の観測のフィッシャー情報量を I1(θ) とします。正則条件のもとで、θ^ は ℓ′(θ^)=0 を満たし、n(θ^−θ0)→N(0,1/I1(θ0)) です。
ℓ を θ^ のまわりでテイラー展開します。θ∗ は θ0 と θ^ の間の点です。
ℓ(θ0)=ℓ(θ^)+ℓ′(θ^)(θ0−θ^)+21ℓ′′(θ∗)(θ0−θ^)2
1次の項は0です。したがって、次の式を得ます。
−2logλ=2{ℓ(θ^)−ℓ(θ0)}=nI1(θ0)−ℓ′′(θ∗)⋅{nI1(θ0)(θ^−θ0)}2
右辺の2つの因子を見ましょう。θ^ の一致性と大数の法則より、最初の因子は1に確率収束します。波かっこの中は N(0,1) に分布収束します。スラツキーの定理より、全体は標準正規分布の2乗、つまり χ2(1) に分布収束します。
言葉で言うと、山頂の近くの対数尤度は放物線で、高さの差は水平距離の2乗に比例する ということです。距離が正規分布に従うので、高さの差はカイ二乗分布に従います。
r 次元でも筋道は同じです。2次形式 (θ^−θ0)⊤I(θ^−θ0) が χ2(r) に近づくことを使います。局外パラメータがあっても、自由度は H0 が固定した母数の個数です。
以上が、尤度比検定についての解説です。
ワルド型とスコア型:同じ放物線の3つの読み方
最後に、ワルド型検定とスコア型検定を導いて、3つの関係を見ていきましょう。
放物線の山を3人で調べる場面を想像してください。
【3人の測り方】
- ワルドさん: 山頂 θ^ から基準 θ0 までの水平距離を測る
- 尤度比さん: 山頂と基準の地点の高さの差を測る
- スコアさん: 基準の地点に立って、足元の傾きを測る
式で書くと次の3つです。U(θ)=ℓ′(θ) はスコア関数、I(θ)=nI1(θ) は標本全体のフィッシャー情報量です。
W=(θ^−θ0)2I(θ^),LR=2{ℓ(θ^)−ℓ(θ0)},S=I(θ0)U(θ0)2
ワルド型検定 の漸近分布は、n(θ^−θ0)→N(0,1/I1(θ0)) と、I1(θ^)→I1(θ0) から直ちに分かります。
スコア型検定 は、U(θ0)=∑i∂θlogf(Xi;θ0) が独立な項の和であることを使います。各項の平均は0、分散は I1(θ0) なので、中心極限定理より U(θ0)/nI1(θ0)→N(0,1) です。2乗すれば S→χ2(1) です。
では、3つの関係はどうなっているのでしょうか? U を θ^ のまわりで展開すると、次の式になります。
U(θ0)=U(θ^)+ℓ′′(θ∗)(θ0−θ^)=−ℓ′′(θ∗)(θ^−θ0)
つまり U(θ0)≈I(θ0)(θ^−θ0) です。これを S に代入すると、S≈I(θ0)(θ^−θ0)2 で、W や LR と同じ形になります。H0 のもとで、3つの差は0に確率収束します。
ここがポイントです。ぴったり放物線なら、距離の2乗に情報量を掛けた値も、高さの差の2倍も、傾きの2乗を情報量で割った値も、完全に同じ数です。3つの違いは、放物線からのズレの部分にしかありません。
例題:指数分布の3つの統計量
X1,…,Xn は率 λ の指数分布に独立に従う。H0:λ=λ0 を検定する。r=λ0xˉ とおく。(1) LR、W、S を n と r で表せ。(2) 同じ問題を平均 θ=1/λ で書き直すと、3つの統計量はどう変わるか。(3) n=25、λ0=1、xˉ=1.4 のとき、それぞれの値を求め、有意水準5%で判定せよ。χ0.052(1)=3.84 とする。
【解答】
(1) ℓ(λ)=nlogλ−λnxˉ である。U(λ)=n/λ−nxˉ、λ^=1/xˉ、I(λ)=n/λ2 である。よって、次の結果を得る。
LR=2n(r−1−logr),W=n(1−r)2,S=n(1−r)2
計算の例を示す。W=(1/xˉ−λ0)2⋅nxˉ2=n(1−λ0xˉ)2 である。S=n2(1/λ0−xˉ)2⋅λ02/n=n(1−r)2 である。
(2) ℓ(θ)=−nlogθ−nxˉ/θ で、U(θ)=−n/θ+nxˉ/θ2、θ^=xˉ、I(θ)=n/θ2 である。LR は最大値の比なので変わらない。S は計算すると n(r−1)2 で変わらない。W だけが次のように変わる。
Wθ=(xˉ−θ0)2⋅xˉ2n=n(1−r1)2
(3) r=1.4 である。S=W=25×0.16=4.00、LR=50(0.4−0.3365)=3.18、Wθ=25×0.0816=2.04 である。χ0.052(1)=3.84 と比べると、S と W は棄却、LR と Wθ は棄却しない。
同じデータ、同じ仮説でも、判定が割れました。r−1−logr を r=1 のまわりで展開すると (r−1)2/2 なので、r→1 では3つが一致します。今回は r=1.4 と離れているので、ズレが見えたのです。
この問題には正確な検定もあります。H0 のもとで 2λ0nXˉ∼χ2(2n) なので、値は 2×25×1.4=70 です。自由度50の上側確率を2倍すると、両側のp値は0.065です。5%では棄却しません。
【3つの検定の比べ方】
- ワルド型: θ^ だけで計算できる。母数の変換で値が変わる
- 尤度比検定: 両方のモデルの最大化が必要。母数の変換で値が変わらない
- スコア型: θ0 だけで計算できる。母数の変換で値が変わらない
補足(ここは読み飛ばしてOK):
局外パラメータがあるときは、H0 のもとの最尤推定値を θ~ として、S=U(θ~)⊤I(θ~)−1U(θ~) と定めます。W は、ψ を調べたい母数として (ψ^−ψ0)⊤{I(θ^)−1}ψψ−1(ψ^−ψ0) です。どちらも χ2(r) に近づきます。
試験のポイント:導出の核は「ℓ の2次展開」「スコアの中心極限定理」「スラツキーの定理」の3つです。これらの順に書けば、3つの検定の漸近分布はどれも導けます。
以上が、ワルド型検定とスコア型検定についての解説です。
細かい部分が分からなかったとしても問題ありません。ここでは、「最適性は1行の不等式から、漸近分布は2次のテイラー展開から」という点だけ押さえておきましょう。
今回のまとめ
それでは、今回の内容を振り返ります。
今回は基本定理の証明から始めて、一様最強力検定と、漸近的な3つの検定を導きました。有限標本の最適性は、各点の符号を見る不等式で決まります。大標本の近似は、対数尤度の放物線で決まります。検定の理論の骨格は、この2本です。
今回のポイントを振り返りましょう。
振り返り
- 基本定理の証明の中心は、(φ−φ′)(f1−kf0)≥0 という各点の不等式。
- 系として、最強力検定の検出力は大きさ以上である。これが検出力の単調性を導く。
- 単調尤度比があれば、片側の複合仮説に一様最強力検定がある。両側には一般にない。
- 尤度比検定の −2logλ は、2次のテイラー展開で χ2(r) に近づくことが導ける。
- ワルド型は距離、尤度比は高さ、スコア型は傾き。同じ放物線の3つの読み方で、H0 のもとで漸近的に一致する。
キーワードのおさらい
- ネイマン・ピアソンの基本定理: 単純仮説どうしの最強力検定は尤度比で決まるという定理
- 単調尤度比: 尤度比がある統計量の単調関数になる性質
- 一様最強力検定: 対立仮説のすべての点で検出力が最大の検定
- 尤度比検定: 仮説の中の最大尤度と全体の最大尤度の比で判定する検定
- ワルド型検定: 最尤推定値と基準の距離で判定する検定
- スコア型検定: 基準の点でのスコア関数の大きさで判定する検定
さて、道具がそろいました。次は、これを最も身近な分布に当てはめます。t 検定や F 検定は、誰かが思いついた式ではありません。尤度比から必然的に出てくる式です。
次回は、t 検定と F 検定を尤度比から導く「正規分布に関する検定」について紹介します。
それでは、次の記事へ進んでいきましょう。